リリカルなのはINNOCENT~CHASER~ 作:つねまる
究との電話を終えたきょうやは、八神堂へと戻った。
店の方はまだ混む時間帯ではないため、今はきょうやとはやて、アインスだけしかいない状況である(ヴィータとシグナムは現在二階におり、シャマルは大学に行っている)。
「きょうやくん。さっきの電話は誰からだったん?」
「え、ああ、昔お世話になった人だよ。父さんの知り合いで、小さい頃遊び相手になってくれた人なんだ」
「へぇ~そうだったんか」
きょうやの話を聞いたはやては、一つ疑問が生まれた。
「なぁ、きょうやくん。両親は海鳴に来てないんか? 一人暮らしって聞いてるけど、様子見に来てくれたり、連絡してもらったりしてたりするの?」
はやてが両親について気になり尋ねた。それに対しきょうやは表情が固まってしまい、しばらく沈黙状態になってしまう。
「ど、どうかしたん?」
「いや、その……」
どう言えばいいか分からなかったきょうやは、複雑な表情をしてしまう。
「もしかして、聞いちゃいけないこと聞いちゃった?」
きょうやの表情を見て何かを感じ取ったはやては、不安な表情を浮かべながら尋ねた。
「あ、いや、大丈夫だよ。そうだな、どう言えばいいかな……」
「……やっぱりええよ。言わんでも」
「えっ?」
「そんな言いづらそうな顔されたら誰でも察してしまうよ。だから無理して言わんでもええよ」
聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ったはやてはそれ以上聞こうとしなかった。きょうやがその後ありがとうと言い、表情が和らいだこともあり、はやての表情も幾分かよくなっていた。
「はやて~。宿題終わったから、店手伝うぞ!」
そんな話をしていると、二階からヴィータが宿題を終えて降りてきた。その後を追う形でシグナムも一緒に降りてきたため、一階にはシャマルを除いて八神家全員がそろっている状態であった。
「あれ? シャマルさんは?」
「調べ物があると言って大学へ行っている。もう少ししたら帰ってくると思うが」
「医大生は大変やからな~。程よく勉強せえへんと置いてかれてまうからな」
「そ、そうなんだ……」
そんな会話をしていると、一人の客が入ってきた。
年ははやてと同い年ぐらいの子で、紫色のウェーブのかかったロングヘアーの少女であった。
「おお! すずかちゃん。いらっしゃい! 今日も本買いに来たん?」
「うん。ちょっと読みたい本があってね」
はやてが同年代の子と仲良く話している姿を見つつも、この少女が誰なのか気になってしまっていた。
「はやてちゃん。この子は?」
「ああ、そやったな。きょうやくんは初めて見る子だったね。この子は月村すずかちゃん。ウチの店の常連さんなんやで」
「初めまして。月村すずかです」
少女・月村すずかは、きょうやに対して丁寧な口調であいさつをした。
きょうやから見てこの少女の第一印象は服装と口調からどこかのお嬢様なのではないかと考えていた。
「どうかしましたか?」
「あ、いや、初めまして。僕四ノ宮きょうやって言うんだ。最近この店でアルバイトをしてます。よろしくね」
きょうやは挨拶を済ませるが、すずかはじぃーっと見ていた。
「あ、あの……、どうかしたかな?」
「いえ、はやてちゃんから少し話を聞いてたんですけど、想像通りの人でよかったです!」
「……へ?」
何のことかいまいち理解できず、はやてに視線を向ける。
「いや~話のタネにきょうやくんの話題がでてな。それでちょこっとすずかちゃんに話してて……」
「あ、ああ、そういうことですか」
話を理解したきょうやは落ち着きを取り戻すことができた。その後目的の本を買ったすずかが帰っていくと同時に客が増えていき、対応に追われた。
―――――――
その夜。はやての誘いで八神家にいたきょうやは一人、リビングのソファーに座っていた。台所でははやてとアインスが料理の準備をしており、ヴィータはシャマルに二階で宿題を教えてもらっていた(ちなみに本命はシャマルを台所に立たせないようにするためである)。
きょうやは一人ソファーに座りながら第三のグローバルフリーズのことについて考えていた。
(りんなさんや究さんの話によれば、複数のロイミュードが攻めてくる。何体くるか分からない上、僕一人じゃ……)
いくら戦いを何度か経験しているきょうやでも、数で来られては対処が難しくなってしまう。そう考えていたきょうやは無意識のうちに頭を抱えてしまっていた。
「どうしたきょうや。何か悩み事か?」
悩んでいたきょうやを見ていたシグナムが声を掛けてきた。
「あ、その、ちょっと色々あって」
「そうか。学校で何かあったのか?」
「いや、そういうわけではないんですけど」
「……主が言っていた機械の化け物のことか?」
「……」
的を射た発言を受けたきょうやは押し黙ってしまう。その反応を見たシグナムはきょうやの斜め前のソファーに座った。
「その、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「シグナムさんって、勝てない相手と戦うことになった時、どうしますか?」
突然の質問にシグナムは一瞬目を丸くする。すぐに元の表情に戻り、顎に指を当てて考え込んでしまう。
「うーん、最近はそういった相手がいないからな。あまり考えたことがない」
予想外の発言であったため、きょうやはガクッとなってしまう。
(そうだった。シグナムさんって確か剣道場の師範やってる人だったの忘れてた)
聞いて少し損していたきょうやであったが、シグナムはそれを察して話を続けた。
「きょうやは、なぜそんなことを私に聞くんだ?」
「いや、その、勝てるか分からない相手に遭遇してしまいまして。それでどうしようかと悩んでいて」
「なるほどな」
大体の内容を理解したシグナムはしばらく唸った後、口を開いた。
「相手がどういった奴かは分からないから何とも言えんが、私なら勝てないなりに相手に食らいつくかな」
「勝てないなりに、ですか?」
「ああ。私の場合強い敵と戦えるのはありがたいことだからな。私にとってこれほど嬉しいことはない」
普段あまり笑わないシグナムがすごくいい笑顔をしていたので、それを見たきょうやは本当に喜んでいるんだと感じ取ることができた。
「ただ勘違いするなよ。私とて殺し合いなどは好きではないし、しようとも思っていない。それを考えると、ある意味お前の方が私より強いかもな」
「そ、そんなことないですよ。僕よりシグナムさんの方が強いじゃないですか」
以前きょうやはシグナムの計らいで剣術の指導を受けたことがあった。その時シグナムに完膚無きにボコボコにされたことがあり、今でもきょうやのトラウマになっていた。
「そんなことはない。理由はどうであれ、お前は人のために戦っているではないか。私は実際に会ったわけではないから分からんが、戦える力があるとは言えいきなり化け物と戦えと言われてできる奴など普通は出来ないぞ。それなのにお前は主とアインスだけでなく、知らない誰かのために戦える時点で、お前は十分強いぞ」
ほんの少し微笑みを見せたシグナムに、きょうやはしばらく見惚れてしまっていた。その後ハッと意識を取り戻すと恥ずかしさが込み上げ、慌ててシグナムから視線を逸らしてしまう。
「まあ私から言えることはこれぐらいだな。そろそろ夕飯ができそうだから私は手伝ってくる」
「あ、僕もやります」
シグナムが立ち上がると、きょうやも遅れて立ち上がる。その時のきょうやの表情は幾分か明るくなっていた。
――――――――
翌日の夜。きょうやはアパートで準備をしていた。今日学校は体調不調と言って休んでおり、一日中海鳴を見回っていた。しかし特に進展はなく、結局グローバルフリーズが開始される夜の時間帯になってしまった。
「開始の時間まであとわずか。海鳴の各地にりんなさんから送ってもらったシフトカーを配置してるから、ある程度対応することが出来るけど、進化態に遭遇したらシフトカーじゃ対処できない」
そう考えていると、窓に何度も何かが当たり続けていることに気付く。
「……雨か」
カーテンを開けると、激しい雨が降っていた。その後カーテンを閉めたと同時に、あの感覚に襲われた。
「こ、これって!」
きょうやの身体はスローモーションになり、思うように動かない状態になっていた。異変の元凶である重加速を感知したシグナルチェイサーがきょうやの元へ行き、わずかに開いていた掌の中に入る。
すると先ほどまでスローだった動きが元に戻り、普通に動かすことが可能になった。
「そ、そんな! 重加速まではまだ時間があるはずなのに!」
机の上にあるドライバーとブレイクガンナーを持ってアパートを出た。アパートから出ると、先ほどまで激しく降っていた雨が宙で小さな水玉として浮いていた。近くでは人々の悲鳴が聞こえており、きょうやはかなり焦っていた。
「不味い!」
すぐさまきょうやはアパートの駐車場に止めてあるバイクのところまで駆け出す。
バイクカバーがかけられたバイクの元へと着くと、カバーを思いっきり引きはがす。出てきたのは黒と紫を基準とし、髑髏の意匠がある大型のオートマチックバイク・ライドチェイサーであった。
きょうやは手に持っていたドライバーを腰に当て、ライドチェイサーへと乗るとアクセルをふかし、バイクを走らせた。
「変身!」
しばらくバイクを走らせた後、シグナルチェイサーをドライバーに装填してチェイサーへと変身。目的地までバイクを走らせた。
――――――――
海鳴にある駅前。辺りはロイミュード達の手によって半壊した建物や、思うように動けない人間に対して一方的に殴りつけているロイミュードであふれていた。
『ひゃはははは! いいね! 人間をこんなふうにもう一度いたぶれるなんてな!』
身動きできない人間に日頃の鬱憤を晴らすかのように殴り続ける。地面に叩きつけた人間の背中を踏みつけた後、指先から光弾を発射して辺りを攻撃し始めた。
このロイミュード以外にも同じように指先から光弾を発射して破壊工作を行っており、中には人間に対して同じように攻撃を加えているものもいた。
駅前の大通りのはずれでも同様なことが起こっており、身体が思うように動かない状態でも人々は必死に逃げようとしていた。その中には習い事を終えて帰ろうとしていたすずかもいた。
(に、逃げなきゃ! 殺される!)
思うように動けない身体を必死に動かして逃げようとしていたが、その前をロイミュードが立ち塞ぐ。
「おやおや。こんな時間にお嬢さんが一人でいるなんて関心しないな」
「ひいっ!」
すずかは驚きのあまり足を滑らせ、尻餅をついてしまった。そんなすずかに対しロイミュードは手を伸ばすと、反射的に両手で顔を覆った。
(だ、誰か!)
ロイミュードの手がすずかへ触れようとしたその時、バイク音が聞こえた。どんどん音が大きくなっていき、すずかに触れようとしていたロイミュードを勢いよく跳ね飛ばした。
バイクを止め、降りたと同時にすずかのもとへ駆け寄る。
『大丈夫?』
「は、はい。大丈夫です」
『良かった。しばらくこの状態が続くけど、出来るだけ遠くに逃げて』
そう言ってチェイサーはすずかを逃がし、ロイミュードへ視線を向き直る。
『く、くそ。貴様は!?』
ロイミュードの言葉に反応せず、手に持っていたブレイクガンナーにシグナルチェイサーを装填。銃口のノズルを押した。
『チューン! エグゼキュージョン! フルブレイク! ネクスト!』
『はあああ!』
そのままブレイクガンナーを持った手でロイミュードの腹部を殴りつける。
『ぐはああ!』
その結果ロイミュードの身体は爆発する。ロイミュードを倒し終えたチェイサーはすぐさま振り返り、今にも人々を襲おうとしているロイミュード達目掛けて銃口を向け、光弾を発射した。
けん制として撃ったものであるため、ほとんどが地面へと着弾した。突然の銃撃に驚きを見せるロイミュード達の元へ駆け出し一体を殴りつけ、もう一体を蹴り飛ばす。
『お、お前は!』
チェイサーの姿を見たロイミュード達は驚きを隠せずにいた。チェイサーはそんなロイミュード達のことなどお構いなしに次々に攻撃を加えていく。ほとんどをブレイクガンナーによる必殺技で倒し、周囲はロイミュードが爆散したことによって生じた火が地面で燃えていた。
(よし。ここのロイミュードはあらかた片付けたから、後は……)
チェイサーが振り返ると、視線の先には既に数体のロイミュードがいた。
『くそ。囲まれてたか』
ブレイクガンナーを片手に構え、ロイミュード達と対峙する。
(ここにいるロイミュード達はすべて下級。これならなんとか戦え……)
そう考えていたが、一瞬にしてその考えが打ち消されてしまう。突然数体のロイミュードが咆哮を挙げ始め、その身体に変化が生じ、その姿を変えたのである。
(そ、そんな!)
姿を変えたロイミュードは動物、植物などの意匠がある上級ロイミュードへと進化してしまい、チェイサーは唖然としてしまう。
上級ロイミュード二体がチェイサーへと飛び掛かるが、間一髪のところでチェイサーはそれを躱し、片方は腹部に拳をいれ、もう片方には背中に回し蹴りを入れる。他の下級ロイミュードは後方からチェイサー目掛けて光弾を発射する。チェイサーはそれに反応することができず直撃してしまい、その身体は大きく吹き飛ばされてしまう。
『ぐっ!』
地面に叩きつけられてもすぐに立ち上がるが、状況は最悪であった。
下級ロイミュードの方が多いのは明白だったが、その中に上級ロイミュードが混じっておりすべてを相手にするのは至難の業と言っても過言ではなかった。
『……』
言葉を失ってしまい、どうするかと悩んでしまう。そんな時、昨日シグナムから聞いた言葉が脳裏に蘇った。
『私なら勝てないなりに相手に食らいつくかな』
『勝てないなりに食らいつく、か』
チェイサーはゆっくりと立ち上がると、バイク目掛けて手を伸ばす。するとバイクから何かが飛び出し、飛んできたそれを手に取り構えた。
飛んできたものは信号機を模した斧・シンゴウアックスであった。シグナルバイクを装填できる部分にシグナルチェイサーを装填し、持ち手にあるボタンを押す。
『ヒッサツ! マッテローヨ!』
シンゴウアックスから待機音が流れると、チェイサーはシンゴウアックスの持ち手部分を地面に突き立てた。
『こうなったら、最後まで抗ってやる!!』
『イッテイーヨ! フルスロットル!』
シンゴウアックスを持ち、ロイミュードの軍勢へと突っ込んでいった。
その後ロイミュード達はチェイサーの手によってほとんど倒され、日本を襲った第三のグローバルフリーズはロイミュード達にとって失敗という形で終結した。しかしこの戦いで日本、特に海鳴市は甚大な被害を受けてしまい、復興するまで約二ヶ月近くかかってしまう結果になってしまった。
さらにこの事件を境にチェイサーの存在が一部の人々から認知され、彼の活躍によって助けられたという証言が多数寄せられた。しかし信憑性がないという理由で彼の活躍は表に出ることはなく、この事件は幕を閉じた。
ということで一応序章はこれにて終了します。次回からはいよいよ本編に入っていきますが、いかんせん不定期ですので、更新はいつになるか分かりません。
気長に待っていただけるとありがたいです。