授業が終わった後の放課後。
華夜、譲、ユスラ、鋼の四人は下校をしようとしていた際、校門前でとあるもめ事を目撃した。
「…何してんすかね?」
「あ、あの子司波深雪さんだよね?今年の新入生総代」
「司波さんが二科の人と一緒にいる事で一科ともめてるって事みたいだね」
「後は下校するだけだっていうのに、よくそんなことでもめることが出来るわね。てゆーか、完全に見世物になってるし…」
上から譲、ユスラ、鋼、華夜の順で、四人は遠巻きに様子を窺っている生徒たちの群れの中で好き放題に言っていた。しかし表情は皆違っており、華夜は呆れを隠さず、譲は変なものを見るように、ユスラは興味ありげに、鋼はハラハラしている。彼らはちょうど校門のど真ん前…帰り道のど真ん中でもめており、帰ろうにも帰れない生徒たちが野次馬化していた。ついでに付け加えると、そろそろ司波深雪の怒りが爆発しそうになっていることに華夜は気が付いた。
「まあいいわ。帰りましょう」
「そうっすね」
「え、ちょっと待って二人とも!」
さっさと帰ろうとしていた華夜と譲を鋼が慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。二人は『校門』に向かって歩いていく。…そう、一科生と二科生がもめているど真ん中に突っ込んでいく形になる。ユスラもマイペースな二人の様子にどうしていいか分からなくなっていた。
そんな中、ついに事態は動いた。
「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口をはさむことじゃないでしょう!」
おとなしそうに見えていたメガネをかけた女子生徒が司波深雪より先に爆発した。女子生徒はさらに言い募る。
「別に深雪さんはあなた達を邪魔者扱いなんてしてないじゃないですか。一緒に帰りたかったらついて来ればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!」
若干微妙な言い回しもあるが、彼女の言っていることはまさに正論である。しかし、一科生の方も引かない。
「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」
「そうよ司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
「悪いと思うならやらなきゃいいのに」
「そうっすね。しかも時間を貸してじゃなくて取らせてが正しい日本語なんすけどね」
少し離れたところで彼らのやり取りを横目に見ながら華夜と譲はそんな会話をしていた。ちなみに二人の距離は校門に…もめている集団に徐々に近づいている。そんなことは騒ぎの中心はいざ知らず、彼らの意見に二科も反論する。
「ハッ!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間取ってあるだろうが」
「相談だってあらかじめ本人の同意を取ってからにしたら?そんなことも分からないの?天下の一科生様が笑えるものね?」
男気あふれていそうな男子生徒と美少女と言っても差し支えない女子生徒がやはり正論を言う。それを聞いて一科生の生徒が怒りをあらわにしながら彼らに怒鳴り返す。
「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
「支離滅裂ね。あいつら良識に欠けてる上に、困った時には伝家の宝刀と言わんばかりに『ブルーム』て、言ってて恥ずかしくならないの。というか、ブルームであること以外に誇れるものはないのかしら」
「うわー、俺、あんな奴らとこれから同類にされるんすか。マジ恥ずかしいっす。勘弁っす。…今からでも二科に転科できないっすかね」
その瞬間、空気が凍った。
二人はついに彼らに自分たちの会話が聞きとれるくらいの距離に来ていたのだ。しかし二人は自分たちにとって関係ないもめ事に首を突っ込む気などなく、好き勝手に感想をいいながら校門に向かって行く。
「いや、転科は流石に無理でしょ。諦めなさい」
「えー、でも俺、教師がいなくてもそれなりに頑張れるし、な・に・よ・り、お嬢の近くで授業してないとマジモチベーション上がんないっすよ」
「まあ、一科と二科の違いなんて教師の指導を受けることが出来るかどうかだけだし、一科と二科でそれ以外の違いはないっちゃないけど…。あ、生徒会に所属出来るのは一科だけだっけ?」
「いやいや、お嬢。生徒会に入れるのは成績上位者だけっすよ?もうそこまで来るともはや一科と二科なんていう下らねーもんに現を抜かす暇なんてないんじゃないっすか?」
「あー、意識高い人は下らない差別意識なんかで自己陶酔はしなさそうだものね。そんな事してるのは名ばかりエリート…三流ってとこかしら」
そんな会話をしていると、ついに自分たちへの侮辱(だと思っている)に我慢できなくなった一科生たちが二人に対して怒りの形相で怒鳴った。
「おい、何だお前たちは!」
「ケンカ売ってんの?」
「おい、なんでブルームがウィードとつるんでるんだよ!」
いきなり声をかけられた二人はきょとんとして互いを見合い、そのまま後ろを向いた。
「いや、お前らだから!俺たちが声かけたのはお前ら!お前らの後ろに人はいないから!」
「あ、私たちなの。で、何か用ですか?」
華夜が自分と譲に声をかけられたと理解したとたん、彼女からは周りの人間が息をのむくらいの平坦な声が発せられた。顔は笑っているがその目は何の感情も映しておらず、今の彼女から感じられるものは周りに対する『無関心』だけである。華夜がこんな対応をしたのは半ば意識的で、こうすることによって相手が引いてくれれば面倒ごとにならずさっさと帰れるだろうという理由だった。
しかし怒りに身を任せていた一人の男子生徒は、彼女の反応などお構いなく怒鳴り散らした。
「さっきから聞いていれば、見ず知らずの人間にしたいして『恥ずかしい』だの『あんなのと同類にされたくない』だの失礼じゃないのか!?」
「え…。放課後の下校時間に校門の目の前で騒ぎを起こして、周りの人が下校できなくなっている事にも気が付かない、配慮のできない・良識のない人間にそんなこと言われたくない」
「なっ…!」
「しかも話を聞いているとあなたたちは当の本人の意思をガン無視して、自分たちの言い分が正しいみたいな一方的な価値観を他人に押し付けてるだけじゃない。価値観の違う人間なんてほっとけばいいのにぞろぞろと付きまとって、見てる方もうっとおしい」
「うっとおしい…!?」
「さらに口を開けば『ブルーム』と『ウィード』って…それしかないの?もっと語彙力ってものを身に着けた方がいいんじゃない?」
絶句している男子生徒を無視して踵を返し帰ろうとした華夜だが、残念なことに男子生徒の復活が一瞬早かった。彼は憎悪すら向けて華夜に呪詛を吐くように言い放つ。
「…お前はウィードだろ?なんでウィードのくせにブルームに盾突くんだい?いいか、この魔法科高校は実力主義なんだ。実力において君たちはブルームに劣っているんだ。つまり存在自体が劣っていることになる。自分の身の程をわきまえたらどうだ?」
「おい、こいつお嬢の言った事一ミリも理解してないっすよ?こんなにお嬢の時間を取らせておきながら…シめましょうか?」
「やめなさい。どうやら彼は頭を使うことを放棄したようね」
にべもなかった。二人の反応は冷ややか…華夜はすでに呆れを通り越している。彼女は譲が臨戦態勢を取りそうだったのを諫めるのも忘れない。
しかし、この言葉に反応したものが別にいた。
「同じ新入生じゃないですか!今の時点で一体どれだけあなたたちが優れているというんですか!」
メガネをかけた二科生の女子生徒が真っ向から彼の言葉に噛みついた。そしてそれを聞いて華夜と譲、二人同時に感じたことは『やばい』である。今の彼は怒りで我を忘れている状態だ。二人は何があっても対処できる…少なくとも一般高校生(魔法師)に後れを取るようなことはない。しかしメガネの女子生徒はそうでなさそうだ。さっきまでさんざん一科生を煽った自覚のある華夜は慌ててメガネの女子生徒めがけて走り出す。それに譲も続く。
そしてついに一科生の男子生徒はCADを取り出し、二科生の彼らに向けた。
「どれだけ優れているかだって?だったら教えてやるよ!」
「面白れぇ。是非とも教えてもらおうじゃねぇか!」
その挑発に二科生の男子生徒が乗り、素手でCADを掴もうとする。それと同時にもう一人の女子生徒が伸縮警棒を引き抜く。そして、
「これが、才能の差だ!」
一科生の男子生徒は魔法を発動『しようとした』。
「駄目!」
その瞬間、魔法が『なかったことになった』。魔法を使った本人は一瞬の違和感を感じたが、何が起きたのかはっきりとは分からない。そのことに正しく気が付いたのは『二人』だけであった。
それと同時に女子生徒が一科生の男子生徒のCADを叩き落とす。その痛みと恐怖で男子生徒から先ほどの違和感はすっぽ抜けた。
「ひっ!?」
「この間合いなら体を動かした方が早いのよね。ね、一科生さん?」
「それは同感だが、てめえ、俺の手までぶっ叩くつもりだったろ?」
「あーら、そんなことしないわよ」
おほほ、と芝居がかった口調で笑う手にした警棒でCADを叩き落した女子生徒と、素手で魔法の展開中だったCADを掴むという危険行為をしようとしていた男子生徒が軽い口論を始める。
「ふざけるな!」
「なめないで!」
「やめて!!」
それを見ていた他の一科生たちが各々CADを取り出し魔法を展開しようとする。その時、司波深雪が隣にいるクールそうな男子生徒に何かを呟いたのが華夜と譲には見て取れたが、今はそんなことにかまっていられない。二人は恐らく一番弱いと思われるメガネの女子生徒をかばうように前に立ち、華夜は彼らを『無力化』しようとし、譲は華夜の邪魔をさせないようにしようとした。しかしそれは魔法の起動式が壊されたことにより、不発に終わった。
「やめなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」
そこに立っていたのは、CADでいつでも魔法を発動できる状態で身構えている二人の女子生徒であった。
原作主人公、いまだ名前出ず。