今回はリハビリも兼ねた復帰作なので短めです。
原作がなんだか不穏な方向に向かっていますね…。あまりの原作の流れに、もともとのプロットからこのお話も修正しました。そんな行き当たりばったりなところもありますが、この物語では原作とはまた違う世界観を書いていきたいと思います。
森崎が現れたことで事態はすぐに収束した。偉そうにしていたとしても所詮はただの学校の一生徒に過ぎない。規則を破ると罰を受けるという分かりやすい理屈の元、騒ぎを起こした一科生は風紀委員の手によって連行された。
「助かったわ。ありがとう、森崎君」
「……仕事をしただけだ。俺はまだ見回りがあるから、もう行く。気をつけろよ」
華夜の感謝の言葉にそっけなく応えた森崎は、その場から立ち去って行った。
「……なんすかね、あの態度?」
「森崎君って確か教職員推薦枠で風紀委員になったんだよね。何かあったのかな?」
譲とユスラはそんな森崎の態度に首をひねるが、華夜はそんなに驚いていなかった。
(……やっとこの学校の歪な差別に気が付いたのね)
傲慢な一科生(ブルーム)のままでは気が付かなかったゆがんだ差別意識。部活の勧誘にまで及んでいたそれを見て、はたして彼は何を感じたのだろう。そしてこれからどうなっていくのだろうか。
そんなことを華夜がつらつらと考えていたら、後ろから間延びした声がかけられた。
「いやー助かったよー。ありがとねー!」
三人が声の方を振り向くと、そこには先ほど一科生に絡まれていた上級生と思われる女子生徒がいた。彼女は背中くらいまであるダークブラウンの髪の毛にアンバーの瞳を持った人であった。髪の毛は緩い一本の三つ編みにしており、彼女が歩くたびにひょこひょこと髪の毛が跳ねていた。
「いえ、私たちは何もしていませんし。お礼なら先ほどの風紀委員の生徒に言ってあげてください」
「もちろん。彼にも機会があればお礼はいうよー!でも周りの人間があの一科生に同調してた中で、あなたたちだけは私の立場に立ってくれたでしょー?それがすっごくうれしかったからー」
「…そうですか」
にこにこと人好きのする笑顔を浮かべる先輩を見て、華夜もつられて自然と笑顔になった。
「あ、そういえば名前を名乗ってなかったねー。私は早乙女琥珀。よろしくねー!」
「宵宮華夜です」
「私は船頭桜桃です!」
「守谷譲っす」
互いが自己紹介し合った後、ユスラが今更といわんばかりに琥珀に聞いた。
「そういえば、先輩って何のクラブの人なんですか?」
「んー?言ってなかったっけー?」
顎に人差し指を当てて首を傾げる琥珀は、あざとい割にわざとらしさがないポーズをとり、こう言った。
「ファッションハンドメイドクラブ、略してショハンだよ」
『ファッションハンドメイドクラブ?』
聞きなれない単語に三人は同時に疑問の声を上げた。
「ここが部室だよー!」
不思議な名前のクラブに惹かれ、三人はショハンなるクラブを案内されることになった。三人が部室として通されたのは、オートメーションロボットの普及に伴い使われることのなくなった家庭科室と呼ばれる教室であった。調理実習室と被服実習室が内側の扉により一続きになっているその部屋で、三人は思わず感嘆の声を上げた。
「すっごーい!この服、全部先輩が作られたんですか!?」
「見事なものですね……!」
「このご時世に、服を自分で作る人なんて初めて見たっす」
ユスラ、華夜、譲は三者三様の反応を返したが、三人ともそこにある服やアクセサリの完成度に驚きを示した。教室のトルソーにかけてある服は素人目に見ても完成度が高く、そのまま店に並べられていても不思議ではないほどのものであった。スーツにジャケットにワンピースと男性もの・女性ものにかかわらず、さらにカジュアルやフォーマルなどその種類や性質に関わらずいろいろな服が作られていた。特にユスラはこれらを見て女の子らしく目を輝かせている。
「まあねー。『作りたいものを作り、着たいものを縫う』。それがこのクラブの基本理念だからねー。ちなみに先輩が卒業されてしまって、今部員は私一人なんだよねー。おかげさまで二年生なのに部長なんだー」
「なんかいろいろとすごいですね……ん?」
華夜がふとアクセサリーに視線を向けると、文字通り目を真ん丸に見開いて『それ』を凝視した。
「……どうしたんすか、お嬢?」
譲が不思議そうな、それに心配を混ぜた表情で華夜を見ると、華夜は大きな声を上げた。
「このアクセサリ、全部CADじゃない!!」
そう、普通のアクセサリのように置かれていたネックレス、ブレスレット、バングル、リング、イヤリングなどであったが、よくよく見るとそれはすべてCADであったのだ。
「嘘!こんなおしゃれなCAD見たことない!」
「え、ていうかこの部活CADまで作ってんすか!?」
さすがのユスラや譲も驚いたようで、琥珀の方を凝視している。そんな視線に驚くことなく、むしろ至極当然といった様子で琥珀は言い放つ。
「うん。ていうか、全部私が作ったんだけどねー。だって、市販のCADってダサいじゃないー?ファッションは小物にまでこだわって何ぼでしょー?……とはいうものの、見た目にこだわってハードの容量を小さくしちゃったから凡庸性のCADのくせして格納できる魔法式は十しかないんだけどねー。しかも操作用のボタンもダサいからカットしちゃったから、そこにあるのは全部古臭い音声認識で作ってるのー。音声認識に頼らないようにするためにそこの作品はまだまだ改良の余地ありなんだけどねー」
目標は思考型CADだねー!と笑顔で続ける琥珀に三人とも何も言えなくなった。さらりととんでもないことを言っている自覚がこの先輩にあるのだろうか。
「早乙女先輩って、もしかして天才なんじゃない?」
ポツリと小さくつぶやかれた華夜の言葉に譲は無言で頷いた。そしてそんな二人とは違い、ユスラは何かを考えるようなそぶりを見せた。
「あの、私、この部活に入りたい!」
しばらく呆然としていた三人であったが、突然気を取り戻したユスラが全員の前で宣言した。
「えー!本当にー!」
「はい!私にいろいろ教えてください、師匠!」
「んー?師匠ー?」
ユスラの『師匠』発言に琥珀は面食らったような表情をし、華夜と譲も信じられないようなものを見るような目で驚いた。しかし、そんな周りの様子など目に入らないとばかりにユスラは続ける。
「私、今まで何も考えずに服を着てCADを使ってきた。けれどこんな風に自分で考えて、作って、しかもそれがファッションとして調和のとれたものとして見せられると、今まで与えられたものを与えられたように使っていただけの私も、自分で何かを作りたいと思ったの!」
「ユスラちゃん……!」
ユスラの熱意に琥珀は感銘を受けたようで、文字通り彼女がユスラの手を握るとそのまま熱い口調で話しかけた。
「あなたのその熱意、確かに受け取ったわー!船頭桜桃!ショハンに歓迎するわー!私についてきなさい!」
「はい!」
いきなり熱血部活もののように成立してしまった入部に、そんな状況から置いてけぼりにされた華夜と譲は呆然としていた。そんな中でユスラは突然の展開に呆然としている二人を見て何を勘違いしたのか、笑顔でとんでもないことを言い出した。
「あ、もしかして二人も師匠の考えに共感したの?」
「え」
「本当ー!二人もショハンに来てくれるのー?すっごくうれしー!」
「ま、待って…ちが」
「そうと決まれば今日は歓迎会だねー!いやー新入部員が三人も入ってくれるなんて嬉しいなー!」
ユスラと琥珀は華夜の言葉を遮るようにして言葉を重ねた。二人とも無邪気な満面の笑みを浮かべており、特に琥珀の方は今にも踊りだしそうな雰囲気だ。
「お嬢、どうするんすか?」
「……こんな空気で今更、入部しませんなんて言えないわよ。まあでも、これはこれで悪くないかもね。早乙女先輩とは仲良くしていきたいし」
「了解っす。じゃあ、俺もここに入部するっす!」
「……別に私に合わせなくてもいいのよ。譲は魔法系のクラブでも十分やっていける――」
「お嬢と同じクラブが俺の意思っす!!」
「…わかったわ。好きにしなさい」
「はいっす!!」
華夜は嬉々として笑う譲に小さくため息をついた。
(譲には、もっと自由に生きて欲しいのに……)
鉛のように重たい思いを華夜は苦みとともに飲み込んだ。
こうして、華夜、譲、ユスラの三人のクラブ生活がスタートを切ったのだった。