雷光御伽草子   作:ふくつのこころ

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バレンタイン、はじまってますね!
色々とチョコレートを送ったり、お返しを貰ったりしていますが、バーサーカーってサムズアップがはやりなの?

あ、えっちゃんあたりました。
かわいくてキュート


まだ、ほのぼのかもしれない


崩落

「いけいけ、まけるな、カヅチ!」

「僕を甘く見られては困る、僕は姉上を守る男だ!」

 

 動物たちに見守られつつ、お手製の土俵で熊と相撲を取るカヅチ。

 綱との別れの後、金太郎と合流したカヅチはいつもの場所で熊と相撲を取ろうということとなり、今に至っている。金太郎は既にその年齢でありながらも、熊と相撲を取って簡単に勝てるほどの膂力を持ち、カヅチはその金太郎に追いつこうと必死になっているのが現状だ。

 

 いつもの熊でなく、彼らと良く一緒にいる大柄なオスの熊が仲間を連れてきたこともあってか、今回は趣向を変えてカヅチが熊と相撲を取っている。

 相手は大きさも人間の二倍ほどある熊、里では近づいてはならないと言われているが、仲良くなった以上は大丈夫だと彼らは安心していた。それに、金太郎の友達の友達と聞かされている以上は友を信頼する以外に道はあるだろうか?

 

 疑うことを良しとしないカヅチは金太郎のことを姉と同じくらいには信用しており、金太郎の期待に応えようと奮闘していた。

 

「ぐ、ぐ……ッ!」

 

 “祭儀用”として持たされている、カヅチの腰に差している剣は今は金太郎に預けており、服の上から回しをつけている。熊の方も殊勝に回しをつけており、熊の身体は回しをカヅチがつかんでいてもまるで微動だにしない。

 まるで岩のような熊の身体、その身体をどうにか動かしたいのだが、熊に押されるばかりで歯が立たない。

 

 絶対に負けても食べられる心配がない、と安心はしているものの、本能が告げている。

 

――――負けられない、無様な姿を晒せない。

 

 男の子とは意地を張りたがるもの、と金太郎はよく言う。

 変な意地を張って生きていくのは間違っている、どこかで折り合いをつけるべきだとカヅチはいつかに言った覚えがあるが、自分がどれほど浅はかな考えだったのか思い知らされた。

 勝ちたいと思った、親友が勝てているならば、なおさら自分だって達成してみたい。

 熊に勝ちたい。

 自分より力のある相手に勝ち、強くなりたい。

 

――――カヅチ、夕飯ですよ。今日はカヅチの好きなものを作りましたよ?たくさん食べてくださいね?

 

 優しく微笑み、いつも味方をしてくれる大好きな姉上を守って生きていきたい。

 自分のことを顧みず、食事を分けてくれる姉に裕福な暮らしをさせたい、そのためには自分が頑張って集落の長になる必要がある。

 

 だから、必ず、

 

「僕は、僕は、必ず勝ってみせる!勝って、姉上を守れるくらいに強くて格好良くなるんだァァァ!」

「!その意気だ、カヅチ!持ち上げて、投げ飛ばせ!」

 

 金太郎はカヅチの、親友の“根性”を目の前にしていた。

 熊に土俵の隅まで重さで追いやられているというのに、それでも、必死に顔を真っ赤にして食いしばっている様子が見られる。

 これを根性と言わずして何というのか?

 

 カヅチが金太郎を「そんな無茶な!?」と言いたげな目でいつもは見てくるが、そんな様子は露ほども見られず、今日のカヅチは偉く張り切っているようだった。

 珍しく拮抗した、手に汗握る勝負。

 土俵際の駆け引きこそ、この相撲の醍醐味と言えるが、流石は将来は集落とやらの長になると言っているだけはあると金太郎は感心した。

 

「僕は、僕は、姉上を守る男だぁっ!」

 

 (ドン)ッ!

 

 鈍い音が響く、土俵から投げ出された音だ。

 動物たちは様子を見守っている、なぜならば、投げ出されたときに大きく砂ぼこりが舞い上がって様子がうかがえない為、見守っていることしかできないからだ。

 だからこそ、あてにできるのは、カヅチの威勢のいい声だった。

 これは金太郎の持論だが、普段以上の力を発揮するには何事も気合が必要だと思っている。

 

 では、気合を出すにはどうすればいいのか?

 いろいろと方法はあるだろうが、その中でも最たるものとしては、やはり大声を張り上げることではないだろうか?そうすることによって身体にもなんだかんだで力が漲り、普段以上の力を出せるとみている。

 

「いったい、どちらが勝ったんだ……?」

 

 砂埃がやがて、晴れてゆく。

 まず、真っ先に見えたのはカヅチの足だ。いつもならば、熊に投げ飛ばされてしりもちをついて少しばかり涙目になっているのが常。

 しかし、今日のカヅチは地面に立っている様子。

 つまり……、

 

「勝った!僕は勝ったぞ、金太郎!」

 

 その砂埃を自分から払うようにし、大きく拳を突き上げる。

 砂だらけの顔、精いっぱいの笑顔を浮かべ、口端を吊り上げて不敵に笑って見せる。

 まるで、いつもの金太郎のように。

 

「やるじゃん、カヅチ!これでまたひとつ強くなった!みんな、ありがとな!ほら、試合の後は互いの健闘をなんとやらって!」

 

 これも武士らしいだろ、と笑う金太郎。

 

「ありがとう、良い戦いだった」

 

 投げ飛ばされた熊にカヅチは近づき、手を差し伸ばすと、その大きな手を熊は伸ばし、互いに健闘を称えあう。

 森の動物たちはカヅチの勝利と熊の健闘ぶりを称え、勝利を喜びながら、各々が鳴き声を上げて祝福の様子を示していた。

 

 

 

 

 その日の帰路、カヅチの足は浮足立っていた。

 早く、早く姉上に知らせたい。

 きっと、叱られはするけれど、姉上ならば成長を褒めてくれるはず。

 集落の誰も彼もに一気に認められなくったって、少しずつ力を示していけば、きっと、いつかは誰もに慕われる酋長になれる。

 今日の勝利は、その走りなのだから。

 

「ただいま!帰ってきたよ!姉上!きいてほしいことが……」

 

 日も暮れかかってきた頃、今日は日が暮れるまで帰らないように言われていた集落、きっと大人同士の話し合いでもしていたのだろうと子供ながらに察し、元気よく自分の帰りを示す。

 

『おかえり、カミナリちゃん』

 

 よく木の実をおすそ分けしてくれる太ったおばさん。

 

『よう、今日も元気に遊んできたのか?良いことだ、泥だらけになって帰ったら姉ちゃんに叱られるだろうが、ガキはそれくらいがちょうどいい』

 

 狩猟が大量であれば、それを分けてくれるおじさん。

 

『カヅチ』

『カヅチ』

『カヅチ』

 

 自分のことをどのように思っているにしろ、集落の人々は帰りを迎えてくれる。

 だから、姉と二人きりでも寂しいとは思わなかった。

 集落が母親で、集落が父親と思えば紛らわせることができたのだ。

 

 だから、信じられなかった。

 

「なんだよ、これ……」

 

 目の前に広がるのは、赤。

 

 鮮血鮮血鮮血鮮血肉塊肉塊肉塊肉塊肉塊肉塊――――。

 親しかった人も、よくカヅチを叱った男性も、カヅチに拳骨を下した族長も、カヅチの姉をよく口説いた男も。

 誰も彼もが言葉を失い、身体の一部を欠落した姿となって転がっている。

 集落の中央に夜が近くなると、灯かりの代わりに薪を組んで焚いている焚き火を中心に転がっている肉塊。

 

 まるで何かに襲われ、喰らいつくされ、殺された後のようだ。

 無駄だとはわかっていても、相撲を終えた後に金太郎に返してもらった儀礼用の剣を引き抜き、震える両手で握りしめる。

 

 この山にいるとされている、山姥の仕業なのだろうか?

 それとも、大江山にいる鬼がここまでわざわざ攻め込んできたのか?

 

 聞いた話がカヅチの脳裏で巡り渡る。

 いろいろな理由が考えられるが、無駄だとはわかっていても、その戦うために作られたわけではない剣を手に探さずにはいられなかった。

 

「姉上!姉上ーッ!無事ならば、返事をしてください!」

 

 遺体が散乱する中、それぞれの家屋に顔を突っ込み、姉の姿を探す。

 もしかしたら、姉もすでに肉塊の仲間入りをしているかもしれない。

 しかし、それでも、姉が無事であってほしいと思うのは贅沢だろうか?集落の人間を纏める人間となるには、一人の人間だけを気にかけてはならないだろうが、それは幼いカヅチには厳しすぎた。

 

 背後から感じる気配、恐る恐る儀礼用の剣を構え、振り返ると、

 

「カヅ、チ?どうしたんですか?そんなに泥だらけで。誰かに虐められたんですか?それなら、そうと————」

「違う、違うよ姉上ッ!よかった、姉上が、姉上まで……!」

「私はどこにも行きませんよ?私はカヅチの姉、カヅチのものですから、ね?」

 

 振り返れば、そこには着物は血だらけの姉がいる。

 しどろもどろな様子のカヅチ、そんなカヅチが姉に抱き着けば、姉はカヅチを優しく抱き留め、髪を優しく撫でた。

 小さく、笑いながら。




日常とは、簡単に崩れるものである
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