BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜   作:チバ

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Basket Case/Green Day


Basket Case

公園にたどり着き、目で戸山を探す。すると、ベンチにぽつん、と座っている戸山の姿が目に入った。

 

「…ここにいたか」

 

背中が少し前の戸山に戻りつつある。市ヶ谷の言葉が余程ショックだったんだろう。

戸山の元へと駆け寄り、ベンチの横で座らずに立って話しかける。

 

「少し、話をするぞ」

「……」

 

戸山は答えない。

それでも構わなかった。

俺はひとりで、呟くように話した。

 

「沙綾はな、俺の仲間だったんだ」

 

そういえば、まだおれが沙綾とバンドをしていたということを話してなかったな、と思い出す。

 

「俺が前に、バンドを組んでたって言っただろ。その時のドラムが沙綾だったんだ」

 

瞳を閉じる。

まぶたの裏側に浮かぶ映像は、メンバーと一緒に楽しく練習をしていた風景。その時の沙綾は、本当に笑っていた。笑えていた。

 

「とにかく楽しかったよ。バンドを組むってことが、これほど楽しいだなんて思ってなかった。それは、たぶん沙綾も同じだったと思う」

 

その時のメンバーは、俺と沙綾以外はバンド経験者だった。

お互いに右も左も分からない状態ではあったが、そうやって模索していくのがすごく楽しかった。

 

「でも、あいつはバンドを辞めた。ちょっとした事情があってな。沙綾はとあるライブに来なかった。それからは、もう姿を現さなかったな」

 

未だに思い出せる。あの時の後ろ姿。

何もかもを背負いすぎて、大して大きくもないその背中で背負うには、あまりにも重すぎるもの。

あの時の俺には、それが見えた。

だから、止めようとした。荷を下ろしてやりたかった。

 

「あいつが無茶をしていることは全員が分かっていた。それで俺が沙綾を止めようとした。まあ、結果はアレだったが…」

 

今でも鮮明に思い出せる、あの雨の日。

嫌なほど強い雨が降ってきた。

その雨が沙綾からの別離の言葉を代弁をしているような気がして、すごく腹が立った。

 

「俺じゃ止めることができなかった。こうして、あいつの元に顔を出して世間話をするぐらいしか、俺にできる事はなかった」

 

俺はひどく無力だ。

たった1人の少女を救うことができない、ひどく無力で惨めな。

 

「だから、お前が救ってやってくれ。お前にならできる。蔵パなら…」

「……できっこ、ないよ…」

 

小さな声で、弱々しい声でポツリと呟く。

 

「私じゃ、沙綾ちゃんを救えないよ…」

 

彼女の言葉の一つ一つが、胸に刺さる。その痛みは、一度経験したことがある。

あの雨の日の痛みと、同じだ。

 

「私じゃダメだよ。…ヒーローなんだから、後藤くんが行くべきだよ…」

「……俺、は…」

 

ヒーロー、なんかじゃない。

たった1人の少女も救えず、今こうして再び落ち行くお前(戸山)に手を伸ばすこともできない、弱虫だ。

 

「私じゃ無理。もうダメなんだよぉ…」

 

本当にそれでいいのか?

自分自身に問いかける。

目の前の少女を、かつての沙綾と同じ風にするのか?ようやく変わってきたのに?

…そんなバカな。

そんなバカなことを、誰がさせるというのだ。

させてたまるか。

 

「私ななんかじゃ、沙綾ちゃんを救えなんかできないよ…」

「…なんかだなんて言うな」

「––––––え?」

 

自然と、言葉が出ていた。

 

「なんかだなんて言うんじゃない。お前は、十分に強い。俺なんかよりも、よっぽどヒーローだよ」

 

過去の自分を受け入れながらも、それと同時に変わっていった。

 

蔵パのメンバーを着々と集めていき、メンバー全員が笑顔で楽器を弾けるのも、一重に戸山が笑いながらギターを弾いて、歌っているからだ。

 

お祭りの時、初ライブの時も、ライブを見にきたお客さん達を笑わせた。温かい笑顔にしてくれた。

 

俺なんかよりも、よっぽどヒーローやってる。

 

「お前は、自分を笑顔にした。みんなを笑顔にしてくれた。そして、俺も」

 

ああ、そうだよ。何を忘れてたんだ。

俺は–––––。

 

「お前なら、できる」

 

俺は戸山香澄の笑顔に惚れたんだ。

歌っている時の姿に惚れたんだ。

 

「だから頼む。沙綾を救ってくれ」

 

頭を下げる。

これが、俺の願い。

 

「俺に、俺たちに、みんなに–––––蔵パの完成形を、見せてくれ」

「–––––––––」

 

戸山はしばらく硬直していたが、すぐに動き出した。

転びそうなほど前のめりに、山吹パン目掛けて走り始めた。

 

「ああ、そうだ。行け」

 

その姿だ。

後ろを振り向くな。

 

「俺たちは、待ってるぞ」

 

この言葉を、走り始めたばかりの君に告げる。




今回のタイトルは「始めたばかりの君に」にしようと思ったのですが、もう少し後にすることにしました。
ちなみにこのBasket Caseと、主人公が香澄ちゃんに語りかけてるところを掛けてみました。
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