リリカルなのはINNOCENT~CHASER~ 作:つねまる
きょうやは驚きのあまりその場で硬直してしまっていた。グランツ博士はそんなきょうやの姿を見て、穏やかな表情を浮かべなら話を始めた。
「そんなに驚かないでほしい。僕も君のことを知ったのはつい最近なんだ。それまでは誰がチェイサーに変身してるか分からなかったからね」
「……な、ならどうして」
「‟あの事件”を経験した身としては、どうして再びロイミュードが出てきたか知る必要があると思ってね。これに一番詳しいのは、りんなくん以外僕は知らなかったから、彼女に話を聞くのが一番手っ取り早かったんだよ」
「グローバルフリーズ、ですか?」
「うん。まさか海鳴市が標的になるとは思っていなかったよ。正直どうなるかと思っていたけど、君が活躍してくれたおかげで被害はかなり抑えられた。少なくとも、私の娘や他の子供達に怪我はなかった。ただ不安や恐怖心が残ってしまったが……」
それを聞いたきょうやの表情が曇った。ガンマンに襲撃される前、アミタが自分に不安な気持ちを打ち明けられたことが頭をよぎってしまったからである。
「すみません。僕がもう少し……」
「待ってくれ。僕は君に感謝することはあっても君を責める権利はない。むしろまだ成人していない君を戦わせてしまって申し訳なく感じている。君の里親であるりんなくんも、君が戦うことには最初反対していただろ?」
「それは、そう、でしたが……」
今でこそきょうやの協力者として関わっているりんなであったが、当初は彼が戦うことにりんなは否定的であった。しかしきょうやの事情と戦うことへの理由を知り、止めることができないと考え、現在のように協力者としてサポートする立場になったのである。
「君にも事情があることはりんなくんから聞いているから、僕からはあまり深く言うつもりはないよ。けどせめてあまり無茶なことはしないようにしてほしい」
「……努力は、してみます」
グランツ博士の言葉に、きょうやは戸惑いながらも答える。
話が一段落した後、グランツ博士はあることをきょうやに尋ねた。
「ところで、りんなくんからどうして海鳴市にロイミュードが集まっているのか理由を聞いていないか?」
「いえ、特に聞いていないですが、何か知っているのですか?」
「いや、僕も確証があるわけじゃないんだけど、一つだけ可能性として考えられることがある」
困惑した表情を浮かべるきょうやに、衝撃の一言を放った。
「この‟ブレイブデュエルシステム”が目的じゃないかと考えている」
「えっ!?」
それは想像がつかないものであった。
そもそもブレイブデュエルシステムは新しくできた体感シミュレーションゲームであり、稼働したのはつい最近である。ロイミュード達が海鳴市での活動を始めたのは、それよりも約2ヶ月前のことであり、グランツ博士の推測とは矛盾が生じてしまう。
「ですが、ロイミュード達がこのゲームをつけ狙う理由はないと思うのですが?」
「確かに、このゲーム自体には彼らが興味を示さないだろうね。興味を示すとしたら、‟このゲームの基盤として使われているもの”っと言った方がいいかな?」
「一体何を使ったんですか?」
「今から10年以上前。彼らロイミュードは誕生し、活動を始めた。彼らにはコアと呼ばれる魂があり、肉体を失ってもそれが無事であれば何度でも蘇ることができる。ここまでは君も知っているよね?」
グランツ博士の質問に、きょうやは静かに頷いた。
「だがむき出しになったコアは、壊そうと思えば簡単に壊される代物。そのリスクを避けるために彼らはデータと同質化しネットワーク内に潜むことで生きながらえることができた。だけどこれは肉体を失った場合の緊急対策としての意味合いが強い」
「ですが、それとロイミュード達がこのゲームを狙うのと何か関係があるのですか?」
「ではこの考えはどうだい? もし仮に彼らがネットワーク内でコアしか残っていないデータではなく、‟肉体をもった状態で保つ”ことができたとしたらどうだい?」
「……!?」
「そう。このゲームは3Dでできた実体を使用して遊ぶことができるようにしたもの。だがこれは彼らにとってしてみれば、現実世界だけでなく‟ネットワーク内でも肉体を持って活動を可能”にさせるものとして捉えることができてしまうんだ」
「もしネット内でも現実世界のようなことができてしまったら、どうなるんですか?」
「今の日本はネットワークが格段に普及している上、今の私達の生活には欠かせないものになっている。もしそれが完全に麻痺させられてしまったら、下手をすればこの前のグローバルフリーズ以上の被害が出てしまう可能性は十分考えられる」
その話を聞いたきょうやは完全に言葉を失ってしまった。
ロイミュード達がなぜこの海鳴市に集まってきたのか、そしてグローバルフリーズを引き起こす要因は何だったかを考えた場合、今の予測が正しければ辻褄が合ってしまうからである。
「じゃあ彼らは、このゲームが海鳴市で開催されることを知って集まってきたってことですか?」
「私はそれ以外この街が狙われる理由が考えられなかった。私もこれを知ってからすぐに開催を中止しようとしたよ。だけど、できなかった」
「どうして!」
「このゲームはね、私がたくさんの子供達が楽しく遊ぶことができるものとして開発したものなんだ。そのことに私の娘達やホームステイしている子達が一生懸命になってくれた。それなのに、それが原因でたくさんの人が苦しんでしまっているのなら、いっそ中止しようと思って話したんだ。そしたら、怒られてしまったんだよ。妻からも娘達からも。たかがゲーム一つ中止にした程度でどうにかなるわけない、考え過ぎだって」
グランツ博士は悔しそうな表情を浮かべながら話を続けた。
それを見たきょうやは博士の気持ちを察してか、ただ聞くことしか出来なかった。
「悩んだ末に、僕はりんなくんに相談したんだ。ロイミュードのことについて詳しいのは彼女だけだったからね。その時に君の話を聞いたよ。君が今唯一仮面ライダーになれる存在で、ロイミュード達と戦うためにこの海鳴に来たって」
「僕はただ、自分の目的を果たすために戦っているだけです。誰かのために戦っているわけじゃ……」
「じゃあどうして私の娘を助けてくれたんだい?」
「それは……」
「アミタだけじゃない。八神堂の人達や、T&Hの子供達も助けたことがあるそうじゃないか? 自分の目的を果たすために戦っているなら、まわりのことなど気にせず、ただ敵を倒せば問題はないはずだよね」
「…………」
完全に言葉が詰まってしまい、何も言えなくなってしまう。黙っているきょうやの近くにグランツ博士が近づき頭を下げた。
「勝手なお願いなのは分かっている! だけどどうかお願いしたい! このゲームは私の、私の家族の夢なんだ! どうしても成功させたい。子供達の笑顔がみたいんだ! どうか、君の力を貸してほしい! そのために必要なことだったらできる範囲で協力する。だがら……!」
顔は見えないが、声色から博士の必死な様子であることは明白であった。
「……頭を、上げて下さい博士」
観念したのか、きょうやは頭を下げたグランツ博士に優しい言葉をかけた。その言葉を聞いた博士は頭を上げる。
「僕は元々海鳴に現れたロイミュード達を倒すためにここに来ました。彼らと戦うのは僕自身が望んでやっていることであって、誰かに頼まれたわけではありません。もし本当にこのゲームが原因だったとしても、その元凶を倒せば悪用されることはない。あなたが責任を感じる必要はないと思います」
きょうやはグランツ博士の目を見ながら、はっきりと自分の意志を伝えた。
「僕が戦うことであなたの、アミタさんやキリエちゃんの夢が守れるなら、それで誰かが余計に悲しまなくなるんだったら、いくらでも戦えますから。だから、これからも子供達が楽しめるものを作り続けてくれませんか?」
きょうやは笑顔を浮かべならそう伝えた。その言葉を聞いたグランツ博士は表情が明るくなり、きょうやの手を取った。
「ありがとう! 本当にありがとう! 本当に……」
その後きょうやが大泣きしたグランツ博士をなだめることになってしまったのは言うまでもなかった。
――――――
日が暮れた時間帯。きょうやは研究所前まで来ており、グランツ博士が見送りをしてもらっていた。
「それでは、僕はここで失礼します。後のことは……」
「任せて。アミタには私の方からうまく伝えておくよ。けど大丈夫なのかい? 何だか今日調子があまり良くなったって聞いたんだけど?」
「今日倒したロイミュードに受けた傷がまだ完全に癒えてなくて。でも少しはマシになったので大丈夫です。いざとなれば、マッドドクターを使って治しますから」
「ダメだきょうやくん。マッドドクターの力を使えば確かに回復は早くなるだろう。だけどそれは人間のもつ自然治癒の力に逆らって行っている行為でもある。迂闊にそれを使用し続ければ、君の身体にどんな悪影響を与えるか分からない。そこに関しては控えた方がいい」
「……分かりました。善処します」
グランツ博士の警告を聞いたきょうやは、軽く会釈をした後、その場を後にした。
(収まっては来たけど、まだ完全じゃないか)
研究所から離れた場所まで歩いたきょうやは、誰もいないことを確認すると表情を歪めた。
完全に傷が癒えていない状態での身体では、変身するだけで負担になっていたのである。今回の件はシフトカーの助力もあったため、何とか勝利することができたが、それがなければ勝つことは難しい状態であった。
(まず、今日は早く帰ろう。ここから家はそんなに遠くないから……)
重い足取りになりながらも歩を進めていると、目の前に見覚えのある銀髪の女性と青い狼の姿が見えた。
「な、何で?」
どうして自分の目の前にいるのか分からず、きょうやは混乱していた。
目の前で待っていたのはアインスとザフィーラであり、驚いているきょうやを尻目に近づいてきた。
「主を通じて、グランツ博士から連絡がきた。君がまた機械生命体と戦って負傷しているかもしれないと」
「その様子だと、この前ほどではないが手傷を負わされたか。だが覚悟しておいた方がいい。家でシャマルや主が憤慨しているからな」
「……ごめん。ますます行きづらくなったから、アパートの方に帰ってもいい?」
「「ダメだ」」
二人から即答で拒否されてしまう。アインスはきょうやの左側に立ち、逃げられないよう手を取る。
「あ、あのアインスさん!? 僕一人で歩けますから」
「ダメだ。君はすぐに逃げようとするからな。それに聞いた話では、立っているのもやっとの可能性があるって聞いたよ?」
「いや、それは……」
「あきらめろ。お前がいくら気を遣おうとしても主達のやることは変わらない。それにお前はもう、私達にとっては大事な存在になったのだ。あまり主や他のものを心配させるな。いつまでも一人で抱え込むな」
普段沈黙のザフィーラからの言葉に、きょうやは一瞬黙り込んでしまう。
「……うん。分かったよ」
渋々といった形で、きょうやは二人についていくことにした。しかし口調は裏腹に。その表情は憑き物が取れたように穏やかなものになっていた。