リリカルなのはINNOCENT~CHASER~   作:つねまる

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第二話

 ブレイブデュエルが海鳴市で開催された夜。きょうやは八神家で夕食の準備を手伝っていた。

 八神家の人達と食事をするのはこれが初めてではないため、きょうやは出されていた食器類を運び並べるなどの手伝いをしていた。

 そもそもきょうやが八神家と一緒の食事をとるようになったのは、はやてがきょうやの食生活を聞いたことが原因である。

 元々きょうやは一応料理を作ることができ、その腕は主婦業をやっている女性と同じか少し劣っているぐらいの実力である。彼の料理技術は、現在進行形でお世話になっている追田夫婦のために身につけたもので、仕事で忙しい二人にかわり家事の一環としてこなしていたことで身につけたものである。もちろん一人暮らしを始めてからも変わらず自分で食事を作ることはあるのだが、その機会が追田夫婦と暮らしていた時よりも激減していた。

 一人暮らしで学校生活とバイトのほか、人知れずロイミュードと戦う生活は、きょうやが思っていた以上に大変なことであった。その結果家事に中々手が回らない日が続いてしまったのである。

 特にひどかったのが食生活であり、ゼリー飲食と一緒に水かお茶だけで一回の食事を済ませることが何度もあったのである。

 これを聞いたはやてが激怒し、きょうやはその日はやての説教を小一時間受けてしまったのである。

 その日から、週に何回か食事に誘われるようになったのだが、当然きょうやはそこまでお世話になるわけにはいかないと最初の頃は断っていた。しかし断るようならバイトクビだけでなく、正体を言いふらすとまで言われてしまい本当に難しい日以外は一緒に食べるようになったのである(もちろんはやてはクビにするつもりも、正体を言いふらすことをするつもりはなく、こうでも言わないときょうやが首を縦に振らないと考えたからである)。

 そのこともあってか、今の状況は特に不思議なことではなかった。ただ今回いつもと違ったのは、それを提案した人物であった。いつもははやてかヴィータ(たまにアインスやシャマル)が提案するのだが、今回提案したのはシグナムだったのである。

 普段自分から何かを提案することがほとんどないシグナムからの提案だったため、はやて達は不思議でならなかった。しかし別に断る理由もなかったためきょうやを自宅に招待し今に至るのである。

 

「なあきょうや」

 

 夕食の準備を手伝っていたきょうやに、ヴィータが話かけてきた。

 

「ん? 何ヴィータちゃん?」

「シグナムと何かあったのか?」

 

 ヴィータの話を準備しながら聞いていたが、突然の質問にきょうやはヴィータの方に視線を向ける。

 

「突然どうしたの?」

「いや、だって。あのシグナムがお前を夕食に誘うのは珍しいと思ってさ」

「ああ、ちょっと今日店番してるときに話があるって言われたんだけど、お客さんが来ちゃって。多分その時話そうとしたことについて話したいんじゃないかな?」

「ふーん。そうなのか。何の話?」

「いや、そのことを聞く前にお客さんが来ちゃったから、僕も分からない」

 

 そう言うとヴィータは自分に隠し事しているのではないかと考えているのか、疑いの眼差しをきょうやに向ける。その視線を向けられたきょうやはどうしていいか分からず、苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

「まあいいけどよ。隠し事はなしだぞ」

「う、うん。分かってるよ」

 

 ヴィータとの話を切り上げ、夕食の準備の手伝いを再開する。

 しばらくして夕食が出来上がり、全員席についていただきますと言い食事が始まった。

 談笑しながらもあってか、時間はあっという間に過ぎていった。

 

――――――

 

 食事を終え、後片づけを手伝ったのちシグナムの部屋へと誘われた。

 シグナムは大事な話がしたいから二人きりにしてほしいと言っているため、部屋にはきょうやとシグナムの二人だけであった。

 シグナムの部屋は綺麗に保たれており、部屋には彼女が愛用していると思われる木刀が何本か立てかけられている他、服を入れるクローゼットやベッド、机や本棚くらいしかものがなかった。きょうやはシグナムに向かい合う形で座るが、部屋の空気が緊張感に包まれるのを感じていた。

 

「すまないな突然」

「いえ、そんなことないです。それで話というのは」

「ああ。一度お前とは腹を割って話そうと思っていてな」

「……?」

 

 突然のことに不思議に感じたきょうやだが、取りあえず話をきくことにした。

 

「もう身体は平気か?」

「えっ、あ、はい。もう大丈夫ですよ。あれから二ヶ月くらい経ちましたし」

「そうか。それは良かった」

 

 それだけ言うと二人の間に沈黙ができる。しばらくしてシグナムが口を開いた。

 

「お前が私達と関わるようになってからもう二ヵ月経つんだな?」

「そ、そうですね。なんかバイトさせてもらうだけでなく、こうしてご飯まで度々頂いてしまって、すみません」

「それなら問題ない。主達も好きでお前をさそっているんだ。変に気を使う必要はない。ただ……」

「どうかしましたか?」

 

 言葉を詰まらせるシグナムの様子を見たきょうやは、首をかしげる。しばらくしてシグナムは、意を決したように口を開いた。

 

「そろそろ、話してほしい。お前がどうして戦っているのかを」

「……え?」

 

 突然のことにきょうやは動揺してしまうが、シグナムは構わず話を続ける。

 

「今までお前に事情があると思って聞かずにいたが、二ヵ月前のお前の状態を見て気が変わってな」

「……」

「あんな状態になるまで戦うのは並大抵の覚悟でできるものではない。私は実戦を経験しているわけではないが、お前が何かを背負って戦っているのは誰の目からみてもわかることだ。私が知りたいのは、お前が背負っている”何か”についてなんだ」

 

 シグナムの言葉に、きょうやは目を伏せてしまう。その様子をみたシグナムは、きょうやにとってそれが人には話しづらいものであると確信した。

 今回シグナムがきょうやに話を持ち掛けたのは、それをきょうや自身から聞き出すためであった。

 

「もちろんお前が言いづらいことなのは重々承知している。だがもう私達は単なる知り合いというわけではないだろ? 少なくとも私はお前のことは大切な友人であると思っている。だから……」

 

 シグナムの言葉に、きょうやはしばらく黙り込んでしまう。シグナムもそれ以上は何も言わず、二人の間には重い空気が漂っていた。

 

「……半年前まで」

 

 沈黙を破るように、きょうやは口を開いた。黙っている間に考えがついたのか、シグナムに視線を向け話し始めた。

 

「半年前までは、僕も普通の高校生でした。あんな姿になることもなかったし、このシグナルチェイサーも今までただのバイクのおもちゃだと思っていましたし」

 

 話しながらきょうやはポケットから黒いバイクの形をしたシグナルバイク・シグナルチェイサーを取り出す。

 

「物心ついた頃、母さんが突然病気で倒れちゃって。お医者さんも手は尽くしてくれたんですが、全然治ることがなくて。息を引き取る前日に、これを僕にくれたんです」

 

ーーーー

 

『きょうや。それを持ってれば、引っ込みがちなあなたでもきっと強くなれるわ』

『ほんと?』

『ええ、もちろんよ。お母さんきっとよくなって、きょうやとお父さんのところに戻るから。寂しい思いさせちゃって、ごめんね』

 

ーーーー

 

 その時のことをきょうやは鮮明に覚えていた。忘れることができなかった。幼かったきょうやにとって、母親を早くに失うことは何よりも苦痛なことであったからだ。

 

「母さんが亡くなった後、色々あって父さん達とは別居状態になってしまいまして。でもこのままじゃダメだって思って半年前、母さんのことに折り合いをつけて、父さんに電話したんです。一緒に住んでもいい?って」

 

 シグナムは聞いていいか迷ったが、聞くことにした。

 

「それで、何と言ったんだ? お前の父さんは」

「すごく、嬉しがってました。その時に、泣きながら電話越しに謝られました。今まで一緒にいてあげられなくごめんって」

 

 嬉しそうに話しているきょうやの表情を見たシグナムはホッとしていた。しかしきょうやの表情は、喜びに満ちたものから、再び暗いものへと変わった。

 

「でも、結局叶いませんでした」

「なぜだ? 父親と折り合いをつけて暮らしたのでは……」

 

 この時シグナムはあることに気がつく。

 仮に半年前に折り合いがついていたのならば、なぜきょうやは今海鳴市で一人暮らしをしているのか。それ以前に、なぜきょうやがチェイサーというものに姿を変え、機械生命体と戦っているのか。

 

「もしかして、父親と会った半年前に何かあったのか?」

 

 話の流れから、シグナムはきょうやに最悪の出来事が起きた予想は出来ていたが、聞かずにはいられなかった。

 

「すみません。それ以上は、今は話せません」

 

 きょうやは今まで見せたことのない悲痛な表情を見せたため、シグナムは口をつぐんでしまう。

 

「けど……」

「……?」

 

 きょうやは真剣な表情に変え、シグナムにこう言った。

 

「僕には、父さんの代わりに守らなきゃいけないものがあります。それがあの機械生命体の脅威にさらされている以上、僕は戦いをやめる気はありません。それが……」

「あの日父さんを救えなかった僕の、唯一できる償いだからです」

 

―――――――

 

 シグナムと話を終えたきょうやは、しばらくして八神家を出て家へと帰宅するため、暗い夜道を一人歩いていた。

 八神家で夕食を取る日はもう少し早い時間帯に帰っているのだが、今日はシグナムと話し込んでいたこともあり、夜の遅い時間帯の帰宅となった。いつもの道を歩いていたきょうやだったが、今日はいつもより足取りが重かった。

 先ほどのシグナムとの会話が頭に残っており、悩んでいたのである。

 

(まさかシグナムさんからあんな話を持ちかけられるとは思いもしなかったなぁ)

 

 基本的に自分から話しかけるタイプでないシグナムが、自分のことについて聞きたいと言われた時きょうやは驚きを隠せなかった。

 出来るだけ話せる内容だけ話したつもりのきょうやだったが、いかんせん自分のことについて話すのは慣れていなかったため、あれでよかったのだろうかと考え込んでしまったのである。

 

(あれで納得してくれると助かるけど、あれ以上話すわけにはいかないし……)

 

 脳裏に浮かんだのは、父親が亡くなった日の出来事であった。

 今にも崩れそうな研究所の中、初めてチェイサーに変身した自分が元凶であるロイミュードと対峙し、その戦いの中で父親を救うことができず殺された。その後怒りに身を任せ、元凶のロイミュードを撃退。燃えさかる建物の中で、息を引き取る直前に写真とともに家族のことを託されたあの日から、父親を救えなかった自分への罰だと考え、これまで戦ってきたのである。

 それは今でも変わっていないが、その話を八神家に話す気にはなれなかった。

 赤の他人である自分にここまで親切に接してくれる人達に、これ以上ロイミュード達との戦いに巻き込むわけにはいかないときょうや自身が考えていたからである。

 

(一体どうすれば……)

 

そう考えていると、突然銃声が響き、きょうやの足元に当たった。

 

「!?」

 

 きょうやはすぐに足を止め、銃弾らしきものが飛んできた方向へ視線を向ける。

 銃弾が飛んできた方向には、拳銃を持ったロイミュードが立っていた。

 

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