リリカルなのはINNOCENT~CHASER~   作:つねまる

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第五話

「よいしょっと」

 

 とある休日。きょうやはバイトという形で八神堂にて働いていた。現在行っているのは本の入った大きめのダンボールを運び出し、在庫を保管する倉庫へ運ぶ作業である。

 服装は一応バイトという形であるため、白のYシャツと黒のズボンの上に八神堂のエプロンをつけた格好をしていた。

 バイト代が少なからず出るため生活費を少しでも自分で確保できる状態であり、時折はやての誘いで夕飯を一緒にさせてもらえるほど交流が深くなっていた。バイトを始めてから八神家の家族の方と交流ができ、何故かはやてやヴィータになつかれていた。

 

「おーいきょうや。今いいか?」

 

 倉庫にダンボールを運ぼうとした時、ヴィータから声をかけられる。

 

「どうしたの? ヴィータちゃん」

「はやてがそれ終わったらレジに来てくれだって」

「レジに?」

「うん。今シャマルがやってくれてるけど、一人だと対応が難しいと思うからって」

「わかった。もう少しで終わるから行きますって伝えてくれない?」

「おう。分かった」

 

 ヴィータは要件を済ませるとすぐに走って行ってしまう。それを見送ったきょうやは残っているダンボールを倉庫へ運ぶ作業を再開した。

 作業を終え、レジの方へ戻ると、既にシャマルが対応していた。しかしお客の数が多く、なおかつシャマルがあたふたしているせいかうまくさばき切れていない状況であった。

 

「すみませんシャマルさん。遅くなってしまいました」

「あ、きょうちゃん。助けて~」

 

 きょうやの姿を見た瞬間、シャマルは涙目になって助けを求めてきた。きょうやが働くようになってから八神堂のレジ対応や品ぞろえが前よりもよくなっており、現在は即戦力として活躍することが多い状態であった。

 

「お客様。こちらにどうぞ」

 

 空いているレジにシャマルの方に並んでいるお客を誘導する。一番混む時間帯であったが、きょうやは慣れた手つきで会計をしていく。

 

「シャマルさん。はやてちゃんは?」

「今ヴィータちゃんと買出しに行ってるの。時間帯的に大丈夫だと思って行かせたんだけど」

「あ、そうだったんですか(だからさっきはやてちゃんが僕を呼んでいたのか)」

 

 とにかく今はこの状況を何とかしようときょうやは奮闘することにした。

 

――――――――

 

「ありがとうねきょうちゃん。おかげで助かったよ」

 

 一通り対応を終えたきょうやとシャマルは、二階にある居間にて休憩していた。机にはシャマルが用意してくれた温かいお茶があり、きょうやは冷ましながら少しずつ飲んでいた。

 今の時間帯はシャマルときょうやしかいなく、はやて達はまだ買い出しから帰ってきていなかった。

 

「そうだ! きょうちゃんお昼予定ある?」

 

 突然のシャマルの質問に驚きながらも、特に予定はないため何もないと答えた。

 

「だったら。お昼食べていかない? はやてちゃんからさっき連絡があってね。お友達とご飯食べてくるから済ませててってきてね。一人で食べるのもあれだから、一緒にどう?」

「……え? でも」

「大丈夫だよ♪ それにいつもウチで夕飯食べていってるんだから。気にしないで」

「わ、分かりました。ありがとうございます」

 

 きょうやがそう言うと、シャマルはすぐ準備するねと言って台所へ行ってしまった。

 

(あれ? そう言えば、シャマルさんのご飯って食べたことないな。確かいつも料理しようとするとヴィータちゃんやシグナムさんがすごい剣幕で止めてたような……)

 

 そんな考えが思い浮かんでいたが、特に気にすることもなく料理ができるのを待つことにした。

 しばらくしてエプロン姿のシャマルが台所から出てくる。その手には料理が盛りつけられた皿を持っており、エプロン姿も相まってとても魅力的であった。

 きょうやはその姿にドキドキしてしまうが、それを知られまいと平静を取り繕っていた。

 

「出来たよ~。準備手伝ってもらってもいい?」

「あ、はい」

 

 きょうやはシャマルからお皿を受け取ると、それを机に持って行く。後からシャマルがもう一つの皿を持ってきてくれたことで準備が終わり、互いに向かい合う形で座った。

 

「じゃあ食べよ! きょうちゃんの口に合うか分からないけど……」

「いえ、そんな。いただきます」

 

 そう言ってきょうやはフォークを手に持つ。シャマルが作ってくれたのは切った玉ねぎやベーコンが入っているナポリタンであった。

 見た目はすごくおいしそうであり、きょうやはなんのためらいもなく料理に手をつける。フォークで麺をすくい、口の中へと入れた。ゆっくり咀嚼し、最後にごくりと飲み込む。

 

(あ、普通においし……)

 

 美味しいと思っていた次の瞬間、きょうやの身体が硬直した。そして見る見るうちに顔色が青ざめていき、額からは冷や汗のようなものが出ていた。

 

「……」

 

 きょうやは言葉を失ってしまう。しばらく動くことができず、思考までもが麻痺しかけていた。

 

「あ、あの、シャマル、さん? これって」

「どう? 美味しい? はやてちゃんほどじゃないけど、おいしく作ったんだ。普段から料理したいんだけど、みんなから止められて全然させてくれなくて……」

「そ、そうだったんですか」

 

 この瞬間。なぜ八神家がシャマルに料理をさせないのかを、身を持って知ってしまった。

 女性が必ずしも料理ができるというわけではないことはきょうやも重々分かっていることだったのだが、ここまでとは予想しておらず動揺してしまう。

 

(ど、どうしよう。これをすべて食べるとなったら、ただじゃすまないかもしれない。でも……)

 

 そんなことを考えながらシャマルの顔を見る。その表情は期待に満ちたものであり、シャマルに対しこの場で言うべき言葉は一つしかなかった。

 

「え、えっと。お、美味しいですよ」

 

 顔色を悪くしながらも、きょうやは美味しいという言葉をかける。

 それを聞いたシャマルの表情が明るくなり、嬉しい表情を浮かべていた。

 

「ほ、本当!? よかったぁ~。みんな私の料理不味いって言って、全然食べてくれないのよ。特にシグナムとヴィータちゃんが」

(う、うん。あの二人ならそうだよね……)

 

 きょうやは料理へと再び手を付けようとしたが、中々手が動かないことに気付く。頭では食べなければと考えているが、身体が完全に拒絶してしまっていた。

 

「いっぱい食べてね♪」

 

 この一言により、きょうやは選択の余地はなくなってしまった。

 ただでさえ美人の部類に入るシャマルの笑顔を見て食べないなど、許されることではなかった。男であり、しかも生まれてから今まで一度も彼女が出来なかったきょうやにとって尚更であった。

 

(はやてちゃん、ごめん。今日はもう上がらさせてもらうね)

 

 そう言ってきょうやは皿を持ち、一気に料理を口に運んでいく。その度にきょうやの身体が悲鳴を上げる。しかしそんなことなどお構いなしに食べ続けていき、ついに皿を空にすることに成功した。

 

「ご、ごちそうさまでした」

「はい。お粗末様でした!」

 

 そう言ってシャマルが食べ終えた皿を運ぶために台所へ向かう。それを見終えると、きょうやは顔を机に突っ伏してしまった。

 

「ただいま~!」

 

 ちょうどはやて達が帰ってきたようだが、きょうやは誰が帰って来たのか分からない状態であった。

 

(ちょ、ちょっとだけ、休もう……)

 

 まだお店に戻るには早い時間帯であったので、きょうやは少し休むことにした。机の上で両手を組み、その上に頭を乗せて眠りについた。

 目を覚ましたのは昼食を食べてから約30分後であった。

 そろそろ時間だと思って顔を上げたきょうやの近くには水の入ったコップと胃薬が置いてあった。

 誰が置いてくれたか分かっていないが、取りあえず胃に先ほどの食事で受けたダメージが残っているので、いただくことにした。

 その後下へ降りると八神家全員で店番をしており、シグナムやヴィータからは大丈夫だったかとすごく心配され、はやてやアインス、シャマルから何度も謝罪を受けてしまった。

 

――――――――

 

 翌日。いつものようにきょうやは学校へ登校していた。 朝だというのに身体の調子がやけによく、気分が良かった。

 後から話を聞いたが、シャマルの料理は強烈ではあるが身体にはいいらしく、八神家では風邪などで体調を崩した際はシャマルの料理を食べてしばらく休むことで病気を治しているらしい。

 きょうやの身体はそれの影響か自分でもビックリするくらい体調がよく、午前中の授業を何の苦も無く受けることが出来たのである。

 そして昼休みの時間帯。転校初日から一人で食べようとしていたがアミタから一緒に食べようと誘われ、以降は彼女とその妹、その他二人の友達と一緒に食べることが習慣になっていた。

 何気なく普通に食事している中、きょうやはアミタからとある話を受けていた。

 

「ブレイブデュエル、ですか?」

「そう! 今年の夏ごろから一般開放される予定なんだけど、どう? やってみない?」

「体感シミュレーションゲームなんですけど、先輩もやってみません? お姉ちゃんもこう言ってますし~」

 

 アミタとその妹であるキリエから誘いを受けていた。しかしきょうやは素直にうんとは言えずにいた。

 そもそもきょうやがこの街に来た理由は、この街に集まってきているロイミュードの動向を探るのとその殲滅であるため、躊躇ってしまったのである。

 アミタの誘いは嬉しいのだが、上記の理由があるので、やんわりと断ることにした。

 

「あ、ありがとうね。とりあえず、考えておくよ」

「え~先輩一緒にやりましょうよ♪」

 

 キリエが甘えるように言うが、きょうやは何とも言えない表情になってしまう。

 

「こらキリエ。無理に誘うものではありませんよ。きょうやくんが困ってるでしょ」

「はーい」

「ご、ごめんねキリエちゃん」

「そうだ! 二人はどうです?」

 

 そう言ってアミタはきょうややキリエの他に一一緒に食べている女子に声を掛ける。

 

「う~ん。面白そうなんだけど、何とも……」

「アーちゃん先輩の誘いは嬉しいけど……」

 

 一緒に食べていた二人もあまり乗り気でないことがうかがえた。

 ちなみに最初に対応した女子は長い黒髪をポニーテールにまとめており、きょうややアミタと同じ2年の椎名朱乃。その後対応した女子は濃い目の赤髪のショートカットで、キリエと同じ1年でクラスも一緒の桜野飛鳥。二人ともフローリアン姉妹の友人であり、きょうやも転校してから接するようになっていた。特に朱乃にはクラスが一緒であることもあって何かとお世話になっている。

 

「う~ん。たくさんの人に遊んでほしいんですが」

「ブレイブデュエルって確か、アミタさんとキリエちゃんのお父さんが開発中のゲームなんだよね?」

「そうなんです! 夏ごろには一般開放するのですが、今のうちに色々な人に宣伝しておこうと思いまして」

 

 きょうやの疑問にアミタがすぐに答える。

 ブレイブデュエルというのは、フローリアン姉妹の父親であるグランツ・フローリアンが開発している体感シミュレーションゲームである。ゲームの実態は詳しくはまだわかっていないが、この姉妹がここまで躍起になって宣伝している姿を見て、かなり面白いものであるというのは伝わってきたので、きょうやは少し申し訳ない気持ちになっていた。

 

(事件が終わったら、やってみようかな)

 

 そんなことを考えていると、もうすぐ午後の授業が始まる時間帯であったので、きょうやを含めた五人は弁当を片付け、教室へと向かった。

 




 今回新しく出てきたキャラは、漫画版で出てきたフローリアン姉妹と度々一緒にいる二人組を出してみました。特に名前が決められていなかったので、こちらでつけさせていただきました。
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