BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜 作:チバ
「みんな!」
戸谷は戸を開けてそう声を上げた。
新しい仲間とは何か、そう問いをあげることもできなほどの早さで、蔵の中にいた少女たちは俺に詰め寄って来た。
「ちょ、待て…って言うか市ヶ谷と牛込…それと花園も」
そこにはいつもの3人…プラス花園がトランプをやっていた。
「えー、どうしたのかすみん」
「珍しく大声を出して…師匠らしくないな」
「あ、やったあがりっす!…ってかすみん先輩?それと…」
上から順に市ヶ谷、牛込、花園の順に反応しているが、花園は俺の顔を見るなり首を傾げた。
トランプのカードが散らばっているあたり、ババ抜きか何かをしていたのだろう。
「あー、そうか。花園は俺のこと知らないか。俺は後藤敦司、戸山たちと同じクラスで、委員長やってる」
「あ、これはこれはご丁寧にどうも。私、花園たえと言います」
「いや、そうじゃないでしょ」
市ヶ谷に突っ込まれる。
「とりあえず…」
「全員集合!」
牛込の掛け声と共にその場にいた俺以外の全員が市ヶ谷の元に集まる。
「ちょっとかすみん、なに委員長連れて来てんのよ」
「結構イケメンっすね。かすみん先輩の彼氏ですか?」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「そうそう。師匠はクラベン系女子なんだ。男友達なんかいるはずない」
「うぅ…否定できない…」
「えぇ、クラベン系女子ってなんすか!?」
「話聞きなさいよあんたら!」
…なんか凄いこそこそ話をしてるっぽいけど、明らかに纏まってないよな。
「えーと、俺もあんまり聞かされないから、説明頼む」
「…って、連れて来られた当人は言ってるみたいっすけど」
「そうよ、ちゃんと説明してくれないと」
「うぅ…」
暫く顔を赤くして黙っていたが、やがて顔を上げ、みんなに話すようにと前へ出た。
「えっと、後藤くんはギターが弾けるらしいの。それも昔バンドやってたみたい。だから、その…ギターを教わろうと、思って…」
「なーるほど」
腕を組んで納得たかのような顔をする市ヶ谷。
「そこで疑問なんだが、教わるんだったら花園に頼むことはできないのか。アコギ上手いし」
「そのことなんだけど…」
戸山が言いずらそうに構えていると、花園が口を開いた。
「自分、エレキ弾けないんです」
「は?」
サラッと言いやがった。
え?あんなにアコギ上手くて、エレキ弾けないの?
「エレキギターが家になくて…だからエフェクターとかアンプとかさっぱり」
「そっからなのかよ…」
なるほどな。
戸山は最近ギターを始め、バンドを組んだ。
だが始めたばかりの戸山だけでは心許ないので、アコースティックギターが上手い花園を加入させた。
だけど、花園はエレキギターはまったく弾けない、と…。
「…なんとなく状況はわかった。で、どのぐらいのレベルなんだ?」
「…え?」
「いやだから、どこら辺からだ?コードはどこまで覚えた?」
「え…その、教えて、くれるの?」
聞いてくる戸山に、俺は頷く。
「当然だろ。話聞く限りだと、結構重症っぽいし。それに…」
引っ込み思案になってた戸山が、奮起して何かをしようとしてる。それを支えたかったからーーーなんて、言えるわけがない。
「…なんでもない。とにかく、教えるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「…で、実際どのぐらいなんだ?」
「あ、それなら…」
戸山が後ろを向き、他のメンバーを見る。
「そーね」
「今後の練習のためにも」
「まだ自信ないっすけど…」
それぞれの担当楽器を持ち構えた。
そして戸山が前に出て、声を上げた。
「私達の演奏、聞いてください!」
そして戸山がギターをジャーンと鳴らす。
その音を合図に鳴らされる音。
牛込の低音ベース、花園のギター、市ヶ谷のキーボード。
そしてその曲は…
「Helter Skelterか…」
The Beatlesのアルバムのひとつ、「The Beatles」…そのジャケットデザインから、ホワイトアルバムとも呼ばれるアルバムに収録されている曲。
幅広い音楽性をこなしてきたThe Beatlesの中で、最も激しい曲とも言われている。
それは、世界で一番有名なバンドの、最も激しい曲。
花園のギターは際立っていた。 とてもエレキ初心者とは思えないほどだ。
牛込のベースも、まだ発展途上ではあるが、存在感がある。
市ヶ谷のキーボードもなかなかだ。
戸山は、笑っていた。笑顔でギターを弾いていた、がむしゃらに。
俺はその姿に、心を撃たれた。
気がつけば、演奏が終わり、戸山のピックの一振りで演奏が終わった。
ギターの音がまだ響く中、戸山は笑顔でその言葉を言った。
「
その言葉に、俺は聞き覚えがあった。
1年前、沙綾が俺を含むバンドメンバーに言った言葉。
––––––夢を撃ち抜け!
突然だ。ライブ前に突然言い出したのだ。
それ以後、彼女はその言葉を言うことはなかった。
なぜ言ったのだろうか、それは今でもわからない。
だが…
「…今ならわかる気がする」
そうだ、沙綾は目指していたのだ。
ドラマーになる事を。
誰よりも高みへ、そして自分の夢へと。
それとは対照的に、俺は何も目指していなかった。
ただただ、あの時を楽しんでいただけなのだ…。
俺は思わず拍手をした。
たった1人だけではあったが、多分彼女たちにとっては初めての拍手なのだろう。
その乾いた音に、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
「…で、どうだった?」
しばらくたち、市ヶ谷が俺に聞いてきた。
その問いに、俺は抱いた感想を率直に言うことにした。
「下手くそだ!」
「…えぇぇぇ!」
「だ、だよね〜…」
「よ、容赦ない!」
「やっぱ自分があの時ミスしてたのが…」
確かに下手くそだった。
だけど…
「だけど、楽しかったよ。演奏を見てて、聴いて。いかに楽しんで演奏していたのかが、よく伝わったよ」
下手くそではあったが、彼女たちはそれ以上に楽しんでいた。
全員が、笑っていた。
これが、やりたいことなんだな、と伝わった。
「まあ、確かに。戸山と花園のギターは下手だった。独学感が丸出しだ」
「は、はい…」
「返す言葉もございません…」
「だから、だ」
そこで市ヶ谷にギターもう一本ないか、と聞いて取り出してもらった。
ギターをいつもより少し雑めにチューニングし、構える。
「ギターっていうのは、はっきり言ってコードから覚えないほうがいい」
「え、そうなんすか?」
「ああ、無理してコードを覚えて行く必要はないよ」
「で、でもそれじゃあ弾けない…」
「いいか、ギターにはパワーコードっていうのがあってだな」
そこでCの5弦のパワーコードを弾いてみせる。
「このパワーコードっていうのは、さっきのHelter Skelterみたいなロック曲には必要不可欠だ。まずはこれから覚えたほうがいい」
「って言っても、どうやって…」
「今からパワーコードを使った簡単な曲を弾くから、よく聞いとけよ」
そう言って、俺は弦を押さえ、ピックを振り下ろす。
弾いた曲は、ニルヴァーナのSmels Like Teen Sprirtのイントロ。
薄汚い服装で荒れ狂って歌うというグランジロックを世界に広めたバンド。
そのバンドの中で、最も世界で知られている曲であり、最もボーカル担当のカート・コバーンが嫌悪した曲だ。
「あっ、これってニルヴァーナっすよね!」
「ニルヴァーナ?なんか聞いたことあるような…」
「それと、もう一つ」
そして次に弾いたのはGREEN DAYのAmerican Idiot。
ロックが衰退しつつあった90年代後半に、ロック界に大きな革命を起こしたバンドの代表曲だ。
「あっ、これ知ってますよ!えーと確か…」
「F1か何かで掛かってたわね」
「…とまあ、今弾いた二つの曲は、パワーコードを使った曲の中でも比較的簡単な曲だ。これ以外にも色々とあるから調べてみるといい」
「は、はい…」
パワーコードは…まあ花園はリードなので、パワーよりももっと複雑なコードを使うのだろうが。ボーカル兼ギターである戸山にはパワーコードは必要不可欠だ。
「いや、なんか本当に先生っぽいわね、委員長」
「実際私たち教わってますし」
「む、外を見て見ればもう暗い」
本当だ。
窓を見ると外は真っ暗だった。
「はい、それじゃかいさーん」
「そうっすね、私もそろそろ帰らないと…」
「む、そうか。ならば私も」
それぞれ鞄を持ったり、散らばったトランプカードを片付けたりし始める。
「それじゃ、私も…」
「……帰るか」
戸山も支度を始めたので、俺も帰ることにした。
そして蔵から外に出る。
4月とはいえ、やはりまだ肌が冷たい空気を拒もうとする。
牛込と花園はベース、ギターを持ってそれぞれの帰路を歩く。
「じゃあねー」
「はい、また明日」
「ふっ、夜道に気をつけろよ…」
なんつーか、本当に牛込は変なやつだよな。
いや、同じ学年なのに後輩口調の花園も十分変なのだが。
「それじゃ、かすみんと…委員長も気をつけてー。あんたら2人が1番ウチから距離離れてるんだから」
「うん、有咲ちゃんもおやすみ」
「明日もちゃんと学校来いよな」
市ヶ谷も自宅へと入っていった。
さて、残った2人なのだが…。
「………」
「………」
超気まずい。
一応幼馴染のため、家はそれなりに近い。つまり、帰路が同じなのだ。
だが先程から2人揃って黙りっぱなし。
気まずいことこの上ないので、空気を壊すために…というより、俺が今日の戸山を見て思ったことを口にすることにした。
「……ギター弾いてて楽しいか?」
「…!……楽しい、です」
「おいおい、なんで敬語なんだよ」
そうか、楽しいのか。
ならよかった。
戸山が塞ぎ込んでいる姿をずっと見てきた俺は、安心した。
「ギター弾いてる時の姿…なんというか、戻ったみたいだったよ」
「………え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
その姿を見て、俺はずっと気になっていたことを聞くことにした。
「なあ戸山、お前は俺のこと覚えて…」
ピピピピピ…。
電話の音だ。
聞こえる方は戸山の鞄から。
「あ、ちょっとごめんなさい…」
顔を赤くしながら鞄を探る。
「もしもし…うん、うん。大丈夫、もう家の近くまで来たから…うん、寄り道はしないから…じゃあまた後で」
どうやら親からのようだ。
当然だ。もうこんな暗いのだ。
高校生とはいえ、流石に心配にはなるだろう。
「…あ、えっと…」
また姿勢を改めて俺の顔を見る戸山。
「…なんでもない。ほれ、早く帰れ。親御さんが心配してっぞ」
「…え、あ」
「じゃあな」
半ば強引に別れの挨拶をして足早に戸山に背を向けた。
今回は聞けなかったが、またきっとチャンスはあるはずだ。
こうして戸山と接点を持つことができた。
また次の機会に聞くことにしよう。
漫画を読んでて思ったけど、キャラ変化がすごいですね。
かすみんコミュ力とテンション高すぎるし、りみちゃんめっちゃ大人しいし…。