リリカルなのはINNOCENT~CHASER~   作:つねまる

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 全編に続き、後編も投稿します。


第十話(後編)

 

 エンジェルの元から逃げ出し、四人は八神堂へと避難していた。

 突然の来訪にはやては驚きを見せるも、きょうやの姿を見て事情を察し、グランツ博士とフローリアン姉妹を匿うことになった。

 そのほか同居しているレヴィ、ディアーチェ、シュテルやユーリはたまたまT&Hにおり、難を逃れていた。

 きょうやは三人を八神堂に預けると何処かへと出て行ってしまった。

 表情は暗く憔悴している様子であり、とてもではないが一人にするのは危ない状態であった。

 行き場所を聞こうとしたはやてだったが、グランツ博士が止める。

 グランツ博士が言うには一人で考える時間を与えた方がいいとのことであり、おぼつかない足取りで外へと出ていくきょうやを引き留めることができなかった。

 一先ず店を臨時休業の貼り紙を貼り、2階の部屋へグランツ博士とフローリアン姉妹を案内することになった。

 

―――――

 

 一方きょうやは誰もいない公園のベンチに座っていた。

 自分の中で母親の姿をコピーし、その上エンジェルの姿をした存在が言った言葉について考えようとするも、全然頭が働く状態ではなかった。

 顔を上げて空を見ると曇っており、今にも雨が降りそうな天気であった。

 薄暗い空を見上げるきょうやの表情は暗く、精神的に参っている状態であった。

 無理もなかった。自分がやっていたことが敵の思い通りのものであり、それによって多くの人達が被害にあっただけでなく、その根底に自分の父親が絡んでいることを一度に聞かされ、頭が追い付けるはずがなかった。

 

(あのロイミュードが言っていたことが本当なら、あれを作ったのは父さん? どうしてそんなものを……)

 

 思えば父親の仕事について、きょうやはほとんど知らずに育った。何かの研究員であることは知っていたが、それ以上のことは何もわからなかったのである。

 

(何でなの? 再婚までして新しい家族作ったのに、こんな……)

 

 父親に対する怒りや悲しみといった複雑な感情をコントロールすることが、今のきょうやにはできていなかった。

 

「……あれ? きょうやさん?」

 

 そんなきょうやに話しかける存在がいた。

 声のする方へ視線を向けると、そこにいたのはフェイトであった。

 その後ろにはアリシアもおり、二人とも心配した表情を見せていた。

 

「お兄さんどうしたの? すっごくひどい顔だよ」

「……あ、えっと……、ちょっと、考え事してて」

 

 思いがけないタイミングで二人に出会ってしまい、きょうやは驚いてしまう。

 

「何か嫌なことでもあったの?」

「それは……」

 

 フェイトの質問に、きょうやは答えることができなかった。

 今自分が悩んでいることを、この子達に知られるわけにはいかなかったからである。

 

「君達はこんなところで何しているの?」

「私たちはお母さんに頼まれて買い物に行って今から帰るところ」

「でもさっき電話があってお店でトラブルがあったみたい」

「トラブル?」

「うん。ウチのお店でもブレイブデュエルってゲーム実装してるんだけど、それが不調を起こしちゃったみたいで」

 

(……まさかもう、あいつが行動を起こしたのか?)

 

 急いで携帯を取り出し、はやてに連絡を入れる。

 予感は的中し、はやてのところのブレイブデュエルシステムも原因不明の機能停止を起こしてしまい、総出で対応に追われているとの内容の返事がきた。

 

「八神堂のところもブレイブデュエルが機能しなくなったみたい」

「えっ! そうなの!?」

「じゃ、じゃあ研究所は? あそこに何か起きたんじゃ……」

 

 きょうやの報告を受け、フェイトとアリシアは動揺を隠せていなかった。

 

「どうしよう。せっかく盛り上がってきたところなのに……」

「お、落ち着いてフェイト。きっとお母さんや博士が何とかしてくれるよ」

「で、でも、もし万が一のことも……」

「もう! 心配しすぎだよ」

「だ、だって。テストだっていっぱいやったのに、今になって動作不調なんておかしいよ。このまま動かないなんてことになったら……」

「…………。」

 

 不安からか、フェイトの目には僅かであるが涙を浮かべていた。その姿にアリシアはどうしていいかわからず、慌てふためいてしまう。

 

「大丈夫だよ」

「えっ?」

 

 不安になっている二人に、きょうやは声をかけ落ち着かせる。

 

「二人のお母さんは、すごい人だよ。こんなことで動揺するような人じゃないし、ましてや二人にそんな顔をさせないって言って頑張っているよきっと」

「そ、そうだよフェイト。お兄さんの言う通りだよ。と、とりあえずお店に戻ってみようよ? 何か進展があるかもしれないし」

 

 アリシアの提案にフェイトは静かに頷く。

 

「ありがとうお兄さん! 私達お店に戻るね!」

「うん。気を付けて帰ってね」

「あ、ありがとう、ございました」

 

 そう言い残すとアリシアはフェイトの手を取って駆け出した。

 その姿を見送ったきょうやは決心を固め、はやてのところへ電話を掛けた。

 

「もしもしはやてちゃん? 今大丈夫?」

「ごめんきょうやくん。手短にお願いできる? 今システム復旧させようと躍起になっているところやから」

「わかった。じゃあ手短に言うね」

「‟決着”をつけてくる。博士やみんなに伝えておいて」

「は? 決着って、まさかきょうやくん! それはあか……」

 

 止めようとするはやての発言を遮るように電話を切ると、研究所の方へ歩き出した。

 すべてを終わらせるために。

 

――――――

 

 ライドチェイサーを走らせ、研究所へと戻ったきょうやはドライバーを装着し建物の中へと入る。

 内部に人の気配はなく、静寂に包まれていたが、気にせずブレイブデュエルシステムを管理している中枢へと向かう。

 

『あら、戻ってきてくるには随分と速いわね。考えを改めてくれたのかしら?』

 

 きょうやがきたことに気づき、エンジェルの姿をした存在は振り向くと同時に、その姿を母親である茜の姿へ変えた。

 

「一つ聞きたいことがある。半年前の父さんの研究所を襲撃したロイミュードはお前の差し金なの?」

 

 質問に対し、茜は首を横に振る。

 

「複製したロイミュードの中に、私の意思に反して行動を起こした存在が起こしたことよ。貴方が‟エンジェル”と呼ぶロイミュードは私に従うのが嫌だったみたい。私への対抗策を聞き出そうと主人に近づいた可能性があるわ。もっとも、真相を知る必要は私にはないわ。過ぎたことだもの」

「……これ以上好き勝手させない。そのシステムは返してもらう」

 

 パネルを開き、シフトバイラルコアを装填する。

 

『シフトバイラルコア!』

『ライダー! 超! デットヒート!』

 

 超デットヒートチェイサーへ変身すると、両腕に紫色の炎を纏う。

 そして人間の、母親の姿をした存在へ向け高熱を帯びた拳を振りかざした。

 放たれた拳を茜はエンジェルの姿へ変わり、両手で受け止め、逆にそれを押し返す。

 首目掛け放たれた蹴りも、身体を反らすことで躱すが、続く後ろ回し蹴りまでは対応できず腹部に直撃してしまう。

 僅かに後退するだけでさほどアンドロイドへのダメージにはなっていなかったが、通常のチェイサーの時のような対応はできていなかった。

 

『くっ! 忌々しい。そんなに私と一緒に過ごすのが嫌なの? 貴方だって後妻であるあの女を認めてなかったはずよ!』

『それはもう過去の話だ。半年前のあの事件がなければ、僕は父さんと、新しい家族の元で暮らす予定だったんだ』

『何ですって!』

『けどもう、それも難しくなった。お前は父さんが作り出したもので、お前が起こした計画によって多くの人に迷惑がかかっている。その原因は間違いなく僕と父さんにある。なら、けじめをつける義務が僕にある!』

 

 決意を胸にチェイサーはエンジェルへ立ち向かう。

 前回同様、エンジェルは見えない障壁のようなものを駆使して攻撃を受け流そうとするも、チェイサーはそれをもろともしなかった。

 高熱を帯びた拳打と蹴りはその障壁を弾き、エンジェルへとダメージを与えていく。

 チェイサーの猛攻に防戦一方になるエンジェルは、隙を見て掌打や光弾を放ち反撃する。

 

『バースト! キュウ二! チョウ! デットヒート!』

 

 限界稼働状態へ移行し、チェイサーの身体から蒸気と紫色のエネルギーがあふれ出す。

 アンドロイドは光弾を放ち応戦するも、高速で動くチェイサーを捉えることはできなかった。

 チェイサーを装填は至近距離まで近づき、アンドロイドの身体へ連続で拳打を叩き込む。そして最後に胸部目掛け渾身の蹴りを放ち、その身体を吹き飛ばす。

 

『ぐっ……』

 

 エンジェルへダメージを与えることに成功するも、チェイサーになっているきょうやの身体が悲鳴を上げた。

 

(このままじゃ不味い。一気に決めるしかない!)

 ドライバーのパネルを開き、ボタンを押す。

 

『ヒッサツ! フルスロットル! バースト! 超! デットヒート!』

 

 最後の力を込めるように、右腕に紫色のエネルギーが収束する。

 

『なめるな!』

 

 それに対抗し、エンジェルは両手広げ、弓を引くポーズをとる。するとその間に光の巨大な矢を形成しチェイサー目掛け放とうとしていた。

 チェイサーは高速でエンジェルへ接近し、必殺のライダーパンチ繰り出した。

 放たれた必殺技は対象へ直撃。それと同時に光の矢がチェイサーのベルト内部にあるシフトバイラルコアに直撃したことで、両者の間に爆発が発生。

 チェイサーの身体は大きく吹き飛び、きょうやの姿へ戻ってしまう。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 壁と地面に身体を強く叩きつけられ、その場で悶えながらも何とか身体を起こす。

 きょうやの身体は既に限界を迎えており、ボロボロの状態であった。

 何とか立ち上がり、爆発が起きた後の燃える炎を見つめる。

 

(終わった。やっと、これで……)

 

 エンジェルを倒したと思ったきょうやであったが、それは早計な判断であった。

 火の中から機械の配線のようなものが突如出現した。

 それはエンジェルだった人型のアンドロイドの背中から出ていた。

 炎の中からできてきたのは、半壊状態のアンドロイドであった。

 女神のような表情を浮かべていた顔は半分無機質な内部骨格がむき出しになっており、吹き飛んだ左腕は不完全な再生により歪な形になっていた。配線は背中だけでなく腹部や腕、足からも飛び出ており歪な姿をしていた。

 

『キョウや? こノまマ、おワらせナイ。オ父さんのト三人でクラシマショウ……』

 

 言語機能も壊れているのか、語源がはっきりとしていなかった。だが徐々にではあるが破損した部位が再生しつつあった。

 きょうやはドライバーへ視線を向けるも、先ほどの一撃で内部のシフトバイラルコアは完全に破損していた。

 ドライバーの方も無傷とは言えず、変身機能が保たれているか怪しい状態であった。

 仮に変身できる機能が残っていたとしても、今のきょうやには通常のチェイサーへの変身能力は奪われているため、万事休すの状態であった。

 だが突如としてライドチェイサーが現れ、バイクからシンゴウアックスが飛び出る。

 飛び出たシンゴウアックスを取り、シグナルチェイサーを装填。壊れかけのエンジェルを完全に破壊すべく構える。

 

『キョウ、ヤ?』

「?」

『ダイ、丈夫、よ。モウ、オイて、イかない、カラ』

「!?」

 

 アンドロイドはもう抵抗する姿を見せていなかった。

 それよりも母親である茜の記憶を有していることもあってか、最後まできょうやのことを思っての発言を繰り返していた。

 その身体は徐々に修復しつつあり、このまま野放しにすれば再び全快のエンジェルと戦うことになるのは明白であった。

 

『オイて……』

『母さん。僕は、大丈夫だから……』

 

 ゆっくりとエンジェル・茜の記憶を持ったアンドロイドへ近づく。

 きょうやの目からは涙が流れており、止まることはなかった。

 

「安心して休んで。父さんが待ってるから」

 

 ゆっくりとシンゴウアックスを頭上へ構えた。

 

『イッテイーヨ!』

 

 エネルギーの充填が終わり、シンゴウアックスを振り下ろす。

 

 

 

 

「ああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 悲痛な叫びとともに、再生ができないよう何度も茜の記憶を持ったアンドロイドの身体へ振り下ろす。

 攻撃はシンゴウアックスのエネルギーが切れるまで続いた。

 アンドロイドの身体は、四肢がバラバラになり、身体は砕け、もはや原型をとどめていなかった。

 そのおかげもあってか完全に機能を停止しており、再生もしている気配はなかった。

 すべて終わったと感じたきょうやは両膝から崩れ、その場を動くことができなかった。

 

―――――

 

 気が付くと見慣れた天井がきょうやの目に入った。

 

(ああ。またここにお世話になっちゃったか)

 

 そこは八神家の天井であった。

 記憶を遡るも、復活したロイミュードが引き起こした事件の元凶を倒すことができたところまでしか覚えていなかった。

 

(そっか。あの後すぐに気を失ったんだっけ……)

 

 布団を取り、重い身体を起こすと同時に部屋のドアが開いた。

 ドアの方へ視線を向けると、そこにいたのはアインスであった。

 

「アインス、さん?」

「目が覚めたんだね?」

「……はい。また、迷惑をかけちゃいましたね」

「そんなことはいい。とてもではないが、大丈夫とは言えないくらいひどい顔だよ」

 

 アインスの言葉に、きょうやは何も答えることができなかった。

 

「僕は何とも……」

 

 ようやく出せた声は震えていた。そしてきょうやの目からは止まることのない量の涙があふれていた。

 

「こ、これは、その、ちがっ」

「いい、気にしなくていい。君は十分頑張ったんだ。だからもういい。もういいんだよ」

 

 状況を察したアインスはゆっくりきょうやに近づき、頭をそっと撫でた。

 その瞬間、きょうやは大きな声で泣き出してしまった。

 





 読んでいただきありがとうございました。次回を持って本作を終了したいと思います。
 最後の最後で粗削りな形になってしまい申し訳ありませんが最後までやり遂げたいと思います。
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