リリカルなのはINNOCENT~CHASER~ 作:つねまる
買出しの手伝いを終えたその日の夜。きょうやは一人コンビニに向かっていた。
(荷物運びに必死になってて、自分の食糧調達をするのを忘れてた)
あの後アパートへ戻ったきょうやだったが、冷蔵庫を開けた時飲みのも以外入っていないことに気付き、買出しに出ている状態であった。
(それにしてもすごい量だったな……。あんな量の買出し二人だけだったら絶対無理だよ)
そんなことを考えて歩いていたその時、
「キャアアア!!」
ちょうど通っている道の反対側から女性の悲鳴が聞こえた。悲鳴を聞いたきょうやは目の色を変え、駆け出した。
―――――――――
きょうやが向かおうとしていた場所では、長い銀髪の女性が怪しい雰囲気の男に迫られていた。傍から見ればナンパに見えなくもないのだが、この男の正体を知ってしまった女性は恐怖に震えていた。先ほどの悲鳴はこの女性のものであり、この男がこの場で起こしていた一部始終を運悪く目撃してしまっていたのである。
逃げ場を失い、壁際まで追い込まれてしまい、成すすべない状態であった。
「見てしまったのですね? お嬢さん」
「あ、あの……」
「綺麗な顔ですね~。私の……」
「”コレクション”になってくれませんか?」
そういうと男は狂ったように笑い出したと同時に、データのようなものが身体を覆った。覆われたものが身体から消えた瞬間、人間とは異なる姿へと変わっていた。蜘蛛の意匠をもち、胸にナンバープレートのようなものをつけたアンドロイドともとれる”異形”へと姿を変えたのである。
男の変わった姿を見た女性は、表情をさらにこわばらせる。その表情をみて気分が良くなったのか、再び高笑いを上げた。
女性はその隙をつき、逃げ道を見つけるとすぐに駆け出した。
『おや~。逃げるんですか~』
異形から少しでも離れようと、全力で走りだす。
『待ちなさーい。なぜ逃げるんです~』
逃げている女性の姿を見て楽しんでいるのか、異形は遊び感覚で追いかけ始める。
女性は捕まる訳にはいかないと、必死に逃げ続けた。
(捕まったら、殺される!)
本能的にそれを察した女性は死に物狂いで走り続ける。なるべく簡単には追いかけてこれないよう細い道を選んで通っていくが、いつの間にか広い道にでてしまう。近くに止めてあった大型の車を見つけ、そのバックサイドに隠れ身を潜めた。荒くなった息を整え、自分が走ってきた道を確認するため、隠れている場所から顔をそっと出す。
道には誰もおらず、追ってくる気配もなかった。ホッと胸の撫でおろし、ゆっくりと立ち上がる。そしてその場を離れようと歩き出した。
『見-つけた』
その声を聞いて女性が顔を上げると、目の前に先ほどの異形がたたずんでいた。
「ひいっ!」
逃げきれたと思っていた女性の表情は信じられないと言わんばかりのものであり、身体が小刻みに震えていた。震える身体を何とか動かし、もう一度逃げようと後ろへ少しずつ後ずさる。
『鬼ごっこは終わりだ』
だが異形はそれを許さず、ゆっくりと片腕を上げ、周辺に何かを発した。
(あ、あれ。動けない)
異形の放った何らかの力により、女性の身体は自由を失い、ほぼ止まっているようにゆっくりとした動きになってしまう。女性だけでなく周辺にも影響を及ぼしており、今にも降り出そうとしていた雨粒までもゆっくりと降下していた。
『さてそれでは、私のコレクションになって貰いましょうか!!』
再び異形が片手を上げる。すると女性の持っていたバックがゆっくりと地面に落ちてしまう。手に持っていたはずのバックが落ちたので、何事かと思いゆっくりと右手に視線を向ける。
「……!?」
自分の右手を見た女性の表情は驚きに変わっていた。視線の先にある右手は虹色に輝く糸状のものへと徐々に変わっており、ゆっくりと右腕を侵食していき腕全体が消滅しかけていた。
「嫌あああぁぁ!!!!」
『あははは!! いいですよ。その顔! 美しい!!』
「嫌ぁ、嫌あぁ……」
女性は逃げることができない上、徐々に自分の身体が糸状のものへ変えられてしまう恐怖で頭がいっぱいになっていた。目には涙がでていたが異形が起こした怪奇現象のせいで流れることはなく、目元で一杯になっていた。
「だ、誰か……」
女性が助けを求めたその時、レールのような小型の道路が出現した。その上を一台の”黒いミニカー”が走り、異形へと向かっていった。
黒のミニカーはそのまま異形に突っ込むことで怯ませ、持ち前の小ささを利用して翻弄する。
『く、くそっ! 何なんだこれは!』
突如現れた物体に驚く異形だったが、叩き落とそうと腕を振り回す。異形が黒のミニカーに気をとられている中、女性の横を通り過ぎる存在がいた。
異形はそれが接近してくる存在に気づき、それに向かって拳を振るう。しかし振り下ろされた拳は簡単に受け止められ、組み付かれて動きを封じられてしまった。
『き、貴様は!』
異形は自分に組み付いてきた存在を知っていた。青みがががった白がベースの紫と黒。頭部にある四本の角を彷彿とさせるアンテナにオレンジ色の複眼を持った存在が目の前にいたのである。それは異形にとって忌まわしい存在であった。
『また邪魔をするのか”仮面ライダー”!!』
女性を守るように立ちはだかった存在。それは悲鳴を聞きつけ、”仮面ライダーチェイサー”へと変身して駆けつけたきょうやであった。
『やっと姿を見せてくれましたね。ロイミュード!』
『ふん! 私もあなたに会えてうれしいですよ。憎きあなたを倒すことができるのですから!』
異形、ロイミュードはチェイサーの手を払い、再び拳を振るうが、チェイサーはそれを前屈みになることでそれを躱す。
ロイミュードはそれを読んでいたのか、躱して自身に向き直ったチェイサーの胸部目掛けて二打目の拳を入れる。しかしその拳は胸部に当たる寸前でチェイサーが両手で受けとめてしまう。チェイサーはその腕を右側に引き込み、前にバランスを崩したロイミュードの顔面に拳をいれて一瞬ひるませた後、そこからロイミュードの胸部に左のストレートを入れる。
『はぁ!』
さらに軽く跳躍してからの右ストレートを立て続けに入れる。
『ぐはっ!』
チェイサーの猛攻を受けたロイミュードは吹き飛ばされ、身体を地面に叩きつけられてしまう。
『くそっ!』
すぐに立ち上がって反撃するが、それらはすべていなされてしまい、裏拳や回し蹴りなどの返し技を受けてしまう。
『こ、この!』
苦し紛れに拳を振るが、チェイサーは簡単に受け止めてその腕を弾き、胸部に蹴りを入れる。
『ぐわぁ! な、なぜだ……』
チェイサーはベルトのパネルを上げ、傍にあるボタンを押す。
『ヒッサツ!』
電子音が流れた後、上げたパネルを拳で下げる。
『フルスロットル! チェイサー!』
チェイサーは両足を使って高く跳躍すると同時に、右足にエネルギーが集中する。エネルギーを纏った右足を突き出し、空中で飛び蹴りの態勢を作る。
『はああああ!!』
『く、くそおお!』
必殺技・チェイサーエンドがロイミュード目掛けて繰り出された。
ロイミュードは両指から光弾を出して中断させようとするが、その攻撃に意味はなく放たれた右足は胸部に直撃した。
『ぎゃあああ!!』
断末魔とともにロイミュードは爆発する。爆炎が止むとそこには片膝立ち状態のチェイサーがおり、すぐに立ち上がり真っ先に女性の元へ駆け出した。
女性の手を侵食していた糸はなくなっており、元の腕に戻っていた。ロイミュードが起こしていた怪奇現象はなくなり、元の空間に戻った結果ゆっくり降っていた雨粒が大雨となって降り出した。
降りしきる雨の中、チェイサーはロイミュードの被害に遭ってしまった女性を抱えていた。女性はよほど恐かったのか、終始泣き続けてしまっていた。
「うぅ、ひっく」
『……もう、大丈夫ですよ』
女性はチェイサーの声を聞くと、ゆっくりと顔を上げた。女性はチェイサーの存在に驚きながらも、どこか安心できる心地よさを感じ取っていた。
チェイサーはそれ以上は何も語らず、抱きかかえた女性を安全な場所へと連れていくべく歩き出した。
―――――――――
「はぁ~、なんとか間に合ってよかった」
アパートへと帰ってきたきょうやだったが、その表情は浮かないものだった。
(この街にロイミュードが出てきたってことは、りんなさんが持ってきた情報はあながち間違いはないってことになる。そうなると……)
きょうやが考えていたのは奴らの目的であった。この街にロイミュードが集まり、何を起こそうとしているか。そんなことをいろいろと考えてしまうが、何が起こるわけでもなかったため考えるのをやめる。
(今考えても仕方ない。とにかく明日りんなさんに報告してからにしよう)
そう自分の中で解決するが、一つ忘れていたことがあったのを思い出す。
「……あ、ごはん買うの忘れた」
もう一度行こうかと考えたが、外が大雨であったことを思い出し、夕飯は我慢して寝ることにした。
――――――――――
チェイサー(きょうや)に助けられた女性は一人、ずぶ濡れになりながらも自宅へ帰っていた。
「た、ただいま」
そう言うと、栗色のショートカットの少女と赤髪を二つに三つ編みした少女がドタドタと音を立てて玄関に走ってきた。
「アインス! 何があったん! 今日大学に来てないって連絡がさっき来て……」
「おい、なんかあったのか? てかどうしたんだよそんな汚れて」
「あ、あの、これは……」
銀髪の女性、リインフォース・アインスはこの二人、八神はやてとヴィータになんて言えばいいか迷っていた。先ほど起きたことは本当なら起きるはずもない非科学的なことであるため、信じてもらえるかという考えもあって言えずにいたのである。
「主、少し落ち着いて下さい。ヴィータも」
「そうだよ。取りあえずずぶ濡れの状態だと風引いちゃうから、お風呂入ってきたら?」
慌てる二人をなだめるように、後からピンク色の髪をポニーテールにした女性と金髪のショートカットの女性がやってきた。
「う、うん。ありがとうシャマル。そうさせてもらう」
そう言うとアインスは重い足取りで浴槽に向かった。
「なあシグナム。アインス何かあったのかな?」
「分からん。だがあの表情を見るかぎり、ただ事ではないのは確かだ」
「どういうことだよ」
「アインスの表情。あれは明らかにひどく恐ろしいことを経験してきた人間の顔だ。とにかく今は下手なことは聞かず、様子を見よう。主もそれで構いませんか?」
ポニーテールの女性、シグナムがそう言うと二人は渋々納得した。
―――――――
お風呂から上がったアインスは何も言わず、部屋にこもってしまい、ベッドに飛び込む。枕を頭の上に乗せ目をつむるが、先ほどの出来事を思い出してしまう。
「くっ!」
身体の自由を奪われ、危うく殺されかけた記憶は彼女にとっては忌まわしいものであった。しかしそれ以上にアインスの心には、あの戦士の存在が残っていた。
「あの人は誰なんだろう? 私を襲ったのとは違ったし、私のことを助けてくれたし……」
あの雨の中、恐くて泣き続けてしまった自分を安心させてくれた存在。彼は何も言わず、自分を守ると安全な場所まで送ってくれた。その姿はアインスの中で大きくなっており、安心感が生まれていた。
「また、会えるのかな? そしたらきちんとお礼を……」
余程疲れたのか、アインスはそのまま寝落ちしてしまった。
後日家族から質問攻めに遭い、夜間学校の方からも連絡がきて大変な思いをする結果になってしまったのは言うまでもなかった。