ROYAL Sweetness   作:皇緋那

6 / 41
蟷螂の顎

【前回のあらすじ】

とちです。現実にレヴェルが現れてしまいました。しかも人を傷つけるなど……放っておけません。どうにかして誘き寄せ、退治しなければ!そのためにお二人とも、お力を……!

 

 

中学校、保健室のすぐ外。そこには、中学校の生徒らしい体躯の人影がふたりぶんあった。シルエットから少女であることはわかるが、もう少し近寄るとこの中学校の制服ではないことが見える。実際のところ、片方はホームステイ中の留学生、片方はすでにこの中学校は卒業しているため制服は現在所持していないだろう。

 

「こっちにレヴェルが、ねぇ……変なことする姫もいたもんだ」

「あなたが言えることかしら?アーモンド」

 

金髪碧眼、留学生である方の少女が目を丸くして、それもそっか、と笑う。中学校の生徒でもないのにここにいる理由は、まあ盗み聞きをしているのだが、二人は忍ぼうとしていないような態度だ。

 

「で?どうするの?けしかける?」

「その方向で行こっか。わざわざ私たちが出向くまでもないもんね」

 

にたり、と楽しそうに口元を歪ませるアーモンドと呼ばれた少女。手にずっと持っていたらしいコインをぴんと弾いて手の甲でキャッチすると、その表裏を見てややがっかりしていた。

 

「ダメだぁ、表ちゃんといると裏しか出なくて困るよ」

「そう?私の魅力に目を向けたくないのかも……ね」

 

くすり、小柄ながらに上品に笑ってみせるもうひとりの彼女。アーモンドとはまったく異なった笑みからも育ちの良さが出る彼女は、呼ばれたままであれば表という名前のようだ。

 

「さてと、あの子に会いにいってきます。哀れな土竜さんにね」

 

可愛らしい群青でくるくる巻き毛になっているサイドテールを揺らし、表は校舎から離れていく。それを見送ったアーモンドはまた盗み聞きを始めるため、逆に校舎へ近づき耳をそばだてたのだった。

 

 

外で誰かが聞いている、なんてことは露知らず。時畑とちと蘭花いるか、沖ノ鳥ユウキの三名はどう誘き出すか話していた。ユウキは蟷螂の習性らしき部分、『浅い切り傷をつけるだけ』という行動がなんの意味を持っているのか考えていた。

そう、もし蹴落とそうとしていてレヴェルを使い出すまでするプリンセスならば、多少の巻き添えを伴ってでも殺させるだろう。あの蟷螂はユウキの首をしっかりと大鎌で捉えていたというのに、それをしなかった。まるで、傷をつけることだけが目的のように。

 

「……考えても仕方ない。あいつの逃げた方向はわかるけど――」

 

そう言って保健室から一歩出たユウキが一年教室の方を見たとき。その耳には、声にならぬ悲鳴が轟く。

幻聴ではないと、この耳が保障している。自らの正義の指し示すままに身体は動きだそうとし、まるで信念こそが反射神経だと言わんばかりに脳は脚への信号を送り出す。

 

「一年のプリンセス……っく、雪ちゃんが危ない……!」

 

思い浮かぶのは後輩の少女。レヴェルに狙われるのも頷けるだろう。今響いたのが雪の声でないことはわかるにしろ、彼女にまで被害は出したくない。すでに自分が考え込んだせいで誰かが恐怖に陥っているのだから。

 

一方でユウキの判断を待っていたふたりの雰囲気は、唐突な悲鳴と彼女の行動で一気に変化する。

 

「……ユウキさん!?」

「追いかけましょう!ユウキちゃんはああいう子だから……!」

 

想像だにしない突然の動きに驚くとちの手を、いるかの手が引いていく。何年も付き合ってきたのだから、悲鳴を聞いたユウキがなにをするかはわかっている。急行する以外ない。

そんな友人を追いかけるのは当然のこと。彼女を誇らしげに思うような顔で保健室を飛び出して順調だったいるかだったが、前ばかり見ていたせいか床で引っ掛かりつまづいてしまった。突如その手がぐんと下への力を加えてしまい、とちは巻き添えを食らう。

 

「わたーっ!?」

 

ぐしゃり。勢い余って投げ出されたとちは下半身を床に打つ。一方、巻き添えを出した側は鼻を強く打ち付けていたようで、それでも諦めず鼻血を出しつつも立ち上がる。

 

「あの蟷螂、捕まえるんですよね……じゃあ、ペティグリィが必要」

「え、えぇ、そうですが……」

 

こんななにもない場所で派手にスッ転んだ彼女だが、諦めの様子はない。とちの視線は鼻に注がれ、左手が伸びそうになるがそれより先にいるかは動き出す。

 

「行かなきゃ、私だってあの子の役に立つんだから!」

 

いるかは真剣であった。ユウキが人を助け、自分を助けるのなら。せめて自分は、彼女を助けられるようになりたいと願っていた。

情熱的な言葉にも、いるか自身にもおいてけぼりにされたとち。ただ、廊下の奥の曲がり角に少女が吸い込まれていくのを眺めるばかりであった。

 

 

走り抜けた先、逃げ惑う生徒たちの群れを潜り抜けてたどり着く場所。一年生教室のドアを勢いよく、壊さない程度に強く開け放って、ユウキはすべりこむようにして教室へ入っていった。幸いなことに、中に残されている者はほぼ視認できない。唯一そこに居るのは蟷螂と対峙し、クラスメイトをかばう少女がひとり。彼女と蟷螂の間へと割って入り、様子を見ている相手を睨んだ。

 

「……ユウキ先輩!」

「雪ちゃん、大丈夫?」

「えぇ、まぁ、私は。誰かが切られたわけじゃありません。ただ……そこにいるふかが倒れてるってことがあってっすね」

「わかった、その子を連れて逃げて!」

「了解、っす!」

 

雪はユウキの言葉に頷くと、怯えるふかを一思いに抱き上げると、そのまま開け放ってあるドアから飛び出していく。その様を見届けていったん安心したユウキだが、まだ気は抜けない。目の前にいるのは律儀に待っていたらしいレヴェル。こいつをどうにかしないことには、安心などもっての他だろう。

ただ、リミテッド・オーダーを使おうにもユウキはいまペティグリィを持っていない。いるかやとちを待つしかなく、それまでの時間稼ぎにどうにか引き付けるしかない。考える猶予も与えぬと、レヴェルは大鎌を振り抜き椅子と机を一つぶん両断した。

回避の体勢を整えて、相手の動きを注視する。そんなユウキを戦う意志があるのだと判断したらしいレヴェルは、襲いかかるべく足に力を込める。

初動は見えている、軌道もだいたい直感が告げている。あとは、脳の言うまま身体を動かすのみだ。

 

ほぼ同時に駆け出して、全力でドアを閉める。こんな状況は例外だ、音程度は気にしてられない。使えるものは使う。柱の部分であり突き出ている壁に手をひっかけてむりやり横に回避すると、狙い通り蟷螂の大鎌はガラスを突き破り派手に叩き割った。すかさずユウキを視る逆三角形の顔。鎌を抜くまでの一秒でも相手を止めるために使えと、彼女はハイキックを叩き込む。

 

攻撃は当たらなかった。衝撃は伝わってくるものの、それは鎌の外側で止められたのみ。捕獲すべく動き始めた腕が脚を狙っているうちに追撃を入れる。自分の脚一本を犠牲にする覚悟で咄嗟に掴んだのは、割れてもなお残っていたガラス片だった。鎌の用意がされる前に、異形の複眼目掛けて突き刺そうと振り下ろした。

 

よろめく蟷螂、滴る液体。視界を喪った驚きに怯んだらしい。仰け反った隙にユウキの蹴りが入り、数メートルはよろよろと離れていった。

 

「――ユウキちゃん!お待たせ……!」

 

背後の割れた窓から、声が聞こえる。古びた首輪を持って、鼻血を拭った跡のある少女がユウキを呼ぶ。いるかが到着したようだ。ペティグリィである首輪の中央はユウキを誘い込んだあのときのようにセクターの風景を映して、蟷螂を誘い込んでいる。

先刻逃した獲物であるいるかは、ユウキよりも魅力的なのか。それとも、ペティグリィの中央に開いた穴を目掛けてか。蟷螂が狙ったのは、ドアの向こうのいるかだった。扉を一瞬のうちに切り倒し、廊下へ向かい――セクターへの道に、吸い込まれた。

 

「……よし!ユウキちゃん、追いかけるよ!」

 

いるかが教室へ走ってきて、ふたりは手をつなぐ。あの蟷螂を飛ばした地点である18番セクターへの転移をイメージし、首輪へ意識を集中させる。ブレイヴァーのペティグリィ、本は転移時に手元へ引き寄せられるだろう。

次の瞬間には、然程冷たくもない教室の床へいるかとユウキの繋いだ手がふれていた。

 

降り立つはなにも手の加わっていない白い世界。片目を喪ったレヴェルは眼前にいる。

いつのまにか手元にあった本、ふたりを此処へと導いてきた首輪をそれぞれ突きだして、声を揃えてプリンセスへの変身プロセスをはじめる。

 

「「チェンジ・プリンセス!」」

 

 

光に呑まれ、消えていった服のあとからはプリンセスの衣装が現れる。聖剣を喚んで戦闘の体勢に入り、光に戸惑う蟷螂を見据える。相手がまともに戦闘に臨もうとしたとき、ブランは戦えてもいるかは単体では戦えない。ファーストオーダーも連発できるものではないし、ユウキが前に出ていては使えない。

 

が、それらはすべて杞憂であった。蟷螂の姿は消失する。虚空に突如現れた、何者かの口によってだ。

実体を消しておいているはずのセクターボードが通知の唸りをあげる。自陣地へのプリンセスの侵入、イレギュラーが現れたことを知らせている。

蟷螂を咀嚼し、消し去った口。ぴったりと閉じられて跡形もなく無くなると、そこに立っていたのは見覚えのある少女。

 

「あの子は……!」

「けたけた。こんにちは、おねーさん。」

 

変身してもいないのにギザギザの歯が目立つその少女はプリンセス・ランク8位の食人姫『イーター』である。ただ蟷螂を追ってきたふたりをどうして見つけられたのか。

 

「どうしてここにイーターが!?」

「きたらごちそーがもらえるって、もうひとりのやさしいおねーさんにおしえてもらったの」

 

誰を示しているかはわからない。が、恐らくこのことを知っている者だろう。テイマーの脳裏に思い浮かぶのは、ひとりだけだ。

――時畑とち。ヒーラーである彼女の依頼である可能性はある。

 

「まさか、ヒーラーが……?」

「ひーらー?ううん。プリンセスはプリンセスだけど、あのおねーさんは『ダイバー』だよ」

「ダイバー……6位が?どうして知ってるのかな……?」

「わかんない!もう、わたしのこともきいてよ!さみしいんだから……!」

 

少女が取り出したのはテーブルナイフ。ぴっとブレイヴァーのほうへ向け、彼女は聞く前に名乗りをあげる。

 

「わたしは『井之八余剰(いのはちよじょう)』。12さい。それじゃあいくよ、チェンジ・プリンセス!」

 

余剰の着ていた服は消失し、大量に食べていたというのに細い身体の輪郭が見える。手に大きな袖を、足にかわいらしいブーツを、腰には舞踏会のスカートを形成し、胸元では紙エプロンと牙を模したイーターのエンブレムが具現する。

 

「……えへへ。どう?これでしんじてくれたでしょ。でもね、もうたべたからわたしはいいんだ」

 

折角の変身をすぐにほどき、余剰の姿に戻る彼女。けたけたと笑いながらくるり背を向けて、テーブルナイフへと吸い込まれて消えていった。

 

 

「……イーターちゃん、敵なのかな?」

「本人にそのつもりはないのかもね……できることなら、協力できるといいんだけど」

 

イーターが去っていき、やっと状況を飲み込んだいるかはぼそりと呟いた。とにかく蟷螂の不安は無くなった。とちへの報告は必要だろう。いったん現実世界で報告を済ませることにして、ブレイヴァーとテイマーの衣装はいつもの制服に戻された。

 

 

18番セクターには、もうひとりプリンセスが残っていた。イーターの侵入の通知に被せることで注意を逸らし、こっそりと侵入して傍観していたプリンセスであった。彼女は自らの能力を使用して、影に潜んでいたのだ。そして彼女こそが余剰の言う『もうひとりのやさしいおねーさん』なのだ。

ちゃぷん。プールからあがってくるように、盗み聞きしていた少女の育ちの良さそうなほうが影から現れる。

変身後であるためか巻き毛のサイドテールはボリュームを増しており、深い群青色は綺麗に影へ溶け込み沈んでいる。

 

「今のがブレイヴァーにテイマー、ですか。オーダーが見られなかったのは残念ですが、まぁよしとしましょう」

 

誰に言うでもないのに話す少女――プリンセス・ランク6位、潜水姫『ダイバー』。その正体は、高校一年生で名門白神家の箱入りお嬢様『白神表(しらかみおもて)』である。

こうして潜んではいても実行に移らぬのは、不意打ちによるエンブレムの破壊などという行為まではしたくないと、彼女に染み着いた性格が告げているからだ。

 

「あの中学校に集まってるみたいですし……続けて狙っていきましょうか」

 

ゲームを楽しむ少女らしく笑みをこぼし、しばらくは横に並んだブレイヴァーとテイマーのエンブレムを眺めていた。

 

 

 

 

【次回予告】

 

プランターとカダヴァーの闘争を目撃し恐怖を抱いてしまった雪。

次は自分の番だと、見えない誰かが囁いて。

一方でユウキといるかには、新聞部の部長からお声がかかって……?

 

次回『対策会議』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。