リリカルなのはINNOCENT~CHASER~   作:つねまる

24 / 29
 お待たせしました。また一年近く更新が途絶えてしまい申し訳ありません。
 モチベーションにムラが出てしまっている状態で、中々作業が進めていない状況ではありますが、何とか更新して行こうと思っています。



第九話(前編)

 前回の海聖小で起きた一件以来、きょうやは時折物思いにふけることが多くなった。

 学校の授業中や八神堂でのバイト中でもふけっている場面があり、まわりの人間はどうしたのかと心配する声を上げていた。

 当の本人は大丈夫の一点張りであり、何が原因なのか口に出そうとしなかった。

 今日も八神堂で仕事をしている最中、同じように考え事をしている様子があった。

 

「なぁ。最近きょうやのやつおかしくねぇか?」

「うん。それは私も思った」

 

 その様子をみながら、はやてとヴィータが小声で話していた。

 

「何が原因か知ってるかはやて?」

「私も知らんのや。ここんところあの機械生命体関連の出来事多くて疲れたんちゃうかなぁ」

「ていうかいつ頃からあんな感じになったんだっけ?」

「確か、海聖小の生徒が6年生を中心に機械生命体によって誘拐された事件を解決してからずっとあんな感じだった気がする」

「そんときに何かあったのかな?」

「さぁ。私もそこまでは分からへん……」

 

 話していた二人は視線を再度きょうやに戻す。

 仕事は問題なく行っており、これといった大きな失敗もなくできていたため特に問題になっていなかった。しかし一区切り着いた途端にぼーっとしてしまい、こっちがいくら話しかけても生返事しか返ってこないことが多くなっていた。

 期間は短いとはいえ、きょうやの人となりをある程度知ったはやて達から見ると、このままの状況が続くのは良くないと感じていた。

 

「しゃーない。こうなったら……」

 

 何かを行おうと考えていたはやてを尻目に、視線の先にいたきょうやはため息をついた。

 

――――――――

 

「すまないね。主のわがままに付き合わせてしまって……」

「あ、いえ。休みと言っても特にやることなかったので、大丈夫ですよ」

 

 とある休日にきょうやとアインスは二人で買い物に出ていた。

 発端ははやてが翠屋と呼ばれる喫茶店のシュークリームが食べたいと言い出したのが始まりであった。

 翠屋のことは学校でフローリアン姉妹や朱乃、後輩である飛鳥から話を聞いていたため、事前にきょうやも店のことは知っていた。

 その店はシュークリーム以外のスイーツも好評であり、喫茶店としてだけでなくスイーツの店としても有名であった。

 きょうやは何かと助けてもらっている八神家の人達に恩を返せればと思っていたこともあり、はやての頼みを引き受けた。そして現在に至るのだが、どういうわけかアインスがついてくる話になってしまった。

 目的のものを買うだけであったため、一人でも問題なかったのだが、せっかく喫茶店に行くのだからお茶でも飲んでこいと、はやてに言われてしまったのである。

 当然なぜアインスなのか理由が分からないきょうやであったが、深く気にしなかった。正確に言えばできなかったと言った方が正しかった。

 

「確かきょうやはまだ翠屋には行ったことなかったよね?」

「あ、はい。話は聞いていたんですけど、中々行く機会がなくて……」

「ここのところ君も色々あったから仕方ないと思うよ。ちょうどいい機会だと思って羽を伸ばしてもいいと思うよ?」

「……そうですね。そうします」

 

 会話している内に目的地である翠屋へたどり着く。

 きょうやの第一印象としては、清潔感ある落ち着いた雰囲気を感じさせる建物であった。二人は店のドアを開くと、カランカランと鈴の音が鳴った。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 入ったと同時に店員である女性が声を掛けてきた。アインスは手慣れた様子で人数を伝えると、店員は席へと案内する。しかし店内を見回すと休日ということもあってか、テーブル席は家族連れや団体客でほとんど埋まってしまっていた。

 

「すみません。窓際の席でもよろしかったでしょうか?」

「大丈夫?」

「あ、はい。僕は大丈夫です」

 

 申し訳なさそうに言った店員に対し、二人は問題ないことを伝える。

 店員はありがとうございますと言って窓際の二人用の席へと案内すると水を持ってくると言って厨房へと走って行ってしまう。

 

「何がいい?」

「僕は、コーヒーで」

「分かった」

 

 水の入ったグラスをトレイにのせて戻ってきた店員に、アインスは注文を伝えた。

 数分後、頼んだ飲み物を持ってくるとごゆっくりどうぞと言って伝票を置いていった。

 きょうやはコーヒーに対し、アインスはカフェオレをそれぞれ頼み、お互いに容器を傾け一口飲む。カップを置いて一息つくとアインスが口を開いた。

 

「最近どうかな?」

「どう、といいますと?」

「主が心配していたぞ。最近君が上の空で大丈夫なのかと」

「あ、えっと、それは……」

 

 何と話せばいいか分からず、きょうやは言葉をつまらせる。

 

「機械生命体関連の事件で何かあったのかい?」

「……」

 

 きょうやが言うべきか迷っていることにアインスは気付いてしまう。

 

「前に比べれば私達に頼ってくれることが多くなってはきたけど、ここに来てまた一人で無茶すること多くなってきたよね?」

「そ、そんなことはないと、思い、ます……」

「そんなことないなら、もう少し自信を持って発言してほしいところだと思うよ?」

 

 きょうやは再び考え込んでしまう姿をみて、少し踏み込み過ぎたかと感じ、アインスは内心冷や汗を掻いていた。

 二人の間に沈黙が続き、きょうやが口を開こうとしたが店のドアの音によって遮られた。

 

「こんにちは!」

 

 入ってきたのは以前八神堂にやってきたなのは、アリサ、すずかの三人であった。

 

「あらなのは。今日は友達と一緒に来たの?」

「お母さんただいま!」

「はいお帰り。今日はこれからまたT&Hに行くの?」

 

 なのはの声を聞き、店の奥からなのはの母親・高町桃子が出迎える。

 

「その予定なんだけど、何かすずかちゃんがお母さんに頼みたいことがあるって」

「えっ? 私に?」

 

 娘の話を聞いた桃子は、すずかへ視線を向けた。

 

「え、えっと。‟仮面ライダーの記事"を見せてほしいんです!」

 

 遠くから話を聞いていたきょうやは、思わず机に膝をぶつけてしまう。その音が聞こえたのか、注意がきょうやとアインスの座っている席に向けられた。

 

「あ! アインスさんにきょうやさん!」

 

 二人の存在に気付き、すずかが真っ先に向かった。

 

「あ、ああ。こんにちは」

「今日は二人だけなんですか?」

「ああ。主に頼まれ事を受けてね。少し休憩がてらここでお茶してたところなんだ」

「あ、そうだったんですね。てっきり二人でデートしてるかと思っちゃいました!」

「へっ!」

 

 すずかの言葉にアインスは変な声を出しながら動揺してしまう。

 

「えっとね。本当は僕一人で受けることだったんだけど、アインスさんが気を遣って付き合ってくれたんだ」

 

 よかれと思いきょうやは事情を話したのだが、アインスの方へ視線を向けると何故か不満げな表情をされてしまう。

 

(えっ、ダメだったの?)

 

 予想外の反応を受けてしまい、逆にきょうやの方が焦ってしまう状況が生まれてしまった。

 

「ねぇアリサちゃん。これって……」

「なのは。私達はあまり踏み込まない方がいいわ。何だが物凄く面倒なことになりそうだから」

 

 異変に気付いたなのはだったが、関わってはいけないと本能的に感じ取ったアリサが止めに入る。

 

「そ、それよりもすずか。確か桃子さんに例の記事見せてもらいに来たんじゃないの?」

 

 面倒事になる前にとアリサは強引に話題を変えた。

 

「あ、そうだった。桃子さん。いいですか?」

「え、えぇ。最近の活躍もピックアップしたから、それも見てって。今持ってくるから」

 

 桃子は店の奥へ入り、しばらくして手に冊子のようなものを持って戻ってきた。

 

「はい。どうぞ」

「ありがとうございます!」

 

 受け取ったすずかはすぐに冊子を開いた。中にはなんとグローバルフリーズ以降のチェイサーの活躍が書かれた記事の切り抜きが貼られていたのである。

 

「す、すずかちゃん。一つ聞いていい?」

「何ですか?」

「それって一体……」

「ああ。これですか? なのはちゃんのお母さんがひそかに集めてくれてるんです」

 

 その話を聞きながら、きょうやは冊子へと視線を向ける。

 流石に写真は貼られているものはなかったが、小さいものから、大きく取り上げられているものなど幅広くあった。

 

「あ、あの。どうしてこれを?」

 

 きょうやは気になり、桃子へ尋ねた。

 

「あ、えーっと。私ね、機械生命体が沢山出てきたあの夜に偶然にも駅前にいちゃってね。危ない目に遭いそうになった時に助けてもらったことが切っ掛けかな」

「あの夜……」

 

 グローバルフリーズの時を思い出しながら、きょうやは桃子の顔を見る。そして何処で出会ったか思い出し、大きく目を見開く。

 あの夜、チェイサーに変身し戦っていたきょうやはロイミュードのことで手一杯であり、逃げる人達を気にかけている余裕がなかった。

 そんな状況の中、身を盾にして子供を守ろうとしていた女性の姿が目に入った。何とかその場にいたロイミュード達を撃破し、逃がした女性こそ桃子であったのである。

 

「……どうかしました?」

 

 視線に気づいた桃子は声を掛ける。

 きょうやはその声に我に返ると、何でもないですと言って取り繕った。

 子供達が冊子を見ながら談笑している姿を、きょうやは複雑な表情でみることしかできなかった。

 

――――――

 

「まさか君がなのはちゃんのお母さんを助けていたとはね」

「あ、はい。僕も聞くまで気づきませんでした。まさかあの時助けた人があそこで働いてるとは思いもしませんでした」

 

 翠屋を後にしたきょうやとアインスは、頼まれたシュークリームを持って八神家へと向かっていた。

 他愛ない会話をしながら歩いていたが、突如として‟何か”が二人の目の前に落ちてきた。

 異変に気付いたきょうやは咄嗟にアインスの前に立ち、警戒する。

 煙が晴れ、落ちてきた‟それ”が動き出した。

 全身は赤黒く大柄であり、頭部からはバッファローを彷彿とさせる大きな角が生えた黒いロイミュードであった。頭部の半分は人間の頭蓋骨のようになっており、口を開くと白い息を出し、天を仰ぐと獣のような咆哮を上げた。それと同時に全身が赤黒く発行し、強い衝撃波となって二人を襲う。

 きょうやはアインスを庇うように地面に伏せる。そしてすぐに持っていたバックからドライバーを取り出した。

 

「アインスさん。逃げて下さい!」

「だ、だが…「いいから!」…わ、分かった」

 

 きょうやの剣幕に押され、アインスは荷物を持って走り出し、傍の物陰に隠れた。

 

(このロイミュード。今までのやつと違う)

 

 本能的に今まで戦ってきたロイミュード達とは違うことを感じ取り、額から冷や汗が流れた。しかしすぐに戦いに備え、ポケットからシグナルチェイサーを取り出しドライバーへ装填する。

 

「変身!」

『ライダー! チェイサー!』

 

 チェイサーへ変身し、目の前の黒いロイミュードと対峙する。

 先に仕掛けたのはチェイサーの方であった。

 大柄な身体へ力を込めた拳打を打ち込むも、ダメージどころかひるみすらしなかった。

 同じように何度も拳打を打ち込むも効果はみられず、チェイサーはたじろいでしまう。

 今度は高蹴りを入れるがこれもまったく効いておらず、簡単に腕で足を弾かれてしまう。

 バランスを崩したチェイサーの胴体目掛け、黒いロイミュードはお返しとばかりに渾身の拳打を叩き込んだ。

 

「がはっ!」

 

 それによりチェイサーの身体は吹き飛び、勢いよく地面へと叩きつけられた。

 すぐに起き上がろうとするが、それを遮るように黒いロイミュードは馬乗りになり、腕を振り上げチェイサーの胴体へ叩き付ける。

 怒りとも取れる咆哮を上げながら、チェイサーの身体を潰すように何度も何度も拳を作った腕を振り下ろす。その威力はチェイサーの装甲を通し、変身者であるきょうやの内臓にも響くほどであった。黒いロイミュードは最後にチェイサーの首を掴むと無理あり立ち上がらせ、勢いよく投げ飛ばす。

 

「くっ!」

 

 投げ飛ばされたチェイサーの身体は電柱にぶつかり、そのまま地面へと叩きつけられてしまう。

 何とか立ち上がるも身体は既にふらふらの状態であり、ダメージは内臓にまで響いていた。

 それでも負けじとチェイサーは黒いロイミュードに立ちはだかり、ありったけの力を込めた拳打や蹴り技を何度も叩き込んだ。しかし決定打となる攻撃にはならず、遂にはチェイサーの放った拳打は掌で受け止められ無力化されてしまう。反対側の腕で同じように拳打を打ち込むも、受け止まられてしまい、両腕の動きを封じられてしまう。

 振りほどこうとチェイサーは力を込めるも黒いロイミュードの力はチェイサーを上回っており、抵抗は虚しく身動きが取れなくなってしまう。

 振りほどかれることはないと判断してか、黒いロイミュードはゆっくりと上体を後ろへそらすと勢いよくチェイサーの頭部目掛け強烈な頭突きを繰り出した。それはチェイサーの無防備な顔面に直撃してしまった。

 

「がっは……」

 

 その一撃により意識が飛んだのか、チェイサーは全身から力が抜けてしまう感覚に襲われた。

 黒いロイミュードは崩れ落ちようとするチェイサーの身体を首を掴んで強引に阻止し頭上高く上げた。

 がら空きになった腹部目掛け、拳を作った剛腕で渾身の一撃を叩き込んだ。

 

「ぐあっ!!」

 

 チェイサーの身体は大きく吹き飛び、チェイサーから元のきょうやの姿へ戻ってしまった。

 受けたダメージが限界を超えてしまい、強制的に変身解除してしまったのである。

 きょうやはうめき声を上げることしかできず、起き上がることが困難な状態であった。

 

「きょうや!」

 

 物陰に隠れていたアインスはすぐにきょうやに駆け寄る。

 

「きょうや! しっかりして!」

 

 必死にアインスは呼びかけるが、きょうやはまともに返事をすることができていない状態であった。

 黒いロイミュードは止めを刺そうと近づいてきたが、数台のシフトカー達によって阻まれてしまう。

 現れたシフトカー達への対応に気を取られてしまい、近づいてきた‟一台の車"に轢かれてしまった。

 突然現れた車はきょうやとアインスの二人の前で止まり、助席の方のドアを勢いよく開かれた。

 

「早く乗りなさい!」

「グランツ博士! どうして!」

「いいから! きょうやくんを早く乗せるんだ!」

 

 車に乗っていたのはグランツ博士であった。アインスはすぐにきょうやの身体を抱え込み、後部座席のドアを開いて乗せるとすぐに助席に乗り込んだ。

 それを確認するとグランツ博士は車を発進させ、その場から逃げ出した。

 倒すべき存在に逃げられ、その場には黒いロイミュードしか残っていなかった。

 やり場のない怒りを表すように、獣のような咆哮があたり一面に響いた。

 





 少し過去の小説を見直しまして、タイトルを話数のみに変更しました。
 今回出てきたロイミュードに関しては次回解説を入れたいと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。