BanG Dream! 〜I Should Have Known Better〜   作:チバ

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Can't Stop/Red Hot Chili Peppers




Can't Stop

山吹沙綾と言う少女の話をしよう。

 

彼女は、端的にいえば全ての責任を自分のものと考えてしまう、自己犠牲的な性格だ。

あらゆる面倒ごともそつなくこなし、頼まれごとも嫌な顔ひとつせずに受けてくれる。

面倒見がいい–––––良く言えばそうだろう。

しかし、少し見方を変えてみれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()–––––。

 

そう考える者は何人かいた。しかし、その者たちはみんな揃って、

 

 

–––––さすがに考えすぎか。

 

 

という結論に至って、彼女との距離をそのままにしてしまう。事実、向けられた彼女も、ただ笑って「何でもないよ」と答えるだけだった。

しかし、一人。ただ一人、その考えを確信し、彼女に近づいた少年がいた。

 

少年の名は、後藤敦司。

かつて沙綾が所属していたバンドでギターをしていた。

彼はかなり世話焼きな性格であったらしく、日々聞いても「何でもない」と答える彼女に関わり続けた。

 

これは、そんなとある日のやり取りである。

 

「なあ、いい加減話してくれよ。何があってバンドを辞めたんだ?」

 

敦司からの問いに、一瞬だけ表情を硬ばらせるが、すぐにいつもの微笑みで、いつもの答えを言う。

 

「別に、何でもないよ」

「親父さんが倒れたのが、関係しているんだな?」

「……」

 

二つ目の問いに、沙綾は目を見開く。図星だった。

 

「…関係、ないよ」

 

つい先日、沙綾は所属していた全てのバンドを去った。

その中には、沙綾の脱退により空中解散してしまったバンドもあった。

それが敦司が所属していたバンドだった。

 

「…私が憎いの?」

「は?」

「私が憎いんでしょう。だってそうでしょ、私が抜けたから、バンドは解散。その原因である私が憎いんでしょう、そうなんでしょう!」

 

自然と声が荒くなる。

 

 

–––––––ああ、やっぱりお前はそうやって自分を責めるんだな。

 

 

敦司はそんな彼女を見てそう思うしかなかった。

いつもそうだった。

何か起これば、沙綾が責任を取ろうとする。

何もかもを背負いこもうとし、してしまう沙綾に、敦司は怒りを覚えていた。

 

「……誰も、お前に責任を取ってもらうなんて考えてない。そうやって何でもかんでも背負い込もうとするな」

「違うよ。私は、当然のことをしているだけなの」

「いい加減にしろっ!」

 

怒りという名の壺には蓋をしておいたが、もう我慢の限界だった。

 

「そうやって自分ばっか責めやがって。少しは周りを頼れよ!お前が面倒見のいい性格なのはよくわかってるよ。けどな、だからって全部自分で解決しようとするな!」

「…なんで、なんでそんなに関わろうとするの…」

「お前だけが…お前だけが不幸になってみんなは幸せっていうオチでもお望みなのか?だったら今すぐその考えは捨てろ!少なからずとも、俺はそんなお前を見てても幸せとは思えねぇよ!」

「もう…いいの…」

「俺だけじゃない、みんなもだ。みんなもそう思って––––」

「もういいのっ!」

 

沙綾が声をあげる。

その声に、敦司は言葉を止める。

 

「もう…やめよう」

 

気がつけば、空は曇天だった。

無造作に雨が降り出し、二人の体を濡らす。

 

「私だけが不幸でいいの。悲劇のヒロインなんて気取る気はない、ただみんなが幸せなら、私はそれでいいの」

「……なんで…」

 

なんでそんなに悲しいことを言うんだ。

なんで、そうまでして自分を傷つけるんだ。

 

「私はもうバンドを組まないし、入らない。それが、みんなを幸せにする最善の策なんだ」

「……んなこと…っ…」

 

雨はさらに強くなる。

アスファルトに打ち付けられた雨音は大きくなるばかり。

 

沙綾は空を見上げて、ぽつりと呟く。

 

「雨が強くなってきた。…帰るね。またね、敦司」

「……っ…」

 

待て。

そう言おうとしたが、不思議と出なかった。

小走りに去って行く沙綾。

そんな彼女を、ただ見ていることしかできなかった。

 

その事実に怒りを覚えた敦司は、コンクリートの壁を強く殴った。

 

雨は、やまなかった。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「……ん…」

 

目を開ける。

腕には少し温もりを感じるが、硬さも感じる。

顔をあげると、なんとなく状況がわかった。

どうやら俺は、机に突っ伏して寝ていたようだった。

外を見れば、もう夕方に近かった。

 

「あの……」

「ん」

 

背後から声が聞こえたので、振り返ってその姿を視認する。

黒い髪をショートカットにし、眼鏡をかけている少女。

同じクラスの少女だ。

 

「珍しいね、委員長が寝るなんて」

「おー…まあ人間だし。そういう時もあるだろうよ」

「まーそういう時もあるか。ところで、起きて早々悪いとは思うんだけれど、どいてくれない?机動かせない」

「あー…」

 

言われて気づく。

今は放課後。

多分彼女は今日の掃除担当なのだろう。

 

「悪い、迷惑かけた」

「大丈夫大丈夫!普段は委員長に迷惑かけてばかりだし!」

「…ありがとな。じゃあ、帰るか」

「うん、じゃあねー!ちゃんと寝るんだよ!」

「おうおう」

 

適当にあしらいつつ、扉をあけて教室を出る。

 

 

––––––懐かしい夢を見たな。

 

 

もう一年ぐらい前になるだろうか。

あのやり取り以来から、俺は週二、三で山吹パンに通っている。

そうしている理由は、まあなんとなくだ。

こうして俺が委員長を引き受けて、なんだかんだでちゃんと働いているのも、もしかしたら沙綾の真似事をしているのかもしれない。

彼女があの時背負っていたものを、知って理解したい。

そして、もう一度彼女の心の底からの笑顔を見たい。

それが俺の、ささやかな野望というか目的だった。

 

「…なんて、バカバカしいな」

 

考えて、自嘲気味に笑う。

 

「…行くか」

 

その考えを一旦やめる。

そういえば、最近、戸山のテンションが少し低いな。

そんなことを考えながら、俺はいつもの場所へ向かって行った。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「まだ来てない…んですか?」

「そうなのよぉ…」

 

いつもの様に蔵に来ると、あの四人は何処にもおらず、市ヶ谷のおばあさんが出迎えてくれた。

 

「すぐに来るだろうけど、待ってる?」

「……いや、探しに行ってきます。もしここに来たら、連絡するように言っておいてください」

「ああ、うん」

 

そうして俺は一度、蔵から出た。

 

なぜだ。なぜこうした。

俺が蔵から出て探しに行くことは、明らかに非効率的だ。待っている方が絶対にいい。

 

なのに。なのにだ。

 

どうしても不安を拭い去りきれなかった。

 

そして暫く周辺を歩いていると、市ヶ谷、牛込、花園を見かけた。

 

「あ、委員長」

「お前ら何してたんだ?蔵に行ったけどいなくて…」

「ああー…ちょっと、ね」

 

歯切れ悪く答える市ヶ谷。

と、そこで俺は戸山がいないことに気づいた。

 

「…戸山はどこだ?」

「……かすみんは…今はいない」

「は?」

 

言葉の意味がよく理解できなかった。

いない?どういうことだ。

 

「有咲センパイ、ここは私が言うっす」

「花園…?」

 

市ヶ谷を庇うように花園が前に出る。

 

「最近…もしかしたら結構前からかもしれないけど、かすみんセンパイがずっと気にかけてた人がいたんです」

「気にかけてた?」

「はい。このバンド、今ドラマーを探しているじゃないですか」

「ま、まあな」

「かすみんセンパイは、その人を蔵パのドラマーとして加入させようとしてたんです。

かすみんセンパイに聞いたら、文通に近い方法でコンタクトを取っていたらしいです。でも…」

 

そこで花園の顔が暗くなる。

 

「…ついこの前、断られたらしいです。最近、かすみんセンパイの調子が少し悪かったじゃないですか。それです」

 

最近、戸山の調子が悪く、前のような明るい姿からまた内気な頃に戻りかけていた。

それはそのことが原因だったのか。

 

「それで、今日その人と会ったんです。そして直接聞いたんです。なんでバンドをやれないのか、を」

「それで?」

「…話してはくれませんでした。でも、あの目はドラムを叩きたくても叩けないという顔でした!きっと深い理由があるに違いないんです!」

「どうどう。で、それでなんで戸山はいないんだ?」

「うっ…」

 

俺からの問いに、花園はイタズラがバレた子供のような反応をする。

 

「それは…」

「もういいよ、おたえちゃん。ありがとう。ここからは私が話すわ」

「市ヶ谷?」

 

今度は逆に、市ヶ谷が花園を庇うように前に出て来た。

 

「かすみんがね、迷走したのよ」

「迷走?」

 

予想外の返しに、俺は鸚鵡返しをしてしまう。

 

「そう迷走。もっと簡単に言うなら、ヘタれた」

「ヘタれたって…」

「あの娘がそのドラマーの子を誘いたいって言ったのに、いざ本人を前にしたら何も言わなかったの。

それで、私は指摘したの。今のかすみんは何がしたいのか」

 

一度息を吸って、吐く。

 

「それであの娘は何も答えられなかった。正直、見てられなかったし、今の状態じゃバンドも引っ張れないと思ったし。…だから、新しい曲がかけるまで、蔵への出入りを禁止したの」

「なっ…」

 

蔵への出入り禁止。

その言葉に、俺は衝撃を受けた。言葉が出ない。

牛込と花園も辛そうな顔をする。市ヶ谷も、唇を噛んでいる。本心では言いたくなかったのだろう。

 

怒鳴り散らしたくなったが、我慢をする。今回の市ヶ谷の対応は正しい。荒治療ともとれるが、それが今は最善だ。

 

「……そうか」

 

気を落ち着かせ、出て来た多くの言葉を押し殺す。

 

「ごめんなさい…私、かすみんに酷いことを…」

「何も言うな。お前の対応は正しかった。ただ荒かっただけでな」

 

嗚咽を漏らしながら謝る市ヶ谷に、俺は情けにもならないが、声をかける。

 

「…最後に一つだけ聞かせてくれ。そのドラマーの名前はなんて言うんだ?」

 

聞きたかったこと。

きっと、戸山なら解決をしてくれる。花園の言う通りなら、きっとそのドラマーを引き連れてくるだろう。

だから、そのドラマーの名前を知っておきたかった。

 

「…沙綾。山吹沙綾って娘」

「––––––––––」

 

その名を聞いた瞬間、俺は頭が真っ白になった。

山吹沙綾、それは、俺と同じバンドに属していた、かつての戦友。

ああ、なるほど、同時に合点がついた。

祭りの時、沙綾が戸山の事を一方的に知っているという発言。

なるほど、それはこの事だったのか。

 

「……戸山は今どこに?」

「え、多分公園に…山吹パンのすぐ前の」

「なるほど、じゃあ俺は行ってくる」

「え?」

 

珍しい、市ヶ谷の素の声を聞き、俺は答える。

 

「俺は戸山に伝えなきゃいけないことがある。それを伝えに行く!」

「な…」

「とりあえずまた蔵に戻るだろうから、悪いが鞄持っててくれ!」

「ぎょ、ギョイに!」

 

そして俺は走り出した。

脇目も振らずに、一心不乱に。ここから公園まではそう離れていない。

 

 

––––––––待ってろよ、戸山。

 

 

沙綾を蔵パに入れさせるなら、せめて俺の言葉を聞いてからにしてくれ。

 

それが、沙綾にとって本当の救済になるだろうから–––––。

 




個人的に超好きなバンドであるレッチリ。
ライブに行ったことがある洋楽バンドはレッチリとGREEN DAYだけです。

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