リリカルなのはINNOCENT~CHASER~   作:つねまる

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第三話(後編)

 授業が終わり、放課後の時間帯。普段ならきょうやはすぐに帰っているのだが、今日は違った。自分の席から離れようとせず、表情が険しかったのである。

 

(早く帰りたいけど、こんな時に……)

 

 下校の時間まで何ともなかったのだが、先日受けた腹部の傷から激しい痛みが出ていた。それによりきょうやは自分の席から動くことができず、痛みに耐えている状態だった。

 しばらくした後、ある程度痛みが引いたためきょうやは立ち上がり机の横にかけてある鞄をとり、教室から出た。階段を下り、下駄箱の方へ進んでいく。自分の下駄箱に着くと、先に下駄箱にいた人物がいた。

 

「あれ? アミタさん」

 

 先にいたのはアミタであった。きょうやは今朝のこともあり、二人きりの状態は少し気まずかった。

 アミタはきょうやの方を一目見ると何も言わず帰ろうとする。しかし何故かすぐに立ち止まってしまう。しばらくその場で止まり突然頭を抱えてしまっていた。

 

「ええっ!! ど、どうしたのアミタさん!」

 

 そう言ってアミタに近づこうとする。するとアミタは抱えていた手を離し、きょうやの方へ身体を向けた。

 

「きょうやくん」

「は、はい」

「これから暇ですか?」

「え、あ、はい。暇だけど」

「帰り道途中まで一緒ですから、一緒に帰りませんか?」

 

 突然に誘いにきょうやは戸惑うが、アミタの有無を言わせない表情を見て断ってはならないと悟り、何も言わず頷いた。

 途中まで帰り道が一緒であるため、きょうやはアミタと二人で下校していた。

 

「今朝はその、ごめんね」

「えっ?」

 

 アミタからの突然の発言にきょうやは戸惑ってしまう。何のことかときょうやは今朝のことを思い出そうとするが、一向に思い出せずにいた。

 

「な、なんかあったっけ?」

 

 どう答えればいいか分からず、きょうやはアミタに聞き返してしまう。これに対しアミタは肩からガクッと落ちそうになってしまった。

 

「け、今朝きょうやくんに対して少しきつく当たっちゃったから……」

 

 それを聞いたきょうやはようやくアミタが何を考えて謝ってきたのか理解する。

 

「あのことなら僕気にしてないから大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど、アミタさんが謝るほどのことじゃないよ」

「で、でも……」

「大丈夫。本当に僕は何も気にしてないから」

 

 きょうやはそう言ってアミタの気持ちを落ち着かせようとする。アミタもきょうやが笑顔を向けながら話す姿を見て少しであるが表情が柔らくなる。

 

「……分かりました。これ以上は言いません。けど聞かせて下さい。あの傷は一体何?」

「今朝も言ったけど、これは転んだ時の傷だよ。それ以外の理由を聞かれてもそうとしか答えられないんだけど……」

 

 疑いの目を向けるアミタに対し、きょうやは嘘の理由を言うしかなかった。

 きょうやにとって自分がチェイサーであることは本当であれば誰にも知られたくはないことなのである。八神家の人達は自身の失態であるため仕方がないこととしているが、これ以上誰かに自分の正体を知られることは避けたいのが今のきょうやの気持である。

 

「……そうですか。それ以上は話してくれないんですね」

「アミタさん?」

 

 アミタの表情を見たきょうやはどう声を掛ければいいか分からなくなってしまう。

 

「2ヶ月経ったんですよね」

「えっ?」

「あの事件、グローバルフリーズでしたっけ?」

「あ、ああ。そういえばそうですね。でも駅の方はほとんど元通りになってるって聞いてるけど……」

「うん。そうですね。私はあの日のことを今でも忘れられません。身体の自由を奪われた上、あの怪物たちから襲われて殺されるところだったことを考えると、今でも怖くてたまらないんです。けれどあの日、私達はある人がいたから助かったんですよね」

「ある人って、今噂になってる‶仮面ライダー″のこと?」

「うん。私結構ヒーロー物が好きで、日曜の朝にやってる番組いつもみてるんです。テレビの中でヒーローがカッコよく敵を倒してめでたしっていうのがほとんどですけど、それでもすごくカッコよく思えたんです。だから噂がながれた時、私不謹慎にも興奮してしまったんです。本当にヒーローはいたんだって……」

 

 そう言うとアミタは歩いていた足を止めてしまう。

 

「けど、後々考えたら現実にヒーローなんていない。ヒーローはテレビの中だけの存在なんだって再確認しちゃったんです。あの日本当にヒーローがいたなら、あんなにたくさんの人が犠牲になることはなかったんじゃないかって、本当にヒーローがいたなら、きょうやくんが、‶あんな姿″になることなんてなかったんじゃないかって考えちゃって…!」

「!?」

 

 それを聞いたきょうやは驚きの表情になる。

 

「お父さんから話を聞いた時、私すぐに病院に向かったんです。そこでベッドに寝ているきょうやくんを見ました。君はその時眠ってたから分からなっただろうけど、私お見舞いに行ったんだよ」

「……」

「怪我してるって聞いてたけど、それでも元気にしてるかなって思って、キリエと一緒に病院に行ったんです。けど私とキリエが見たのは、身体中包帯巻かれて死んでるように眠ってるきょうやくんを見たら、頭が真っ白になって、その状況を理解できなくて……」

「で、でも僕はもう大丈夫だよ。僕の状態とアミタさんが大好きなヒーローに対しての認識を変える必要なんて…「そんなことない!」…!!」

 

 アミタの突然の発言にきょうやは言葉を失い、何も言えなくなってしまう。

 

「ご、ごめん」

 

 きょうやの謝罪にアミタは我に返る。我に返ったアミタはきょうやに対しこっちこそごめんと小さくつぶやいた。二人の間に気まずい空気が流れてしまうが、きょうやが口を開いた。

 

「あ、あのアミタさ…」

 

 うつむいているアミタに向かって声を掛けようとしたその時。二人の間に銃弾のようなものが着弾する。

 

(これはまさか、あの時の!)

 

 きょうやはすぐにアミタを庇おうと身体を動かすが、既に一緒にいたアミタの姿がなくなっていた。

 

「しまった!」

 

 アミタを探すきょうやの後ろで高笑いをする存在がいた。振り返ったきょうやの視線の先には、アミタを気絶させ抱きかかえているガンマンロイミュードがいた。

 

「こんな時に!」

『Hey! 悪いな! せっかくの青春を邪魔しちまって』

「アミタさんを離せ!」

『それはできねぇな。この小娘はお前をおびき出すための人質になってもらう』

 

 咄嗟にきょうやはカバンからドライバーを取り出そうと手を伸ばす。

 

『おっと下手な真似はすんなよ。この小娘の命が大事ならな』

 

 ドライバーを取り出そうとするきょうやに対し、ガンマンはアミタの頭部に銃口を突きつける。それを見たきょうやはその場から動けなくなってしまい、膠着状態になる。

 

「お前の目的は僕のはず。その人は関係ないだろ!」

『そうなんだが、気が変わったんだよ。お前は俺の大事な弟を殺した。なら俺がお前に復讐するには”同じ方法”でお前に復讐するほうが効果があるって思ったんだよ』

「……まさか!」

 

 ガンマンの言葉の意味に気付いたきょうやの表情が強張る。無意識のうちにきょうやは身体を動かしガンマンへ向かって走り出す。しかしガンマンは銃を取り出し、得意の早撃ちできょうやへ発砲する。きょうやは身体を横にずらすことで躱し、銃弾は地面に着弾した。

 

『そこで見てな。お前にとって大事なお友達が、目の前で無残に死ぬ瞬間を!』

 

 ガンマンは再びアミタの頭部に銃口を突きつけようとするが、ガンマンの後方からシフトカーが走る音が聞こえた。

 

『何!』

 

 気づいた時には既にガンマンはシフトカーの体当たりが直撃し、体勢を崩してしまう。それと同時に抱きかかえていたアミタがガンマンから離れる。きょうやはその瞬間を見逃さず、全速力で走って駆け寄り倒れるアミタを受け止める。

 

「アミタさん! アミタさん!」

 

 声を掛けるが、彼女は静かな寝息を立てているだけであった。

 

(よかった。気絶しているだけだ)

 

 きょうやはアミタをその場に寝かせ、ガンマンの方へ視線を向ける。

 

『くそっ! なんだこれは!』

 

 ガンマンのまわりには先ほどのシフトカーが動き回っていた。車体に炎を纏わせ、何度もガンマンに体当たり攻撃を続けていた。

 

(あれってまさか、マックスフレア。でもあれは確か今りんなさんが持ってるはずなのに、どうして?)

 

 以前きょうやは別のロイミュード捜索の際、りんなに頼んでシフトカーを数台使わせてもらったことがあり、マックスフレアもその時の一台だった。その事件が解決した後返却したため、マックスフレアは今きょうやの手元にないシフトカーである。

 

「けど助かったこれなら!」

 

 きょうやはカバンに入っているマッハドライバーを取り出すと腰に装着する。パネルを開きポケットに入れていたシグナルチェイサーを取り出し、装填する。

 

『シグナルバイク!』

「変身!」

『ライダー! チェイサー!』

 

 きょうやはチェイサーに変身し、ガンマンへ突っ込んでいく。

 

『し、しまった!』

 

 接近するチェイサーに気付いたガンマンはマックスフレアを振り払い、銃口をチェイサーへ向ける。しかしチェイサーは銃を殴り飛ばし、ガンマンに組み付く。組み付いたと同時に腹部に膝蹴りを数発入れた後、顔面を殴りつけ吹き飛ばす。

 

『くそ! こうなりゃやけくそだ!』

 

 ガンマンはもう一丁の銃を取り出しチェイサーへ向け発砲する。チェイサーは跳躍しガンマンの背後へ回る。背後へ回ったチェイサーへ銃口を向けようと振り返るが、それより前にチェイサーが銃身を掴んでしまう。

 

『そんなことをしたところで!』

 

 構わず至近距離でチェイサーの顔面目掛け発砲するが、至近距離で放たれた弾丸をチェイサーは首を横に動かすことで躱す。

 

『なっ!』

 

 これにはガンマンも驚きを隠せず、一瞬動きが止まってしまう。その隙をチェイサーは見逃さず、銃を持ったガンマンの腕を殴りつけることで銃を無理矢理叩き落とす。すかさずチェイサーはガンマンの胸部と腹部へ拳打を数発入れ、わき腹へ強烈な蹴りの一撃を叩き込む。

 

『はっ!』

 

 怯んだガンマンに追い打ちをかけるように、チェイサーはかけ声とともに回し蹴りを腹部へ入れ、後方へ大きく吹き飛ばす。

 

『な、何でだ? 昨日は俺の銃弾をあんな風に避けることなんて』

 

 チェイサーの予想外の動きに対し、完全にガンマンの戦意は喪失していた。

 

『確かにお前の銃撃は下級ロイミュードが放つ光弾に比べて正確で速い。けどだからこそどこに撃ってくるか読み易い』

『だ、だがだからと言って俺の銃弾をあんな簡単に避けることなのできるわけが』

『半年前のあの日から、僕はお前達と何度も戦ってきた。そのせいで、嫌でもこんな技術が身についた。それだけのことだ』

 

 チェイサーはパネルを上げボタンを押そうとするが、シフトカー・マックスフレアが目の前に現れ、チェイサーは無意識にシフトカーを掴む。

 

『マックスフレア? どうして?』

 

 突然現れたマックスフレアに驚きながらも、チェイサーはあることに気付く。

 シフトカー達にはそれぞれ自分の意志があるとの話を聞いたことがあるチェイサーは、今手の中にいるマックスフレアの感情を理解することができた。

 

『そうか。君も戦いたくてここにきたんだね?』

 

 その言葉に、マックスフレアは意志を示すように車体を動かす。

 

『よし! いくよ!』

 

 チェイサーはパネルの中にあるシグナルチェイサーを取り出し、マックスフレアを装填する。

 

『シフトカー! タイヤコウカン! モエール!』

 

 チェイサーの背中にあるタイヤ型のホイーラーダイナミクスにマックスフレアを示す炎のエフェクトが出現する。その状態で再びパネルを開き、ベルト上部にあるボタンを押した。

 

『ヒッサツ! フルスロットル! モエール!』

 

 ボタンを押したと同時に、背中のタイヤ部の炎のエフェクトがさらに強くなる。それと同時に右足へ紫と炎のエネルギーが集まっていく。

 チェイサーはその場で跳躍し、空中でエネルギーを纏った右足を突き出し飛び蹴りの姿勢を作る。

 

『はぁああ!!』

 

 マックスフレアの炎の力によって強化された必殺技・チェイサーエンドがガンマンの胸部へと直撃した。

 

『ぎゃああああ!!!』

 

 断末魔とともにガンマンの身体は爆発し、その際出てきた数字上のコアも砕け散った。

 爆発が止んだと同時に、チェイサーはパネルからマックスフレアを引き抜く。

 

『オツカーレ!』

 

 音声とともにチェイサーはきょうやの姿へと戻った。

 

「アミタさん!」

 

 変身を解いたきょうやはまっすぐ彼女の元へ向かう。きょうやは気絶しているアミタをおんぶし、家まで送ることにした。

 

―――――――

 

「いや~ごめんねきょうやくん。うちの娘を送ってもらってしまって」

 

 夕方の時間帯。アミタの家に着いたきょうやは、フローリアン姉妹の父親であるグランツ博士と話していた。アミタは現在妹のキリエが部屋に運び、傍についてもらっている状態である。きょうやはすぐに帰ろうとしたが、グランツ博士から呼び止められ、博士の研究所に連れてこられていた。

 

「いえそんな。こちらこそこんな時間にお邪魔してしまって」

「いいよいいよ。君のおかげで娘は助かったんだから、それにこんなときのために、友人に頼んで二人に‶護衛″をつけておいたのが正解だったよ」

「……護衛?」

 

 グランツ博士の言葉に、きょうやは疑問を感じそのことについて詳しく聞こうとした際、きょうやのポケットからシフトカー・マックスフレアが飛び出した。

 

「え、ちょっ!」

 

 飛び出したマックスフレアはきょうやの静止を振り切り、グランツ博士の元へと走って行ってしまう。

 

「ありがとうマックスフレア。アミタを助けてくれただけでなく、きょうやくんのことも手助けしてくれて」

 

 飛び出したマックスフレアを、博士は優し手つきで掴み優しく車体をなでた。

 

「ど、どうして博士がそれを?」

「ん? ああ、そうだったね。君にはまだ話してなかったもんね。僕実はね、君の里親であるりんなちゃんとは知り合いなんだよ」

「……ま、まさか!」

「うん。話は大体りんなちゃんから聞いてるから、君のことも知ってるよきょうやくん。いや……」

 

 

「‶仮面ライダーチェイサー"と呼んだ方がいいかな?」

 

 

 グランツ博士の言葉に、きょうやは言葉を失った。

 

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