リリカルなのはINNOCENT~CHASER~ 作:つねまる
学校へ向かう道中はエイトリアン高校の生徒達が通る道なのか、かなりの数の生徒が登校していた。きょうやはその中で一人その高校の制服を着て歩いていたのだが、周りに視線が気になってかどこか落ち着きない動きが目立っていた。
そんな状態になりながらも何とか学校の校門の近くまでたどり着くことができたが、何故か今になって足取りが重くなっているのが分かった。
(か、覚悟していたとはいえ、やっぱり男子が一人しかいないのは……)
そしてついに校門に入り昇降口へ向かおうとするが、まわりの視線が一気のきょうやに集まった。
(ヒソヒソ、ヒソヒソ、)
昇降口へ向かおうと歩いていると、予想通り周りの女子生徒達が噂の的へとなってしまった。それに耐えられなくなったきょうやはその場から逃げるように駆け足で昇降口へ向かい、自分の下駄箱を探し始めた。
(えっと、確か僕の下駄箱は……)
しばらく探していると、自分の名前が書かれている下駄箱を発見する。きょうやはそれを開けて自分の靴を入れ、内履きへと履き替える。そして自分の教室を探す前に職員室を探すべく歩き出そうとするが、あることに気付く。
(ど、どうしよう。職員室の場所が分からない)
職員室へ向かおうとするが、どこへいけばいいか分からなかったのである。どうしようかとオドオドしているきょうやに対し、話しかける人物がいた。
「あの……」
「はい?」
きょうやに話しかけてきたのは、長い赤髪を三つ編みにした女子生徒であった。
「ひょっとして新入生ですか?」
「あ、えっと、今日からここに転校してきたものなんですが、職員室はどこなのかなぁと思って」
「え? 転校生? この時期にですか?」
「ちょ、ちょっと訳ありでして……」
あははと苦笑いを浮かべるきょうやに対し、女子生徒は不思議に思いながらもこのままきょうやが一人で職員室を探すのは難しいと思ったのか、
「そ、そうですか。職員室なら場所知ってるので私が案内しますよ」
「ほ、本当ですか?」
「はい。じゃあ早速行きましょうか」
「お、お願いします」
きょうやは声を掛けてくれた女子生徒の案内で、職員室へと向かった。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私アミティエ・フローリアンって言います。アミタって呼んでくださいね!」
「あ、はい。僕は四ノ宮きょうやって言います。二年生です」
「え! 私と同じ学年ですね。クラスはもう知っているんですか?」
「えっと、確か○組だったと思います」
「え! でしたら私と同じクラスですよ!」
「そ、そうなんですか!」
きょうやは自分に声を掛けた女子生徒、アミタと会話をしながら職員室へ向かっていた。アミタが気さくに接してくれるおかげもあってか、きょうやの緊張は徐々に解けていった。
「ここが職員室です」
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、でも私ときょうやくんは同い年なんですから、敬語で話さなくていいですよ」
「え、でも……」
「でもじゃないです。敬語だと他人行儀でちょっと嫌です」
「……わかったよ。ありがとうアミタさん」
「はい! どういたしまして。それではまた教室で!」
そう言うとアミタは一足先に教室へと向かった。
「失礼します」
きょうやは職員室のドアを数回ノックした後、ドアを開けた。
―――――――――
(き、緊張してきた……)
きょうやは一人、教室の前に立っていた。中では担任の先生がHRを実施しているのだが、緊張のせいか妙にそわそわして辺りをキョロキョロと見回してしまっていた。
「さて、知っている人もいると思うが、今日からこのクラスの生徒になる転校生を紹介するぞ。入ってこい」
担任からドア越しに声を掛けられたきょうやは、戸惑いながらも教室のドアを開けた。少しぎこちない動きではあるが教壇の上に上がり、視線を教室内に向けた。
(うわ。やっぱり女子ばっかり……)
辺りを見回すが、やはり女子ばかりであり、それだけでもう冷や汗が止まらない状態であった。
「おい。自己紹介(小声)」
「は、はい」
担任から急かされ、一歩前に出る。
「え、えっと、家の都合で今日からこの学校に転校してきました。四ノ宮きょうやです。よろしくお願いします」
(…………)
(え、なにこの空気。もしかして僕マズイことしたのかな)
挨拶を終えたきょうやであったが、冷や汗は挨拶前よりもひどくなっている感覚に襲われた。
「ええっと。何か質問があったら休み時間にでも聞いてくれ。きょうやの席だが、アミティエの隣が空いていたな。そこでいいか?」
「は、はい。ダイジョウブデス」
変に片言になりながらも席へと向かった。席につくと横から机を指でつついてくる人物がいた。隣に視線を向けると、アミタが小さく手を振ってきてくれたのである。それのおかげもあってか、きょうやの緊張がやわらぎ、その後の授業も変に意識せず受けることができた。
休み時間になるまでは……
―――――――――
「……(真っ白)」
「だ、大丈夫?」
「エエ、ナントカ……」
考えが甘かった。きょうやの表情からそう言った感情がにじみ出ているのをアミタは感じ取っていた。
何が起こったのかというと、休み時間になったと同時にクラスの女子ほぼ全員が、きょうやの席に集まってきたのである。元々この高校に来ている女子の大半は小中とも女子学校であったこともあってか、きょうやという男子の存在には皆興味津々だったのである。
その結果は言うまでもなく、大量の質問が殺到。その質問に答えようと奮闘した結果、休み時間だというのに休めるわけもなく、現在のように燃え尽きて真っ白状態になっているのである。
「ま、まあこの学校は女子高だったしね」
「そ、それにしてはみんなかなり質問してこなかった? そんなに僕って珍しい存在なのかな?」
「そりゃあそうだよ。この高校小中ともに女子校だった子もいるから、その子たちにとってきょうやくんは珍しいんだよ」
「そ、そうなんだ。てっきりもっと拒絶されるかと思ったんだけど」
「あ、今年の共学化を受けてそう言った考えの子も少なからずいるから、気を付けてね」
「…………え?」
さらっととんでもない発言をアミタからされたきょうやは、再び冷や汗があふれ出ていた。
「だ、大丈夫だよ。いざとなったら私もできる限り力になりますから、安心してください! こう見えても私、風紀委員長なので!」
「う、うん。ありがとう」
とりあえず気を取り直して、残りの授業を乗り切ることだけを考えることにした。
――――――――――
(……やっと終わった)
今日一日だけでごっそり体力を持ってかれたきょうやだったが、ようやく終わったという達成感で満たされていた。理由は授業が終わるたびに女子達からの質問が絶えず、ただでさえ女子と話すことに苦手意識を持っているきょうやにとってかなり大変なことだったからである。
(これから女子とかかわる生活が続くから、早いところ慣れないと……)
そんな事を考えながら荷物をまとめて教室を出て階段を下り、昇降口へ向かう。自分の下駄箱に向かうと自分の下駄箱の近くにアミタがいるのがわかった。
「あ、きょうやくん。今帰り?」
「う、うん。部活にも入ってないから(残っている理由もなかったし)」
アミタと何気なく話していて気づかなかったが、隣にアミタに似た女子がいることに気づく。アミタとは違い髪の色はピンク色であり、三つ編みではなくウェーブがかかった長い髪を下していた。
きょうやはアミタの妹に軽く会釈すると、妹の方も会釈を返してくれた。アミタはそれに気づくと妹の紹介を始めた。
「ああ、この子は私の妹のキリエです。この高校の1年生ですよ」
「どうも♪ キリエ・フローリアンです。お姉ちゃんから話は聞いてますよ。それにしても先輩すごいですね」
「え、どうして?」
「だって共学化したとはいえ、今年一人として男子が入らなかったこの高校に入るなんて、相当なもの好きですね」
「あはは。ちょっといろいろあってね」
(ダメだ。この高校の校長に頭下げられて入りましたなんて口が裂けても言えない……)
キリエの質問に対し、きょうやは苦笑いを浮かべてしまう。
「そ、そうだきょうやくん。これから暇ですか?」
「う、うん。今日は予定ないけど」
「あらーん、そうですか先輩♪ ならこれから私とお姉ちゃんでこれから買い物に行くんですよ。ただ最近家にホームステイで外国から来た子たちが増えちゃって……」
「……ひょっとして荷物持ちが必要なんですか?」
今までの会話から察したのか、二人に荷物持ちが必要なのかと聞いた。
「そ、そうなんですよね。私とキリエだけではちょっと厳しい量でして、本当ならもう少し後で来るはずだったんですけど、急遽前倒しになって」
「それが今日なの?」
「そーなんですよね~。 そこでこの高校で唯一の男手で尚且つお姉ちゃんのお友達になった先輩に白羽の矢がたったのでーす♪」
キリエから事情を聞いたきょうやはどんな表情をすればいいかと考えていたが、別に荷物運びの手伝いだけであるため、快く了承した。
「わ、分かったよ。僕で良ければいいよ」
キリエはしてやったりという表情をするが、アミタは申し訳ない表情をしていた。
「ご、ごめんねきょうやくん。今日知り合ったばかりだってのに」
「いえ大丈夫だよ。今日のお礼ってことで」
「あ、ありがとう」
その後キリエに催促される形で買い物へ駆り出された。ちなみに買い物の量は女二人では完全に容量オーバーであり、買出しででた大半の量の荷物をきょうやが持つことになったのは言うまでもない。
―――――――――
「……ぜぇ、はぁ、ぜぇ」
両手にいっぱいの荷物を持ったきょうやの表情はかなりしんどそうであった。きょうやは大丈夫だろうと考えていた自分を呪いたくなっていた。
「だ、大丈夫? きょうやくん」
「先輩。ひょっとしてかなり無理してたりします?」
「そ、そんなこと、ナイヨ……」
((いや無理してますオーラがにじみ出てるんだけど……))
「と、ところで、二人の家ってどこなの?」
「ああ、それなんですが、もうついているんだよね」
そう言ってアミタは横にある大きな建物を指さす。指さした方向に視線を向けたと同時に、きょうやは唖然としてしまう。
視線の先にあったのは、どう考えても普通の高校生の一戸建て住宅とは思えない(というかどう見ても一軒家ではない)建物であり、大きな研究所のイメージが強い建物だった。加えてさっきから白衣を着た学者さんのような人たちが出入りしているのが多く見えた。
「こ、ここ?」
「そうだよ先輩。ここが私達の家ですよ~」
「……oh」
言葉を失ってしまったきょうやだったが、すぐにハッと意識を取り戻す。
取りあえず二人に指示された場所に移動し、買出しの荷物を置く。その時にちょうどホームステイに来ていた子達とも顔を合わせることになったほか、まさかのフローリアン姉妹の父親に遭遇してしまったのは言うまでもない。