リリカルなのはINNOCENT~CHASER~ 作:つねまる
その日きょうやは、八神堂で仕事をしている最中であった。
「きょうやくん。このダンボール箱あっちに運んで、品出ししてもらってもいい?」
「うん。分かった」
沢山の文庫本が入ったダンボールを台車にのせ、指定の場所へと運ぶ。台車の乗せた状態でダンボールから本を取り出し、品物を棚へとしまっていく。
単純な作業ではあるが、本一つ一つが売り物であるため、丁寧かつ迅速に行う必要があった。
「はやてちゃん。終わったよ。他はない?」
「そうやな。後は……」
はやてが言いかけたその時、店の前から声が聞こえた。
「来たぞ小鴉!! さっさと出迎えんかこのうつけっ!」
「あ、ごめん。私が呼んだお客様来たみたい」
「誰を呼んだか今の声で予想はつくけど、はやてちゃん何したの?」
「ん? ちょっとウチのブレイブデュエルのイベント盛り上げてもらおうとT&Hの看板娘さんを拝借してきたんよ♪ でもそれだけであんなにカリカリしなくてもええと思うのになぁ~」
(許可なく他のお店の人手借りちゃダメでしょ)
内心冷や汗を掻いているきょうやをよそに、はやてはアインスとともに客人を出迎えに行ってしまう。
ため息をつきながらも、品出しするものはもうないためレジで椅子に座って待機していることにした。
店の前では数人の少女達がおり、きょうやも見たことがある人物が何人かいた。だがある少女の姿を見た瞬間、きょうやの表情が固まった。
(えっ、何であの子が?)
視線の先にいた少女はきょうやが以前助けたことがあり、同時に今の自分が極力関わってはいけない存在であった。
(何で、フェイトがここに?)
金髪の髪をリボンでツインテールにした少女、フェイト・テスタロッサは確かにきょうやの視線の先に存在した。
何故彼女がここにいるのかを思考を巡らせていると、はやてが言った言葉を思い出した。
「T&Hの看板娘さんを拝借してきたんよ♪」
(思い出した。T&Hってあの子が配ってたチラシに書いてあった店の名前だ)
T&Hがどういったものかを思い出したきょうやは、今どうすべきかを考えていた。
(どうする? このままじゃ……)
「きょうやくん?」
「えっ?」
「どないしたん?」
「いや、別に、何でもないよ」
平静を取り繕っていたが、はやてやアインスには勘づかれてしまっていた。
「あっ!」
三人が話していると、きょうやの存在に気付き声を上げた存在がいた。
「どうしたの? フェイトちゃん?」
声を上げたのはフェイトであった。それに対し栗色の髪をツインテールに結んだ少女・高町なのはが尋ねる。
「え、何? フェイトの知ってる人?」
「あれ? でもフェイトちゃんきょうやさんとは初めてのはずだけど」
なのはに続き、同じ金髪だが結び方が異なる少女・アリス・バニングスと何度が八神堂に来ている少女・月村すずかが尋ねた。
「うん! 間違いない! 私覚えている。この人お店のチラシ配る際手伝ってくれた人!」
確信を持ったフェイトは表情が明るくなり、レジにいたきょうやに近づいた。
「あ、あの! あの時はありがとうございました! お店の仕事だけでなく、あの怪物から私のこと助けてくれて」
「えっ? あ、う、うん。気にしなくていいよ」
「あ! もう怪我は大丈夫なんですか?」
「う、うん。もう平気だよ」
フェイトに対し、素直に応対しているように見えるが、かなりぎこちない対応であった。
「と、ところで、はやてちゃん。みんなブレイブデュエル関連のお客さんだったりする?」
話題を切り替えようと、今集まっている少女達がきた理由をはやてに尋ねる。
「えっ、あ、そうやった。みんなブレイブデュエルの会場に案内するで」
本来の目的を思い出したはやては、連れてきた客人達を案内するため、レジ近くの広間に全員を集合させる。
「じゃあアインス、きょうやくん。店番お願いね。ザフィーラも」
「「承知しました。主」」
それと同時にアインスはレバー状のスイッチを手にしていた。
「それではみなさん。ごゆっくり」
アインスが両手を使い、力強くレバーを倒す。すると次の瞬間。床から柵のようなものが出現し、勢いよく下へと落下した。落下と同時に少女達の悲鳴が響くが、徐々に掻き消されていった。
「……あ、あのアインスさん。これは一体」
「ん? ああこれかい? 主がすぐに地下の会場に行けるようにと店の一部を改造してね。これはその内の一つなんだよ」
(一つってことは、他にもあるってこと?)
ただの古書店であるはずのこの店の構造について気になるも、深入りしない方がいいと考え、きょうやは考えることをやめた。
「ではきょうや。私達は主達の要件が終わるまで店番をしていようか。時期にシグナムやシャマルも帰ってくるだろうしね」
「あ、はい。そうですね」
店番とは言ったが、今現在お客は誰も来ていなかった。
品出しや事務作業などの業務は既に終えていたため、レジで座って待っている以外にやることがなかったのである。
どうしていようかと迷っていると、となりにアインスが座り話しかけてきた。
「なぁ、きょうや」
「何ですか?」
「もう怪我は大丈夫なのかい?」
「あ、はい。もうだいぶ良くなりました。まだ本調子ではない部分もありますけど、普通に生活する分には問題なくなりました」
「そうか。けどあまり無理はしないでほしい。君が負傷したとグランツ博士から聞いた時は血の気が引いたよ。またあの時みたいに君が、帰ってこなくなるんじゃないかと……」
アインスへ視線を向けると、その表情が暗くなっていた。
「すみません。またみなさんに迷惑をかけてしまったみたいで」
「その程度ですむなら主や私達は何ともないよ。君がまた戦うことに私は賛同できないんだ。できることなら、君にはもう戦いに出てほしくないと思っている。このまま一緒に……」
自分の主張が出過ぎたことに気付いたのか、すぐにアインスは口を閉ざした。
その姿を見たきょうやは申し訳ない気持ちになるが、彼も戦いをやめるわけにはいかない理由があったため、複雑な気持ちになっていた。
「すまない。湿っぽい話になってしまったね。君の事情もあるのに、身勝手なことを言ってしまった」
「あ、大丈夫ですよ。僕もできることなら戦わずに済むならそっちの方がいいですし、それに……」
アインスの方へ視線を向けながら、きょうやははっきりと言った。
「僕もできることなら、普通に暮らしたいと思ってます。けど僕には、どうしても守らなきゃいけない人達がいるんです」
「守りたい人って、もしかして……」
アインスが尋ねようとしたと同時に、レール状の通路を作りながら一台のミニカーがやってきた。
(シャドー。どうしてここに?)
きょうやの元にやってきたシフトカーはミッドナイトシャドーであった。紫のカラーリングのシフトカーであり、忍者の手裏剣をイメージしたシフトカーがきょうやのもとへやってきたのである。
シャドーは何度もきょうやの手に意思を伝えようとしてか、何度も車体をぶつけてきた。何処かへ連れていこうとしていると感じたきょうやは、エプロンを外しながら立ち上がった。
「アインスさん。すみません。僕ちょっと行ってきます!」
「行ってくるって、まさか!」
「シャドーはもしかするとロイミュードを見つけたのかもしれません。もし何もなければすぐに戻ります」
すぐに外へ出ようとするきょうやの手をアインスが掴んだ。
「まて。君はまだ本調子ではないはずだ。そんな状態で行けばただでは済まないはずじゃ!」
「行かせてやれ」
「ザフィーラ?」
止めるアインスを制すように、ザフィーラが声を上げた。
「きょうやにも事情がある。それにもし予測が正しければ、他の民間人に被害が出ている可能性がある」
「しかし!」
食い下がろうとするアインスだが、それをよそにザフィーラがきょうやへと近づく。
「調子が良くなったとは言え、お前はまだ本調子ではないのは自覚しているはずだ。戦いが終わってもし自力で戻ることが難しいようなら遠慮なく呼べ。俺かシグナムが迎えにいく」
「ザフィーラ」
「忘れるな。俺達はすきでお前に関わっているのだ。一人で抱え込まず、辛ければ頼れ。いいな」
「……うん。ありがとうザフィーラ」
シャドーを掴み、きょうやはそのまま、外へと飛び出した。
――――――――
とある場所で一台のトラックが黒い煙を上げていた。積み荷の多くは地面に転がっており、中身があたりに散乱していた。
『ああ。ああ! 大量だ。大量の食い物だ!!』
積み荷に入っていた大量のお菓子を頬張るロイミュードがいた。その姿は進化体の状態であり、頭部のまわりや両腕には金槌を彷彿とさせるものを備えていた。
ロイミュードはダンボールに入っていた大量の菓子類を掴み、口へと運ぶ。大きな咀嚼音を鳴らし、一気に飲み込むと満足した表情を浮かべていた。
『ああ。いいな! トラックを壊せば褒美として食い物が手に入るんだからやめらんねぇな!!』
まだ何かないかと散乱したダンボールの中から探そうとしたその時、ライドチェイサーへ乗ったきょうやが駆けつけた。
『ん? 誰だ?』
バイク音に気付いたロイミュードはきょうやの方へと視線を向ける。するとたちまちその表情は怒りの表情へと変わった。
『あっ! お前! 死神か!?』
バイクを止め、ヘルメット外したきょうやは、異形の反応を見て少し呆れていた。
(また死神呼ばわりか。そんな風に呼ばれる筋合いはないんだけど…)
きょうやはバイクから降りると、目の前にいるロイミュードへ視線を向ける。
「進化体。過去にも進化した個体か」
「よう死神。グローバルフリーズの時は世話になったな。あの時はまだ俺の身体は進化してなくて本調子じゃなかったが、今回はそうはいかねぇぞ!」
(不味い。よりにもよって進化体を相手にしないといけないなんて)
前回のガンマンロイミュードとの戦いから日が経っておらず、今のきょうやの身体はまだ本調子ではなかった。期間を開けずに進化体と戦闘するのは、きょうやにとってあまりいい状況とは言えなかった。
「でも、やるしかない」
マッハドライバーを取り出し、腰へ装着する。パネルを開き、シグナルチェイサーを装填した。
『シグナルバイク!』
「変身!」
『ライダー! チェイサー!』
『行くぞ死神!!』
チェイサーへと変身したと同時に、進化体ロイミュード・クラッシュロイミュードが襲い掛かってきた。
チェイサーも迎え撃つ形で駆け出し、一気にクラッシュと距離を縮める。そしてチェイサーとクラッシュは同時に胸部目掛け拳打を叩き込んだ。
『ぐっ!』
ほぼ同時に打ち込まれたが、わずかにクラッシュの方が勝っており、チェイサーの身体は吹き飛ばされてしまう。一方のクラッシュの方は少しよろめいた程度で済んでいた。
『くそっ!』
チェイサーはすぐに立ち上がり、再度接近。顔面目掛け強烈な拳打を打ち込む。
『痛てぇ!!』
顔面への一撃は流石のクラッシュも効いたようであり、痛みに悶えてしまう。
これを好機と見たチェイサーはすかさず連続攻撃を叩き込む。腹部を中心に数発拳打を打ち込み、その中に上段蹴りや後ろ回し蹴りなどを織り交ぜていく。
『はっ!』
『ギャアア!!』
最後に強烈な前蹴りを叩き込むと、クラッシュの身体は大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
(よし。これなら!)
手ごたえを感じたチェイサーは、最後の一撃を放とうとベルトに手を伸ばす。しかしトラックの方から男性のうめき声が聞こえた。
「だ、誰か……」
「!?」
声に反応し、トラックの方へ視線を向ける。運転席のドアの近くに、頭から血を流している運転手がいた。
『オラッ!』
『なっ!』
運転手に気を取られていたチェイサーは、クラッシュの攻撃に反応するのが遅れる。その結果金槌を模した剛腕から繰り出される一撃が、身体へと直撃してしまった。
『がはっ!』
チェイサーの身体は大きく吹き飛び、地面へと叩きつけられた。何とか立ち上がるが、既にクラッシュが接近しており、続けてもう片方の剛腕の一撃をその身に受けてしまう。
『ぐっ!』
繰り出された一撃は腹部へ直撃してしまう。今の一撃はかなり効いたようで、チェイサーの身体はよろめいてしまっていた。
『余所見してんじゃねぇぞ死神!』
クラッシュは声を上げたと同時に、今度は頭部の金槌を用いた頭突きを繰り出し、チェイサーを追い詰める。
『くそっ』
すぐに立ち上がり応戦しようとするが、身体が思うように動かせなかった。
今クラッシュから受けた攻撃の中には、ガンマンから受けた傷がまだ癒えていない部分にも当たっており、想像以上の苦痛がチェイサーを襲っていたからである。
『ガン!』
取り出したブレイクガンナーを使用し、銃弾をクラッシュへ放つ。しかしクラッシュの装甲は固く、ブレイクガンナーの銃弾では傷をつけることはおろかひるませることもかなわなかった。
『何だぁ? そんなもんで俺に勝とうってか!?』
『ちっ!』
構わず銃弾を撃ち続けるが、クラッシュには通用せずブレイクガンナーを弾き飛ばされてしまう。
弾き飛ばされたと同時に両腕の金槌を模した剛腕の連続攻撃を受けてしまう。そして止めを刺すように、クラッシュは剛腕を同時にチェイサーへと叩き込んだ。
『ぐはっ!』
チェイサーの身体は大きく吹き飛ばされた。何とか立ち上がろうと上体を起こそうとするが、受けたダメージが大きく立ち上がることができなった。
「……だ、誰か! 助けてくれ!」
『ん?』
男性の声に気付いたクラッシュは、声がした方へと視線を向けた。
『うるさい奴だな』
鬱陶しく感じたのか、クラッシュはチェイサーから男性へと標的を変え、ゆっくりと近づいていく。
(不味い)
何とかチェイサーは立ち上がるとベルトのボタンを4回拳で叩いた。
『ズーットチェイサー!』
限界稼働状態へと移行させ背を向けたクラッシュへ接近すると同時に、強烈な前蹴りを叩き込む。当然クラッシュは反応できず直撃してしまい、前のめりに倒れ込んでしまう。
その隙にチェイサーは高速で男性の元へと移動し、安全な場所へと移した。
『痛ってーな! もう許さねぇぞ!』
背後から攻撃されたことがよほど気に食わなかったのか、クラッシュは怒り心頭であった。
男性を安全な場所へ移し終えたチェイサーは、ベルトのパネルを上げた状態でボタンを押しすぐに下げた。
『ヒッサツ! フルスロットル! チェイサー!』
必殺技を放つ体勢へ移行し、クラッシュへと駆け出す。クラッシュも迎え撃つようにチェイサーへと駆け出した。
『はああああ!!』
二人の距離が縮まったと同時に、チェイサーは大きく跳躍。掛け声ともに飛び蹴りの姿勢を作り、チェイサーエンドを放った。
『そんなもん!』
クラッシュは右の金槌でチェイサーエンドを受け止めた。拮抗する両者の間に、大きな爆発が起きた。
『ぐぁああ!!』
爆発が起きたと同時に、チェイサーの身体が大きく宙を舞い、地面へと叩きつけられた。対してクラッシュの方は右腕の金槌に大きな傷が出来ていたが、その身体は砕け散ってはいなかった。
(そんな……)
今の攻撃で倒し切ることができなかった事実に、チェイサーは驚きを隠せなかった。
『痛ってー! 予想以上に傷ついちまった!』
声を上げたクラッシュは右腕を抑えながら、逃亡しようしていた。
『ま、待て!』
追いかけようとしたが、既にチェイサーの身体は限界を迎え、その場に倒れ込み変身が強制的に解除されてしまう。
『覚えてろ死神!』
捨て台詞とともに、クラッシュは姿を消した。変身が解けてしまったきょうやは身動きが取れずにいた。
「ま、て……」
きょうやの意識は徐々に薄れていき、今にも気を失いかけていた。
薄れる意識の中、最後の力を振り絞り、きょうやはポケットに入っている携帯を取り出す。そして何処かへの通話ボタンを押した後、意識が途絶えた。