リリカルなのはINNOCENT~CHASER~   作:つねまる

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第九話(中編)

「なぁはやて。二人遅くないか?」

「まぁもうちょっと待って上げようや。きっと思いのほか話弾んで長引いてしまってるだけやと思うし」

 

 はやてとヴィータ、そしてシグナムとシャマルは八神堂ではなく、自宅のほうにいた。

 アインスときょうやの二人の帰りを待ちきれないのか、ヴィータははやてにいつ帰ってくるか尋ねたのである。

 

「そう急かすなヴィータ。きっとアインスのことだ。急に買いたいものを思いついて、きょうやを付き合わせている可能性だってあるだろ?」

「でもさ~。それにしたって遅くねぇか? 今の時間にシュークリーム食べたら、夕飯に響きそうな気がすんだよなぁ~」

「気にしちゃダメよヴィータちゃん。まだ小学生なんだから!」

「そういうシャマルは少し気にするべきじゃないのか?」

「シグナムそれは言わないでよ!」

 

 リビングで何気ない会話をしている三人を見ながら、はやては食事の準備をしようと台所へ向かう。

 

「あっ! はやてちゃん。ご飯の準備をするなら私も……」

「あーっ! やべぇ! 宿題忘れてた。シャマル手伝って!」

「えっ? でもヴィータちゃん。学校から帰ってきてすぐに取り組んでたんじゃ……」

「どうじてもわかんなくてほったらかしてたやつがあったんだよ。シャマル頼む手伝って!」

「それならシグナムに……」

「シグナムはあてにならないから!」

 

 そう言ってシャマルの手を掴み、ヴィータは二階へ強引に連れて行った。

 

「……。」

「き、気にする必要はないと思うぞシグナム」

「何がだ?」

「いや、その……」

「事情は分かっているんだ。あの程度のことで私が機嫌を悪くするとでも思っているのかザフィーラ?」

「……何でもない」

 

 これ以上触れるのは不味いと判断したのか、ザフィーラは会話を切った。

 もう一度シグナムへ視線を向ける。

 ヴィータの言葉が予想以上だったのか、平静を装いつつも泣きそうな表情をしていた。

 そんな時、外から車のエンジン音が聞こえた。車のドアが閉まる音と同時に、家のドアが開いた。

 

「お? 二人帰ってき…「主!」…ど、どないしたんそんなに慌てて」

 

 帰ってくるなり、息を荒げながら帰ってきたアインスにはやては驚いてしまう。

 

「い、今すぐ二階の部屋を使ってもいいでしょうか?」

「えっ? まぁええけど……」

 

 何事かと恐る恐る玄関のほうへ視線を向ける。

 玄関にいたのは、きょうやをおぶったグランツ博士であった。

 それを見たはやては今までのことからすべてを悟り、すぐに準備にかかった。

 

「アインス。今すぐ二階の部屋に連れてって!」

「ありがとうございます!」

「シグナムも手伝って!」

「分かりました!」

 

 事態に気づいたシグナムもすぐに行動を起こした。

 

――――――

 

「すまないね。突然お邪魔する形になってしまって……」

「いえいえ。こちらこそありがとうございました」

 

 きょうやを部屋へ連れ休ませた後、リビングにてグランツ博士と一段落ついていた。

 

「それにしても、どうして博士があの場所に?」

 

 きょうやのことがあり、聞こうにも聞けずにいたことをアインスが尋ねた。

 

「僕の友人から借りていたシフトカーの一台がかなり騒ぎ出したんだ。何か嫌なことが起きたんじゃないかと思って出してみたら、案の定ロイミュードと戦っているきょうやくんに出くわしてね」

「そうだったんですか」

「ん? ちょっと待って下さい。何でグランツ博士が機械生命体のことを知ってるんですか?」

 

 当たり前のようにロイミュードのことについて話し出したことに疑問を持ったヴィータはグランツ博士に尋ねる。

 

「ああ。僕も君たちと同じようにきょうやくんが仮面ライダーであることは知ってたからといえばいいかな?」

「…………へ?」(八神家全員)

 

 グランツ博士のカミングアウトに、全員開いた口が塞がらない状況になってしまう。

 

「あれ? 聞いてなかったの?」

「いや。初めて知りましたよ」

「……まあ、そこは追々話すことにしよう。それよりも、状況はあまり、というよりかなり悪い」

「何があったんですか?」

 

 不吉なことを話すグランツ博士に、はやては神妙な表情で尋ねた。

 

「近くで見ていたアインスさんなら分かると思うけど、今回相手にしたロイミュードは今までのやつとは格が違い過ぎる。苦戦することはあっても勝利してきたきょうやくんが、‟まったく歯が立たなかった”からね」

「えっ!?」

「それほどの相手だったのですか?」

「ああ。彼が使用しているライダーシステムは10年以上経過しているとは言え、ロイミュードを駆逐する上では現在でも十分な力を発揮できる代物なんだ。はっきり言って今の時代でもオーバーテクノロジーと呼んでも過言ではないレベルのね」

「マジかよ」

「だとしたら手の打ちようがないんじゃありませんか? それが本当なら、あのライダーシステム以上のものを作るのは難しいんじゃ……」

 

 はやてが懸念していることをもっともであった。

 グランツ博士の言うように、きょうやの使用するライダーシステムが、現代においてもオーバーテクノロジーであることが事実であるならば、それ以上に発展させることは現実的ではないことを意味する。

 今回それを持ってしても手も足も出なかったことは、敵側がそれを超える技術を持ってしまったことを意味しており、状況はまさに最悪といっても過言ではないのである。

 

「僕のほうで、友人に何か方法がないか聞いてみるよ。君達にはきょうやくんのフォローをお願いしていいかな?」

「大丈夫ですよ。それはもう慣れっこですから」

「助かる。それと目が覚めたら、きょうやくんにこれを借りると伝えてほしい」

「分かりました」

 

 シフトプロトスピードを手に、グランツ博士は八神家を後にする。

 急いで車に乗り、エンジンをかけると勢いよくアクセルを踏み研究所へ急いだ。

 

――――――

 

「……という状況なんだけど、何か策があったりしないかい? りんなくん」

 

 研究所に戻ったグランツ博士は、シフトプロトスピードが記録したデータをもとに、画面越しにりんなへ尋ねた。

 画面越しにはりんなのほかに、話を聞きつけた現八郎と究も同席していた。

 三人とも今回のロイミュードの姿をみてからずっと口を閉ざしたままであった。

 

「何かこのロイミュードに心当たりがあったりするのかい?」

 

 一向に口を開こうとしなかったため、グランツ博士は恐る恐る尋ねると、りんなは重い口を開いた。

 

「グランツくん。確かに私たちはこの個体のことを知ってるわ。特に現八はね」

「りんな、気にすんな。これは‟あいつ”じゃないのは、誰がみても明らかだ。きっと進ノ介も同じことを言うはずだ。考えられるとすれば……」

「彼の―――、‟ハートのボディ”を元に改造されたものと捉えるのが自然だろうね」

「あ、あの、すまない。そのハートという人物と何か関係があるのかい?」

 

 三人の会話の中に出てきたハートと呼ばれる存在のことを聞こうと、グランツ博士は声をかける。

 

「ああ。ごめんね。きょうやくんが遭遇したこのロイミュードなんだけど、過去に私達に味方になってくれたロイミュードと同じ姿をしているの」

 

 画面越しに今回きょうやが遭遇したものと、りんな達が話していた個体が映し出された。

 移し出された二体は色や若干形状が異なる部分はみられるも、ほとんど同じ姿をしていた。

 

「味方になってくれたって。それは一体?」

「もちろんこのロイミュード―――ハートは敵の幹部として私達や当時の仮面ライダー達と敵対していたの。でもいろいろあって味方として戦ってくれることもあって、仮面ライダーに変身して戦ってくれたこともあったの」

「改めて戦闘映像を見てみたけど、これはハートのロイミュード態を元に何かしらの改造が施されたものとみて間違いないだろうね。戦い方が明らかに彼のものとは似て異なるものだ」

 

 りんなに続くように究も少ない情報から推測する。

 

「だとしたら、これは何のために作られたんだ。それにいきなりきょうやくんのもとへやってきたことも気になる」

 

 グランツ博士の疑問に対し、りんなは答えることができなかった。りんなの代わりに、究が答えた。

 

「ネクストシステムライダーである、チェイサーがここまで何もできず敗北したことを見ると、これはロイミュード側が‟対ライダー用”に開発し投入したものとみていいと思います」

「対ライダー用って、まさか!」

「敵は人間を制圧するよりも、今の仮面ライダーであるきょうやくんを潰したほうが得策だと気づいたんです。ピンポイントできょうやくんのもとにやってきたことを見る限り、それ以外に考えられない」

 

 それはグランツ博士を除いた全員が気づき、そしてもっとも恐れていたことでもあった。方法はないかと尋ねようとしたグランツ博士を遮るように、りんなが口を開いた。

 

「……方法がないわけじゃない」

「えっ?」

「りんな? どういうことだ?」

 

 無言でパソコンを操作し、それが画面上に映し出された。

 そこに映っていたのは、形状の異なるチェイサーの姿が描かれた設計図であった。

 

「り、りんなさん! こ、こここれって!」

「……きょうやくんのこれまでの戦闘データをもとに、私が独自で開発を考えていた‟チェイサーの強化フォーム”よ」

「強化フォームって、お前!」

「もちろん必要ないと考えて設計図までしか作ってない。でもチェイサーの力が全く効かない相手が出てしまった以上、これにかけるしかない」

「だけどりんなさん。今から新しいライダーシステムを作り上げるのは現実的じゃないですよ!」

「分かってる。だからこれを使うの」

 

 取り出したのは、サイの意匠の入ったシフトカー・シフトバイラルコアであった。

 

「そいつは確か、昔剛が005を倒す際に使ったやつじゃねぇか?」

「ええ。これを使ってきょうやくん専用の強化フォームを作成する。そもそも本来仮面ライダーチェイサーはチェイスじゃなきゃ変身はできないようになっているのに、あの子はなぜか変身できた。ならこれの力も、あの子なら引き出すことができるかもしれない。もうこれにかけるしかないわ!」

 

 強い口調で言ったりんなに対し、現八郎と究は顔を見合わせ、決心した表情を作る。

 

「分かったよりんなさん。なによりきょうやくんを守るためにも、これは必要だと思うから、僕も手伝うよ」

「ありがとう西城君。そうと決まれば、さっそく開発に取り掛かっていい?」

「もちろん!」

「それなら、僕も手伝っていいかい?」

 

 二人の会話に入るように、グランツ博士が申し出た。

 

「で、でもグランツくんいいの? ブレイブデュエルのほうだってあるし、何より……」

「そうも言ってられない状況なのは僕も理解しているよ。ただきょうやくんにできる限り協力すると言ってしまったからね。それに人手が多いほうがいいだろ?」

「ありがとう、助かるわ。まず一旦切るね。後で資料を送るから」

「ああ。頼んだよ」

 

 そう言って通信を切ると、グランツ博士はため息をつきながら、椅子に深々と座った。

 

――――――

 

 翌日。きょうやはまだ八神家にいた。

 本来であれば学校に行っている時間だが、先日のこともあったため、体調不良と言って休むことになったのである。

 

「今日はゆっくり休むといい。私も夜間学校に行くまで時間があるから」

「すみません。でもお店のほうが……」

「気にしなくいい。主も言っていただろ? 日中はそんなに客はこないから問題ないと」

「それはそれで経営的に大丈夫なのか不安になるんですけど」

「ブレイブデュエルでの利益があるから問題ない。そんなことなど気にせずゆっくり休めばいい」

 

 家にはアインスだけでなく、たまたま大学が休みになっていたシグナムがいた。

 その日の朝は、本来であればきょうやはすぐにアパートへ戻ろうとしたのだが、八神家総出で拒否されてしまったのである。

 学校の準備のためと言っても、まだ先日の戦いの傷が癒えておらず動きもどこかぎこちない様子だったことも理由として挙げられてしまった。そのため学校も自分で休む連絡を入れ、今に至るのである。

 昼時の時間に差し掛かった時、きょうやの携帯に連絡が入った。

 

「誰だろ?」

 

 スマホの画面には、同級生のアミタの文字が書かれていた。

 

(そっか。もう昼休みの時間だった……)

 

 時計を見ると12時を過ぎており、ちょうど昼休みの時間帯であった。

 体調不良で休んだことを気にかけて連絡をくれたと考え、電話にでた。

 

「もしもしアミタさん? どうかしたの?」

 

 電話に出たが、一向にアミタの声が聞こえてこなかった。何度か声をかけたが、返答はかえってこなくどうしたものかと考え込む。しかしその直後、電話越しに人の悲鳴と爆発音が聞こえてきた。

 

「アミタさん。アミタさん! どうしたの!」

 

 嫌な予感を感じ、声色が強くなる。

 何回か声をかけるも一向に返事はなかった。

 

「どうしたきょうや? 何かあったのか?」

 

 ただことでない様子を感じ取り、シグナムが声をかける。

 きょうやは通話を切ると、スマホを操作しライドチェイサーを八神家に来るよう遠隔操作を行う。

 

「お、おい!」

 

 シグナムの静止を振り切り、ドライバーの入ったバックを持って飛び出してしまった。

 家の前には紫と黒を基準とし、骸骨の意匠の入った大型のオートマチックバイク・ライドチェイサーが止まっていた。

 ヘルメットをかぶり、バイクへ跨るとエンジンをかけ走り出した。

 

――――――

 

 目的地であるエイトリアン高校へついたが、建物は所々に火がついていた。バイクで校門を抜け昇降口へ向かおうとした道中に、見慣れた生徒が目に入った。

 それは先ほど電話してきたアミタとキリエ、そして朱乃と飛鳥がいた。

 

「みんな!」

 

 バイクを止め、ヘルメットをとったきょうやが四人に駆け寄る。

 

「あれ、せ、先輩! 今日は体調が悪いって……」

「さっきアミタさんから電話もらった時に爆発音が聞こえたから! 何かあったの!?」

「そ、それがわからないんだ! 君が休んだってことで昼休みにアミタの携帯で連絡しようとした直後に、大きな爆発が起きて……」

 

 朱乃が動揺しながらも説明しようとしていたその時。大きな足音を立てて何かが近づいてきた。

 それに気づいたきょうやが視線を向けると、そこにいたのは先日戦った黒いロイミュードであった。

 

「あれは……!」

 

 アミタたちも黒いロイミュードの方へ視線を向ける。

 

「な、何あれ?」

「例の、機械生命体?」

「で、ですが何でこんなところに?」

「ていうかそれよりも不味くない? 早く逃げた方がいいんじゃ……」

 

 各々が疑問の声を上げる中、きょうやは再びヘルメットをつけてバイクへ跨った。

 アクセルをひねり、一気に加速すると黒いロイミュードへ突っ込んでいった。

 加速の入ったバイクの体当たりは、簡単に止められてしまい、乗っていたきょうやは黒いロイミュードによって吹き飛ばされ地面に転がされてしまう。

 

「ぐっ!」

 

 きょうやはヘルメットを外し、地面から立ち上がる。

 一瞬アミタ達の方へ視線を向けると、決心したようにドライバーを腰へつけた。

 

「みんなは逃げて」

「えっ?」

「あいつは僕が引き付けるから、早く!」

「で、でも先輩は……!」

 

 キリエの言葉を遮るように、きょうやはドライバーにシグナルチェイサーを装填した。

 

『シグナルバイク!』

「変身!」

『ライダー! チェイサー!』

 

 音声とともにきょうやの身体は、青白い装甲に包まれチェイサーの姿へと変わった。

 

「…………えっ」

「嘘……」

 

 アミタとキリエはもちろん、朱乃と飛鳥も言葉を失ってしまう。友人として接してきたきょうやが、噂になっている仮面ライダーの姿へと変わったことが衝撃的だったのである

 しかしすぐにアミタだけが我に返り、他の三人を連れて物陰に隠れた。

 チェイサーはライドチェイサーから飛び出たシンゴウアックスを手にすると、黒いロイミュードへ駆け出す。

 至近距離まで接近し、両手に持ったシンゴウアックスを振り下ろし、刃を胴体へ当てた状態で押し込んだ。だが数歩後退しただけで止まってしまい、簡単に弾かれてしまう。

 体制が崩れたチェイサーへ黒いロイミュードの剛腕が振り下ろされるが、それをシンゴウアックスの柄で受け止めいなす。

 隙ができたと同時にチェイサーはシンゴウアックスで斬撃を三連撃叩き込んだが、効いている様子はなかった。

 

(これでもダメか)

 

 諦めずシンゴウアックスで黒いロイミュードの重い攻撃をいなし、返し技として斬撃を与えていくがほとんど効果がみられなかった。

 埒が明かないと判断し、チェイサーはシンゴウアックスにシグナルチェイサーを装填し、赤いボタンを押した。

 

『ヒッサツ! マッテローヨ!』

 

 エネルギー充填するのに時間を要すため、その間攻撃を防ぐか躱すことで時間を稼ぐ。

 

『イッテイーヨ! フルスロットル!』

 

 必殺技であるアクロスブレイカーが発動可能になり、エネルギーを帯びた刃を振り下ろす。

 

『はぁあああ!!』

 

 強力な真っ向切りと胴切りの二連撃を叩き込む。それにより大きな爆発が発生するも、黒いロイミュードの身体は無傷に近い状態であった。

 

『何!?』

 

 アクロスブレイカーを受けても平然と立っていることに驚きを隠せなかった。

 もう一度斬撃を叩き込むべくシンゴウアックスを振り下ろしたが、黒いロイミュードは両手をクロスさせることで受け止めてしまう。

 その後シンゴウアックスは叩き落とされてしまい、チェイサーの胴体へ強力な拳打が突き刺さった。

 

『がはっ!』

 

 身体を大きく吹き飛び、地面へと叩きつけられる。

 黒いロイミュードはシンゴウアックスを思いっきり踏みつけた。それにより信号機の部分にヒビが入り破損してしまう。

 

『フレア! 来て!』

 

 主力となる武器を失ったが、チェイサーはまだ諦めてはいなかった。

 マックスフレアを呼び出し、それを装填する。

 

『シフトカー! タイヤコウカン! モエール!』

 

 背中にあるホイーラーダイナミクスに炎のエフェクトが出現する。

 

(もう打つ手はない。今出せる最大の火力で押し切る!)

『キュウ二モエール!』

 

 ベルトのボタンを押し、限界稼働状態へ移行。

 一気に接近し、炎を纏った拳を何度も叩き込む。間に蹴りも挟みながら攻撃を加えるが、黒いロイミュードは一瞬怯む瞬間がある程度で、ダメージが入っている様子はなかった。

 

『ヒッサツ! フルスロットル! モエール!』

 

 チェイサーは距離を取り、ベルトのボタンを押し必殺技を発動させる。

 両足を蹴って大きく跳躍し、空中で飛び蹴りの姿勢を作る。

 右足に紫と炎のエネルギーを纏った一撃・チェイサーエンドを黒いロイミュードの胴体に突き刺さった。

 その一撃は流石に効いたのか、大きな火花を上げながら黒いロイミュードの身体が吹き飛んだ。しかし撃破までには至らず、すぐに何事もなかったように身体を起こしチェイサーの方へ視線を向ける。

 

(やはりダメか。もう打つ手が……)

 

 持てる力をすべて出したチェイサーだったが、すべて黒いロイミュードには効かなかった。

 黒いロイミュードは獣のような咆哮を上げると、全身が赤黒いオーラが出現。そしてチェイサーの方へ一気に距離を詰めると強烈な突進を繰り出してきた。

 チェイサーの身体は大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 すぐに身体を起こし、拳を作って立ち向かうもチェイサーの一撃が届くことはなかった。

 それよりも先に黒いロイミュードの拳打がチェイサーの身体に叩き込まれてしまったからである。

 何とか抵抗しようと立ち向かうも、黒いロイミュードの連続攻撃を防ぎ切ることは叶わず、一方的に攻撃を浴びてしまう。

 黒いロイミュードはチェイサーの腹部に一撃を入れ強引に前かがみにさせると、背中目掛けて両腕を振り下ろし、地面に叩きつけた。

 そして顔面を何度も踏みつけた後、強引に身体を起こし何度も顔面を殴りつけた。

 それによりチェイサーの左側のマスクが砕け、きょうやの素顔が露わになる。

 もうチェイサーに抵抗する力は残っていないのか、ピクリとも身体が動いていなかった。

 そのチェイサーの身体を両手で頭上高く上げると、黒いロイミュードは腹部目掛け強烈な膝蹴りを放つ。

 その一撃は腰のベルトに直撃し、マッハドライバー炎を破壊した。

 強制的に変身が解けたきょうやの身体は地面へ打ち付けられてしまう。

 虚ろな表情になり、全身には至るところにアザや傷がついていた。服はボロボロになり、もはや生きていかもわからない状態であった。

 その姿を確認した黒いロイミュードは、役目を終えたかのようにどこかへ飛び、姿を消してしまった。

 




・黒いロイミュード
 何者かがハートロイミュードのボディを元に改造を施した機械生命体。全身の色が赤黒くなっており、細部が若干異なっているが、それ以外はハートロイミュードと同じ外見をしている。
 対ライダー用のロイミュードなのか、チェイサーの攻撃をほとんど通さず圧倒的力できょうや=チェイサーを叩きのめしてしまう実力を持っている。獣のような咆哮以外発語がないため、理性はなく完全なる戦闘マシンとしての側面が強い。原点となったハートと同じ能力やデットゾーンがあるかは不明。
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