やや小柄な女子生徒と凛々しい立ち姿の女子生徒、二人の女子生徒はそれぞれ厳しい顔つきでもめ事を起こした彼らを見ていた。
「風紀委員長の渡辺摩利だ!君たちは1-Aと1-Eの生徒だな?事情を聴くのでついてきなさい!」
凛々しい立ち姿の女子生徒は風紀委員長らしい。風紀委員長の言葉を聞いたほとんどの生徒が顔を蒼白にしておびえたように立ち尽くしていた。そんな中、
「あ、やっと来たのね。取締役」
「こんだけ揉めている割には遅いんすね」
「まあ、魔法を使わない殴り合いとかなら別に止めないんじゃない?ほらここ魔法科高校だし魔法の不正使用の取り締まりはするみたいだけど、きっと物理だけなら出張ることもないんじゃないかしら」
「あー、魔法を使用する現行犯で逮捕ってとこっすかね?」
「たぶんね。まあ、私たち一般人には縁もゆかりもないものよ」
「了解っす!……じゃ、帰りましょうか!」
彼らは通常運転であった。周りの空気も気にせず(あえて無視ともいう)、さっさと校門に向かおうと歩き出す。
「ちょっと待て!」
風紀委員長の制止がかかるが、無視して歩き続ける二人。
「そこの校門に向かって歩いているお前たち!止まりなさい!」
続けてそう言われ初めて華夜と譲は足を止め、二人の女子生徒の方を見る。…至極不思議そうな顔で。
「何でお前たち、自分が呼び止められている意味が分からないみたいな顔してるんだ!」
「え、だって、私たちは1-Aの生徒でも1-Eの生徒でもありませんから」
「どっちかっつーと、一方的に因縁を吹っ掛けられただけっすよ。魔法も使ってないっす。だから無関係っす。帰らせてもらうっす」
「自由か!!言わせてもらうが、校則違反なら物理的なことでも風紀委員会は取り締まるぞ!」
「そうなんですか…」
「でも、俺たち暴力を振るったわけでもなければ1-Aの生徒でも1-Eの生徒でもないっすから!」
「じゃあ言い換える!ここにいる一年生全員に事情を聴く。ついてきなさい!」
「……横暴じゃないっすか?」
二人が風紀委員長とそんなやり取りをしていると別の人物の声がかかった。
「申し訳ありませんでした。少々悪ふざけが過ぎました」
クールな印象の男子生徒が一礼し、無表情で淡々と言ってのけた。
「悪ふざけ?」
「はい。森崎一門のクイックドロウは有名でしたので後学の為に見せてもらうつもりだったのですが、あまりに真に迫っていたもので、つい手が出てしまいました」
その発言に周囲の人間は驚きを隠せない様子でいる。
「……そんな話だったすかね?」
「黙ってなさい。丸く収まりそうなんだから」
訂正。二名は通常運転であった。
「ほう。では、そこの女子がその後攻撃性の魔法を発動しようとしたのはなぜだ?」
「攻撃と言っても、彼女が発動しようとしたのは閃光魔法でした。それに威力も規模も抑えられていて、障害が残るようなものではありませんでした」
「……展開された起動式を読み取ることが出来るらしいな」
「実技は苦手ですが、分析は得意です」
「ごまかすのも得意なようだな」
風紀委員長の答えに淀みなく男子生徒は答えていく。そうしているうちに、風紀委員長は男子生徒に興味ありげな視線を送っていた。そんな中、司波深雪が男子生徒の前に立った。
「兄の申した通り、本当にちょっとした行き違いだったんです。先輩方の手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
そう言って彼女は深々と頭を下げた。
「まあまあ、いいじゃない摩利。達也君、本当にただの見学だったのね?」
そう言って生徒会長が親し気に男子生徒――達也という名前なのだろう――に話しかけて、彼も「その通りです」と短く返事をした。……周りの気温がやや下がったような気がするが、気のせいだろうか。
「生徒同士で教えあうことは禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には様々な制約が掛けられています。それはこれから学ぶことですが、それまでは魔法の発動を伴う自習活動は控えた方がいいでしょうね」
「……会長もこう仰られていることもあるし、今回は不問とする。以後このようなことがないように」
それを聞いた生徒たちは(自称無関係を除き)皆、頭を下げた。そのまま二人は立ち去ろうとしていたが、何かを思い出したように再び顔だけ振り返る。そして、
「君の名前は?」
「一年E組、司波達也です」
「覚えておこう」
そう言って今度こそ立ち去った。
「貸しだなんて思わないからな」
二人が去った後、おもむろに男子生徒が司波達也に声をかける。
「安心しろ。貸しだなんて思っていない」
「…僕は森崎駿。お前の言った通り、森崎家に連なるものだ。俺はお前を認めない――」
「…森崎、ね」
華夜は森崎の発言をぶった切って彼に声をかけた。
「……何だ、一体?」
「……あー。先ほどの様子から見て、今の森崎の教育方針は魔法師のランク至上主義を絶対として、自分より低ランクの人間、または非魔法師を見下す……というものだということでいいのかしら?」
「……何が言いたい?」
「いい?名前を背負うというのならば、自分の発言には気をつけた方がいいわよ。少なくとも今の発言からはそういう偏った思想が見えた。……今の魔法師の判断基準がランク主義なのはそういう風潮だし仕方がないこと。魔法師として見込みのある一科の生徒を優先して教育する魔法科高校のシステムも、魔法師の人材不足から見たら当たり前のこと。そこを否定する気はさらさらないわ。」
周りの生徒たちの呆気にとられた様子を気にすることなく、華夜は語り続ける。
「でも、あなたの今の発言はそのあたりのことを理解せずに、感情的になっていた発言ように見られるわ。それは非常に危険なこと。あなたの家業も考えると、そのすぐに熱しやすい性格はある程度コントロールするようにしないといけないわね。後……相手が自分より強いのか弱いのかは見極めるようにならないと、護衛対象をむやみに危険にさらすだけよ」
「……!」
先ほどの女子生徒に『速さ』で負けていたことを暗に指摘する華夜の発言に、羞恥か怒りか――あるいはその両方か――により、森崎は顔を真っ赤にして震えていた。そのまま華夜と司波達也をにらみつけて言う。
「俺はお前たちを認めない……!」
それだけ言うと彼はその場から走り去っていった。
「じゃあ、帰りましょうか。譲」
「……あいつ、反省の様子が全くなかったすね」
「……報告、するの?」
「当たり前っす!お嬢のことを悪く言うだけなら、お嬢が気にしないというなら……むかつきますが、俺からは何もしないっす。でも、お嬢が危険にさらされる可能性が万に一つもあるのならば、当主様に報告するのは俺の義務っす!」
「うーん。あんなこと言った手前あれだけど、この魔法科高校に一科生として入学できたから舞い上がっているだけな気もするけどね、彼……」
「それでもっす!自分の実力を見せるために安易に攻撃魔法を放とうとするという方法を選んだのはやっぱ最悪っす。…せめて攻撃以外の方法で魔法を使った何らかの工夫を見せるとかなら、お嬢の望むようにフォローを入れられたんすけど」
「……仕方ないわね」
華夜と譲がそんな話をしていると、二人分の走ってくる足音が聞こえてきた。
「かよりーん!ゆずるっちー!」
「譲!宵宮さん!大丈夫なのか!?」
言うまでもなく、ユスラと鋼だ。二人は慌てた様子で華夜たちに駆け寄ってきた。
「どうしたの?そんなに慌てて……」
「ええー、慌てもするよ!かよりんたち、よりによって七草先輩と渡辺先輩に真っ向からケンカ売ろうとしてるんだもの!はー君と二人でどうしようかと思っていたんだから!」
「見てるこっちがひやひやしたよ……」
「まー、いいじゃないっすか。結果丸く収まったわけっすから」
「彼のおかげだろ!」
そう言って鋼は彼――司波達也を指差した。よく見ると司波達也ご一行も華夜たちの方を見ていた。指差しされたことによりそのことに気が付いた華夜は、彼に謝罪と感謝を口にした。
「えっと、司波君……だったよね?私は1年F組の宵宮華夜です。先ほどはごめんなさい。ああすればすぐに引いてくれると思ったんだけど、彼らのプライドの高さを見誤った私のミスでさらにややこしくしてしまったわ。……大事にならないように場を収めてくれてありがとう」
「こっちの方こそ全く関係ないお前たちを巻き込んでしまい、すまなかった。……まあ、遅かれ早かれ彼らとはこうなっていただろうから、そこはあまり気にしなくていい」
「そう言ってもらえると助かるわ。それでは……」
そう言って譲たちに声をかけて帰ろうとした華夜だったが、そこで司波達也からまさかのストップがかかった。
「…少し、いいか?」
「ふぇ?」
まさか自分に声をかけられるとは思っていなかったらしいユスラは変な声を出した。
「先ほど、森崎の魔法が発動する前に制止の言葉をかけたのはお前か?」
「……だとしたら?友達が危険な目に遭っていたら思わず叫びもすると思うんだけど」
「…そうだな。変なことを聞いて悪かった」
「はぁ……」
何を言っているのか理解できないという顔で困惑するユスラ――とその周り――を置いて、彼は「帰ろう」と周りの友人たち(と思われる生徒たち――いつの間にか一科生の女子生徒が二人ほど増えている)に声をかけた。しかし、彼の問いかけを聞いて一人だけ…譲だけは黙って司波達也とユスラを交互に見ていた。
「ねぇ、せっかくだしここであったのも何かの縁!あなたたちも一緒に帰らない?」
困惑した中でも帰ろうと動き出した華夜たち一行に、先ほど見事なCADさばきを見せた美少女が声をかけてきた。
その後、彼ら――司波達也・司波深雪・千葉エリカ・柴田美月・西城レオンハルト・光井ほのか・北山雫と共に帰ることになり、軽い自己紹介やユスラの自由に名付けたニックネームに突っ込みを入れたり、達也がCADの調整が出来るという話やエリカが只者ではない発言をしたり、魔法科高校に普通の人はいないという発言が落ちになったりと四人は彼らと親睦を深めながら帰路についた。
「だだいま」
「ただいまっすー」
「おかえりなさいませお嬢様、ついでに譲さん」
「俺はついでっすか、椿(つばき)…」
最寄駅から歩くこと十分。華夜と譲は二人の家に帰宅した。町の中心地からやや離れているとはいえ、豪邸一歩手前の洋館という一般家庭とは思えない建物。そこが彼らの住んでいる家である。そこで二人を出迎えたのは、朱色で切れ長の目をした華夜よりやや年下と思われる少女であった。椿と呼ばれた彼女は腰ほどまである黒髪を姫カットにし、控えめにだが華夜に優しく微笑み彼女の帰りを喜ぶ。
「遅くなってごめんなさい。今日の食事当番私なのに…」
「そんな!お気になさらないでください!本来であればお嬢様にこんな使用人のようなことをさせること自体が申し訳ないくらいです」
「そればかりはおばあさまの教育方針だからね…。それに私は気にしていないよ?家事とか結構楽しいし」
「お嬢!お荷物、部屋にもっていっとくっす!」
「あ、ずるい!お嬢様、お部屋に新しいルームウエアを持っていきます。先にお部屋に戻られて下さい」
「ちょ、ちょっと二人とも…!」
荷物(とはいっても教科書なんか持ち歩かないこのご時世だ、CADを含めた身の回りの物しか入っていないささやかなカバンである)をさっと華夜から受け取り(奪い取ったともいう)、譲はそれを部屋にもっていくようだ。それに反応して椿も負けじとどこかへ(恐らく洗濯場だろう)華夜の服を取りにに駆けていった。
「全くもう……どっちも自分で出来るわよ」
「おかえりなさい、お嬢様。もうあの二人のあれはあきらめた方がいいですよ」
「…久遠(くおん)。見てたなら止めてよ。何度も言うけど、あなたも含めた『書生』は『私たち』の使用人じゃないのよ」
「仕方ないでしょう。僕がどうこう言って止まる二人ではありませんから」
久遠と呼ばれた黄土色に近い茶髪の髪を短めに整え、海のような青い瞳で三白眼の目つきの悪い小柄な少年――さらに呆れているためか目が死んでいる――はいつものことだと言わんばかりにそのまま華夜の前を通り過ぎた。
少女の名前は不知火(しらぬい)椿、少年の名前は八月一日(ほづみ)久遠。そしてそこに守谷譲を加えた彼らは、宵宮家において『書生』と呼ばれる立場の者である。
『書生』と言えばかつての日本にそう呼ばれていた人々を思い浮かべるだろう。おおよそ、その認識で間違いはない。色々あり家族がいない彼らはちょっとした縁により宵宮に引き取られた。彼らは一流の魔法師になり宵宮に恩を返すという条件で、生活の場を提供をしてもらいさらに学費の援助も受けている。ちなみに彼らが初めての『書生』というわけではなく、過去に何人もこの家には『書生』が存在していた。
さて、ここで少し華夜の家についてについて説明しよう。
宵宮家…ビジネスネーム『篠宮(しのみや)家』は、この国…いやこの世界屈指の資産家である。
全ての始まりは篠宮の現当主…つまり華夜の祖母に当たる人がある時あぶく銭を手に入れたことだ。それをある会社に投資した結果、その会社が成功を収め、筆頭株主たる彼女は巨額の富を手に入れた。しかし彼女はそこで止まることはなく、次々と新たな投資を続け、結果が今に至る。
世界屈指の資産家になったが、彼女は質実剛健を掲げており、家でも使用人等は雇わずに機械で出来ることは機械で行い、孫娘にも立場に甘える事がないようにと自分でできることは自分でする教育方針を行っていた。当然跡継ぎたる華夜には令嬢としての教育だけでなく、投資家としてのノウハウや家事の一通り、護身術も兼ねた体術、さらには勉学についても問答無用で叩きこんでいた。…しかし華夜はオンオフの切り替えが激しいのと、まだまだ未熟であるために今日のようなトラブルもしばしば起こしている。
そして譲は現在『書生』としてだけでなく、華夜のボディーガードとしての仕事も(当主に頼み込んで)兼任している。将来はそのまま華夜の側近になる予定である。
そんな成り上がりであるが、生粋のお嬢様である華夜は今日も今日とてにぎやかすぎる『書生』たちにため息をついた。
矛盾とかあるかもしれませんが、そこはフィーリングで流していただければ幸いです。