死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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第十四話

 

 

あの後、桜花を保健室に運んだ俺は希沙羅へ連絡を入れた。

内容は噂について話がしたいというものだ。

 

休み時間を利用して、何度か保健室に立ち寄ったが、桜花は眠ったままだった。

それでも顔色はだいぶ良くなっていた。

 

 

<資料室>

 

俺は昼休みを利用して、噂について希沙羅へ聞きに来た。

今、資料室には希沙羅と俺の二人だけ。

希沙羅は二人分の紅茶をいれると椅子に腰かける。

 

「あぁ、行方不明者が出たことは真実だ。まぁ、生物実験なんてものはやっていないがな」

 

「…」

 

…流石に生物実験の方はただの噂だったようだが。

行方不明の方は本当だった。

しかし、希沙羅にしては思ったより、あっさりと言ったものだ。

いつもなら話をはぐらかされると思っていた。

 

「お主に黙っていても、勝手に動くであろう。事が事であるからな、前もって手綱を握っておった方が面倒なことにならんからな」

 

「…」

 

め、面倒か。

確かに希沙羅にはぐらかされたら独自に動こうとは考えていたが。

なぜバレたのだろう?

そんなことを考えていると、希沙羅はやや大きめの溜息をついて。

 

「はぁ、その顔、なんでバレたんだろう、と言った所か。まぁ、お主は昔からそうだからな。よくトラブルに突っ込もうとする、バレバレだ」

 

「(バレバレなのか…)」

 

言われてみれば、思い当たる節がチラホラと出てくるな。

希沙羅はコホンっと咳を一つ付くと、紅の髪を指先でクルクルいじりながら。

 

「なぁ奏華、お主はいつも無茶ばかりをしようとするが、そこまで頑張らずとも良いのだぞ」

 

希沙羅の心配していることは分かっている…つもりだ。

だけど、その言葉に対し、俺は首を横に振る。

 

「俺は希沙羅に救われた身だ。だから俺は希沙羅の役に立ちたいんだ」

 

俺の言葉に希沙羅はあまり良い顔をしない。

これが矛盾していることだってわかっている。

希沙羅だって本当は俺に危険な事をしてほしくないのだろう。

それでも…俺は…。

 

「…はぁ。関わるなと言っても、お主は聞かないだろうし。そうさな、情報収集とか、どうだ?」

 

「情報収集?」

 

「あぁ、学園生達から行方不明者の前日の行動や、おかしなものを見ていないか、など同じ生徒のお主なら教員が聞くより話しやすかろう?もちろんちゃんと本人と会話をして…な」

 

ニマニマと意地悪そうに笑う希沙羅。

これは分かって言っているのだろう。

俺の立場的に他クラスへ聞くことが、かなり面倒だという事が。

勿論こちらでも調べるが、と希沙羅は付け加える。

 

「あ、あぁ、分かったよ。任せてくれ」

 

要はいつもやっていること(盗み聞き)はするなよ、ということだ。

俺は直ぐに放課後の作戦を頭の中で考える。

と、希沙羅から笑みが消え、辛そうな、悲しそうな表情へと変わる。

 

「…お主も分かっていると思うが、その眼は万能ではない。決して無茶をするなよ」

 

「あぁ、わかってるよ」

 

「…左様か」

 

希沙羅はそれだけ言うと、再び仕事に戻った。

これ以上邪魔をしてはいけないと思い、俺は部屋を出ようと扉に向かう。

 

「…そう言えば」

 

ノブへ手を回したところで、希沙羅から声がかかる。

振り返ると、作業を中断した希沙羅がペンを片手に、こちらへ顔を向けていた。

 

「そう言えば、桜花の様子はどうだ?倒れたと聞いたが、大事ないか?」

 

「…あぁ、今は保健室で寝てるよ」

 

「身体の弱い妹をあまり心配させるでないぞ?」

 

穏やかにほほ笑む希沙羅を見て、

一瞬、すべて話してしまえば…そんな考えが頭を過る。

だがそれも、桜花の事を思い出すと、直ぐに霧散した。

死神、人類の敵のはずなのに、彼女は奏華を助けた。

その意図が分からないにしても、敵になんて…見れるはずがない。

結局、希沙羅に本当のことも言えず、バツの悪い俺は、そのまま足早に資料室を出た。

希沙羅はそんな奏華を何も言わず見送った。

 

 

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<廊下>

 

話をした限り、希沙羅も他の人と同様、桜花については妹として理解しているようで心配しているようだった。

 

「(本当にみんな桜花の事を当たり前のように受け入れているのか)」

 

教室へ戻る途中、桜花の様子を気にかけた奏華は何度目かの保健室へ向かうことにした。

あれだけ苦しんでいたのだ、心配するのは仕方がない。

そう心に言い聞かせていたが。

 

「(はぁ…いい加減、決断しないとな)」

 

死神との協力…その覚悟を。

 

 

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<放課後>

 

俺は放課後から行動を開始した。

取り敢えず、同じDクラスから聞き込みをすることにした。

 

「なぁ、君は知らないか。行方不明の話」

 

「いや、知らないな」

 

「そっか。なぁ、君は知らないか。行方不明の話」

 

男子生徒、女子生徒、と次々に質問をしていく。

前より、少しだけ話しやすくなったおかげで、スムーズに話が運ぶ。

 

「(これも死神のおかげ…なんてな)」

 

冗談交じりに思った言葉だが、案外外れていないのだろう。

実際、桜花の影響か、社交性が上がった気がする。

 

しかし、幾ら話を聞いても噂についてはそれほど得るものはなかった。

やはり、クラスが違うからか、Dクラスでは何も情報は得られなかった。

希沙羅の話を聞いた限りだと、行方不明になっている学生は2-Cの人間らしい。

 

「なら、2-Cの生徒に聞くのが一番か」

 

…….

….

 

結果は空振り。

そのほとんどが話を聞いてくれない者だった。

 

「ま、当然か」

 

学園のお荷物、『ブランク』では碌に相手もされない。

しかし、他の方法も思いつかない。

俺はいったん中庭へ移動し、ベンチへ腰を下ろす。

これから、どうしたらいいか考える。

 

「…(考え中)」

 

「…あれ?先輩じゃないですか?」

 

「…(考え中)」

 

「お久しぶり?ですね先輩!」

 

「…(考え中)」

 

「え、あれ?私無視されちゃってます?あのー先輩?」

 

クイクイと裾を引っ張られたことで、俺はようやく眼の前に人が立っている事に気が付いた。

眼の前にいたのは、数日前に出会った少女『宝条 莉絵』だった。

宝条は人懐っこい笑顔を浮かべると、ペコリと頭を下げた。

 

「お久しぶりです先輩!」

 

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宝条の姿は初めて会った時と同じ、この学園の制服を身に着けていた。

ここで何をしていたのか聞かれたので、俺の状況について、掻い摘んで話した。

その行方不明事件について学園長から調べる許可を得ている事。

学生に聞いて、行方不明者の目撃情報を調べている旨を伝える。

なぜ彼女に話したかと言うと、主な理由は、何か彼女からアイデアを

得られることはないかと思うのと、気分転換が欲しかったという二つだ。

宝条は俺の話を興味深そうに聞くと、何度か頷く。

 

「そういう事なら私に任せてください!」

 

宝条は勢いよく、ドンッと胸を叩く。

 

「ゴホッ!!ゴホゴホッ!!!」

 

強く叩ぎ過ぎたのか涙目でせき込む宝条。

手伝ってくれるのは嬉しい限りなのだが…。

今までの彼女の言動と行動を鑑みると

あぁ…激しく不安だ

 

「ゴホッ。と、とにかく先輩はそこで大人しく私の成果を待っていてください!」

 

未だ涙目の宝条は、グッと親指を立てると、学園の方へ走って行く。

 

「Σ(゚∀゚ノ)ノキャー――――――」

 

ものの数秒でボシュッと捕獲網が発動する音が聞こえた。

 

「(速攻で罠にかかった!!)」

 

前回同様に宝条は魔物捕獲用の網に宙ぶらりんに吊るし上げられた。

 

「うぅ、先輩だずげでください~」

 

先ほどまでの自信に満ちた声はどこへ行ったのか。

情けない声で助けを求める宝条。

俺は軽い頭痛を感じながら、酷いトラブルメーカーと関わってしまったものだと嘆いた。

結局、前回に引き続き、また捕獲網をダメにしてしまった。

このことを、また希沙羅に報告しなければ。

 

「(やっぱ怒られるの…俺になるのかな?)」

 

気分が重くなるのを感じながら宝条を助けると、俺たちはⅭクラスへと向かった。

 

 

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その後、宝条を含め、聞き込みを開始した。

予想外と言うべきか、宝条のコミュ力は非常に高かった。

年下後輩と言う事を前面に押し出し、上手く取り入って学生に質問をしていった。

男子なら魔法の先輩として、尊敬云々。

女子なら最近の流行から入り、そのまま噂へ話を取り付けた。

結果、気を良くした学生から噂話について、話を聞くことが出来た。

 

「大体こんな所ですね」

 

腰に手を当て、誇らしげに胸を張る宝条。

突きつけられたメモ用紙には今回の行方不明についての話がびっしり書いてある。

塵も積もればなんとやら。

一人一人に聞いた情報はちっぽけな物でも集まれば大きな成果となった。

 

「どうです、先輩。私お役に立てましたか?」

 

「…そうだな、ありがとな。宝条。おかげで助かったよ」

 

俺の言葉に宝条は嬉しそうに、ピョンピョンとジャンプする。

その姿に何となく、犬のように感じた俺は宝条の頭へ手を置くとゆっくりと撫でた。

触り心地の良い、さらさらとした髪を撫でると、彼女は驚いた顔をしたが、直ぐにその顔がほころび、えへへ~と満足げに頬をゆるませた。

 

「ん、それでは先輩。私はこれで!お仕事、頑張ってください!」

 

宝条は左手で敬礼のポーズをすると元気いっぱいに手を振りながら、走って行った。

先ほどまで撫でていた掌を無意識に見つめる。

 

「こんなので良かったのか?まぁ今度会ったら飯でも奢るか」

 

宝条が罠にかかる音が聞こえないことを確認すると、俺は近くにあったベンチに腰掛け、宝条が紙にまとめたメモを読み進める。

 

行方不明者を最後に見たのは下校時。

彼ら5人に直接的な繋がりはないようだ。

つまり、彼らは行方不明になった原因は”放課後から早朝の間”、そして”一人で行動していた”という可能性が高い。

 

「つっても、そんなことわかった所で意味なんて…」

 

そう思いつつも、メモに眼を通し続ける。

…と気になることが書かれていた。

 

「(行方不明者から着信があった?)」

 

そのとき電話に出ることが出来なかったようだが、

一度だけ、しかも着信5秒しか掛けていなかったようで、気付いた者は大した用ではない。

また掛けてくると思いそのまま放置した、と。

 

「5秒…か」

 

結局、それ以降電話がかかることはなく、翌朝、行方不明になった。

やはり、行方不明者たちは何者かに襲われた可能性が高い。

それも魔法使いを無力化する程の、ただ者ではないナニか。

 

「ちょっといいかな?」

 

「ん?」

 

メモに落としていた視線を上へと上げる。

眼の前に一人の男子生徒が立っていた。

一見したところ、これと言った特徴もない普通の男子生徒だ。

しかし、なぜだろう。

男子生徒のその顔にはどこかで見覚えがあった。

 

「(あっ…あの時のイジメられていた生徒か?)」

 

思い出すのは昨日の朝に見かけた、課題を押し付けられていた男子生徒。

確か、昨日の夕方頃にも会っていたはずだ。

あの時はやけに強気な態度を取っていた気がしたのだが、今の彼はあの時とはまた少し雰囲気が違っていた。

と言っても、俺自身あの時は気分の悪さが勝り、正確には覚えていないのだが。

 

「僕は君嶋(きみしま)。2-Cの生徒なんだけど」

 

そう言って差し出された手。

握手だという事を理解するのに数秒かかった。

 

「あ、あぁ、どうも」

 

「みんなから聞いたんだ。君が行方不明者について調べてるって。どうかな成果の方は?」

 

「まぁ、ボチボチだな」

 

君嶋は周りを気にするような素振りを見せると、声をひそめて話す。

 

「…実は僕も君に聞いてほしいことがあるんだ」

 

「…聞いてほしいこと?」

 

「うん、確証はないけど、今回の行方不明事件に関わっているかもしれない。」

 

「その話ってのは?」

 

君嶋は笑顔のまま、校舎を指さす。

 

「この寒空の下で話と言うのもなんだから、校舎の中で話そうか」

 

そう言うと、こちらの有無を聞かず、校舎へ向かって歩く君嶋。

こちらの意見を聞かず、先に行ってしまったが、断る理由はない。

その跡を追うためベンチから立ち上がる。

 

その時、ほんの一瞬、君嶋の口元がニタリと歪むのが見えた。

瞬間、奏華の背後から人一人を覆い隠すような大きな半円状の檻が音もなく現れ、覆い被さる。

大きな音を立てて、地面に衝突する檻。

巻き起こる砂煙。

 

「…ふふふッ、アハハハハハ!!」

 

砂煙の中、辛うじて檻の隙間から壊れたベンチの木材と奏華の着ていた制服の端が見える。

それを見て堪え切れず、笑い出す君嶋。

奏華を-人を捕らえようとする、その行動には一切の躊躇など無かった。

 

「これで6人目。もうすぐ、もうす…ッ!?」

 

人の気配を感じ、反射的に身を翻し、君嶋はその場から距離を取る。

その表情は驚きだった。

彼の目の前にいた人物はたった今捕らえたはずの、人間―八神奏華だった。

君嶋は直ぐに奏華を捕らえたはずの檻へ視線を向ける。

それに応えるように、檻は瞬時に溶けだし、地面へと吸収される。

そこには魔物捕獲用のワイヤーネットを適当に絡めた塊に奏華の着ていた制服の上着をかぶせた、即席で不格好な、一つの身代わり人形があった。

 

「…まるで忍者みたいなことをするね」

 

感心するように褒める君嶋。

その様子に奏華は怒りすら感じていた。

 

「お前、これはどういうつもりだ」

 

「どうも何も、こうなったからには嫌でも分かるでしょ?」

 

「…どうやらお前が行方不明事件に関係しているようだな」

 

よく見ると君嶋の手には一つのQ-bicが握られていた。

本来は金色の輝きを放つQ-bicだが、その色は黒く濁っていた。

先ほどの様にQ-bicを使った捕獲方法。それに加え人通りの少ない場所での

不意打ちならで、魔法使い相手でも誘拐することは可能だろう。

 

「魔法が使えないっていうから、てっきりこれで終わりだと思ったんだけど」

 

眼の前の男は余裕を崩さない。

それどころか、笑ってさえいる。

自分の状況が分かっていないのか。

 

「ここは校舎のすぐ近くだ。今の騒ぎを聞きつけて、直ぐに教師たちが」

 

「無駄だよ!誰も僕たちに気づきはしない!」

 

奏華の渓谷に対し、君嶋は被せる様に否定の言葉を言うと、俺へ右手を向ける。

 

「『魔弾』」

 

瞬間、奏華の頬を何かがかすめた。

遅れて、それが君嶋の放った魔弾という事に気づいた。

 

「外れちゃったかぁ。でもまぁ、この威力も使っていれば慣れてくるよね」

 

「(これが第一魔法だと!?速さも威力も属性攻撃並みじゃないか!?)」

 

驚きを隠せない奏華を見ると、君嶋は嬉しそうに喜び始めた。

まるで子供が新しく買って貰ったおもちゃを自慢するように。

 

「すごいでしょ?すごいでしょ?これがQ-bicの力!僕の!力だよ!!」

 

再び野球ボールほどの弾を作り、俺へと向け、照射する。

俺は足に力を込めて、その場からジャンプする。

死神によって、強化された脚力により、今までの俺では決してできないようなジャンプで魔弾を避ける。

動きの制限された、場所ならともかく、この広い中庭でなら動き続ければ、当たることはない。

 

「(後は、この騒ぎに気づいた誰かが、教師を呼んでくれれば!)」

 

「ッチ、ブランクって言われてる割りに、すごい身体能力だね。それ第一魔法の身体強化じゃないの?」

 

「(学生相手に魔眼を使うと後々面倒なことになる…なら!)」

 

着地と同時に身体能力だけで、一気に距離を詰める。

今までの自分では到底真似できないようなスピード。

改めて自分の身体能力の変化に驚いた。

だがすぐに思考を切り替えると、君嶋へ向けて、突き上げる様に蹴りを放つ。

 

「おっと!」

 

君嶋は身軽に身体を動かし、奏華の蹴りを躱す。

 

「ッフ!」

 

地面についた足を軸にして、回転を加え放つ追撃の拳を振るうも、それすら躱される。

明らかな身体強化。

恐らく奏華に合う前に既に自身に魔法による強化を掛けていたのだろう。

 

「ちょこまか動かれるのは面倒だ」

 

君嶋は手をかざす。

その魔力が急速に高まっていくのを感じる。

 

「捕らえろ!『Abyss(アビス)』!!」

 

「(ッ何!?)」

 

君嶋が叫ぶと同時に突如として地面から飛び出してきた黒い『ナニカ』。

咄嗟に奏華は後方へ飛び、『ナニカ』から離れる。

着地すると、今まで立っていた所には複数の触手がうねうねと蠢いていた。

その触手は先ほど奏華を捕らえようとした檻と同じ色をしていた。

 

「(変幻自在のQ-bic…なのか?)」

 

対魔法使い戦に置いてQ-bicの有無は大きな戦力差となる。

第一世代の魔法に加え、属性による攻撃のバリエーション。

属性武装による、戦闘の強化。

実際、奏華の勝てる可能性はかなり低いものだろう。

だが、勝算はあった。

それは少しでも多くの時間を稼ぐこと。

そうすれば、この騒ぎを聞きつけた教師たちが集まって…

 

「…?」

 

いや、どこかおかしい。

そもそもここは校舎付近の中庭。

幾ら下校時間と言っても、誰一人として、ここへ来ないのはおかしい。

 

「…まさかッ!?」

 

奏華は足元の石を掴むと、校舎の壁へ向けて勢い良く投げつける。

しかし、石は校舎の壁に当たることなく、何もない空間で弾かれる。

その光景を見たことがあった。

それは魔物に襲われた時だ。

 

「…見えない壁か!」

 

もし、この見えない壁が、視覚情報や音も消しているのだとしたら、恐らく救援は来ないだろう。

だからこそ、君嶋はあれだけの事をしても余裕でいられたのだ。

この現状を知るものは…いない。

退路を断たれたと知った奏華はその一瞬、動きを止めてしまった。

 

「油断大敵だね」

 

一瞬の油断。

地面から生えた触手は俺の四肢を蔓の様に巻き付きながら、動きを封じる。

磔のようにされた俺は身動きが取れなくなった。

千切ろうと力を込めるが、拘束はゴムの様にぶよぶよしていて、外れそうもない。

どこか覚えのあるその感触に違和感を持ち、君嶋の属性武装と思われるものを視覚する。

泥のような見た眼に、嫌悪感すら…。

 

「(いや…違う!これは…これは属性武装なんかじゃない!これは…)」

 

「ガハッ!?」

 

四肢を固定された状態で、強化された拳が腹に叩き込まれ。奏華の身体がくの字に曲がる。

次いで、顎に拳が飛びチカチカと視界が点滅する。

バチバチと脳が痺れる感覚と共に奏華は力なく、うな垂れる。

朦朧とする意識、頭がクラクラして手足の痺れがひどく、まともに動かす事が出来ない。

その様を、君嶋は表情を変えることなく見ていた。

その光景を最後に、奏華の意識は闇に飲み込まれていった。

 

 

 









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