リリカルなのはINNOCENT~CHASER~ 作:つねまる
何気ない休日。二日連続でロイミュードとの戦闘が続いていたきょうやは、のんびりとした時間を過ごしていた。
またロイミュードが来るのではないかという不安が頭をよぎったが、現状できることがないためとりあえず待機という形をとっていた。
現在は先日買い溜めしたものを袋から出し所定の位置に置く、棚などにしまうなどの作業をしていた。その際シグナルチェイサーとシフトプロトスピードも手伝ってくれているのか、床に置かれている荷物を押していた。
「ありがとうね」
きょうやはシグナルチェイサーとプロトスピードに感謝しつつ、作業を進めていく。
一通り作業が終わり、特にすることがなくなったきょうやはベッドへと転がる。やることを終えベッドの上で天井を見ながらボーっとしていたが、瞼を閉じると半年前のあの光景が思い浮かんでしまう。
―――――――
「キョウヤ頼む。勝手な願いだと分かっているが、守ってくれ」
半年前のあの日。燃え盛る建物の中で自分の父親からあの頼みごとを受けた瞬間を思い出していた。
「あの子達を守ってほしい。頼む……」
そう言った後、父親はポケットから写真を取り出しきょうやに渡した。
「それは、お前の……」
―――――――
(父さん……)
きょうやは閉じていた目を開けた。ベッドから起き上がり、棚にしまっていたアルバムの中にある一枚の写真を取り出す。
そこに写っていたのは父親ではなく、父親の"再婚相手"とその子供の写真であった。
きょうやの母は、彼が物心ついて間もない頃に病気で亡くなったのである。取り出した写真に写っている女性は、母が亡くなって心が荒んでいた父を支えてくれていた人であった。しかし当時まだ子供であったきょうやは状況を理解することなど出来るわけもなく、女性を受け入れることができず会うたびに心にもない言葉を浴びせてしまうことが多々あった。
(今更会えるわけがないよ。あれだけひどいことを言った僕が……)
そんなことを考えながら写真をアルバムに戻し、元の位置へと戻した。もう一度寝っ転がるべくベッドへ向かおうとするが、机の上に置いてあるスマホが鳴っていることに気付き慌てて駆け寄る。
「あれ? アミタ?」
スマホの画面にはアミタの名前があり、電話の主は彼女であった。きょうやは画面に表示されている電話のボタンを押し、電話に出た。
「はい。もしもし」
『あ、きょうやくん? 今大丈夫ですか?』
「うん。大丈夫ですけど、どうしたの?」
『あのですね。きょうやくんって生徒手帳持ってますか?』
「生徒手帳?」
アミタからのいきなりの質問に戸惑いながらも、きょうやは学校に持って行っているカバンの中確認する。
「あれ? ない!」
カバンの中をいくら探しても生徒手帳を見つけることは出来なかった。出し入れする必要がなかったため常にカバンの中にしまっているはずなのだが、一向に見つけられなかったのである。
(まさか!)
思い当たる点は一つあった。
先日のロイミュードを倒した後逃げるようにして走っていったため、その際落としてしまった可能性があった。
「あ、あのアミタさん? 生徒手帳がないと何かマズイことでもあったりしますか?」
『えっとですね。それがないと定期試験が受けられないんですよ。再発行するにも時間がかかってしまいますし、発行にはお金がかかってしまいますから……』
「そう、なんだ……」
意外とマズイ状況に立たされていることを知ったきょうやは頭を悩ませていた。どうしようか考えているとアミタが口を開いた。
『もしかして、落としたりしました?』
「あ、うん。たぶん。でもどうしてアミタが?」
『実は私の知り合いの人で、私の学園の男子生徒の手帳を拾ったって人がいたんですよ。それでうちの学校で男子生徒はきょうやくんしかいないから、もしかしてって思いまして』
「ほ、本当?」
『うん。ただその人、きょうやくんに直接渡したいって言ってまして』
「直接?」
『うん。どうやらその子、きょうやくんのこと知ってるみたいで、ぜひとも会わせてほしいってお願いされちゃったんですよ。八神はやてって人なんですけど、きょうやくん知ってますか?』
「八神はやて? いや特に聞いたことはないけど、その子が僕の生徒手帳を拾ってくれたんですか?」
『そうそう。それでもし直接会ってくれるなら、八神堂に来てほしいそうで』
「八神堂? ひょっとして古書店のことですか?」
『知ってるますか?』
「うん。僕の住んでるアパートの近くなので、今すぐにでも行けるよ」
『そうですか。じゃあこっちの方で八神堂の方に連絡しておきますから、直接向かってもらってもいいですか?』
「うん。分かった」
そう言うと電話を切り、きょうやは出掛ける準備を始める。
一応何が起こるか分からないため、ドライバーとブレイクガンナーが入ったカバンを持って行くことにし、玄関で靴を履いて出かけていった。
―――――――
「えっと確かここら辺に……」
駅前についたきょうやは、以前来た時の記憶を頼りに八神堂の場所を探す。
「あ、ここか」
時間がかかるかと思われていたが、八神堂と大きく書かれたお店を見つけることに成功する。入り口は開いており、入り口付近から見ても分かるほど本が大量に置かれていた。
早速入ろうときょうやが足を動かそうとすると、突然声が聞こえた。
「き、君は!」
聞き覚えのある声と感じたきょうやは声のした方へ視線を向ける。
「……あ」
きょうやの視線の先にはおとといから何かと出会い続けていた銀髪の女性、リインフォース・アインスが立っていた。突然の出会いにきょうやは思わず声が出てしまい、少しの間呆然としてしまう。
その後きょうやは店とアインスを交互に見た後、アインスにこう尋ねた。
「……あの、ひょっとしてこのお店の店員さんですか?」
「あ、ああ。ここは私の家族で経営している古書店だけど、何か用かい?」
「いや、その、八神はやてって人が僕の生徒手帳を拾ってくれていると聞いてきたのですが……」
「そ、そうなのか(まさか本当に来てくれるとは)。その人は私の主で、ここの店長だよ。何なら今呼んでこようか?」
アインスに言われ、きょうやはぎこちない接し方になりながらもお願いする。
一足先に店に入ろうとしたアインスだったが、何かを思い出したのか店に入らずきょうやの方へ近づき、その手を取った。
「え、な、」
突然のアインスの行動に驚きを隠せなかった。
アインスは誰が見ても綺麗な部類の女性であることは明白であり、その女性からいきなり手をつかまれたのである。
きょうやのように全くと言っていいほど異性に免疫のないいわゆる草食系男子にとっては心臓が跳ね上がることであり、その証拠に顔が真っ赤になってしまっていた。
「また昨日のように逃げられては困るからな。一緒に行こう」
「え、いや、でも……」
「いいから。とにかく中に入ってくれ」
アインスに手を引かれながら、きょうやは店の中へと入っていった。
「主。ただいま帰りました」
店内に入ると、アインスはきょうやの手を離して店長を呼びに行った。
(一体どんな人なんだろう)
きょうやは八神はやてという人物が気になっていた。確かに古書店にしては立派な作りであったため、何かしらの裕福な家系の人物なのではないかと考えていたからである。
そうであった場合に備え、失礼がないようにしなければという気持ちになり、無意識に身構えてしまっていた。しばらく出口の前で待っていると、この店の店長である八神はやてが出てきた。
「おお! 待っとったできょうやくん! 昨日はありがとな」
そう言ってやってきたのは栗色のショートカットの少女であった。
きょうやが予想していた人物とはだいぶ違ったため、開いた口が塞がらずポカーンとしてしまっていた。
「ん? どないしたん?」
「いや、えっと、八神はやてさんで間違いはないんだよね?」
「はい。私がはやてですけど」
まんべんの笑みで言われてしまい、きょうやは理解が追つかない状態であった。どういうことなのか分からず、アインスへ視線を向けることで助けを求めた。
「我が主はこう見えても、飛び級で大卒の社会人なんだ。驚かせてしまって申し訳ないが……」
「えっ! 飛び級! そ、そうなんですか!?」
「ふふん。どうや。驚いたやろ」
「う、うん。すごくビックリしました」
「まあ私達も"君の正体"知ったときは今の君みたいに驚いてしもたけどな」
「いや、そんな……」
はやてが何気なく言った言葉を聞いたきょうやは、自分の額から冷や汗が流れてしまっていることに気付く。
「あ、あのはやてちゃん?」
「なんや?」
「あの、確認したいことがあるんだけど、昨日あの後きちんと逃げてくれたんだよね?」
「ああ、そのことなんだけど、物陰からバッチリ見さしてもらいましたよ(グッ)。」
「…………」
(ええええええ!!)
親指を立てながらドヤ顔で言われたきょうやは心の中で叫んでしまう。
はやての話を聞いたきょうやは内心かなり焦っており、どうすればいいか考え込んでしまい黙り込んでしまう。
「あ、でも安心してくださいね。まだ私の家族以外に言ってませんから」
心中を察したのか、はやてはきょうやを安心させるために家族以外には言っていないことを伝える。
(また逃げられても困るしな~)
とりあえずこのまま立ち話しても意味がないため、はやてはきょうやを二階にある部屋へ案内した。
―――――――
部屋につき、はやてとアインスが入った後きょうやも恐る恐る中へと入ると、中にははやての家族の人達が全員座って待っていた。
中は畳部屋になっており、中央には大きな長方形の木製の机が置かれ、テレビなども設置された和式の部屋であった。
きょうやはそのまま誘導され、はやてが座った座布団の向かい側に準備されていた座布団に座った。
「ああ、ごめんな。突然こんな大人数で囲んでしまって。自己紹介しとくな。聞いてると思うけど、私がこの八神堂の店主させてもらってる八神はやてって言います。よろしくね」
「あ、えっと、どうもご丁寧にありがとうございます」
「で、今私のとなりにいるのが末っ子のヴィータ」
「八神ヴィータって言います。こ、こんにちは」
「その隣にいるのがシャマル」
「初めまして。八神シャマルです。一応三女です」
「反対側にいるのがシグナム」
「八神シグナムだ。よろしく頼む」
「で私のとなりにいるのがアインス」
「改めてよろしく。八神リインフォース・アインスだ。長いから、アインスでいいよ」
「ほんで最後はウチで飼ってる狼のザフィーラ。一応喋れたりするよ」
「……よろしく頼む」
一通り自己紹介を受けたきょうやはこちらもしなければと思い、口を開いた。
「あ、ありがとうございます。えっと、僕は……」
「ああ大丈夫大丈夫。みんな君の名前は知っとるからええよ」
緊張気味のきょうやを落ち着かせようとしてか、はやてが口を開く。一通り話し終えた後本題に入ることとなった。
「えーとそうやな。取りあえずこれは返しとくね。元々君を呼んだ理由の中にはこれも入ってるから」
はやてはポケットの中から生徒手帳を取り出し、きょうやにそれを渡した。きょうやはホッとした表情を浮かべながらそれを取ろうと手を伸ばす。
「これで君を呼んだ理由の一つは終了として、ほんならもう一つの本題入ろっか」
「え、まだ何かあるのですか?」
「うん。というかこっちの方が重要なことだし」
唐突に出たはやての言葉にきょうやは動揺してしまう。 理由としては、自分がチェイサーであることをネタに何かされるのではないかという考えが少なからずあったからである。
はやてやその家族を見る限りその心配はないと思われるが、どうしても考えてしまうのである。
「アインス? きょうやくんに言いたいことがあるんやろ? 今のうちやで」
はやてがそう言うと、隣に座っていたアインスが少し緊張気味に出てきてきょうやの前に正座で座り込む。きょうやはどういう状況なのか理解が追いつかず不思議な表情を浮かべる。
「いや、その、だな」
「……?」
「ずっと言えなかったことがあるのだが、その、あの雨の夜の日。私を助けてくれたのは君なんだよね?」
「え?」
突然の質問に戸惑ってしまうが、ここまできて隠しても意味はないと考え静かに頷いた。
「その、だね。君にはまだお礼も言えてなかったから、その、ありがとう」
顔を真っ赤にしながらも、アインスはきょうやにお礼を言った。
ただ言われた側であるきょうやはきょとんとした顔になってしまい、状況がうまく呑み込めないでいた。
「え、あの、ひょっとして僕が呼ばれた理由って」
「いや~実はな。アインスがあの夜のことを引きずっててな。聞くとせっかくきょうやくんが助けてくれたのに何も言わずに突き放すようにして君から離れたことに申し訳なく思ってたんよ。それで何とか君にお礼言える機会はないかなぁって思ってた矢先に昨日の出来事があったから、手帳返すついでに言えたらって思って今日呼んだんよ。それに私も昨日助けてくれたお礼したかったからちょうどいいなって」
はやての補足説明を受けたきょうやは、若干戸惑いを見せながらも無性に嬉しい気分になっていることに気づいた。
「あの、わざわざありがとうございます。そう言ってくれたのは初めてだったので、すごく嬉しいです」
「えっ? そうなん? なんか敵さんから仮面ライダーってカッコイイ名前で言われてましたけど」
「数年前でしたらそうなんですけど、みんなもう忘れてるんですよ。だからたまに人によってはあの姿になった僕も奴らと同類に見られることもありますから……」
「……え?」
何気にとんでもないことを口走ったきょうやに、八神家の面々は驚きを隠せなかった。その表情を見て気づいたきょうやはあわてて訂正する。
「ああ、でも、もうだいぶ前のことなので気にしないで下さい」
そう言って場を和ませようとするが、全員複雑な表情を浮かべていた。その中で一家の主であるはやてがきょうやに対しある提案出してきた。
「なあきょうやくん。これも何かの縁だと思うし、困ってることない? お礼って訳やないけど、私らでよかったら力になるよ」
「いえ、そんな、大丈夫ですよ。特に今は……」
「……ほんま?」
「……ええっと」
返答に困ってしまうきょうやだったが、一つだけ気になることがあったのを思い出した。
「そうだ八神さん。聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」
「ん? ええよ」
「あの、この近くに、高校生でもバイトができる場所とかありますか?」
その質問に対し、はやてはきょとんとした表情を見せた。
(あれ? いきなりは不味かったかな)
不安になっているきょうやをよそに、はやては少し考え込んだ後あることを思いつく。はやては少しニヤつきながら、きょうやにある提案を持ちかけた。