ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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すごく早くにできた気がするんですよね。


おなかいっぱい

【前回のあらすじ】

 

双美だよ。先日はおもに情報の整理だったかな?プリンセス『イーター』である井之八余剰。ブレイヴァーはどう戦うのか……といった感じさ。私ももちろんのこと覗き見させてもらうよ。

 

 

イーターと再会するため、ユウキが目指したのは近くの小学校である。ユウキの通う中学校ですでにプリンセスが何人もいるのだから、この街の人間から選び出されている可能性が高い。と、双美が言っていた。実際にイーターと戦うのはユウキだと決まっているらしく、本人にも異存はないのでそのまま彼女が赴いている。

なるべく迷惑をかけぬよう、下校時刻を見計らって捜索する。といっても、校舎前まで迎えに来ている姉を装って見回しているだけだが。

いつ来るのやら、ぞろぞろと出てくる小学生の波から余剰の姿を捜す。まるでそういう児童書であるかのようにごちゃごちゃした校舎前で、目が回りそうになる。

 

「あれ?おねーさん?」

 

ふいに後ろから声がかけられる。このどこか舌足らずなしゃべり方、振り返って見えるギザギザの歯。おまけに不安定な立ち姿。間違いない、井之八余剰だ。

 

「どうしたの、あいにきてくれたの?」

「うん。余剰ちゃんに会いに来たの」

「……!うれしい、おねーさんっ!」

 

むぎゅっ、と小柄でもあたたかくやわらかな感触がユウキの腹部を襲う。唐突に彼女は抱きつき、ユウキを仰け反らせたのである。無邪気で、目尻にほんのちょっぴり涙が見える笑顔があのイーターだとは思わせない可愛らしさを感じさせ、ユウキ側に戦う気など失せてしまっていた。

 

「わたしにあおうとおもうひとなんて、いままでいなかったから」

「そう、だったのね」

 

あの不気味な雰囲気のせいだろうか、余剰は避けられているらしい。だから、こうして抱きついたりなどしたのか。

 

「でも、どうしたの?いきなりきて」

「ちょっと、聞きたいことがあって……あぁでも、人に聞かれたらまずいのかな。戴冠式の話」

 

彼女の願いに寄り添えたなら、協力もできるのかもしれない。幸い彼女はそう気難しい少女ではないことだろう。願いを訊ね、プリンセスとして友好を申し出るため。

木陰に彼女を連れ出して、周囲に見ているものがいないと確認すると、古本をめくり裏世界へと誘った。場所はいつも通りブレイヴァーとテイマーの領土である18番。初めて彼女と出会った場所でもあるのだから、そこが裏世界ならば相応しいと考えたのであった。

 

 

意識が実体をもたらし、無機質な床の感触が足裏に伝わってくる。目の前には先ほどと変わらぬ格好の余剰が立っている。

 

「それで?ききたいことって?」

「優勝したら、願いが叶うっていうのは知ってるよね」

「うん。」

「何を叶えたいのか……教えてくれるかな。プリンセスになるときに答えたことでいいと思うから」

 

できるかぎり優しく問う。支配に興味があるようにも見えず、首をかしげた余剰は指をくわえきょとんとしていた。どうしてそんなことを聞くのかわかっていないながらに、ユウキの質問について考えているらしい。

 

「えっとね……そうだなぁ。やっぱり、『たくさん食べたい』だったかなぁ」

 

イーターというプリンセスになるには充分な動機というか、予想通りの願い事だ。

 

「わたし、おなかいっぱいたべられるなんてこと、なかったから」

「……余剰ちゃん」

 

背景には複雑な事情があるのだろう。余剰……余り物という名前なのもそのことを物語っている。まともな食べ物も与えられず、会いに来る友人もいない。言葉の端々からは、12年のうちに幸せなどなかったという彼女の本心が垣間見える。

 

「これは……そのための力だとおもうの」

 

彼女のペティグリィらしいテーブルナイフが、彼女の手首にその背を這わす。小声で静かなセクターの空気へ告げられる「チェンジ・プリンセス」の声。

普段着らしいワンピースは消え去り、きらきらと彼女からはかけ離れた贅沢を貪る貴族の服に包まれる。サメの歯がずらりと並び獰猛さを表すその中央に、紫に輝く宝石がいま呑み込まれんとしているエンブレムが胸元で存在を主張し、次の瞬間には、彼女は光に包まれプリンセス衣装の戦闘形態へと変わっていった。

 

「でも。でもね。わたしはね。わたし、ね。」

 

すっと、イーターの口元から気味の悪い笑みが消失する。舌足らずな口調は次第に遠退いていく。ぶつぶつと怨嗟を並べるように呟きながら、ゆらりゆらりとユウキを視る。

 

「満たされないの。満たされないの。いくら食べても、何を食べても」

 

口の転写による削り取るような食事は、なるほどたくさん食べるには正しい力かもしれない。だが、たくさん食べたいのなら満腹感など不要だと。与えられた力によりすべてを一瞬にしてエネルギーへと変換する胃は、底を知ってはいけないと。食人姫に与えられた宿命は『食べる』ことだったのだ。

 

「レヴェルを食い尽くしても。おねーさんたちを食べようとしても。

――大切な人を食べてでも。食べたくて、もっと、もっと欲しくなって、食べたくて、食べたくて食べたくて食べたくて……!!」

 

次第にけたけた笑いのような狂気でなく、もっとおぞましくユウキの直感に危険だと告げさせる感情を溢れさせる彼女。こんな願いに寄り添うのなら、何を施せばいいというのか。

 

「だからね。だからね。わたしを満たしてほしい。おねーさんを食べて……わたしはおなかいっぱいになるの……!!」

 

淡く、光の反射でなく自らペティグリィが光りはじめる。それはオーダーの発令、その兆候だ。恐らく、何らかの能力によってユウキを食うつもりなのだろう。いくら腹に収めても抑えられず、必死に蓋を閉めてきたものがユウキの存在で解き放たれてしまう。

自らの身を守るため、イーターの狂気に向き合うためにユウキも古本を構え、掛け声をイーターの感情のうちに響かせる。彼女が見せるは勇者の姿、外敵を打ち払い華々しく騎士道と勇猛を讃える可憐なる鎧。

その手には選定の剣を握り、飛んで来るだろうオーダーへ警戒の構えをとる。

 

 

「――『ファーストオーダー』。噛み砕け、我が牙よッ……!」

 

イーターが命じたそれは、いくつもの牙を形成するもの。此度の獲物たるブレイヴァーを取り囲んで、逃さず食い尽くすと檻のように覆い被さっていく。まるで高波が襲うように、セクターから現れてはブレイヴァーの肌を貫くために沈んでくる。そのたびに黄金の剣が光の軌跡を残しつつ食欲を打ち砕いていった。

 

「でも……キリがない」

 

ひとつひとつに対応できないわけではない。むしろ応戦だけならば、テイマーのファーストオーダーを思い返せば楽な部類に入る。だが、恐らくイーターは尋常でない意思の力を吸収している。イーターが食い変換したものはすべて、食うという意思として命を下すのだ。

集中が切れた瞬間に自分は彼女の食欲を増長するエネルギーになる。そう確信して無理にでも集中を続けなければならない。最早数百数千もの牙を破壊し続けるブレイヴァーが剣に乗せる力が弱まっていく。

 

「賭けるしか、ない……!」

 

時間を稼ぐため、決心したブレイヴァーは回転斬りによって牙をいったん一波のみ消し去った。時間は数秒もなく、息は荒いがイーターに意思を切らす気配はない。

一瞬の時間稼ぎ。そのうちに、彼女は活路となる思考を引きずり出さなければならなかった。

ユウキには想像もできないような苦痛の中で生きてきただろう余剰。そんな彼女へ手を差しのべようとする一般的でいて異常なる道徳心。哀れみと使命感が正義のまわりで渦を巻き、助けるという結論であり決意たる場所に至る。

 

 

肩の上に黄金を構える。自らの決意を乗せ、彼女を救うための輝きを求める。

 

「『ファーストオーダー』」

 

目前にまで迫る捕食の牙。だが、剣には助けたいという願いが充填されている。人を助け、正義を貫く意思の力。

 

「煌めけ、選定の剣」

 

一閃。凡ての牙は一閃のもとに灰燼と帰し、一直線に奔流がイーターへと向かっていく。この状況を、ユウキは1度見ている。

予定通りに彼女の前に口が開いて、輝きを吸い込んでいく。だが、それでいいのだ。吸い込まれていくことにこそ意味がある。

 

はじめてイーターと戦ったとき。満たされぬ彼女のことを知らないブレイヴァーが放ったのは、同じく選定の剣に宿る魔法の力。今と同じくそれらを呑み込んで、イーターはこう言った。

――おなかいっぱい、と。

 

「飢えなら私が満たす!呑み込んでしまえ、思いのぜんぶ……!」

 

前回使われたブレイヴァーのファーストオーダーよりもずっと長く。思いの全てはセクターを走る。

光が晴れる頃には、イーターの能力によって転写し開かれた口はぼろぼろになって、崩壊を始めているころだった。

 

本人には傷もなく。本当ならば回復しているはずなのに、イーターは追撃に動かない。それどころかゆらりバランスを崩し、膝から倒れこんでしまったではないか。

 

「余剰ちゃん!?」

 

予想外の出来事で思わず駆け寄るブレイヴァー。イーターの変身は解けて、現実と同じ服装に変わる。抱き上げて大丈夫かと揺さぶろうとすると、ぱっちり目が開いた。

 

「けたけた……おなか、おもくなっちゃった」

「大丈夫、なのね」

「うん。おなかはもうじゅういちぶんめだけど」

「限界じゃない……ごめんね、まさか倒れるなんて」

 

にっこり笑ってみせる余剰。ギザ歯は相変わらずながら、憑き物が落ちたような幸福感でいっぱいのように見える。

 

「……ねぇ、おねーさん。おなまえは?」

「あ、名乗ってなかったっけ。沖ノ鳥ユウキ、だよ」

「ユウキおねーさん。わたしね、おねーさんの役に立ちたいな」

 

ぶっ倒れたばっかりなのに何を言うかと思えば、協力の申し出だ。願ってもないことであり、ブレイヴァーは目を丸くする。

 

「なにか、できない……かな?」

「できるよ、きっと。私自身はまだちょっと、何を賭けるかわからないけど」

「……うん。よい、しょっと」

 

ブレイヴァーの手の中から起き上がり、くるんと一回転して再び視線を向ける彼女。今度の視線に怨嗟は伴わない。

 

「わたしを満たしたおひめさま。プリンセス『イーター』は、あなたにちからをかしましょう……こまったらよんでね?」

 

ぎゅっと、両手で鋼の籠手を握ってブレイヴァーを立たせる余剰。

彼女愛用のテーブルナイフがふたりを吸い寄せ、現実世界へ引き戻していくのだった。

 

 

 

 

【次回予告】

 

余剰と和解して双美たちのところへ戻るユウキ。

改めて皆の願いを聞くことに。

そうして彼女は、自分の正義を貫くと決める。

 

次回『再確認』

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