ヒカルはあかりと日本棋院に来ていた。
理由はヒカルが院生になるための棋譜三枚の購入だ。
ちなみにお母さんに院生になるといったときに「あんたなんかにできるはずがない」何て言われて少しイラついたがお父さんが、やりたければやればいいと言ってくれたのでここにいる。
「桑原のじーちゃんおはよー」
「はやいなヒカル、今日はどうしてここにいるんじゃ?」
「それは、院生になるから棋譜三枚買ってきたんだ。それより時間ある? あるなら打ったやつ棋譜に起こしたいんだけど」
「いいぞいいぞ。打とう打とう」
そう言うと二人は囲碁を打てるスペースで打ち始める。
「オレが黒で良いよね?」
「別に構わん。だが院生の棋譜にするんじゃったら小僧が勝つと怪しまれんか?」
「オレが勝ったときに新初段のルールで打てばいいじゃん、オレにコミ五目半のハンデありで。そう棋譜に書いとけばいいし」
「なるほどな。悪知恵だけは働くのぅ」
「はいはい、始めるよ」
グダグダな感じで対局が始まる。
(小娘。対局を見ておれ)
その言葉にあかりは首をひねったが、虎次郎は何も付け足さなかった。
「桑原本因坊。こんなところで何してるんですか?」
たまたま通りかかった白河七段が話しかけると。
「院生の棋譜を作っているんじゃよ。白河坊主」
「坊主はやめてください」
「あれ? 白河先生?」
「藤崎さんじゃないですか? ヒカルくんと打ってるんですか」
「そうだよ白河さん。桑原のじーちゃんと終わったら白河さんもする?後二枚必要だからさ」
「それは全然いいけど…………」
(これがヒカルくんの碁。打ち筋がとても素直だ。本因坊の碁に全く負けてない)
「白河先生」
「何ですか? 藤崎さん」
「説明してくださいませんか? 二人の碁。私時々わからないから」
「勉強熱心ですね。いいですよ」
そこからは中盤戦で本因坊が逆転したが寄せでヒカルが絶妙な一手を打ち、ヒカルの半目差で勝った。
「ヒカルくん凄いな、本因坊に半目勝ちとは」
「でもオレにコミ五目半のハンデあったけどね。てか黒色なら負けないから」
笑いながら白河に言葉を返す。それを見ながらあかりは白河と検討をし、ヒカルは棋譜に高速で書き記し、本因坊はタバコを取り出そうとしだが禁煙なのを思い出して直す。
「書いた書いた。白河さん。んじゃやろ!」
今度はヒカル対白河だ。ルールはヒカルが置き石一つ。横で今度は桑原があかりに説明していた。
「ヒカルくん。ずいぶん古い手を使うんだね」
「初めて囲碁教室行ったときにも言ったけど、教えてくれる人が秀策のこと調べててその影響でこうなったんだ」
ヒカルは答える。その時、ヒカルは白河の打った一手を見つめる。指導碁的な撃ち方をしたところをヒカルが全部かっさらった。白河が打った一手が次のヒカルの一手で死路になって、結局は自滅した。
「オレの勝ち!」
ヒカルは白河にそう言うとまた高速で棋譜を起こした。そこからは四人全員で二回の碁を検討した。
「白河クン、この手は悪かったのぅ。ヒカルのことをなめすぎたな」
チクチクと白河さんをいじめていく本因坊。
「嬢ちゃんに先生なんて言われてのぼせておったのか?」
「いえいえ違いますよ。なめてはいました。でも私のあの一手より一手前のノビ、あれが気になって、普通あそこはアテるんじゃ………」
「最後の寄せであそこが舞台になったとき、あのノビが邪魔してたろ? あれも古い手なんじゃよ。かといってわしも一回棋譜で見ただけじゃからな」
「形が似てたから使ってみたらまんまとはまってくれてラッキーだった」
それを見て佐為は微笑んでいた。
「後一枚なんだよなー。誰かいないかなー」
「緒方さん、お早うございます」
「あぁ、おはよう。白河さんどうしたんですか?こんなところで本因坊も」
「ヒカルが院生になるからその時にいる棋譜を作っているんじゃよ。お前さんも打っていくか? 後一枚なんじゃよ」
「構いませんが誰と打つんですか……………………君!! この前の」
辺りを見渡す。
「その節はどうも。進藤ヒカルって言います。打ちますか?」
「あぁ…………」
(まさかこんなところで会うとは思っていなかったが)
「それじゃあ緒方さん白ね。プロだし」
無邪気にヒカルが言う。
「わかった。石は何個置くんだ?」
「互い先で打てばいい」
本因坊が笑いながら言う。
「君は良いのか?」
「んじゃあ勝ったら欲しいもの買ってよ、パソコンかな」
「図に乗るなよ」
緒方の脅し。
「泣きのもう一回とかないからね?」
ヒカルは全く動じない。それを見て本因坊は笑って、白河さんとあかりはおろおろしている。
「始めるよ?」
●○
打ち初めて直ぐにヒカルが独りで打っているようなものだった。ヒカルがプレッシャーをかけるように早打ちを始める。
「クソッ」
緒方がイラつき始める。そんなことは気にせずヒカルはスピードを早めてほぼノータイムで打つ。そのあまりにも異様な石の音に少しずつ人が集まって来ている。プロが早打ちをされ小学生に焦らされている光景に見ているみんなが驚く。
パッパシッ………………………パッパシッっと音が鳴る。
結果は緒方の投了で、ヒカルの勝ち。見ていたギャラリーは帰っていった。
「お前、もう一回だ」
「嫌だね!」
ヒカルは舌を出して言う。
「打つ前にもう一回は無しっていっただろ。ぜってぇー打たねーから」
初手から緒方が並べながら言い放った。
「お前塔矢門下に入らないか?」
「入んないよ」
ヒカルは棋譜を書きながら言い返す。
「なぜだ。入ればお前はもっと強くなれるのに」
「オレにはちゃんと囲碁を教えてくれる人がいる。人前に出られないけど。オレの八つ当たりの碁でもちゃんと相手してくれる兄弟子もいる。そんな人たちがちゃんといる。だからこそオレは門下には入らない。それに……」
「なんだ」
「あんたとやるより桑原のじーちゃんと打つ方が全然楽しい」
「なッ……!」
「ハハハ、負けじゃな緒方君」
桑原がめちゃくちゃ笑ってる。
「オレ受付の人に院生の受付用紙貰って来るからあかりちょっと待ってて」
「わかった。」
気がついたらあかりは白河さんがジュースを買ってたみたいでそれを片手に持っていた。
「藤崎さん僕は手合いがあるのでこれで」
「ありがとうございました」
「いえいえ。来週の教室にも来てくださいね。桑原先生では」
「おう坊主」
白河先生は階段へと消えていった。
そうこうしているうちにヒカルが帰ってきた。
「あれ? 白河さん帰ったの?」
「あぁさっき手合いが始まるからって戻りおったぞ。わしもそろそろ帰る。遅くなるなよ」
片手を降りながらエレベーターへ向かっていった。
「進藤だったな。ここはどうしてケイマで開けたんだ?」
緒方が急に話しかけてきたから驚く。
「どこのこと?」
ヒカルは反対に座り碁盤を見た。
「ここだここ。」
「あぁここ。ここは緒方さんが絶対ハネると思ったから先に打っておけばハネれないし、寄せの時に使えるからさ。」
なるほどなと緒方が舌を巻く。
「けどここは乗っかって来なかったよね。」
「あぁ、その手が悪手にも見えたんだがなんか打ってはダメな気がしたんだ。」
白河さんは気づかなかったのになぁ。なんて考えながらヒカルはあかりと一緒に席をたち。
「オレたちもう帰るけどパソコンお願いね。」
それだけ言い、あかりと家へ帰った。
●○
「お母さん。今日棋譜提出してきた」
「えっ?!ちょっと待って?早くない?」
「そんなに慌てることじゃないと思うけど………」
「親の心配子知らずって奴ね。ハァ………」
料理を作りながら肩を落とす母親。
「今度からは先に言いなさい!予定だってあるんだからね」
少しきつく怒られるが心配してのことなので気にしすぎるとダメだ。
「やるって決めたんだったらがんばりなさいよ。勉強もだけどね?」
「はぁい………」
10/1 修正