とりあえず前編。桜さんは中編から出てきます。ごめんなさい。
「……という訳で、明日、私の知り合いの審神者が此方に来ることになった」
時刻は午前8時を少し回ったところ。部屋二つを繋げて作られた広い畳の部屋に置かれた長いテーブルの上には、粒の立った白米や焼きたての鮭、和布と豆腐の入ったシンプルな味噌汁などが、ほわほわと白い湯気を立てている。
だしがよく効いている卵焼きをつつきながら、この本丸の審神者―伊織は、訪問者の訪れを刀剣男士達に知らせていた。
雪を思わせる艶やかな白髪に、同じ色をした少し長い睫毛。そこから覗く灰青の瞳は、まだ少しとろんとしているようだった。
「他所の審神者の訪問なんて珍しいね」
「そうか?…ああでも、確かに本丸に客が来る事は滅多に無いからな…」
驚いたように声を上げたのは、この本丸の初期刀、加州清光だった。此処で伊織との付き合いが最も長い彼でさえ、この本丸に他の審神者が来るという場面に立ち会った事はほとんどない。ゼロではないが、回数を数えたところで、仕事で立ち寄る政府職員の訪問を除けば、両手に収まりきるのでは?というほどのレベルだった。
決して伊織が人付き合いを避けてるだとか、他者とコミュニケーションが取れないだとか、友人が居ないだとか、そういう訳では無い(…友人が居ない訳では無いが、少ないのは事実かもしれない)のだが、彼は滅多に人を本丸に呼ばない。他の審神者にお呼ばれして、相手方の本丸を尋ねる事はあるようだが。
「まあ、詳しくは朝礼の時にな」
「「はーい」」
少しの期待を胸に、全員がまた箸を動かし始めた。
✱
「――で、今日は出陣は無しだ。内番の表だけはいつもの場所に貼っておくから、確認だけ頼む」
「…内番はやるんだな、いつも通り」
意外そうに声を上げたのは、和泉守兼定。来客があると聞いて、もしかすると内番をサボれるのでは、とでも思ったのであろう。顔に『残念だ』と書いてあるのが見て取れるようだった。
「国賓を招いてる訳じゃないんだ。変にいつもと違うようにもてなしては、先方も緊張するだろう。相手方も気を遣わないで構わないと何度も言われていたしな。ただ…私が出られないので出陣だけは控える」
「なーるほどねぇ。へーへー、じゃ、ちゃんとやりますかねぇ……ま、俺が今日当番とも限らねえしなぁ……」
…このあと、内番表を覗き込み、庭掃除の欄に自分の名を見つけた和泉守ががっくりと肩を落としたのは、また別の話。
そうこうしているうちに、日も高く昇り、客の来る時間が近づいてきていた。