リリカルなのはINNOCENT~CHASER~ 作:つねまる
今回も2話同時に投稿します。
翌日。目を覚ましたきょうやは、ゆっくりと上体を起こした。辺りを見回すとあることに気付く。
「あれ? ここって……」
本当ならアパートのベッドで寝ていると思っていたため、自分が全く見慣れない部屋にいることに戸惑っていた。とりあえず掛け布団をはぎ、ベッドから起き上がる。
部屋から出ようとドアノブに手を伸ばすが、きょうやの手が触れる前にドアが開いた。開いたドアの先にいたのはヴィータであった。
「おうきょうや。起きてたのか?」
「え、あ、うん」
「ちょうどよかったぜ。朝飯出来ているから下に来いよ。はやての飯はギガうまだぜ」
「う、うん分かった(そっか。昨日結局はやてちゃんの家に泊めさせてもらってたんだった)」
部屋から出たきょうやはそのままヴィータと一緒に下に降り、リビングへと足を運んだ。ヴィータが先に入った後、きょうやも一緒に中へと入る。
リビングでは既にはやてとアインスが朝食の準備をしていた。アインスはきょうやの姿を見ると、持っていた皿をすぐに机に置いて近づいてきた。
「昨日のことは主から聞いたよ。もう身体は大丈夫なのかい?」
「は、はい。まだちょっと違和感はありますけど、大丈夫ですよ」
「そ、そうか。よかった」
きょうやの状態を見たアインスはホッとした表情になる。
「アインスずっと心配してたんよ。ほんまきょうやくん隅におけへんなぁ~」
「あ、主!」
はやては二人を茶化すように言うと、アインスは恥ずかしさのあまり頬を赤く染めてしまう。
「あれ? アインスさん。顔が赤いですけど、大丈夫ですか? どこか体調でも……」
アインスの体調が悪いのではないかと感じたきょうやはそう聞くと、アインスは大丈夫だと言った。
(本当鈍いなあいつ……)
(まぁきょうやくんだから仕方ないか)
その光景を見ていたはやてとヴィータは、アインスの気持ちに気付いていたため、きょうやに呆れた視線を向ける。
(あれ? 何だろう二人の視線が痛い)
きょうやは二人からの視線に痛みを感じていた。
その後きょうやも手伝い朝食の準備をしていると、シグナムとシャマルがリビングに入ってきた。
「おや? 何やら話し込んでいるようだが、何かあったのか?」
「いや、僕もよく分かってなくて……」
シグナムの質問に対し、何とも言えない表情をうかべるきょうやだったが、それをよそにはやてが何でもないと言って朝食の準備を再開してしまう。
準備を終えると全員席(もちろん新しくきょうやの席もある)について食事を始めた。
(ヴィータちゃんの言う通り美味しい……)
美味しいご飯を食べられる数少ない機会であるためか、無意識のうちに食べることに夢中になっていた。
食事を終えた後、きょうやは自分の住んでいるアパートへと戻るべく八神家を出ようとした。
「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」
「いや、そういうわけにはいかないよ。一応僕も今日学校があるから」
玄関で靴を履きながらそう言い、八神家を出ようとする。
「きょうやくん」
家を出ようとしたきょうやをはやてが止めた。きょうやは疑問に思いながらも振り返と、神妙な顔で自分を見ているのが分かった。
「どうかした?」
「……」
振り返ってもはやてが何も言おうとしないため、きょうやは気になりはやてに近づいて同じ目線になるようにしゃがみこむ。
「あんな、きょうやくんが何の目的であの化け物と戦ってるかは聞かんよ。けどね、昨日みたいな状態になるのだけは今後やめてもらってもええかな?」
「……」
突然のことに戸惑うきょうやだったが、はやてが何を伝えたいのかは理解することができた。
傷だらけになることは今に始まったことではないが、その時は決まって追田夫婦やその関係者が心配し傷の治療などをしてくれていた。しかしそれ以外の人から心配してもらえることがなかったため、きょうやは不思議な気持ちになっていた。どう言えばいいか悩んでいると、はやてが口を開いた。
「きょうやくんがどう思ってるかは分からんけど、私達にとって君はもう”家族”みたいなもんやからな。何も遠慮せず、頼ってほしいんや」
それを聞いたきょうやの表情が変わり、目は大きく見開かれその場で硬直してしまった。
はやては恥ずかしかったのか、少し頬を赤くしていた。
「あはは、ちょっとあれやったかな?」
恥ずかしさを隠すように、笑いながら頬をかいているはやてを見たきょうやは、表情が緩んでしまう。
「分かったよ。もうあんな風にならないよう頑張るから、心配しないで」
そう言いながらはやての頭を撫でる。
「今の言葉。すごく嬉しかったよ。ありがとうはやてちゃん」
きょうやはお礼を言い、立ち上がると玄関のドアを開いて外へ出た。
―――――――
八神家を後にしたきょうやは少し駆け足でアパートに向かっていた。
朝の少し早い時間帯であったため、学校に遅刻することはないが、それでもギリギリの時間帯であった。八神家の朝が早かったおかげもあって間に合わないわけではないため、その点に関しては感謝していたきょうやだったが、それ以外にも理由があった。
「家族、か」
八神家を出る時、はやてから言われた一言が頭に残っていた。
きょうやの両親はもうすでにこの世にはいないため、家族というものがどういうものかを忘れかけていた。けれどはやてのあの言葉のおかげで少しだけ家族のぬくもりを思い出すことができていた。
そんなことを考えながら歩いている内に、アパートに着きすぐに部屋へと入ると学校へ行く準備する。その後部屋から出ると、再び駆け足で学校へ向かった。
「あれ?」
その道中。きょうやと同じように走っている見慣れた後姿が目に入った。特徴的な赤毛と桃色の長い髪をなびかせているその存在は、間違いなくきょうやの知っている人物であった。
「アミタさん?」
「あ、きょうやくん! おはよう!」
「ああ、先輩♪ おはよー」
声を掛けると、アミタとキリエから元気のいい挨拶が帰ってきた。
「どうしたのこんな遅い時間帯に登校なんて」
「いや~それが」
「珍しく寝坊しちゃいまして。先輩の方こそ遅刻ですか?」
「え、あ、うん。そんなところかな」
八神家に泊まっていたとは言えなかったため、寝坊したということにしてその場を乗り切ることにした。その後三人は学校に遅れるわけにはいかないと駆け足で学校へ向かった。
―――――――
午前中の授業が終わった後の昼休み。いつものようにきょうやを含めた四人と昼食を取っていた。
「そう言えば、みんなは聞いた? 今話題になっている噂」
何気ない会話をしながら昼食を取っている中、朱乃がある話題を振ってきた。
「噂? 何かあったんですか?」
きょうやの一年後輩の飛鳥が気になって朱乃に尋ねる。きょうやとキリエは頭に?マークが浮かんでいたが、アミタは耳を傾けつつも弁当に夢中になっていた。
「いや実はね。最近海鳴で奇妙な事件が増えてるらしいのよ」
「奇妙な事件?」
「うん。人が突然行方不明になったり、何者かによって爆発事件が起こったり、この手の事件が最近多いらしいのよ」
「うわぁ、物騒ですね。でも聞く限りではどの事件も変なところはないと思いますけど」
キリエの疑問は最もであった。どの事件もよく聞くものであり、特に気になるようなものではないことは確かであった。
「確かにこれだけなら私も疑問には思わないわよ。でもこの事件のほとんど、”人間が引き起こしている”ものじゃないっていう噂が出てるのよ」
「ど、どういうことですかそれ?」
ちょうど弁当を食べ終えたアミタが、興味津々な様子で話しに入ってきた。
「まだ確定しているわけじゃないんだけど、ここ最近”人の形をした怪物”が増えてきているっていう情報があるのよ」
それを聞いたきょうやは飲んでいた飲み物を勢いよく吹いてしまう。突然のことに周囲は驚いてしまうが、げほげほと咳込みながらもきょうやは何でもないと言った。
「か、怪物って、映画じゃないんですから、いるわけないじゃないですか」
「まあ飛鳥の言うことも一理あるわね。私もそう思ってたから。でも私、一度その怪物を見たことがあるの」
朱乃の一言を聞いた三人が驚いてしまう。
「見たことがあるって、朱乃先輩大丈夫だったんですか?」
「……その日偶然遭遇してしまって、よく分からない倉庫に監禁されたよ。いつ言おうか迷ったんだけど」
「監禁って! あれ? でもいつも朱乃普通に学校へ来ていたような気が……」
「その怪物、私の姿をコピーして学校に来ていた日があったのよ。その日貴方達と普通に接していた私は、私の姿をコピーした怪物だったのよ」
「コ、コピーって」
「信じてくれとは言わないけど、現に私ときょうやくんはその怪物を見てしまっているのよ。だから、最近多い噂に対して、どうしても他人事のように思えなくて……」
朱乃が言ったことに、きょうやは何とも言えない表情になる。自分があの時ロイミュードと気付いて早く助けに行ければ、朱乃に恐い思いをさせずに済んだのではないかと考えたからである。そのため何ともやるせない気持ちになっていた。
「あれ? 先輩もその怪物に出会ってたんですか?」
「え、あ、うん。偶然見つけて、そしたら朱乃さんが監禁されてる場所にたどり着いて」
「そうだったんですか」
「でもそれだと恐いですよね。ひょっとしたらもうすでにこの学園の中にも、人間に化けた怪物がいるって考えたら……」
飛鳥が不吉なことをつぶやいた結果、五人の間に重苦しい空気が流れてしまう。
そんな空気をかき消すかのように昼休み終了のチャイムが鳴った。
「うわ、不味いよお姉ちゃん! 授業始まっちゃうよ!」
「そ、そうね! とりあえず午後の授業に間に合わなくなっちゃうからね!」
フローリアン姉妹は急いで弁当を片付け始める。飛鳥やきょうや、朱乃も同じように片付けて教室へ向かおうとする。
「あ、朱乃さん」
教室へ向かおうとする朱乃をきょうやが呼び止めた。
「さっきの話なんだけど、朱乃さん。ひょっとして今の話、一人で調べてたの?」
「あ、いや、最近SNS上でも話題になっていてね。それを元に少し調べてたんだよ」
「でも、その手の噂って深く知るのはまずいような気がするんだけど」
「ああ、私も深く知るつもりはないよ。もうあんな目に遭うのは御免だからね」
そう言った後、きょうやに遅れるよと言って朱乃は先に行ってしまった。その後を追うようにきょうやは、教室へと向かった。
――――――――
その日の夜。海鳴のとある場所で、異形の存在であるロイミュード達が集まっていた。数はおよそ三十~四十体ほどで、何かが起きようとしていた。
「おい。何でここに俺たちは集められたんだ?」
一人のスパイダー型ロイミュードが疑問を投げかけた。すると一人のコウモリ型ロイミュードが姿を現し、口を開いた。
「みなさん。今日は集まってくれてありがとう。あの"お方"の指示の元、この街に集まっていただいていると思います。まあ、何名か姿が見えないものもいますが……」
「そんなことはどうでもいい。どうして俺達が今回集められたのかをいい加減教えてくれねぇか?」
前置きはいいから早く言えと言わんばかりに、スパイダー型ロイミュードが催促する。
「そうですね。早速本題に入りましょう。今日我々が集められた理由は、海鳴を始めとした日本各地へ総攻撃を仕掛ける件について、お話ししようと思いまして」
コウモリ型ロイミュードのその一言により、話を聞いていたロイミュード達がざわつき始める。
「ほう。ついにやる時が来たのか?」
「ええ、あの方がついに決断をしてくださったのですよ」
「"第三のグローバルフリーズ"の開始を!!」