ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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同じ景色

【前回のあらすじ】

たなっちじゃーん!前回はうちとブレイザーの話だったじゃん。意外とイケメンでびっくり。ほんとに。今回も出番あるみたいで嬉しいじゃん、頑張ろーっと。

 

 

プリンセスたちの在住する街。四家といわれるお金持ち一家が4つ集まっており、居心地がいいとはあまり言えないがそれ以外は普通の街だ。連続少女不審死事件のおかげで避けられる傾向にもあるが、住人は日常生活においてなにか特異な危険を感じたことは特にないだろう。その街にある高校のうちひとつに、彼女は通っていた。

長い髪に中性的な顔立ち。雰囲気は誰も寄せ付けようとしない活火山のようで、下手に触れば噴火するともクラスで噂されている。部活、特になし。目立った活躍もない。入学後の数ヶ月のみクラスの輪に入れられていたが、自ら拒絶した。裏世界では『炎上姫』『プリンセス:ブレイザー』として戴冠式に参加し、圧倒的な火力にて敵を焼き払う。

名前を『(うたげ)あづま』という。普通とは言えないにしろ、現実ではありふれたただの少女。それが炎上姫の正体であった。

 

やっと終わった、疲れた、などとクラスメイトたちが互いに言葉を交わす中、お手洗いの用事を済ませ戻ってきたあづまは一言もかけられず、そしてかけずに自分の席に着く。宴という名字のため席は前から二番目だ。前の席にはうるさいというか、あまり関わりたくないタイプの女子がいる。皆彼女の元へ集まっていくため居心地の悪い席だった。

 

「宴ちゃーん?今日はやらなくていいのぉ?」

 

集まってきた女子のうち数名はあづまを煽ってくる。口に出したところで馬鹿にされるだけだと、あづまは心の中で悪態をついた。

入学後、中学のままのノリで「我が名は宴あづま、好きに呼べ」と自己紹介をしてしまったうえ、所謂中2的なポーズを好みよくする彼女はいじられキャラという位置に収められそうになった。だが、宴あづまという少女はプライドが高かった。男女、そして教員からの中2病ネタでのいじりはそれはそれは不快なもので、拒絶したのだった。

 

「また無視?ないわー」

 

軽いテンションで笑いあっている女生徒たち。この光景だけで焼き尽くしたくなる。こうなるとあづまは懐にしまってある愛用のライターを握り、プリンセスである自分ならばいつでも殺してしまえると自分に言い聞かせて落ち着いていた。今日も授業は終わった。さっさと帰り、裏世界で発散したい。あづまの生活において、裏世界でのレヴェル虐殺は日課となっていた。

 

「ねぇ、宴ちゃん」

 

返事はしない。馴れ合うつもりはなかった。

 

「今日の放課後、近くの公園ね」

 

あづまの帰宅ルートに含まれる場所だった。無視して帰るなら迂回もできただろうが、いい機会かもしれない。呼び出されたこのときにプリンセスとしての力を見せつけ、立場をひっくり返してやるのだ。我ながら名案だと言葉に出すことなく思ったあづまは、帰りの支度をしながらかすかに口元を歪ませる。

 

公園までの道のりは短い、高校からもすぐだ。公園に到着したあづまが見た光景、そこに居た先客はあづまの予想したとおりだった。前の席の女生徒と取り巻き、そして底辺そうな格好をした男。まず同じ学校ではないだろう。さしずめ彼氏に気にくわない奴をボコってもらう、といったところか。

 

「用件はわかってんだろうな?」

 

男の問いかけに答える必要もないと、あづまは懐からペティグリィを取り出そうと手をいれた。取り出したライターに光が集い、リミテッドオーダーが――

 

「かはっ」

 

――行使されるはずだった。妨げになったのは衝撃、腹部に拳が突き刺さった鈍痛だった。少女相手に容赦のない腹とは、人間としてどうかと思う行動だったが、あづまにとってはそれだけの問題ではない。半端な位置を殴られたせいで息が苦しく、カダヴァーのように痛みに慣れているどころか無縁な生活を送ってきたあづまはこれだけで吐き気がこみあげていた。

 

「なっさけなーい」

 

外野で取り巻きどもがはやし立てている。黙れ、お前らも食らったらこうなるだろうがと声を出せないぶん心の中で叫ぶ。

次に膝。気絶したほうがいっそのこといいのかもしれないと、すこし視界にノイズの入った頭で思う。頬への拳、鼻にも拳。赤が一筋も二筋も入り、少女の顔を汚していく。続けて膝、足。そんなに子宮を破壊したいのだろうか。

その後も何度も何度も暴行を加えられる。女があづまの眼を気に入らないらしく、反抗的な眼である限り続くかと思われた。が、男のほうの体力がもたないようで、だんだんと攻撃のあいだに感覚ができていく。足元はふらつくどころか方向もまともに判定できないし歯も数本折れているらしかったが、逃げる隙は見いだせた。

拳が空を切り、暴行を加えられていた少女は踵を返した。おぼつかない足取りだが相手も疲れて追う気なしのようで公園から逃げ出せる。血が地面に垂れて足跡のようにあづまの進路を刻み、やがて灰色のコンクリートにも赤が塗られる。

 

コンクリートの地面になってから数秒もしないうちに、逃げ出せたと思っていたあづまをとてつもない衝撃が襲った。ブレイヴァーのオーダーを受けたときよりも、現実世界だからか死という実感があった。ぶつかられた本人には車種までは判断できないものの、車両が激突してきたことに違いはなかった。道路へ飛び出していこうとしていたから、あの女どもも追わなかったのだ。

 

宙を舞いながら、あづまは眺めていた。服から放り出されたライターが、ガラスやら部品やら、そしてあづま自身と共に墜落していくのを。

伸ばせる腕はもうなくて、飛ばせるのは意識しかなかった。

 

 

「……うー、ん」

 

全身が痛む。2メートルほどの高さから打ち付けられたような痛み。交通事故といっても意外と拍子抜けなのかも、と少し思う。

瞼を持ち上げると、さっきまでとはうってかわって鮮明な景色。かといって目の痛くなる溶岩ではなく、知らないはずなのにちょっぴり懐かしさのある木目の天井だった。

 

「どこ、だろ?」

 

救急車で運ばれたのならこんな場所には来ないだろう。痛む身体を持ち上げて、あたりを見回してみる。

日めくりのカレンダー。こたつ。テレビ。見覚えのある女の子。ちょっと広めのリビングというか、だらけるのにはちょうどよさそうな空間だった。こたつに入ってテレビを見ていたらしい少女が気付いたらしく、寄ってくる。

 

「生きてる?どう?」

「……たぶん」

「ならよかった。まっさか、ブレイザーがぶっ倒れてるなんて」

 

ブレイザーと呼ばれてやっと、あづまはこの既視感がカダヴァーからくるものだと理解した。変身状態ではないのだろう。

 

「んー、でもブレイザーのままじゃちょっとかわいくないじゃん。名前は?」

 

教えていいのだろうか。あづまは少し躊躇った。あのとき共闘した相手とはいえ、正体を簡単に教えてしまっていいのだろうか。

 

「あ、大丈夫大丈夫。ほら前言ったじゃん?訳アリだってさ」

 

そういえば、カダヴァーは現実世界に戻ることのできないプリンセスだと言っていた。あれが演技だとすれば相当な計画性だが、彼女は悪意を持っていないらしい。笑顔からわかる。

 

「じゃあこっちから名乗るじゃん!うちは亜傘棚!たなっちでいいじゃーん!」

「……ボクは、宴あづま」

「おっけ!よろしくねーあづまちゃん!」

 

素の一人称になっていることに気づきもせず、あづまは差し出された手をとった。

 

といったところで、突如コネクターが背後に現れた。背中合わせで座ったまま、彼女のどこか無機質な声が響く。

 

「ブレイザーさんへお知らせがありまして」

 

コネクターの出現に棚もいったん黙って、お知らせとやらを聞こうとする。

 

「アナタの肉体ですが。損傷が激しく、そこに精神を戻すことは不可能となりまし」

 

あづまの脳裏に、車にはねられた瞬間の記憶が蘇る。全身の鈍い痛みはその名残だろうか。

 

「こちら特殊事例となっており、本来あのまま死ぬはずでしたが、ぎりぎりでこっちに逃げ込めたのが幸運で」

 

あづまは突然のことで実感がなかったが、ようやく自分の状況を呑み込み始めた。

『ボク』は死んだ。プリンセスになって、力を手にいれたと思ったのに。それを誇示することで見返すことなんてできず、宴あづまは死んだのだ。

 

「……そっか。ボクは、もう」

 

自分の手を見つめても、何ら変わりはないように見えた。けれど、もうこの手は生きてはいない。現実世界で炎を灯すことはない。そう思うと、何もかも終わってしまったかのように感じられた。

 

「あぁそっか。じゃあ、戦う意味だってない」

 

いつの間にかコネクターはいなくなっていた。両手を広げて、上半身を倒す。このまま脱落でも構わない、プリンセスになった理由である『見返す相手』なんて、誰もいなくなったんだから。

 

「ないわけないじゃん」

 

ふと、隣から声がした。棚が同じように倒れてきて、あづまを見ている。

 

「うちだって現実じゃあ死んでるじゃん。だから、戻るために戦うんじゃん」

「……そう、でもボクがしたいことはもうできないんだ。現実に戻れないから」

「でもで片付けちゃダメじゃん。元に戻る最後のチャンスをつかんだんだよ」

 

あづまは歯を強く食い縛り、ぎりりと鳴らす。棚の力説は、あづまには不愉快だった。

 

「戻りたい場所なんて、あるもんか」

 

あづまはそう吐き捨てた。元から学校でもあんな立ち位置で、通う意味も感じていなかったんだから。

 

「じゃあ。うちらで作る」

「……は?」

「一緒に、戻りたい場所を作ろうじゃん」

「どうしてこんなことを押し付けてくるんだよ!ボクはもういいんだよ……」

 

生き残って願いを叶えるだなんて、戻りたい棚が勝手にやればいいことのはずだ。なのに、なんでわざわざ。

 

「痛いと思って」

 

棚の姿に、あづまは先日のことを思い出す。彼女の戦い方だった自分から傷つくようなことをしなくていいと、助けようとした。

今の棚が言っているのは同じようなことだった。野心があったのに、それを諦めることは自分の心を自ら傷つける行為だと、そこから引き上げようとしていた。

 

「……そんなに言うなら。ボクを助けてみろよ」

「もちろんじゃん。うちもあづまちゃんも、二人で帰るんじゃんっ」

 

にかっと笑った棚。手をつないで一緒に勢いをつけて、ふたりで起き上がる。

 

決意を交わしたふたりのプリンセス。彼女らのゆく末に差そうと忍び寄る闇さえも見ない、知らないふたりの姿を、コネクターは遠巻きに眺めていた。

 

 

 

【次回予告】

 

プリンセス:ファインダー。盗賊姫、古史雪。

彼女が双美から得ていた情報は『イーターを脱落させた者』についてだった。

雪の向かう先は極小の14番セクター。仇討ちか、制圧か、それとも――

 

次回『ドリームズ・ファウンド』

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