ROYAL Sweetness   作:皇緋那

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2話同時投稿なんです。え?文字数?えっと、それは気にしないでね。


再確認

【前回のあらすじ】

 

余剰だよ。いっぱいたべさせてもらって、わたしはユウキおねーさんにちからをかすことになりました!いじょー!

 

 

ユウキからすれば、イーターのことから一夜明けた日。とある少女からすればなんでもない日のうちひとつであり、不安な夜を過ごし続けていた彼女の怯えも軽くなってきたころの朝。

その少女、古史雪の相談しようと思っていた相手は何事も知らずにひょっこり現れた。校門前、朝っぱらの登校時間。いつもどおりマイペースに玄関へと向かう彼女を、軽く走りながら追いかける。いつもならもう少し彼女は遅いはずだが、今日は早起きだったのか。

 

「せ、先輩!土実先輩っ!」

 

可愛い後輩の呼ぶ声に、綺麗なロングヘアの先輩は振り向いた。

 

「あら、雪ちゃん?どうしました?」

 

彼女は『土実基(どのみはじめ)』という。ソフトテニス部の先輩で、三年生。雪のテニスにおける模倣先ではあるのだが、彼女のまるでコートすべてに感覚センサーのあるようなやり方はまずどうやっていいのかわからずできなかったという人物だ。

そして、試練としてその全力を出した自分を越えるよう課してくるという、普段のおっとりさや淑やかな姿からは想像もつかないスパルタ教育を行う人物でもある。雪はそれを乗り越えかけていたため、特に可愛がられているのだ。もうすぐ引退となってしまうため、会う機会が減るのは寂しい……というのはまた別の話。

雪の相談にはたびたび彼女が乗っていた。基に話すと、森林に包まれているような安心感を得られる、というか。

 

「ちょっと、相談したいことがあって」

 

基は首をかしげて固まった。雪の返答を待っているらしい。それが基なりの承諾だというのには数秒間理解できず、雪からの袖ひっぱりも数秒遅れた。

 

「こっち来てくれませんか……?」

「そのへんの木陰?遅刻しちゃいますわ」

「あ、それは、その」

「冗談冗談。まだまだ時間はありますわよ。済ませるなら遅刻にならないうちに、ね?」

 

人差し指でぴんっと雪の鼻の頭をつっついて、冗談だと笑う基。木陰に誘うのが今問おうとしているようなことでなく、愛の告白を聞かされても彼女はこの調子なのだろう。若干残っていた緊張がほとんどほどけていって、足取りは本来の雪と同じく運ぶことができた。

 

「ここなら、何をしても見つからなさそう……ね?」

 

雪を挑発的な視線で見る彼女。自分が男だったら危なかったかもしれないと、もしものことでも考えながら苦笑で返す。本題を切り出すべく続けて口を開き、できるだけまっすぐに基の瞳に視線を合わせて。

 

「あの、先輩……死、ってどういうことだと思いますか」

 

真面目な顔で、柄にもない人生の質問をしてくる後輩に基はちょっときょとんとした。そこまで真剣に考えたこともないだろう、先輩とはいえ彼女もまだ15歳。人生の話をするには――

 

「んー、バトンタッチみたいなものでしょうか?」

「え……?」

 

思いの外すぐに答えられ、声が漏れてしまう。

 

「私のぶんはもう終わりだって、次のみんなに全部譲る。そんなものだと思います」

 

引退を控えた先輩らしいというか、プリンセスによって殺されるという可能性を目の当たりにした雪には出てこない発想だった。そんなまっとうな形での終わりを聞いたわけでなく、雪が問いたかったのは突如やってくる理不尽への言葉だ。

だが彼女の言葉には、いつ訪れるかもわからないものへの恐怖は含まれていない。きっと、ここで雪に首を絞められて殺されたとして、それでも同じことを感じて死ぬ人間なのだろう。

 

「……ありがとう、ございます」

 

目を伏せて、上辺の感謝を口にする雪。少なくとも、雪にとっては参考にならない。

 

「どういたしまして。でもいきなりどうしたの?」

 

理由を訊かれ、雪はふいに全て話してしまいたくなった。17人のプリンセスは揃い、教えたって影響はないのだろう。基なら、そんな幻想を吐く自分だったとしても変わらず接してくれる。

でも、口から出たのは違う言葉。

 

「……いえ、なんでもないです。ちょっと、ネットサーフィンで」

 

ただの言い訳にすぎない。そんな哲学について調べたことなんてないんだから。

 

「そうかしら?ま、いいでしょう。戻りましょ。まさか、別の用事があるわけでもないでしょ?」

「あ、はい。遅刻したらいけませんし」

「それ、さっき私が言ったことですわ」

 

雪が戻ろうとする前を、走りなれていないような挙動で基は戻っていく。またあの登校中の一般生徒たちの中に紛れ、特段なにもない日常へ戻っていくのだろう。

そうしてずっと眺めていると、森林浴でもしてきたかのように、雪の気分は軽くなった気がした。

 

 

一方、それから10時間は経った頃。やっと授業が終わったというところで教室へ乱入してきた双美によって召集をかけられたいるかたちプリンセスは、新聞部へ集まっていた。うち、ユウキだけは何やら双美に告げられて離脱していったため、新聞部にはいるか、とち、双美で三人しかいない時間がしばらく続いていくことになってしまった。

まだ半信半疑である相手と、鍵のかけられているうえ薄暗い部室に取り残されたいるか。耐えきれずにか、数分もしないうちにふたりへ話しかける。

 

「……あの、時畑先輩も、卯道先輩もなんですが、どうしてユウキちゃんにそこまでするんですか?」

「おや、ブレイヴァー贔屓はそんなに嫌かい?」

「違います、ただ……不安になっただけ、です」

「なるほど。まぁ私はそこのヒーラーに話を持ちかけてたら新しいプリンセスが来たから、で誰でもよかったんだけどね?」

 

うつむくいるかのことなど気にせず、べらべらと喋り続ける双美。質問に彼女が答えたと見ると、今度はとちが話を始める。

 

「……私も、誰でも良いのです。ただ傷を治したいだけ。でも――」

 

言葉を途切れさせ、すこし間を置くとち。双美の話しているときのどこを見ているのやらわからない表情でなく、保健室での慈愛に満ちた微笑みで続けた。

 

「ユウキさんとあなたの情熱は、私には真似できないものです。その背負った願いは、きっとあなた方を助ける」

「あ、えと、ありがとう、ございます?」

 

質問に答えてもらったお礼になるのか、困惑しながらの感謝に双美までにやりと笑う。急に恥ずかしくなって、いるかはユウキの帰りを切実に待った。

 

 

ユウキが戻ってきたのは、最初に召集がかけられてから30分ほどあとだ。気まずい時間は20分続き、双美は机に向かって記事を書こうと袖を捲り、作業に取りかかっていたところだった。

 

「も、もう!ユウキちゃん、何してたの?」

「ごめんね、ちょっとこの子を……」

 

ユウキの後ろに、四人よりも小さな人影が見える。小学校高学年、といったところか。ゆらりとした立ち姿、可愛らしい顔にはそぐわないけたけた笑い。

変身していなくともわかる、あれは1度遭遇したことのある少女。

 

「自己紹介から、で大丈夫?」

「けたけた、うん!いいよ!」

 

ユウキの前へぴょんっと躍り出る少女。全員の注目が集まる中、ぎぱっとギザ歯が上下に開く。

 

「はじめまして!わたしは井之八余剰!プリンセス・ランク8位で食人姫、『イーター』だよ!よろしくね、おねーさんたち!」

 

いるかにとって、完全に予想外の出来事。初日に敵として遭遇、蟷螂の日に突然現れては去っていった彼女。いつの間に和解したのだろう、と疑問に持ったものの、いきなりの出来事にフリーズしてしまう。そんな友人の様子で何となく察したのかユウキは「きのうから協力してくれることになった」と付け加えた。

 

「いやぁ、ほんっとすばらしいね!攻略目標のはずが、まさかADV的な意味での攻略とはッ!」

 

作業台を1度ばんと叩いたはずみで立ち上がり、大笑いする双美。一方でとちは珍しく席を立って、余剰の前に屈んで彼女の頬に手を伸ばす。

 

「ほへ?」

「私は時畑とち……回復姫『ヒーラー』です。すべての傷は私にお任せください、ね?」

「うん!いいよ!」

 

お互いに心からの微笑みで握手するとちと余剰。建前の存在しないふたりは意外にも相性がいいのかもしれない。

 

「で?ブレイヴァー、その子の願い事は?」

「あー、それなんだけど……」

 

ユウキはその質問を聞いた結果の戦闘について話をして、たぶん『たくさん食べる』が該当するのかも、と本人にもいま聞いてみる。それはたぶんそうじゃない?と適当をいう余剰に双美は今度は苦笑いでユウキのほうへぐいっと詰め寄った。

 

「いったいどういう攻略の仕方だい?願いどこいった!?」

「私のオーダーでおなかいっぱいにした。というか覗いてなかったの?」

「イーターのファーストオーダーで偵察機壊れたんだよ!」

 

双美の言い分に、ユウキは脆いんだね、と面倒くさそうに頷いた。

 

「……まぁそれはもういいとしよう。で?ブレイヴァーの願い事は見えたのかい?」

「まだ、です」

 

それもまだだとうつむくユウキ。しかしまだ見えないことを予測はしていたのか、双美は高らかに第二のプランを宣言する。

 

「じゃあこうしよう、とにかく今ここにいるプリンセスの願い事を確認してみるんだ!協力関係にある以上、目的を把握してた方がいい!ヒーラーのも、テイマーのも!」

 

びしっととちを指し、それからいるかを指す。いるかは特にびくっとしたようで、すこしだが跳ね、突然の自分の指名にびっくりした顔で呆然としている。

 

「では、私からでよろしいでしょうか。」

 

手を挙げて、余剰の前からさっき座っていた席に戻るとち。注目が集まってちょっと緊張したのか、先に小声で「大したことではないのですが」と前置きを言ってから、話を始めた。

 

「私は――傷痕が生まれ、そして治ってゆくその様を見届けたい。それが私の知る至上の娯楽です」

 

場の全員が真剣な彼女に固まった。変人、という言葉は饒舌で視点をずらしている双美のような人物を指すのだろうが、その言葉からすればとちも相当な変人に聞こえる。ユウキが感じる違和は、ふだんから礼儀正しく慈愛に満ちたとちにその言葉を使うことへの違和だ。

 

「元より支配など望んでいませんから。では、いるかさんどうぞ」

「……へ、私?」

 

いきなり促されてよくわかっていなかったらしいいるか。立とうとして何かがイスに引っ掛かったのか、どたどたと大きな音を立てて床に倒れてしまった。

 

「だ、大丈夫?」

「うん……ちょっと、お尻打っただけ」

 

スカートについたほこりを払い、ユウキの方をしっかりと見るいるか。すこし頬が桜色で気恥ずかしくもあるようだが、言葉はちゃんと紡がれる。

 

「ユウキちゃん。私はね、会いたい子がいるの。……亡くなった、私の家族」

 

死した親しい者にもう1度会いたい。それは、当然の願いだ。いるかが多くを語らずとも、その悲しみはこれだけで汲み取れるだろう。一方で、深さは計り知れないのだが。

 

「だから、力を貸してほしい。支配なんかに興味はないの、私は――あの子に、会いたいだけ」

 

いるかの瞳には、真剣なその願望が見てとれる。ユウキはそっと一歩近寄って、やさしく声をかけた。

 

「わかった。私はいるかのため、剣を振るおう」

 

初日と同じように静かに、けれどそれよりもずっと重く頷いて。決意の視線が交わされる。

 

ふいに、けたたましい警報のような音がユウキといるかの脳裏に鳴り響く。セクターボードからの警告だ。

手元に具現させたボードの画面には、領地への他プリンセス侵入の旨が記載されている。

 

「敵襲だね、助けは必要かい?」

「いいえ、私たちで倒します」

 

きっぱりと断るいるか。いるかが人の助けを必要ないと言った場面を、このときユウキは初めて見た。

 

「……行こう!ユウキちゃん……!」

「もちろん!」

 

意識はペティグリィへと集中する。手をつないで、三度目のふたりいっしょの飛び込み。見送る三人の顔もしだいに見えなくなり、こころが裏の世界へと吸い込まれていく――

 

 

 

 

【次回予告】

 

決意を新たに、現れたプリンセスとの戦いに臨むユウキといるか。

待ち受けるプリンセスは、一体誰なのか?

 

次回『夢で、さようなら』

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