BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜   作:チバ

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【サブタイトル元ネタ】
Introduction/Chicago




Introduction

俺––––––後藤敦司には、戸山香澄という幼馴染がいる。

幼馴染と言っても、ほとんど俺が一方的に呼んでいるだけであり、相手は俺の存在を認知しているのかすらもわからない。

 

戸山とは小学1年生の頃に同じクラスになった。その時から、俺は既に戸山のことが気になっていた。

小学2年生の時に1度違うクラスになってしまったが、3年生で再び同じに。そして4年生でも同じクラスになった。

 

当初は––––––まあ仲が良かったといえば嘘になるが、今ほど話さなかったわけでもない。顔が合えば挨拶はしたし、世間話ぐらいは普通にする。その程度の関係だ。

 

戸山はとにかく…そのなんというか、可愛い娘だった。いつも笑顔で愛想も良く、みんなから好かれてた娘だった。

それ以外に特筆すべきことと言えば、彼女はよく歌っていた。おそらく歌うのが好きなのだろう、歌っている時の彼女の顔は、いつもの倍以上に輝いていた。

俺はその歌声が好きだった。振付のダンスをしている時の彼女も、好きだった。

 

そんな戸山のことが、今となって気づいたが、俺は好きだったのかもしれない。多分今「初恋の人は?」と聞かれたら、きっと俺は「戸山香澄」と答えるだろう。

 

 

––––––だが、そんな彼女は「ある出来事」により歌わなくなってしまった。歌うどころか、人に笑顔を見せることも少なくなってしまった。

 

小学4年生の夏休みでのことだ。

俺は祖父祖母の家に行っていたため、実際は見ていないが、彼女は公園で歌っていたというのだ。

その観客として、同じクラスの男子達もいたのだ。

その時はその男子たちもファンコールとまではいかないが、歓声は送っていた。

その時に歌ったのは流行りのアニソンやアイドルソングだったらしい。

別段、夏休みまではよかったのだ。何も起こらず、誰も不幸にはなっていなかった、至って普通の夏休みだったのだ。

 

だが、夏休みが終わってからその「ある出来事」が起こったのだ。

ある3人ほどのグループの男子達が、夏休み中に歌った歌詞を引用して戸山に絡むようになったのだ。

そのことに、戸山は嫌な顔はしなかった。

だが、俺は側から見ていてとても不愉快だった。

 

その後も収まることなく、遂にはクラスの人半数ほどの男子達が歌うようになっていた。

そろってたかって戸山のことをーーーあれはもういじめの部類に入るのか。いじめていた。

戸山はそれまでずっと耐えていたが、遂にある日に泣き出してしまったのだ。

それを見かねたクラスの女子が、担任に報告をした。

そしてそれが発端となり、遂には学級裁判が行われる規模にまでなった。

 

––––––香澄ちゃんは泣きました!これは立派ないじめだと思います!

 

––––––違います。僕達は歌っているだけです。

 

何を言ってやがる。だったら何で戸山にわざわざ向かって歌ってたんだよ。

 

––––––香澄ちゃんは嫌な思いをしていました!香澄ちゃんのことをバカにしてたでしょう!?

 

––––––バカにはしていません。これはリスペクトというのです。

 

何を屁理屈こねてやがる。リスペクトの意味を調べなおしてこい。

 

大まかこんな感じで進んでいった。女子達が徹底的に追及、男子達はそれに対しての言い訳を、そして俺はその言い訳に文句を言う。

 

そして、それを見て、時には進行させていた教師が、俯いて座っていた戸山に聞いた。

 

––––––戸山はそのときどんな気持ちだったんだ?

 

その問いに、戸山は徐々に顔を崩していった。目尻に涙を浮かべ、嗚咽が漏れながらも、しっかりと言ったのだ。

 

––––––私は、歌なんて好きじゃないです。

 

そして戸山は泣き出した。

教師は戸山をなだめ、クラスの何人かの女子も駆けつける。

俺はそんな人々の行動よりも、戸山が「歌が好きじゃない」と言ったことに驚いた。

あんなに歌うのが好きだった戸山が、それを拒絶した。

俺は驚きのあまりそこに立ち尽くしていると、男子達の声が耳に入った。

 

––––––だっせー。泣きやがった。

 

その言葉は、俺の堪忍袋の尾を切れさせるには、あまりにも十分な一言だった。

 

 

その後の帰りに、俺は男子達のグループに喧嘩を売った。たった1人で、10人近い人数を相手にだ。

ただただ腹が立ったのだ。何の謝罪もしないそいつに。徹底して言い訳をするそいつに。

 

それからどれくらい時間が経ったのかはわからない。

3人ぐらいはダウンさせたか。

だがさすがに人数差を埋めることはできずに、俺はボコボコにやられた。

 

 

そして俺はその傷のまま帰った。ランドセルを肩にかけ、たまに顔にできた傷を触りながら。

 

「いっ…」

 

痛さのあまり、思わず声が出る。

さて親からは何と言われるだろうか。

多くの言葉を想像する。どれもあまりいいものではなかった。

 

下駄箱へと向かっていると、途中で思わぬ人と出会ってしまった。

 

「……大丈、夫?」

 

戸山だ。

さっきまで泣いていたのだろうか、少し目元が赤く、声も震えている。

その戸山の問いに、俺はそっけもなく返した。

 

「…大丈夫。じゃあ」

「ま、待って…」

 

下駄箱へと向かう俺を止めた戸山は、ポケットから何かを取り出した。

絆創膏だった。普通の絆創膏とちがうのは、星柄のマークが付いていたことだった。

戸山は取り出した内の1枚を、鼻にできていた傷に貼ってくれた。そしてさらにもう1枚を膝小僧に貼った。

残った1枚を俺の手に持たせる。

 

「…ちゃんと、お家に帰ったら消毒してね」

「……」

 

その言葉に俺は相槌を打つこともなく、そのまま去ってしまった。

今となってはそのことを後悔している。

感謝の念ぐらい述べるべきだろうに。

 

それが俺と戸山が話した最後の瞬間となってしまった。

 

 

 

それからの戸山は見る見るうちに内気な子へと変わっていった。

誰とも喋るわけでもなく、常に1人で。

中学のクラスの中では少し浮いていてしまった。

 

 

そして高校––––––今。

俺は中学までと変わらずに、友人を作って気ままに生活を送っている。

肝心の彼女––––戸山はと言うと。

 

変わることなく内気なままでいた。

 




年内に終わらせる気ではあります。
タイトルの元ネタはビートルズの「恋する二人(洋題:I Should Have Known Better)」から。
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