BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜 作:チバ
「…うーん、このコードは指が…」
「まあ女性の花園には難しいわな」
日曜日。バンド練習中だ。
俺は花園とマンツーマンでギター教室を開いている。
市ヶ谷は譜面を見ながらキーボードを、牛込はパソコンに映し出された映像を見ながらベースを練習している。
戸山は家庭の事情で少し遅れるそうだ。
「どうしても難しいって時は、オリジナルと押さえ方を考えるといい。…まあ、大抵は思い浮かばずに慣れるしかないんだが」
「オリジナル…オリジナル…」
さっきまでとは違う押さえ方を試し始める。
なんだかギターを始めた頃の俺とそっくりで、少し笑ってしまう。
「にしても、かすみん遅いわねー」
「きっと師匠は敵の忍者と戦っているんだ」
「…家庭の事情って話聞いてた?」
ジト目で牛込を見ながら突っ込む市ヶ谷。
しかし、確かに遅いな。
来るはずの時間から少し遅れてしまっている。
…と
「…すいません、遅れちゃった…!」
戸山が息を切らしながら戸を開けた。
状態から察するに、走って来たのだろう。
「お、かすみん。大丈夫?」
「有咲ちゃん…ごめん、遅くなっちゃっ、て…」
「わかったから落ち着いて。とりあえずハイ、水」
そう言ってミネラルウォーターを差し出す。
戸山はそれを受け取り、すぐに飲む。
だが気管に入ったのか、ゲホゲホと咳き込んでしまう。
「大丈夫、気にしてないっすから。それより落ち着いて」
「師匠、こういう時は深呼吸だ。スーハー、スーハー」
そんなこんなでなんとか落ち着いた戸山は少し壁にもたれかかって座った。
「…と、もうこんな時間か」
市ヶ谷が時計を見て呟く。
時刻は12:20。昼食の時間だ。
「今日はおばあちゃんいないし、買い出しに行くしかないか」
「なるほど。で、誰が行く?」
牛込のその言葉に、場に緊張が走る。
「かすみん先輩はいいですよ、休んでて」と花園が戸山へのフォローに入る。
「さいしょは…」
「グー」
「じゃんけん…!」
結果は俺のひとり勝ちだ。
市ヶ谷、牛込、花園がパー、俺がチョキだ。
「あちゃー、私か…」
「運がなかったか…」
「おふたりは何がいいですか?」
花園が聞いてくる。
「そちらのおまかせで」
「私はサンドイッチで…」
「了承した。しばしお待ちを」
「行ってきまーす」
そう言って3人は蔵から出て行った。
さて、こうして2人になったわけだが…。
「……大丈夫か?」
「え、ああうん、大丈夫…」
会話が続かない…。
「そ、そうだ。自主練しないと…」
この空気を断ち切るかのごとく突然立ち上がる戸山。
ちなみに最近わかったのだが、戸山はギターを持たせるとキャラが変わって、テンションがいつもより高くなる。
「えーと、ギターは…っ!」
「な、おい!」
戸山が突然崩れ落ちた。倒れそうになる戸山をなんとか支えた。
「おい、大丈夫か?」
「………ぁ…」
呼びかけるが戸山は顔を赤くして反応しない。
…ん?顔を赤くして?
そこで俺は今の状況を初めて理解した。
後ろに倒れそうになっている戸山を、俺が左腕を背中に回して支えている形になっている。
当然、そうなると俺と戸山の顔は近づくことになる。
「あ…悪い!」
「ぁ…う、ううん!ありがとう…ございます」
ふらつきながらも自力で立つ。
俺はそこらへんにあったパイプ椅子を広げ、戸山を座らせる。
「…で、大丈夫か?」
「うん、大丈夫…っ」
顔を歪ませ、左足を触れる。
「お前、もしかして…」
「……ここに来る途中、足をくじいちゃって…」
「見せろ」
「え?」
「いいから見せろ。とりあえず応急処置をするから」
気がひける発言ではあったが、このまま傷が進行して重くなっても困る。冷やすぐらいなら俺でもできる。
氷は市ヶ谷の家のを借りることにしよう。市ヶ谷から一応の許可は貰っているのだ。
「見せてみろ」
戸山が足を見せると、足首は青くなっていた。
「他は?」
「……肘が」
そう言って右肘を見せる。
その肘には擦り傷が付いていた。おそらく挫いた時についたのだろう。
消毒液と絆創膏も必要か。
仕方ない、山ほど色んな物が積み重なっているが探すか。
「…あの、本当に大丈夫だから」
戸山のその言葉に、俺は彼女が昔の俺
と似たことを口にしていると気づいた。
「似てるな、あの時の俺と」
「似てるって…?」
「…何でもない」
会話を切り、見つけた治療箱を開ける。
中には包帯やら消毒液が入っていた。
が、絆創膏はなかった。
「マジか…絆創膏がない……あっ」
と、そこで閃いた俺はおもむろに財布を取り出す。そして札入れを開き、中から一枚の絆創膏を取る。
それは、俺がケンカした時についた傷に、戸山が貼ってくれた絆創膏。これはその時に貰った物だ。
常にこれを財布に入れて、お守りがわりにしていたのだ。
そして市ヶ谷宅を少しお邪魔した俺は氷を袋に入れ、1枚の薄いタオルを巻き、それを戸山の足首に添えた。
「ちゃんと持ってろよ。で、次は…」
擦り傷のついた肘だ。
消毒液を取り出し、痛々しい傷にそっとつける。
「……っ…」
「よし、これで終わり」
最後にその擦り傷に星柄のマークのついた絆創膏を貼る。
その絆創膏が目に入った戸山は、不思議そうな顔をする。
「え…これ、確か…」
戸山が漏らした言葉を聞いた俺は、先日に言いそびれた事を言うことにした。
なぜ今なのかはわからない。だが、今を逃せばこれ以降は聞く機会もなくなるだろう。俺の勘がそう囁いたのだ。
「…お前は覚えてるか」
「え?」
「昔…7、8年前だったか。おまえが喧嘩して出来た傷に、絆創膏を貼ってくれたのは」
「………」
聞くだけ無駄だったかもな。そりゃ当然か。碌に話しもしたことなかったんだ。覚えてるはずがないか。
「……覚えて、るよ…」
「……え?」
思わず聞き返してしまう。
「覚えてるって…」
「……覚えてるに、決まってる…。だって、あの時の時の傷の理由、わかったし」
「な…」
傷の理由を知っている…。つまり、俺が喧嘩をしたってことを知っていたのか。
「––––––私…」
「––––––俺…」
その時、俺は無意識に戸山のことを見つめていた。おそらくは戸山もだろう。
「後藤くんの事が…」
「戸山の事…」
無意識に自らの想いを伝えようとする。
––––––が。
「ただいまー」
「今帰った」
「買ってきましたよー!かすみん先輩!」
タイミングよく買い出しの3人組が帰ってきた。
「うぉ…」
「あっ、ちょっ…」
急いで距離を離そうとあたふた動くが、それが仇となった。
足を滑らせた俺は、戸山に覆い被さる形で倒れてしまった。
「……あー…かすみんと委員長?」
「…アツアツだな。夏はまだ先だぞ」
「お二人ってそういう…」
「ち…違うからぁぁぁぁぁ!!」
この光景を見た3人の反応に、ゼロ距離で否定という名の叫びをあげる戸山。鼓膜が破れそうだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その後、俺と戸山は3人になんとか弁明をした。納得はしたようだが、ニヤニヤしていたので、暫くは弄られるだろう。
そして肝心の戸山なのだが…。
「なぁ、とや…」
「ご、ごめんなさい!」
こんな感じで避けられてしまっている。
せっかく彼女が俺のことを覚えていてくれたという事がわかったのに、避けられてしまっては元も子もない。
「……ふりだしに戻る、か…」
次に会った時にどうコミュニケーションをとろうか。それを授業中まで考えていた。
あけましておめでとうございます!
年内に完結できなかった…申し訳ない!