BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜   作:チバ

20 / 21
八月のif/Poppin' Party


特別編
八月のif


夜空に浮かぶ星を、掴もうと手を伸ばす。

しかし、手を開いてみれば何も掴めてない。

 

「何してんの、かすみん」

「ううん。なんでもない」

 

夏にしては、やや涼しい風が髪を揺らした。

 

「せんぱーい、そろそろっすよー」

「…だそうだよ。遅れたらマズイし、行こ」

「うん」

 

有咲ちゃんに手を引かれ、私は小走りに向かった。

そこには、たえちゃん、りみちゃん、沙綾ちゃん、そして敦司くんの4人が待っていた。

 

「何してたの?」

「なんだか突然手を伸ばし始めて…」

「厨二病というやつか、面妖な」

「ち、違うってば!」

 

向けられる怪しい視線に必死に抗議をする。

そんな私の声とともに、笑い声が広がる。

 

「ポピパのみなさん、スタンバイお願いします!」

「はーい」

 

スタッフさんの呼びかけに沙綾ちゃんが反応する。

そして私たちは、声を掛け合わずとも目と目を合わせて円陣を組んだ。

 

「ついに…この時が来たね」

「うん…そうだね」

 

沙綾ちゃんの声に私は頷く。

Poppin' Partyを結成して約6年。

色々なことがあった。

高校を卒業して、私たちはプロの事務所、音楽レーベル社と契約を結んで、メジャーデビューを果たした。

最初こそ、そう上手くはいかなかった。

その度にメンバーとも衝突もしたし、色んな辛いことがあった。

 

けれど、そんな濃い思い出も、今思い返せば短い出来事だったな、と思う。

 

「私がかすみんにギターを教えてから、もう6年か…長かったような、短かったような」

「ウチは短いように感じた」

「自分も、濃かったけど、短くも感じましたね」

 

有咲ちゃん、りみちゃん、たえちゃんの順に思い返しているようだ。

 

「しっかし、年に一度は無理してかすみん倒れてなかった?」

「あー、確かに。香澄ちゃん、敦司の告白の時以来から年に一度は必ず無茶をするようになったよねー」

「え…そ、そう…?」

「自覚無しっすか…」

 

これでも自分ではコントロール出来てる方だと思うんだけどな…。

 

「あんまり無茶はすんなよ。見てるこっちも辛いからな」

「そうそう。爆睡してるかすみん起こすの大変なんだからねー?」

 

敦司くんから控え目に頭を撫でられる。

メイクが崩れないようにと、彼なりの気遣いだろう。

 

「イチャイチャするなー!」

「してもいいだろ。この武道館公演終わったら結婚すんだし」

「はっ?」

「えっ?」

「なん…すか、それ」

「…面妖な」

 

…え、なんで言っちゃってるの、この人。

みんなの反応を見て、彼もやっと気がついたらしい。

 

「…これって後に言うことだっけ?」

「…みんなへのドッキリにしようって言ったの、敦司くんだからね?」

「あー…今のオフレコで」

 

「「「「遅いわ(っす)!」」」」

 

と、みんなから総ツッコミを受ける。

 

「えー、なんだ。最初から言ってくれてればケーキぐらい用意したのに」

「私もお祝いのパンぐらい作って来たよー?」

「ウチは…白米」

「ブレないっすね、りみ先輩…」

 

みんなから色々な反応を取られる。

 

「元々ドッキリのつもりだったんだがな…悪いな」

「…ねぇかすみん、こんなの旦那にしちゃって大丈夫なの?」

「ま、まあ…しっかりはしてるから」

「そこだけかよ」

 

本当はもっとあるし、知っているのだけど。

彼は、私の全てを始めさせてくれた。ギターを持つきっかけも、また歌うことができたことも、この場にいることも。

全て、彼のおかげなのだ。

 

「さて、じゃあ円陣を組みますか」

「だね」

「気合いだ気合いだー!」

「あわわわ、緊張で手が震えてる…」

 

私は円に加わり、震えているたえちゃんの背中を優しく摩る。

 

「大丈夫、私たちならできる」

「は、はいっ!」

 

たえちゃんの笑顔を見て安心する。

さあ、始めよう。

 

「えー、今日この日この時まで、私たちPoppin' Partyには色々なことがありました」

 

静かに、メンバーだけでなく、その場にいたスタッフさんも足と手を止めて聞いてくれている。

 

「…それは、良い事ばかりではありませんでした。プロの世界故の厳しさも痛感しました」

 

何度も泣いた。何度も挫けそうになった。

けれどその度に、私たちに最大のバックアップをしてくれるスタッフさんが支えてくれた。

 

「けど、その壁を乗り越えて、私たちは今、この武道館という地に立っています」

 

今、私たちが踏みしめているのは武道館。

多くのミュージシャンの憧れの地であり、ロックの聖地である。

 

「…昔の私なら、きっとここでヘタレ込んでいました。緊張でお腹が痛くなって、パイプ椅子に座って限界までヘタレてたでしょう」

 

その言葉ともに笑い声がこぼれるのがわかった。

メンバーも笑っている。

 

「けど、今の私は違います。私は、Poppin' Partyのボーカル兼ギターとしてこの地を踏み、そして武道館という大きなステージに立てていることを誇りに思います!」

 

一瞬の静寂。

全員が、次の私の言葉を待っていた。

 

「スタッフの皆さん、ここまで私たちを支えて来てくれてありがとうございます。そして多分、これからもまだお世話になるので、よろしくお願いします」

 

スタッフさんからの拍手、「これからもよろしく」と言った声が沸く。

 

「そして有咲ちゃん、りみちゃん、たえちゃん、沙綾ちゃん、敦司くん」

 

メンバーひとりひとりの顔を見て、名前を呼びあげる。

 

「今までありがとう。そしてこれからも、私の無茶について来てください!」

「もちろん」

「最後までついていくよ」

「師匠」

「墓場までお伴するっす」

「…ああ」

 

それぞれの反応を聴き終え、私はお腹に力を入れた。

 

「それじゃあ、行くよーっ!」

 

円の中心に手を重ね、皆んな、メンバーも、スタッフさんも声を合わせた。

 

 

「「「「「ポピパピポパポピパパピポパ–––––ッ!」」」」

 

 

そして私たちは、ステージへと上がった。

私たちが姿を現わすと、お客さんは大きな声を上げた。

1万人。この武道館という箱には、1万人が詰め込まれている。いや、全国の映画館でのビューイングを含めれば、もっともっといるのだろう。

 

–––––––ああ、綺麗だ。

 

360°を一望して、私らそう思った。

 

マイクのスイッチを入れて、第一声を放つ。

 

『みなさんこんばんは、Poppin' Partyです!』

 

私の声とともに観客の声が、先ほどとは別ベクトルの大きさで響き渡る。

その音に、少し有咲ちゃんとたえちゃんがびっくりした。

 

『では早速ですが…始めちゃいます!』

 

そして、メンバーと目を合わし、アイコンタクトを取り、ギターをかき鳴らす。

沙綾ちゃんのドラミングが鳴り響き、りみちゃんの低音も耳を刺激する。

 

『ときめきエクスペリエンス』

 

そして演奏が始まる。

これが、私たちの第一歩。

さあ始めよう、このお祭りを。

私たちの6年の、集大成を––––––!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その後もライブは続いた。

思い出の曲『STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜』。

途中でたえちゃんのソロコーナーが入って、歴代ギリストのジミ・ヘンドリックスやジェフ・ベックのギターカバー。

そして『花園電気ギター』という本人作詞作曲の曲も演奏した。

 

私たちの曲で一番ヒットした『走り始めたばかりのキミに』を、アコースティックversionで披露してみた。

続いてYes! BanG_Dream!のアコースティックversionも披露し、会場が少し静かになったところで、新曲の『Time Lapse』も披露した。

 

ラストスパートにかけて『前へススメ』と『夢見るSunflower』を演奏し、ライブは一度終わり…。

 

しかし、鳴り響くアンコールの声。

会場が、観客が一つとなって私たちを呼んでいた。

 

汗だくのメンバーとアイコンタクトを重ねて、急いでアンコール用のセットリストを確認する。

 

そんな中であったのは、『八月のif』。

この曲は、もし、私たちが出会っていなかったら。

どんな夏を送っていたのかな。今こうして、バンドをやれていたのかな。ふと、そう思ったことから生まれた曲だ。

書きながら何度も涙が流れた。

今の私たちを構成する曲だ。

 

「キラキラドキドキ…」

 

この言葉が思い浮かんだのは、或る日突然だった。

私自身も覚えていない。気がついたら、言っていたのだ。

この曲にはもう一つ、私が込めた意味がある。

 

それは、もしも、私たちは私たちだけど、性格とかが全く違う人間だったらどうなっていたのだろう、と。

もし私がポジティブで底抜けの明るさを持っていて、りみちゃんが大人しい子だったら、そういうことを考えてみて、作った曲でもある。

 

if…それは可能性の意。

その数は無限大。

その中の、ほんの一つの存在が私たち。

 

ちっぽけな存在。けれど、楽しい。

楽しければいい。やりたいことができていれば、それでいい。

 

この曲が完成し、初めて抱いた感想は、それだった。

どれだけ私たちが考えようとも、所詮は可能性なのだ。

けれど、その可能性には感謝をしなくてはならない。その可能性たちも、また今の私たちを構成しているものの一つなのだから。

 

再びステージへ上がる。

観客からの歓声を浴びる。

 

そしてたえちゃんのギターから奏でられる『八月のif』

 

私が歌い、沙綾ちゃんも歌う。

観客の何人かも、この歌を口ずさんでいるようだ。

 

 

–––––––笑った日を 泣いた日を

 

–––––––泣き笑いしてた日を

 

–––––––全部 歌にしようね

 

–––––––どうか 明日に 届きますように

 

 

歌詞が終わり、目を開ける。

メンバーの姿を目に収め、そして客席を見た瞬間。

 

『ありがとう』

 

大粒の涙をこぼして、私は静かにそう言った。

それは、観客へ向けたものか、スタッフさんへ向けたものか、メンバーに向けたものか。はたまた、可能性か?過去の自分たちへか?

 

否。

 

全てだ。全てに、私は感謝をした。

 

ありがとう、私たちを育ててくれて。

 

ありがとう、私たちを見ていてくれて。

 

ありがとう、私たちをここまでまで連れてきてくれて。

 

私は泣きながら、心の中で何度も何度もそう言った。

駆け寄ってきてくれた有咲ちゃんに頭を撫でられて、沙綾ちゃんが背中を抑えてくれて、りみちゃんがベースを弾きながらも近づいてきてくれて、たえちゃんも私の背中をさすってくれた。

 

「ありがとう…私、本当に幸せだよ…!」

 

その声は歓声によって掻き消されてしまったかもしれない。

けれど、それでもいい。

 

やっと言えた。

感謝の言葉を、やっと。

 

これからも、頑張ります。

だからどうか、見守っていてください。

 

拍手が鳴り響くこの場所で、私たちはそう言った。




Poppin' Partyの皆様、武道館ライブお疲れ様でした。

さあ、2ヶ月前に完結したはずのこの作品がなぜ投稿されたのか。それは武道館ライブが終わったからです。
武道館ライブが終わり、声優さんのツイートを見て涙誘われる中、とあるアカウントが目に入った。

【BanG Dream!(バンドリ)小説】

そう、この作品の原作となっている小説版バンドリの公式ツイッターアカウントが数ヶ月ぶりに起動しているのだ。そしてそれ同時。戸山香澄の声優である愛美さんが、武道館ライブの御守りとして、小説版バンドリを持って行ったと言うのだ。

目頭が熱くなった。
そうか。まだ、覚えているのか。みんな。
小説版バンドリのことを、始まりとして見ていてくれているのか。

涙が出そうになったのと同時に、私はこの話を書き始めました。
何かに取り憑かれたかのように。ただただ書きました。
これを書かなくてはならない。そう思ったから。

さあ、長くはなりましたが、たまにこういう突然の更新もあったりします。
もしかしたら、また別のイベントで感動したら、新しい話を書いたりするかもしれません。その時はよろしくお願いします。

それでは。また何処かで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。