BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜 作:チバ
ライブ開始まであと1時間。
俺はライブ会場から少し離れたとある機材置き場に来ていた。
「やっぱりここにいたか」
「…なんだ、誰かと思えば敦司か」
タオルを首にかけて座っていたのは、沙綾だ。傍らには獅子舞が置いてある。
「あの獅子舞はおまえか…」
俺がどうやって沙綾がここにいると判断したかというと、あの獅子舞の踊り方に覚えがあった。
昔、沙綾が獅子舞の踊りを見してくれたことがあった。その時の踊りの癖が、さっきの獅子舞と同じだったので、もしやと思って沙綾を探して、ここにたどり着いたのだ。
「カスミちゃんと一緒にいたのは、やっぱり君だったんだ」
「カスミ…?なんでおまえが戸山の名前を?」
「知り合い。一方的な、だけど」
沙綾と戸山にどんな繋がりが…?
「踊りながら進んでたら、なんか不安そうにしてる子がいてさ。それで寄ってみたらカスミちゃんだったから、厄を落とそうとがぶり、ってね」
「あいつ、すごいショック受けてたぞ」
「あ、やっぱり?」
自覚ありかこいつ…。
「知ってるんなら、見に行かないのか?」
「見るよ、ここから」
「ここからって…」
ギリギリ見えるか見えないかの所でか?
俺達が今いるところは、ステージからかなり離れている。今はまだ人が少ないため、見えてはいるが、演奏が始まり観客が増えてきたら、必然的に見えなくなるだろう。
「ここからでいいんだよ……今のカスミちゃんは、私が見るには眩しすぎるよ…」
俯き、声を低くしてポツリと呟く。
「私は、あの娘達の初ステージを見届けるだけなんだよ。そこに余計な茶々入れない。…そう決めたんだ」
「…そうか」
沙綾がそう言うのだ、俺は何も言わずに去る事にした。
…だが、一つ言いたい事ができた。
「……あいつーーー戸山はな、逃げずに前を向いているぞ」
「え…?」
「まだまだ根暗で、周りの奴らがいなくちゃ動けない時もあるけど……少しずつ昔の自分を克服しようとしてる」
「……つまり、何が言いたいの?」
「特に深い意味はないよ。ただ、お前のドラムをまた聞きたいな、そう思っただけさ」
そう言ってステージに向けて足を進めた。
後ろを振り向かずに。……沙綾を信じて、俺は前を向いて歩いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
––––––ついに始まるんだ…!
衣装に着替えた私ーー香澄は、言葉には出さずに、心の内で歓喜の声をあげていた。
だけど、それと同時に緊張、恐怖のようなマイナスな感情達が私に襲いかかって来ている。ーーーいや、私だけじゃない。有咲ちゃん、りみちゃん、たえちゃんも感じているはずなんだ。
私がしっかりしないとダメだ。
そして何より……後藤くんとが見てくれてる。応援してくれてる。ここまで支えてもらったんだ……絶対に、成功してやる!
「かすみん」
「あ…有咲ちゃん」
「時間っす、先輩」
「準備はできたか、師匠」
「たえちゃん…りみちゃん…」
3人とも私の目を見て励ましてくれる。その嬉しさに、始まる前なのに涙が出そうだ。
「泣くのはまだ早いよ。さあ、いくよ」
「…うん!」
メイクが崩れないように、目尻にたまった涙を取る。
「せーのっ」
「一、二、三、わっしょーい!」
有咲ちゃんの音頭に合せて、4人で声を合わせる。
さあ行こう。
私は変わるんだ。
まだ怖い。でも大丈夫。
みんながついてる。必死に練習をしてきた。
歌うことだってできる。
トクン、トクン、トクン。
コドウが聞こえる。
すー、はー、とゆっくり呼吸を繰り返す。
右を見れば有咲ちゃんが、左を見ればたえちゃん、りみちゃんが。
––––––大丈夫、私には仲間がついている。
自分を落ち着かせるために、その言葉をずっと繰り返す。
トクン、トクン、トクン。
コドウは鳴り止まない。
トクン、トクン、トクン、トクン、トクン。
でも、気にしない。緊張がどうした。私はそんなものには負けない。二度と負けない!
私達はステージに上がった。
人はそれなりにいたが、満席というほどでもなかった。一人一人も眠そうにしてる。完全にアウェイだ。
––––––それがどうした。
満席じゃないなら埋めればいい。
眠たそうにしてるなら起こせばいい。
アウェイ?何それ、むしろ燃えてきた!
––––––空を見上げれば、いつだって星は空に輝いている。
私は、私達は信じる。
星の鼓動を––––––STAR BEATを!
「ねえ、みんな!一緒に″
よどんだ空気を切り裂くように叫ぶ。
叫んだのとほぼ同時に、たえちゃんの持つギターがぎゅいーん、と迸る。
有咲ちゃんが、ぱぱぱぱー、とキーボードを鳴らす。
ずずーん、とりみちゃんのベースが低音を唸った。
––––––起きろ!
そう伝えるように私達は十数秒音を鳴らした。
笑顔で有咲ちゃんを見る。それから順にたえちゃん、りみちゃんを見る。
3人は頷き、楽器に手をかける。
––––––さあ、準備は整った。
「クラパのパーティ!始まるよー!」
こうして、私達の初ライブは始まった––––––!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「よし…!」
戸山が歌い出した瞬間、俺は思わずガッツポーズをした。
ああやったぞ。戸山が歌っている。
久々に聞く、彼女の歌声。
練習ではストレスをかけないようにと、俺は離れて聞かないようにしたりしていた。
ギターをかき鳴らしながら、笑顔で、荒々しくも懸命に歌っている。
その姿に、俺は涙が出そうだった。
まず一曲目に演奏した曲は、「幽霊メダル」というアニメのOPイントロだった。
俺はあまり知らないが、そこら辺で騒いでいるちびっ子どもには届いたらしい。うぎゃー、と雄叫びをあげてステージ前に押し寄せる。
「みんなー!最高のメダルがほしいんでしょー!!」
戸山はそのアニメを知っているのか、何かセリフのような言葉を叫ぶ。それに反応して子供たちがよくわかんない叫びで返事をする。
普段聞いてる曲に、子供たちは飛び跳ね、回り、踊り始める。
2曲目は「Ob-La-Da, Ob-La-Da」。ホワイトアルバムに入っていた曲で、メンバーが気に入って今回のライブのセットリストに入れたのだ。理由は「可愛いから」らしい。
幽霊メダルのテンションがまだ残っているのか、子供たちはまだ踊ってる。
子供たち以外にも、おじいさんおばあさん達も微笑んで聞いている。世代だからなのか、それとも音楽に世代は関係ないとかそういう感じなのか。
演奏が終わるも束の間もなく戸山はマイクを使って叫ぶ。
「次の曲!トゥインクル・スターダスト!」
そして始まった曲は、誰もが知っている″きらきら星″のイントロだった。いや、そこから展開されたのは誰も知らない。
そう、これはきらきら星のアレンジだ。
戸山にとって、この″きらきら星″というのはとても思い入れの強い曲らしい。アレンジの考案も戸山だ。
戸山は歌う。
過去の自分を否定するように。これからの自分に語りかけるように。
花園はギターをかき鳴らす。
リードギターとして、場の空気を作っていく。
情熱的に、みんなから注目を受けるように。
牛込は終始笑顔で飛び跳ねていた。
ピンクのベースから鳴る低音に合わせ、リズミカルに飛び跳ねる。
まるで押しかける子供達を引率しているようだ。
市ヶ谷は演奏しながら見守っていた。
バンドサウンドをやわらかく、ふんわりとサポートする。
踊ったり、手拍子をしたり、歌ったりして客との一体感を作り出している。
まだ上手いという訳ではない。
だが心は動かされる。引き込まれる。
「最後に行くよー!″Yes! BanG_Dream!″!」
最後に、彼女たち唯一のオリジナル曲が始まった。
この曲は、市ヶ谷のお父さんが作っていた曲らしい。それを戸山たちが自らの手で進めていった。
さらに不思議なことに、後から入った花園もその曲を知っていた。
そして4人で曲を作っていき、遂に完成したのが、Yes! BanG_Dream!
––––––この曲は、今のメンバーを集めた曲だ。
花園のギターをメインに、牛込とベースと戸山のサブギターがメインを支える。市ヶ谷のキーボードから繰り出される、バンドサウンドを包み込む音。
全てが、素晴らしかった。
夢を撃ち抜くポーズを、4人は合わせた。俺も4人に合わせてポーズをとる。お客さんたちも、一緒に夢を撃ち抜いている。
そして最後の音に合わせて、4人は大ジャンプをした。
「ありがとう!みんな最高!!最高に楽しかった!ありがとう!ありがとうー!」
戸山は何度も何度も礼を言った。
最後に4人で礼をし、ステージから去っていった。
「ああ、最高だったよ」
俺はひとり呟く。
その余韻に浸りたいところだったが、4人の元へ向かわなくては。
走って向かおうと一歩踏む…前に、後ろを向く。
そこに沙綾の姿はなかった。
「バカだな俺。何期待してんだか…」
自嘲気味に笑った俺は、走って4人の元へ向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「よお、お疲れさん」
俺は楽屋の扉を開けて、声をかける。
「あっ、委員長。見てた見てた?」
「後ろの方だったからお前らからは見れたかわからんが…見てたぞ」
「で、どうだった!?」
「よかったぞー。つうかお前飛び跳ねすぎだろ。田淵智也か、お前は」
「自分のギターソロ、どうでしたか!?」
「よかったと思うぞ。今までで1番上手かったぞ!」
ぐいぐいと寄ってくる3人を相手にしながら、俺は鏡の前でぼーっとしてる戸山を見る。
「大丈夫か、あいつ…」
「多分、余韻に浸ってるんで––––」
「やったよー!!」
「ぬぉぉっ!」
市ヶ谷が解説し終える直前に戸山が抱きついてきた。
正直、嬉しいイベントなのだろうが、助走ありではさすがに痛い。
「やった!やった!やったよー!」
「わかった!わかったから一旦離れろ!おい、戸山をはがしてくれ!」
「かすみん、意外と大胆ね…」
「先輩って攻め派っすか…」
「そのタックル、強そうだな…」
「いいからはがせやこのやろぉぉぉぉぉ!!!」
怒れること数分。
「ご、ごめんなさい…」
顔を赤くし、正座で縮こまっている戸山。
「まあ、ライブ終わった直後だしな…」
「アドレナリンが止まらなかったんでしょ、多分」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
涙目になりながらただ謝る戸山。
その姿は少し前の花園っぽかった。
「そういえば、時間的にはまだお祭りはやってるのよね?」
「はい、まだ大丈夫なはずっす」
「ほほーう」
「な、なに有咲ちゃん…」
「いやまさか、アレを忘れてはないだろうね〜って思ってね」
「アレ?ああ、あれか」
市ヶ谷からのアレ発言で思い出した。
「一緒に見回るやつだろ?少し休んだら行こうぜ」
「え、あ、ぁ…」
「ほら、行ってきな!」
「よくわからないっすけど…頑張ってください先輩!」
「修行か?修行に行くのか!?」
1人NARUTO的はことを言っているがこの際無視しよう。
「そ、その…い、行きましょう!」
「え?お、おお…」
顔を真っ赤にした戸山に手を引っ張りれ、俺たちは楽屋を後にした。
……これって普通逆だよな?
ライブ描写うまく書けてるかな…。
それはそれとして、次回はデートだよ!