BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜 作:チバ
ピッピッピッピッ–––––––。
甲高い機械音が聞こえる。
何だろう。何の音だろう。
そう思って私は目を開けた。
「……あれ…私…」
まず入った情報は、視界が真っ白だったこと。まるで有咲ちゃんに見せてもらったビートルズのホワイトアルバムのジャケットのようだった。
そしてやや特殊な香りが鼻を刺激する。たぶん、薬かな。
首を動かしてみる。うん、正常。
左に回し、見えたのは液体が入った袋だ。差し込まれた管から水滴がポツポツ、と落ちている。本物は初めて見たけど、これは点滴だ。
「なに、してたんだっけ…ていうか、ここどこ……」
記憶を探る。
確か、ライブをして、歌って、敦司くんに…。
「–––––っ」
思い出した。
そうだ、私は倒れたんだった。敦司くんを前にして、たぶん熱か何かで。
「行かなきゃ…」
ベッドから降りようと体を動かすが、点滴の管がくっついてくる。
…これ、抜いたら痛いのかな。ていうか抜いて大丈夫なのかな。
色々考えていると、扉が開いた。
「さーて、タオルの替え…」
「あっ…」
「えっ…」
目が合った。
白い天使さんと目が合った。
するとタオルを投げ出し、ベッドに付いていたブザーみたいなのを押した。
「早く来てくださいよ〜っ、って貴方、なに点滴抜こうとしてるの!?」
「す、すいま…」
謝ろうと声を出すが、うまく出ない。何だか喉が少し痛い。
ナースさんが固定するように私を押さえつけた。
病み上がりだけど、ドタバタしちゃってます。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
自動ドアが開く。
場所は総合病院。ここら辺じゃ1番デカイ病院だ。
あの日、香澄が倒れたのを見た俺たちは、急いで救急車を呼んだ。
その次の日、香澄の担当医から言われた言葉を思い出す。
「倒れた原因は、大熱と疲労ですね。体温は40.0度を超えてました」
「はあ…」
「それともう一つ。戸山さんには症状が」
「症状?」
聞く俺に、医師は頷いて答える。
「はい。彼女は声帯ポリープが発症してます」
「ポリープってあの?」
「はい。ここ最近で、喉に負担をかけるような行動は取っていましたか?」
「喉に負担…」
と呟いて思い出す。
ここ最近はライブ続きや練習内容がややハードだった。それに香澄は声量を上げようとボイトレをずっと行っていた。
「…確かに、最近の香澄は喉に負担をかけてたな…」
「それですね。比較的ポリープは大きくはありません。ですが、放っておけば重症になるかもしれません。ましてや、バンドのボーカルともなれば尚更」
「……」
「…戸山さんはまだ目覚めてません。その時に、彼女と相談、というのは?」
「…はい。そうさせてもらいます」
俺はバンド側の代表として話を聞いた。
病室から出れば、4人が詰め寄って聞いてきた。とりあえず言われたことをそのまま説明した。4人は安心したような表情とってくれた。
それが数日前まで。
俺は、あの日から欠かさずに見舞いに来ている。
受付を済ませ、香澄が寝ている病室まで行こうと歩き出すと、前方を人影が塞いだ。
「あなた…戸山さんと一緒にいた人ね」
「…?」
銀髪の長髪の女性と、茶髪の猫っぽい顔立ちをした女性。その顔には見覚えがあった。
「確かRoseliaの…」
「あっ、覚えてくれてたんだ。嬉し〜、こんなイケメンさんに覚えてもらえるなんて〜」
「……とりあえず、少し時間あるかしら?」
銀髪女性から手招きをされた。
前回のライブの共演者ということで、今回の入院の話だろう。
俺は素直についていった。
彼女らについていき、着いたのは中庭だ。ベンチに座る。
「…で、俺に一体何の用で?えーっと…」
「湊友希那。ボーカルよ」
「今井リサでっす。ベースやってまーす」
「湊さんに今井さん、ね。で、何かあったんですか?香澄の病室がわからないとか…」
「あー…うん。そういうことじゃなくて…ほら、友希那」
「っ…わかったわよ…」
今井さんが湊さんの背中を軽く叩く。
「…ごめんなさい」
「は?」
突然の謝罪に驚く。
見た目はクールなのだが、意外と突拍子のない行動を取る系の人なのか。
「ぷっ、予想通りの反応…」
「……この手紙を、戸山さんに渡して」
「これは…?」
「彼女に見せればわかるわ」
差し出された1通の手紙を見る。それを湊さんは押し付けるように俺に渡した。
「…もう帰るわよ、リサ。それじゃあお大事に」
「素直じゃないんだからさ〜。ごめんね、あの娘ちょっとキツイこと言っちゃうんだけど、本当はいい子だから。また共演する機会もあるだろうから、その時にまた」
クールな湊さんとは正反対に、今井さんは明るい人だ。
今井さんが手を振って去っていく。湊さんはもういなかった。
一体、香澄と湊さんに何があったのか。俺はそのことを考えながら、香澄の病室へ向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
病室の前で、息を吸って吐く。
そして扉を開ける。
「あ…」
そこには、上半身だけを起こして窓の向こう側を見ている香澄の姿。
「あ、敦司くん…」
「おま…起きたのか…?」
「うん。少し前に」
久々に聞いた彼女の声。しかしポリープの影響だろうか、声質はいつもより低めだった。
「声、大丈夫なのか?」
「うん…さっきお医者さんから聞いた。朝からずっと違和感があったんだけど…」
「……」
ここで1発怒ってやりたかったが、さすがにやめておく。
「とりあえず、沙綾たちを呼ぶよ」
病室から出て、彼女たちを携帯で呼ぶ。
すると、4人は「本当に!?」と声をあげてすぐに来た。ちなみに1番早かったのは有咲だった。
「あ、みんな…」
「先輩…声が…」
たえが口を押さえて言う。
4人とも事前に聞いてはいたが、いざ聞くと普段とは全く違う声質に、驚いている。
「このっ…」
「有咲ちゃん?」
「この…ばかすみがぁっ!」
「いたぁっ!」
病室に響く怒号。そして有咲は香澄の額に頭突きをかます。
たえは心配そうな顔をしているが、りみと沙綾は黙ってその光景を見ていた。
「1人で無茶して!わかってるの!?かすみんがいなくなったら、私たち悲しむんだよ!?」
「……だって…絶対に、成功させたかった…」
「だからって、それでかすみんが倒れたら元も子もないでしょーが!」
「うぅ…」
「…さっきの頭突きは、おすそ分けってこと」
顔を赤くし、息を荒げる。
「体壊すまで無茶し続けたかすみんと、それに気づかなかった私たちへのね。…さすがに全員は可哀想だし、かすみんもそんな状態だから、代表として私が」
「……ぅ」
「けど。よかった…」
「…ぇ…?」
「生きてて…よかったよぉ…!てっきり私…本当に…いなくなっちゃうんじゃないかって…」
「有咲、ちゃん…」
香澄の胸に顔を埋めて泣く。
その姿を見た香澄は、穏やかな顔で頭を撫でた。
「ごめんね…本当に…ごめんね…」
「……っ」
それから有咲は泣き続けた。たえも耐えきれずに涙を流す。
手紙は、また今度にするか。
そう思い、俺は沙綾とアイコンタクトをして、その場を後にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「それで、その手紙?」
「ああ」
敦司くんが私に手紙を渡す。
真っ白な封筒にしまわれた、普通の紙だ。
なんでも、湊さんかららしい。
「なんだろう…」
「見舞いとかじゃないのか?」
ペラ、と紙をめくる。
そこにはバランスのとれた綺麗な字が並べられていた。
『拝啓、戸山香澄さん。
まずはごめんなさい、と謝らせてもらうわ。あの時、あなた達の活動に対して″お遊び″なんていう侮辱発言をしてしまったことを詫びるわ。
最初は、思い出作りの一環でバンド活動をしている人達だと思っていた。けどその認識を覆された。
あのライブのあなたの–––––いえ、あなた達の演奏は、魂を揺さぶられた。
特に戸山さん、あなたの歌声には、命がこもっていた。
あれが戸山香澄の全力。
私はあの後、あなたに謝ろうと楽屋に向かった。けどあなたは、倒れて、そのまま病院は行ってしまった。
こうして手紙を通しての謝罪になってしまうことが何よりも申し訳ない。
私は、もう一度あなたの歌声を聞きたい。
そして、あなた達と対バンをしたい。同じステージに立って、実力をぶつけ合いたい。
拙い言葉になってしまったけど、これが私からの言葉。
1日でも早い回復を願っています。
湊友希那』
読み終えた瞬間、目の前が霞んだ。手紙にポツポツ、と涙が落ちる。
「おいっ、どうかしたのか?」
敦司くんが心配した声で聞く。
「わかんない…わかんないけど…涙が止まらないよ…」
なんで涙が止まらない?
わからない。
けど、これは多分嬉しさなのだろう。自分より真上にいる人に認められたという事と、ライバルが出来たというこへの。
アニメを見ていても思ったけど、喋らない香澄ちゃんって可愛いよね。