死神少女と鏡の魔眼   作:LAMLE

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叶うなら、週一ペースで投稿したいLAMLEです!
それでは第四話どうぞお楽しみください!





第四話

 

<第七寮前>

 

突然の襲撃に身構える二人。

現れたのは全身を真っ黒な布で覆い隠し、その顔には森の暗闇に溶け込むような真っ黒なお面が付けられていた。

お面には顔のパーツが一切見られない『カオナシの面』。

 

『お初にお目にかかる、我が同胞』

 

変声機を使っているのか、聞きなれない機械音が夜の森に響く。

声から性別の判断はできないが、背の高さ、体格からして男だと推測できる。

男―『カオナシ』に対し、警戒を取りながら桜花が問いかける。

 

「同胞…それはどういう意味ですか?」

 

『僕の贈ったささやかなプレゼントはお気に召したかな?』

 

カオナシは桜花の質問に答えない。

一方的にこちらに話しかけるのみ。

 

「プレゼント?ココ最近の事件も、魔物も貴方が?」

 

『…』

 

カオナシは答えない。

だが、こちらの反応を楽しむような微かな笑い声が機械越しに聞こえる。

そしてその殺気を含んだ視線はまっすぐに俺へと向けられていた。

 

「(桜花の予想していた通り、奴の狙いは俺)」

 

同胞…カオナシはそう口にした、俺に視線を向けながら。

その言葉にもしかしたら、と想像してしまう。

 

「…兄さん、私が隙を作ります。動けますか?」

 

桜花が身を寄せ、小声で俺に話しかける。

その視線が、俺の今考えている思考を中止するように訴えている気がした。

俺は頷くと、いつでも立ち上がれるよう足に力を込め、タイミングを窺う。

 

「(今は奴の言葉について深く考えている場合じゃない)」

 

眼の前の男は危険だ。

油断すれば死ぬ。そんな予感めいたものが俺の中にある。

その一挙手一投足を見逃さぬよう、カオナシに意識を集中させる。

 

カオナシは現れた場所から一歩も動いていない。

しかし、その両手にはナイフが一本ずつ握られていた。

恐らく、俺の肩に刺さっているナイフと同じ、アイツが投げたものだろう。

魔力で作ったナイフではなく、本物のようだ。

 

『……』

 

しかし、殺気とは裏腹に、カオナシは動かない。

その手に持っているナイフさえ、動かす様子はない。

漆黒の仮面で覆われた顔、だがその奥にある眼光に見られている感覚がある。

気味の悪い空気に息が詰まりそうだ。

 

「(…何が狙いだ?)」

 

だがいくら考えても、明確な答えは出てこない。

どちらにせよ、油断するわけにはいかない。

視線は常にカオナシへと向け、桜花の合図を待つ。

桜花は近くに落ちていた、手のひらサイズの石を一瞬のうちに回収すると。

 

「…ッ!」

 

カオナシへ向け、勢いを付けて投擲した。

ヒュンと風を切る音を立て、カオナシの顔面を捉える投石。

それに対し、奴は驚くことなくナイフの腹で弾くだけの動作で躱す。

 

「…小石では物足りないですか?それならこれはどうです…かっ!!」

 

そう叫ぶと同時に、男の足元に影が集中する。

瞬時に、それは男の身体を貫く杭となって地面から突き出る。

 

「「…ッ!!」」

 

その瞬間を狙い、俺たちは互いに走り出す。

両側からカオナシを挟み撃ちにするためだ。

しかし、それは数歩で終わりを迎えた。

ガンッという音を聞いた。

そして地面に倒れたのはカオナシではなく俺の身体。

 

「い…た…い?」

 

痛い?

どこが?

顔だ。

何故だ?

まるで壁に思い切り、ぶつかったような衝撃。

衝撃にクラクラする頭で周りを見回すが、壁なんてどこにもなかった。

 

「きゃっ!!」

 

そしてそれは桜花も同じだった。

何かにぶつかるように弾かれ、倒れ込む。

 

「これ…は」

 

衝撃で痛み出した肩を抑えつつ、眼の前の空間へと手を伸ばす。

伸ばした掌は…何もない空間で静止した。

掌に感じる硬い感触。

何かに触れているのだ。

まるで透明な壁が行く手を阻むように、そこには『何か』があった。

そして俺はその存在を知っている。

 

『クククッ』

 

背中越しに機械音声の笑いが響く。

振り返ると、カオナシが笑っていた。

面に手を当て、俺たちの行動が滑稽だと嘲笑うように。

避けたのか、防いだのか、その身体には杭によるダメージはなかった。

 

「(コイツが見えない壁を作ったのか!!)」

 

『既にここは僕の迷宮(ラビリンス)、果たして逃げられるかな?君たちは…っ!』

 

カオナシはナイフを構え、シュッと風を切る音を出し、投擲を繰り出す。

その方向は…未だ座り込んだままの俺!

 

「…ッ!!」

 

痛みに耐えながら、身体を回転させて、飛んでくるナイフを紙一重でかわす。

速い、もう少し遅ければ今頃、眉間にナイフが深く刺さっていたであろう速度。

左肩に鋭い痛みが走り、顔が苦痛に歪む。

 

「(丸腰じゃキツイ。どうする?)」

 

武器の選択は二つ、一つ目はブーツに隠してあるナイフ。

二つ目は影の剣、だがこちらはナイフより取り出すのが遅れる。

 

「(それに、こちらの手の内を見せるのは…せめて魔法を使ってくれれば)」

 

カオナシは桜花の方へは見向きもせず、真っ直ぐに俺の方へと向かってきた。

一瞬の思考。

判断を決めた俺は、ブーツへと手を伸ばし、右手で仕込んだナイフを取り出す。

カオナシのナイフと俺のナイフが交差する。

ガキンッと金属同士の衝突する音がした。

 

『…へぇ』

 

カオナシがどこか意外そうな声を発する。

しかし、それも束の間、姿勢を低くし、足払いを掛けられた。

 

「…ッ!!」

 

後方へ下がることでそれを回避。

着地の衝撃で肩の痛みが増すが、カオナシとの距離を取ることが出来た。

そして俺はカオナシに気づかれないよう視線を桜花へと向ける。

 

「(…コクッ!)」

 

桜花が頷くのを確認し、俺は眼の前の敵に集中する。

カオナシはナイフを構え、驚くべき速さで距離を詰めてきた。

カオナシの放つナイフの軌跡が俺へ襲い掛かる。

 

ガキンッ!

ガンッ!

キンッ!

 

紙一重で躱し、何度も刃を交わす事で、嫌でも分かってしまう。

 

「(技術が違い過ぎる!)」

 

左腕の負傷だけが原因じゃない。

死神の反射神経をもってしてもギリギリ捌けているくらいだ。

当然反撃などできるはずもなく、避けるか、受け流すだけで精一杯だった。

 

「…ッ!!」

 

『…フッ!!』

 

カオナシが行ったフェイント。

それに引っかかりできた一瞬のスキ。

その瞬間を見逃すはずが無く、カオナシの蹴りが腹部へ命中し、態勢が崩れる。

間髪入れずに左肩のナイフに蹴りを入れられた。

 

「がぁ…ぐ…あぁぁぁぁ!!」

 

蹴られた衝撃で後方へと飛び、ナイフがさらに深く刺さる。

肉を裂く痛みに耐えきれず、崩れ落ちる。

抉られたせいで傷口が広がり、血が溢れる。

血で汚れた手からナイフが右手から滑り落ちる。

 

『…もう終わり?』

 

激痛に耐え、地面に崩れ落ちる俺を嘲笑うようなカオナシの声。

頭に血が上っていくのが分かる。

 

「…だ…がぁぁぁ」

 

熱い、左眼が焼ける様に熱い。

まずい、これはまずい。

頭の中で警報が鳴り響く。

今すぐ逃げろ!こいつから離れろ!

じゃないと、戻れなくなる!!

 

「…だれがぁ!!」

 

痛む身体を無理やり動かし、右手を地面に叩き付ける。

 

「影遊びッ!!」

 

右手を中心に周りから影が集まり、形を形成する。

カオナシは警戒してか一度距離を取った。

その隙に柄を形作らせ、掴み、一気に引き抜いた。

 

『それが魔物を倒した武器か』

 

右手で影の剣を持ち、カオナシへ向ける。

 

「…第二ラウンドだ。カオナシ」

 

息は既に上がっていて、肺が痛い。

そして何より、先ほどから左眼がおかしい。

闘い始めてからドンドンその熱が強くなっている。

感情が先行し、冷静さを失いつつある。

暴走と似ている、でも少し違う。

 

「(今は何も考えるな、ただ生き残ることだけ考えろ)」

 

死にたくない。

死ぬわけにはいかない。

生き残る。

だが…。

 

『クククッ、君の考えていることは分かるよ。怖いのだろう?』

 

「…ッ!?」

 

『何体もの魔物は葬っていても、君は人を殺めたことなどないのだろう?』

 

心を読まれているようにカオナシの言葉は的を射ていた。

人を殺す恐怖。

それが奏華の行動を更に制限し、今の劣勢に繋がる一つとなっていた。

技術だけではなく、心でも負けていたのだ。

 

『その程度の心構えじゃあ、僕は倒せない。倒すなら殺す気で行かないと…ね!』

 

「…ッく!よくしゃべるじゃねぇか!!」

 

こちらへ距離を詰めていたカオナシに剣を薙ぐ様にして斬りかかる。

そんな単調な攻撃は直ぐに躱され、懐へと入られた。

そして奏華は直ぐに剣を盾にして攻撃を防ぐ構えを取った。

 

『…フッ、甘いなァ!』

 

カオナシは俺の行動に嘲笑う。

このままナイフの切っ先は剣を掻い潜り、俺へと突き立てられるだろう。

だが-奏華は不敵に笑って見せる。

カオナシの後方、そこに信頼する相棒がいた。

 

「私を忘れてもらっては困ります」

 

俺とカオナシを隔てる様に出現する一枚の大きな影の壁。

分断されたカオナシのいる地面から、木から、岩から、周りにあった自然の影から何千本もの針が飛び出す。

影の杭とは違い、その一本一本はとても細く、そして速い。

 

「影遊び-技法-無限針(むげんばり)」

 

桜花の技が-無数の針がカオナシを捉えた。

全方位から襲い掛かる技に逃げ場はない。

 

「これで…終わりです!」

 

カオナシを倒せる、そう思っていた。

だがそれは現実にはならなかった。

 

『危ない、危ない、もう少しでハチの巣になるところだった』

 

カオナシは無傷だった。

いや、針はカオナシに届いてすらいなかった。

針はカオナシの周りに制止するように止まって動かない。

カオナシは首だけを動かし、視線を桜花へ向ける。

 

『君は簡単に殺せるんだねぇ。彼とは大違いだ』

 

どこか感心したような、憐れむような、そんな声で桜花を見つめる。

その言葉に桜花の顔に苛立ちが見える。

 

「人を異常者みたいに言わないでもらえますか。先に仕掛けたのはそちらで、私は目の前の脅威を排除する為にしてるんですから」

 

『驚異の排除…人…クフフフ。君が…ねぇ』

 

明らかに何か含んだ物言いに、桜花は眉をひそめる。

 

「…何ですか?」

 

『いいや、随分人間世界に溶け込んでいると思ってねぇ』

 

「…貴方まさかっ!?」

 

『…今宵はここまでとしよう』

 

俺たちに視線を巡らせ、カオナシは飛び上がる。

 

「待ちなさい!!」

 

「なっ!?」

 

一度ではない。

カオナシは空中を蹴る様にジャンプを繰り返し、木々の奥へ消えていった。

 

「(…アイツ、戦闘中、一切魔法を使わなかった。俺の眼を警戒して?)」

 

それに…同胞。

カオナシはそう言った、俺を見て。

アイツの眼、仮面に覆われ、顔を-眼を確認することはできなかった。

だが…。

 

「(アイツは…魔眼所持者だ)」

 

魔物を操っていた。

見えない壁。

空中ジャンプ

 

そのどれか、あるいはどれも可能にする能力なのか?

 

「…ぅ」

 

やば…い、血、流し過ぎた…。

身体から体温が減っていくのが分かる。

傷口からはドクドクを血が溢れ出る。

温かい血が腕を伝い地面へと零れ落ちる。

次第に手足の感覚がなくなり、急速に身体が寒くなる。

いつの間にか手に握っていた剣も落としていた。

剣に俺の血が滴り落ちると、吸うように赤黒く点滅を繰り返し、やがて空気に溶ける様に消失。

 

「兄さん!直ぐに傷を!!」

 

カオナシの去っていった方を見ていた桜花も俺を見るなり、直ぐに駆け寄り、止血を始めた。

桜花の修復のおかげで、傷口自体は直ぐに塞がったが、血液を急速に失った為か、視界が霞み、気持ちが悪い。

桜花に肩を貸してもらいながら、寮へと帰った。

その夜は身体を休めるために、襲撃者について何も話すことはできず、俺達は眠りについた。

 

 

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<第七寮>

 

「…暇だ」

 

あの夜の次の日、俺は貧血ということで学園を休んでいる。

桜花に魔力で無くなった分の血を入れたはずだが、身体の調子は良くない。

元々学園に行くことを重要視していない桜花も看病と称して俺の近くにいる。

 

「気分はどうですか?兄さん」

 

「ん、少しダルイな」

 

「八神君は血を流し過ぎて貧血気味ですからね」

 

そういうと、桜花は新しく待ってきた水差しを入れ替える。

おでこに置かれた濡れタオルを交換する。

生暖かったタオルが、ひんやりとしたものに変わり落ち着く。

 

「私の魔力修復はあくまで代替え、少しの間、本来のものの肩代わりをするに過ぎません。実際貴方の身体に必要な血は無くなっているのですから。無茶はしないでください」

 

「…そっか。ごめん」

 

「分かってもらえれば。ですが、ようやく敵が見えましたね」

 

「…あぁ」

 

あくまで予想の中だった。

魔物を使い俺を襲う何者か。

それがついに眼の前に現れたのだ。

桜花の言う通り間違いなくアイツは敵だ。

 

「顔は見ることができませんでしたが、いくつかの情報は得られましたね」

 

「まずは性別、これは背丈での推測になるが男だと思う。そして…」

 

「私たちの進行を妨げ、私の攻撃を防いだ。詳細不明な能力。見えない壁…ですかね」

 

何度か体験した。

何かにぶつかるよう佇む見えない壁。

何度もそれに行動を制限され、今回もまた移動を妨害された。

そして、カオナシへ向けた桜花の攻撃。

アレを防いだものも同じだと考えられる。

 

「見えない…不可視の壁…か」

 

多分、その正体の端を俺は知っている。

そう確信できるものが俺にはあった。

右手を左眼へと添える。

あの時、この眼が熱くなっていくのが分かった。

何かを反応したのだ。

そして奴の言った、同胞。

ほぼ間違い無い。

 

「ヤツは…魔眼所持者」

 

桜花も俺と同じ考えだったのだろう。

コクンと頷く

 

「やはり、その可能性が高いですね。でもそれならどうして八神君を襲うのか」

 

「…分からない」

 

「貴方の魔力を狙ってなのか…それとも。ん、取り敢えず、八神君は身体を直してください。いつまた襲撃があるのか分からないのですから」

 

そう言うと、ベッドにスポーツドリンクを一つ置いて桜花は部屋を出る。

自分の部屋に戻るようで何かあれば呼ぶようにと言われた。

俺はペットボトルへ手を伸ばし飲み始める。

冷やされた液体が喉を通る感覚は気持ちの良いものだ。

俺は仰向けに倒れながら、考える。

これからどうするべきなのか。

 

「(希沙羅に聞けば、魔眼について分かるだろうか?)」

 

それか彼女のいつもいる資料室。

あそこなら歴史について書いてある書物もあった。

もしかしたら…。

そうと決まればと、明日の計画を立て始める。

その途中、瞼が重くなり、いつの間にか眠ってしまった。

 

 

 








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