後、追いかけ   作:RENAULT

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第伍局

 

 ヒカルは帰り道アキラについて考えてた。

 

(オレの八つ当たりだったとはいえ悪いことしたな)

 

「ヒカル? 帰り道こっちだよ」

「あかりゴメン。先帰ってて」

「う、うん」

 

 少し不安そうに、歩いていくあかり。

 いつもの帰り道の反対方向に曲がると大通りへ繋がり、そこから駅方向に歩くと囲碁サロンがある。

 

「坊主、今日も打つのか?」

「今日は打つ気分じゃない」

「君!!」

 

 声に反応して後ろを向く。

 

「やっぱりキミだ!ちょっと…………」

「なんだよ⁉」

「今すぐ来てくれ! キミに会いたいって人がいるんだ」

「えっ、やめてよ!」 

「名人! 塔矢名人! 今ちょうどそこであのーーーーあの男の子を捕まえました!」

 

 緒方が無理やりヒカルを中へ連れてきた先には塔矢名人がいた。

 

「その子か、アキラに勝ったというのは。それも2度もあのアキラに……………キミの実力が知りたい。座りたまえ」

「わかりました」

 

(なんか流されるままやってるよな)

(打ちたい! 打ちたい! 打ちたい!)

(佐為うるさいぞ。これは坊主を見守るために見ないといけないのではないか? こやつを育てるために)

「石を3つ置きなさい。アキラとはいつもそれで打っていた。名人の私に石たった3つだわかるかね?それがアキラの実力だ…………」

 

 そう言いながら、打ち合う。

 

(アキラが言っていたのと同じく古い型。興味がわくな)

 

「アキラには2歳から碁を教えた。私とは毎朝一局打っている。腕はすでにプロ並みだ」

 ピシッ、パシッっと打つ音が流れる。

「アマの大会には出さん。アイツが子供小の大会に出たらまだ伸びる子の芽を摘むことになる。アキラは別格なのだ」

 

 バシッっと今までで一番強い音がなる。

 

「だからこそ、そのアキラに勝った子供がいるなどと私には信じられん」

 

 名人の言葉には警戒心という壁が幾重にも重なっていた。

 

「塔矢名人、オレはそんなできた人間じゃないです。本当に最近、最近囲碁の楽しさを理解できたようなやつです。だからこそ、塔矢には楽しんで欲しい。『まずは楽しんでください』これはある人が教えてくれました。オレなんかよりもっと囲碁を好きなあいつがオレとおんなじ考えだったらオレは嬉しい。そんな人間です」

 

(囲碁の楽しさを知ったのはここに来たきっかけの本因坊戦だ。あのときいないはずの佐為を見た気がした。だからこそ、あのときの一手をもう一度)

 

 そしてヒカルはある一点に打ち込んだ。

 

「塔矢名人、新初段シリーズでオレとやって下さい。今日はもう帰らないと門限を過ぎそうなんで、そのときにまたお願いします」

「何年だ?」

「来年院生になるんで、二年後に」

「わかった。すまんが名前を聞いてなかった」

「進藤ヒカルです。今日はスミマセン。失礼します」

 

 ヒカルは急いでサロンを出ていった。

 

「彼どうですか?」

 

 緒方が名人に聞く。

 

「石の流れに歪みがなく、非の打ち所がない。まるでプロの手本のようだ」

「では……………」

「中盤戦までいったがアキラより強いのは盤面を見たらわかるがキミより強いかも知れんぞ。緒方君」

「桑原本因坊が言っていたのは信じて良いと言うことですか?」

「桑原先生が認めているのはよくわかった。それより……………」

「それより?」

「いや…………」

 

(最後の一手だけは異彩を放っていた。悪手といえば悪手にも見える。あの一手興味深い。)

 

 ●○

 

 ヒカルは急いで帰っていた。

 

「佐為、虎次郎。オレと本気で打とう。さっきのでなんか掴めた気がする」

 

 ヒカルは走りながら二人に向けて叫んでいた。

 

「私はヒカルに本気じゃないことなど一回もありませんよ」

「坊主はもとから強い。ただ、閃きと繋がっとらん部分があるのだ」

「取り合えず部屋でさっきまでの検討な!」

「はい! ヒカル」

「無論だな。坊主。」

 

 家に帰るなり速攻で部屋に戻った。

 

「あかりちゃん来てるわよ」

「部屋に来てもらっといて」

 

 ヒカルは碁盤と碁笥を出してじぶんの方に持ってくる。初手から並べていき最後の一手で止まる。

 

「ヒカル? どうしてここに?」

「佐為、塔矢名人になって欲しいんだけど」

「わかりました」

 

 そこからまた打ち合っていると

 

「ヒカルはいるよー」

「おう」

 

 碁盤から目を離さずに答える。

 

「ワッ! 危ない」

 

 カタカタとグラスを揺らしながら入ってくる。 

 

 ●○

 

 あかりが入ったとき佐為と虎次郎が意見が食い違っていた見たいで凄い状況だった。

 

「どうしたの? この状況」

「オレが打った手が虎さんの気にくわなかった見たいで佐為と揉めてる」

「へぇー」

「そういえばあかりはどこまで強くなった?」

「あのね、白河先生にね五つ置いてちょうどいいって」

「へぇ、そうか。ところでさぁ、、、佐為も虎さんももういいだろ!」

「良くないな我が納得するまでさっきのハネは気に食わん」

「いいえ虎次郎。代わりにあなたの一手のノビの方がダメです。これにノビたとして白がこっちに打ちます」

 

 扇子で碁盤の横を叩き、ピシッという音と共に告げる。

 

「へぇー。なんかほんとに凄いね」

 

 あかりはこの二人の幼稚な喧嘩を見て笑っている。

 

「ここでハネればさっきより良い形になるだろう」

「虎さん。そこで2の五で白が打ち込めなくなるよ」

「ヒカルは先にこうなる形に作っていたんです。だからこそハネたのです。1の三を先に打ってからハネればさっきの手数より早くこの形まで持っていけますから」

「うむ、、、、なるほどな、すまん我の間違いだ」

「おや、あかりさんではないですか。どうしたんですか?」

 

 全くもって気づいてなかった二人。

 

「ねぇねぇ佐為さん、私最初に囲碁教室にみんなでいったよね」

「ええ。そうですね。」

「そこの教師をしてくださっているプロの方に石五つでちょうどって言われたよ」

「そうですか。じゃあ私と打ちましょうか」

「良いの?」

「ええ。そこに座って。ヒカルは私の代わりに打ってください」

「わかってるよ」

 

 ヒカルとあかりは向かい合い一礼する。

 

「「お願いします」」

 

 ヒカルは佐為に言われた通りに石を打っていき。あかりは頑張って打っていた。もちろんあかりは勝てないがちゃんと最後まで諦めなかった。

 

「小娘もだいぶましには成ってきたな」

「ありがとうございます。虎次郎さん」

 

 そんな感じで晩飯ができるまでみんなでワイワイ打ち合っていた。

 

 ●○

 

(進藤ヒカルか、面白いな。桑原先生が認めた子供。彼が龍に化けるか虎に化けるか……それとも蛇か)

 

「貴方。ご飯ができましたよ」

「ああ、すまない。今からいくよ」

 

 その日の夜、塔矢家の食事風景は、深く落ち込みながら考えるアキラと、口の両端が少し上がっている名人と、その二人を見て不思議な気持ちになる母親の光景だった。




9/2  修正
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