雷光御伽草子   作:ふくつのこころ

7 / 10
色々考えてみたけど、綱兄のCVは古川登志夫さんでご想像ください
征服王が綱っぽいって頼光に言われてた気がするけど、大塚明夫かって言われると本作の綱兄は違うんだよなぁ

こう、なんかエース!って感じがする


怪異殺し

「なぁ、カヅチ?お前にまで手を出すつもりはないんだが……?」

「綱兄、そうだとしても、僕は見過ごせないんだよ。僕は姉上の為に長を目指したんだ。その僕が姉上を傷つけた者に対し、怒りを抑えられるはずがないだろう?」

 

 カヅチの鉄製の防具の防御をもものともしない攻撃力、まるで物の怪のような俊敏さを誇ることもあり、綱としてもある程度は本気を出さなくては渡り合えないだろう。

 鍛錬をしているためにいくらか攻撃を軽減することはできているが、それでもどこまで持つかは未知数だ。

 綱の主な任務である都の警備、都の人々を守るというのが渡辺綱と他の仲間の仕事である。

 並の人間には劣っているつもりはないし、それが子供だというならばなおさらだ。

 

 普通の子供ならば、の話だが。

 

 綱はカヅチの素養が末恐ろしかった。

 こんな辺鄙な秘境で身のこなしに優れ、それでいて未熟さゆえに力加減はバラバラなものの、重い一撃を加えてくることが。

 もしも、整った環境の中で“原石”とも言える今の状態に更に磨きをかけ、成長していった暁には綱以上、綱の『大将』に匹敵する実力を得るかもしれない。

 暴れているだけに見えるものの、カヅチの身を突き動かすのは大切なものを守ろうとするカヅチなりの“大義”、その真っ直ぐなまでの一人の大切な女性を守りたいと言う信念は綱も心地よいと思える。

 

 

 相手が人間から見れば、『ばけもの』に類する女性でなければ、どれほど良かったことだろうか?

 

「そうだとしても、俺にも譲れない理由がある。俺の任務は――」

 

 お前の姉ちゃんを殺しに来た、と喉元まで出掛かった言葉を噛み締め、口にしないようにすることがこんなにも難しいのだと綱は思い知らされる。

 あれほどに眩しいような笑顔を見せていた幼子から自分が家族を取り上げてもいいものか、命を奪ってもいいのかと疑問を抱いたのだ。

 

「姉上をころしにきたんだろ」

 

 カヅチの言い放った声は冷たく、それでいて綱の心に突き刺さる。

 

 距離を取り、その体に膨大な魔力を感じさせながら、右手に集中させ、カヅチは腰に下げている剣をゆっくりと引き抜く。儀礼用の剣であろうことは見て取れる、その刃は潰されているのだから、戦闘における実用性に欠けるし、使用するのは現実的ではないだろう。しかし、現実的でないからといって拒絶するのはあまりにも愚かである。

 山に住まい、都とは違う文化や暮らしをするものは自衛の為に独自の戦闘手段を持つことは鬼の存在からして明白である。渡辺綱という武士は、都の人間の為にという大義名分は掲げることはあっても、無暗矢鱈と殺戮を好む性格ではない。上司に当たる者が“少々過激な”きらいがあるので、建前上はそのように振る舞うことはあれど、本心からそのように望んでやろうとは思ったことがなかった。

 

「だったら、俺はどうすればいい!?お前がそこをどいてくれないと、俺はカヅチまで殺さなければならなくなる!頼むから、どいてくれ!いい子だから……、分かってくれ」

 

 綱は懇願する。

 引き抜いた刀はあらゆる化生を切り捨ててきた怪物殺しの刀。その刀身が煌めく様は目の前の少年が怪物であるかを確かめるように光り輝いているようにも見えた。

 

 こいつはこの刃で斬り捨てるにふさわしい怪物か?

 血に飢えた鬼であるのか?

 人間に害を与える存在なのか?

 

 そんな風に語っているように見えた。

 カヅチはそんな綱の想いを簡単に切って捨てた。はなからそんなことなどどうでもいいと言わんばかりに。

 

「僕を殺せるものなら、殺してみるといい。僕は姉上を守る。姉上は僕を守ってくれた。これからは、僕が姉上を守らないといけない。それが僕がこれからやるべきことなんだ」

 

 カヅチは自らの拳を固く握り締め、自分自身に言い聞かせるように言葉を紡いでいる。

 その目は固くなにかを決意したものに共通していると言えば聞こえはいいが、その為ならば、どんなことだって辞さないと言わんばかりの危険なものだった。

 

 そんなカヅチに対し、綱は無意識のうちに地雷を踏んでしまう。

 

()()()()()なんてどうでもいい、お前のためを思っているんだ!」

「『そんなこと』?今、そんなことって言った?」

 

 その一言がカヅチの逆鱗に触れた。

 

 身に纏う雷の勢いは増し、抜いたとても実用的とは言えない祭祀用の剣に雷を纏わせる。そうすると、まるで都の自分たち武士の持つ刀に近しい攻撃力をその瞬間に得たのだと綱は本能的に察することができた。彼の大将がそうするように、カヅチもまた雷属性の魔力放出を可能としている。そして、その魔力放出が武器だけに使用されるものではないことをカヅチの幼さから頭から抜け落ちていた綱に非はないだろう。

 

 武器に魔力を回すも、其のままの状態を保ってカヅチは自らの移動にもまた魔力放出を使う。周囲一帯に響く、まさに雷鳴が轟いたような音を立て、綱へと切りかかる。

 

 綱は自身が反射的に刀で防御できなければ、その一振りによって腕一本は持っていかれただろうと錯覚するほどにカヅチの一撃は速く、重かった。

 

 感情的になった物の怪の被害者がその辺に落ちていた木の棒や石で目の前で大切な者が殺されたとき、それらを使ってせめてもの抵抗をとする場合があるが、カヅチの場合はそれらを超えている。

 

 怒りのままに武器を振るっているのに化生退治の専門家である綱と互角に渡り合え、魔力放出を上手く用いている(おそらく無意識ではあろうが)。しかも、得物が祭祀用の剣であれば、それが技量というよりはむしろ力ずくで使っていることは丸分かりだ。

 

「……ッ!?」

「姉上のことを、僕のことを大切にしてくれる人をどうでもいいと言うなんて。見損なったよ、綱兄ィ!」

「それは俺の台詞だ!お前が見逃したせいでお前のその姉ちゃんが誰かを襲い、そいつがまた家族を失う原因になったら、悲しいだろうが!?それは流石に分かるだろう!?いくら餓鬼だったとしても!」

「わからない。僕にはわからないよ。そうするってことは、きっと、姉上が生き残るのに大切なことだったんだ。それなら、僕は姉上のすることをさせる。だって、姉上は、僕のことを今まで守ってくれていたんだから」

 

 カヅチは聞く耳を持たない。

 まるで、世界のすべては姉を中心に回っていると言わんばかりに。

 

「おい、テメェも何とか言ってやれ!テメェの弟なんだろうが!?どんな教育をしてんだ、ったくよォ……。……アレは、なんだ?おい、カヅチ!」

「その手は食わない。僕に不意打ちをしようたって無駄だ」

 

 綱は自らが斬り捨てたカヅチの姉、アマメに向けて怒号を飛ばす。少し冷静になって考えてみれば、自分のせいでこうなっているのでは、と客観的に考えられる当たり、他の同僚たちに比べれば、まだまだ綱の感性は人間に近しいものではあるかもしれない。

 

 アマメの転がっていた先に視線を向けるも、そこで起きていたことは異常だった。その華奢な体はボコボコと虫が身体の中を這いずり回るように〝なにか”が飛びでんとし、アマメの前髪は目元を隠してその表情を窺わせない。

 

 剣による鍔迫り合いの中、綱がカヅチの背後を顎で示すも、カヅチはその様子を見ようとはしない。騙し討ちのつもりだと疑っているのだ。

 

「いいから、見て見ろ!大事な姉ちゃんなんだろうが!?」

 

 そうして、その大切なヒトを切り捨てた張本人に怒号を飛ばされ、カヅチは背後を振り返る。そのときにはカヅチ自身も剣を下ろし、激昂も収まっていた。

 

 その光景は激昂を収めるには、あまりにも異常過ぎた。

 

 下半身は徐々に蜘蛛のそれに変貌し、上半身もまだ変化の最中である。カヅチは膝から崩れ落ち、胃の中に入っていた食べ物を吐き出した。口の中は胃液の酸味が強く残っている。あの異形のことは姉と認めたくないのに、姉だと気づいている自分が憎たらしい。

 

 あねうえは、あんなにこわいかいぶつのすがたをしていない。

 

「お、おい!カヅチ!?しっかりしろ!」

 

 崩れ落ちた自分の背中を綱がさすってくれるも、隊長は一向に良くならない。身体を触れられても、先ほどのように切りかかることはなく、綱にはあんなことを言ったのに気にかけてくれることがカヅチには嬉しかった。

 

 未だ現実を認められないカヅチ。

 

『カヅチ、今夜はカヅチの好きな物を作りましたよ?たくさん食べてくださいね?』

 

 カヅチの好物を作ってくれた時に見せてくれた優しい笑顔。

 

『まぁ、こんなに汚して。男の子はやんちゃなくらいがいいといいますけど、怪我はあまりしないでくださいね?心配してしまうので……』

 

 金太郎と遊んだ時、服を汚したまま帰ったときの困ったような顔。

 

『私がずっとカヅチを守ってあげますからね?』

 

 雷轟くあの日、アマメが拾ってくれた時のこと。

 

 色んな事が頭をよぎる。

 しまいにはカヅチは目から大粒の涙を流していた。

 

 だれか、だれか。ぼくのやさしい、あねうえをかえして。

 ぼくは、あねうえをまもれるくらいにつよいひとになりたかったのに。

 

「あらあらまあまあ。かわいそうに、そんなに吐いて泣いているなんて。でも、もう大丈夫です」

 

 どこからともなく聞こえた、穏やかでアマメに似た雰囲気の女性の声。

 その声の主は刀で何のためらいもなくアマメが変化した化生を切り捨て、そのあとすぐにカヅチの顎をくいっと愛おしそうに持ち上げ、空いた手で刀を鞘へと収納する。

 

「こんなに可愛いとはいえ、男の子なのですから。泣いてはいけませんよ?ねえ、そうでしょう?カヅチ」

 

 母性溢れる雰囲気。

 足まで届くほどに長い黒髪を結わえ。

 化生の血で染まりながらも、その肌は雪のように白く、腰には刀を差している。

 カヅチには見えなかったものの、綱は驚愕の表情を浮かべていた。

 

 なぜ、今ここにいるのか?

 

「あんたは……、」

 

 そして、その名前を呼ぶ。

 

「なんです?貴方がここにいるのにどうしてその子に怖い思いをさせたのですか?私、子供に対して兄のように接することのできる綱の気性は高く評価していますのに」

 

 その女性が不服そうにつぶやけば、綱は気まずそうに笑う。

 

「そいつはすまねえ。ただ、ちょっと色々あり過ぎてな?まぁ、そいつはいい。よく此処が分かったな?」

()()()()

 

 源頼光。

それが渡辺綱の主君に当たる人物であり、やがてカヅチと金太郎と大きくかかわることになる女性であった。




頼光マッマの口調がうまくできてるか不安
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