リリカルなのはINNOCENT~CHASER~   作:つねまる

21 / 29
第六話

「あら」

「む」

 

 道端でシグナムとシャマルは目が合うと互いに声を上げた。

 二人とも八神堂へ向かう途中であり、偶然にも同じ時間帯に向かっていたところであった。

 

「またそんな格好して~。こないだはやてちゃんが選んでくれた服があるでしょ~?」

「これとて主が選んでくれたものだ。動きやすいのだからいいだろう」

「もうっ。貴方も女の子なんだから剣ばっかりじゃなくて……」

「あ~……善処するさ」

 

 シャマルの小言を回避するように、シグナムはそそくさと八神堂へと入っていく。

 

「ただいま戻りました」

「ただいま~」

 

 店の中には客は一人もおらずガランとしており、二人は困惑した表情を浮かべていた。

 

「あ、あれ?」

「あぁ、おかえり二人とも」

 

 帰ってきた二人をアインスが出迎える。しかしその表情はよくなく、何やら落ち着かない様子であった。その様子に気がついたシグナムはアインスに尋ねた。

 

「どうかしたのか?」

「あ、いや、別に何も……」

「今日は確かきょうやもこの時間帯はバイトでいるはずだが、何処に行ったんだ?」

「……きょうやは、今外に出ている。先ほど紫のミニカーがやってきて、恐らく機械生命体がまた出たかもしれないと言って飛び出してしまった」

「何だと!」

「えっ!」

 

 話を聞いた二人は驚きを隠せず、声を上げた。

 

「そのことは、主は知っているのか?」

「いや、今主は下でご友人とイベントを開催していて、このことはまだ把握していない」

「そうか。だとしたら今は主とヴィータには伝えない方がいいだろう。もしこのことを知ってしまったら、イベントどころではないと言って聞かないだろうからな」

「でも、きょうちゃんの身体はまだ万全じゃないのよ。そんな状態なのに、何で!」

「落ち着けシャマル」

「ザフィーラ……」

 

 冷静さを失いつつあったシャマルを、ザフィーラが戒める。

 

「きょうやにはいざとなったら助けを呼べと伝えてある。もし何かあれば、何らかの形で俺達に連絡をよこすはずだ。今はまず……」

 

 ザフィーラが話している最中に携帯の着信音が鳴り響く。

 着信音の出所はアインスの携帯であった。アインスはすぐに携帯を取り出し、誰からの着信か確認する。

 

「きょうやからだ!」

「「「!?」」」

 

 きょうやからの連絡に対しその場の空気が変わった。アインスはすぐに通話ボタンを押し電話へ出た。

 

「もしもしきょうや? もう終わったのか?」

 

 溢れる感情を抑えながらも電話へと出た。しかしきょうやの方からは一切返答がなくただ無音の状態が続くだけであった。

 

「もしもし。もしもしきょうや! 返事をしてくれ!」

 

 一切反応がないことに、アインスは徐々に不安を募らせ、声色が強くなっていく。

 

「きょうや!」

「貸せアインス!」

 

 シグナムが携帯を半ば無理矢理取る形で取り上げた。

 

「きょうや。何かあったのか? 返事ができるならすぐに返事しろ! じゃないとあとでアインスとシャマルから説教をくらうことになるぞ!」

 

 どれだけ声を掛けても反応が返ってくることはなかった。

 流石のシグナムもあの時の光景が蘇り、不安に駆られていた。シグナムだけでなく、他の二人も同じように不安の表情を浮かべてしまう。

 

「ダメだ! まったく反応がない。アインス。きょうやが何処へ向かったか分かるか?」

 

 シグナムの質問に、アインスは首を横に振った。

 

「おそらくその電話は、あいつが俺達に助けを呼ぼうとしてかけてきたものだろう。だが場所を伝えようとしたが意識を失ってしまったと言ったところか」

「くそっ! 場所さえわかればすぐにでも向かえるのだがっ!」

 

 手をこまねいていると、アインスの元へ一台のミニカーがやってきた。

 

「君は、さっきのミニカーか?」

 

 やってきたのは、先ほどきょうやが飛び出す要因となったシフトカー・ミッドナイトシャドーであった。

 シャドーはきょうやの居場所を伝えようと八神堂へ戻ってきたのである。

 

「きょうやの居場所を伝えに来てくれたのか?」

 

 アインスの質問に、シャドーは頷くように車体を動かす。

 

「ならば私が行こう。ザフィーラ、お前も一緒に来てくれるか?」

「承知」

 

 シャドーはすぐに車体を方向転換させ、店を飛び出す。その後を追うように、シグナムとザフィーラも飛び出した。

 

――――――

 

 八神堂の2階にある和室で、きょうやは意識を取り戻した。

 目を開けたと同時に視界に入ったのは、目から涙を流していたアインスと安堵の表情を浮かべたシャマルであった。

 

「あれ、ここ、は?」

「きょうや。私が分かるか?」

「あ、はい」

「良かった。気がついて」

 

 きょうやは起き上がろうと両手を使って上体を起こす。慌ててアインスが駆け寄り、上体を起こすきょうやの身体を支える。

 

「一人で動ける?」

「はい、大丈夫です」

 

 何とか身体を起こし長座位へなるが、うまくバランスを保つことができずアインスにもたれかかる形になる。

 

「すみません」

 

 離れようとするが、アインスがそれを許さなかった。

 

「あの、アインスさん?」

「心配したんだぞ。またあの時のように大怪我になってるんじゃないかって」

「そうよ! 身体が万全じゃないことは分かっていたでしょ?」

 

 二人から説教を受けてしまい、きょうやは完全に意気消沈していた。

 

「……二人とも、そう責めるな。せっかく目が覚めたのにそれではきょうやも気が滅入るだろ?」

 

 シグナムがはやてとヴィータを連れてやってきた。はやてはきょうやの姿を見ると一目散に駆け寄る。

 

「きょうやくん大丈夫?」

「う、うん。ごめんね。はやてちゃんとヴィータちゃんが友達を誘って行ったイベントを邪魔したくなかったんだけど、失敗しちゃった」

「いいよそないなこと。むしろそう言うことは私にも言ってよ。ここのイベントなんていくらでも代用聞くから」

「そうだぞ! そりゃあデュエルできなくなるのは嫌だけど、きょうやがヤバイ状態になってるのを放っておくのはもっと嫌だぞ!」

 

 はやての言葉に賛同するようにヴィータも声を上げる。

 

「それよりも、機械生命体は見つかったのか?」

 

 話を切り替えるように、シグナムはきょうやに尋ねた。

 

「はい。いたには、いたのですが。下級ではなく上級クラスのロイミュードでした。逃げ遅れた人もいたので、放っておくわけにはと応戦したんですけど……」

「逃げられたのか?」

「……負けてしました」

 

 きょうやから出た言葉に、その場にいた全員に衝撃が走った。

 

「負けたって!」

「そんなっ!」

「それほどの相手だったのか? 今度の相手は」

「何とか手傷を負わせて撤退させることは出来ました。しばらくは下手に動くことはないとは思うんですけど、今来られると……」

 

 上級ロイミュードであるクラッシュとの戦いを思い出していた。

 最初こそ応戦できていたが、次第に劣勢に追い込まれ、一か八かで放った必殺技も手傷を負わせることしかできなかった事実に、きょうやは頭を悩ませていた。

 

「そういえば……」

「どうしたきょうや?」

「あのシグナムさん。僕を探してきてくれた時、もう一人怪我した人がいたはずなんですけど、その人はどうなったか分かりますか?」

「あ、ああ。すぐ近くに負傷したトラックの運転手のことか? それだったら救急車を呼んで運んでもらったよ。詳しい状態は分からないが、命に別状はないらしい」

 

 それを聞いたきょうやは一瞬ホッとした表情を浮かべる。しかし次の瞬間。気が抜けたのかきょうやの身体がふらついてしまう。

 

「だ、大丈夫!?」

「すみません」

 

 慌ててアインスがきょうやの身体を支える。その表情は険しく、あまり調子がいいとは言えない状態であった。

 

「はやてちゃん。まだきょうやくんの傷は治りきってないわ。少しの間でいいから、ここで休ませてもいいかしら?」

「ええよ。こんな状態のきょうやくんみとったら誰でも不味いことはわかるよ。今日は八神堂でお泊りってことにしようや」

 

 はやての提案に全員が賛成し、その日は八神堂で一夜を明かすこととなった。

 

――――――

 

 クラッシュとの戦闘から日が経ったある日。きょうやは誰もいない早朝の広い公園にいた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 両手に信号機を模した長斧・シンゴウアックスを持ち、額から首筋にかけ大量の汗が噴き出ていた。

 きょうやはいずれ来るクラッシュとの再戦に向け、一人特訓を行っていたのである。

 

(奴の固い装甲を砕くには、素手での格闘戦だけじゃダメだ。これを今以上にうまく使いこなせれば、少しは効果があるはず……)

 

 両手で持ったシンゴウアックスを再び持ち上げ、構える。

 袈裟切りの後、胴切りを放ち、振り向きざまに真っ向切りを繰り出す。その後立て続けに切り上げを行い、再び袈裟切りを放とうとするが、

 

「あっ!」

 

 バランスを崩し、その場に前のめりに倒れ込んでしまう。

 

「ダメか」

 

 息を切らしながらも、シンゴウアックスを使い立ち上がろうとする。

 

(このままじゃ前と同じように負ける。何とかしてこれを使いこなせないと)

 

 再び構え直し、訓練を始めようとしたその時、声を掛けられた。

 

「朝から精が出るな」

 

 後ろから見知った声が聞こえ、振り返るとシグナムがそこに立っていた。

 

「シグナムさん。どうしてここに?」

「ここは朝のランニングコースとして通る場所でな。偶然にもお前の姿が見えて声を掛けたのだが、邪魔してしまったか?」

「いえ、そんなことないです」

 

 シグナムときょうやは場所を移し、近くのベンチに二人で座った。シグナムの視線はきょうやの近くにあるシンゴウアックスへと向かれていた。

 

「再戦に向けての特訓か?」

「あ、はい」

「確かにそれだけの大型の武器なら、当てることができれば相当な威力にはなるだろうな。だがその様子だと、持て余しているみたいだな」

「……中々うまくいかなくて、ちょっと行き詰っています」

「そうか」

 

 シグナムはベンチから立ち上がると、シンゴウアックスを手に持つ。

 

「確かにこれは取り回しがあまり良くないな。これを今から使いこなすのは容易ではないだろうな。刀に似た物であれば助言はできるが、これでは少し難しいな。だが一つ言えることがあるとすれば、何もこれを攻撃だけの武器と捉えずに使ってみるのもいいんじゃないか?」

「えっ?」

 

 そう言うと、シグナムはシンゴウアックスをきょうやに返した。

 

「すまん、邪魔したな。またなきょうや」

 

 最後に別れの一言を残し、シグナムは走り出していった。残されたきょうやは視線をシンゴウアックスに向ける。

 

(シグナムさんの言う通り、確かにこれは当てることができれば強力な武器になる。でも攻撃が外れた際の大きな隙を突かれたた時のデメリットの方が大きい。だとすれば、確実に攻撃を当てる方法を確立できれば……)

 

一人思考を巡らせ、何か方法はないか考え込む。

 

「――!」

 

 そしてきょうやはあることに気付き、勢いよく立ち上がった。

 

(今僕にできるのはこれしかない。これなら、いけるかもしれない!)

 

 すぐにきょうやはシンゴウアックスを持ち、バイクの所まで移動しようとすると、タイミングを図ったようにシフトカー・ミッドナイトシャドーが姿を現す。

 それは同時に、クラッシュとの再戦の機会がきたことを意味していた。

 

―――――――

 

『さーて。もう怪我は治ったことだし。またお菓子を一杯もらうぞ!』

 

 クラッシュロイミュードは標的となるトラックを見つけ、大破させたところであった。

 チェイサーから受けた傷は既に完治しており、万全の状態であった。トラックの中にあった積み荷を物色しようとするが、直後に近づいてくるバイク音に気がつき視線を向けた。

 

『またお前か死神!』

 

 クラッシュの近くでバイクを止めると、きょうやはヘルメットを外した。既にマッハドライバーを腰につけている状態であり、すぐにシグナルチェイサーを装填する。

 

『シグナルバイク!』

「今度は前のようにはいかない。変身!」

『ライダー! チェイサー!』

 

 きょうやはチェイサーへと変身したと同時に、バイクの中から勢いよく何かが飛び出した。

 

『シンゴウアックス!』

 

 飛び出してきたのはシンゴウアックスであり、それを片手でつかみ取り、両手に持ち替え構える。

 

『へっ! 武器を持ったところで、この前みたいに捻り潰してやる!』

 

 掛け声とともにクラッシュは走り出した。対するチェイサーは武器を構えたまま、その場から動こうとしなかった。動かないチェイサーに対し好機と感じたのか、クラッシュは金槌状の拳を顔面目掛け放とうとする。しかしその一撃は、チェイサーに当たることはなくシンゴウアックスの柄部分を軸に簡単にいなされてしまった。

 

『何!?』

(今だ!)

 

 いなしたと同時に、チェイサーは斧の部分を押し当てるようにクラッシュの胴体へ叩き込む。火花を散らしながら、クラッシュの身体は後方へと倒れ込んだ。

 

『くそっ! ふざけやがって!』

 

 すぐに立ち上がったクラッシュは、もう一度重圧の拳打を放った。しかしチェイサーはまたもそれを柄でいなす。それによりバランスを崩したクラッシュへ向け、シンゴウアックスの斬撃を繰り出した。

 

『痛ってぇ!』

 

 斬撃を受けた部位の痛みを訴えながらも、怒りに任せて何度も拳をふるうクラッシュに対し、チェイサーは冷静に一つ一つの攻撃に対しシンゴウアックスを使っていなし、時には身体を動かして避けていく。そして攻撃後の隙をつき、確実に斧の斬撃を与えていった。

 大型の武器であるシンゴウアックスを武器としてではなく防御としても活用し、それによってできた攻撃後の隙をついて確実に斬撃を与えていく。これこそきょうやがシグナムからの貰ったヒントを元に新しく考えた戦術であった。

 その成果は既に出ており、あっという間にクラッシュを瀕死の状態にまで追い込むことに成功した。

 

『そんな。こんなことになるなんてっ!』

 

 クラッシュはダメージの蓄積により、立つのがやっとの状態であった。

 

(今度は確実に仕留める!)

 

 チェイサーはこの機会を逃さず、シグナルチェイサーをシンゴウアックスへと装填し、赤いボタンを押した。

 

『マッテローヨ!』

 

 信号機の赤が発光したと同時に、エネルギーのチャージ状態へと移行する。

 

『シャドー!』

 

 呼び声とともに、チェイサーの元へシャドーが現れ、それをつかみ取るとドライバーへと装填する。

 

『シフトカー! タイヤコウカン! シノービ!』

 

 そしてすぐにベルトのボタンを4回押すと、限界稼働状態へと移行する。

 

『イマスグ! シノービ!』

 

 その瞬間。チェイサーの身体は4体に分身する。同時に背中にあるタイヤが勢いよく回転し、手裏剣状の形を持ったエネルギーが出現。4体のチェイサーは手裏剣を手に持つとクラッシュへと一斉に投げ放った。手裏剣は変則的な軌道でクラッシュを翻弄し、更なるダメージを与えていく。

 

『ち、ちくしょうこんなはずじゃ……』

 

 悔しさをにじませるクラッシュをよそに、シンゴウアックスは赤の発光から、青へと変化した。

 

『イッテイーヨ!』

 

 その瞬間4体のチェイサーは元の一つのチェイサーへと戻り、シンゴウアックスを手に持つ。

 

『これで、終わりだ!』

『フルスロットル!』

 

 紫色のエネルギーを帯びたシンゴウアックスを使い、真っ向切りからの胴切りによる強力な斬撃・アクロスブレイカーを放った。

 

『ギャアアアァ!!』

 

 斬撃を受けたクラッシュは、断末魔を挙げながらボディーは爆発し、その中から現れたコアも粉々に砕け散った。

 

(良かった。やっと、倒せた)

 

 すぐに変身解除し、きょうやの姿へと戻る。その表情は憑き物が取れたように、穏やかなものであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。