サザイラ地方。
我が国、バッツゥリア王国の辺境の地にある土地である。
隣国のハワマックとの国境でもあり、大きな砦が配置されているのが特徴だ。
もともとサザイラ地方も侵略によって手に入れた土地でもあるため、治安もあまりよくない。
当然、隣国のハワマックは侵略国である我が国を警戒しており、現在、両者では常に緊張状態が続いていた。
そして、私はそんないつ戦争が起こるかも分からない危険な場所に、近い将来左遷されるかもしれないのだ。
「マジで冗談じゃないっつーのっ!」
あまりの理不尽な運命に、私は自室にて叫ぶ。
一体何故、王女たるこの私が、こんな都落ちまがいな
選択肢を迫られるのか。
母から突如突きつけられた宣告に、私は頭を悩ませた。
「お嬢様。奇声をあげるのはお控え下さい。
ただでさえ広がっている醜聞が更に上乗せされますよ。」
扉越しから戒めの男の言葉が届く。
私がこんなにも悩んでいるというのに、この男はっ。
………一人で頭を捻っても仕方ないか。
「ギール、来なさい」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
無機質な返事とともに、扉越しで控えていた男性が部屋に入る。
彼は第一王女近衛部隊隊長ギール・ウォンテット。
つまり、私の近衛騎士だ。
私は内心の焦りをこんなにも顔に出しているというのに、彼は私の苦悩をちっとも察する様子がない。
「来月に控える次期王女決定戦。
私がこれに敗退するということが、一体何を意味するのか。
賢い私の騎士ならわかるわね?」
「ティーシャ様が王位継続権を失い、王族の位の剥奪、及び宮殿からの追放。
並びに、サザイラ地方への左遷という異例の処遇が執り行われます。」
「ちっがうわよっ。
そうだけど、そうじゃないでしょ!!」
「?」
このやろう。
それでも長年私と連れ添った近衛騎士の振舞いなのぉ?
とは言っても、彼と付き合いが長いことも、人伝に聞いた話でしかない。
それでも、彼の淡々とした態度が全くもって気に入らなかった私は、語気を荒げる。
「幼いころから仕えてきた君主を失う危機なのよ!?
もっと慌てたり、嘆いたりするもんでしょっ、ふつー」
「はぁ。
しかし一介の騎士が、下された決定に不平不満を喚き垂らし、醜態を晒したところで何も変わりません。
私もただ事実を受け入れるしかないのです。」
期待した反応でないことに、私は「うぎぎっ」と拳を握り絞める。
私がいる国は、現代で普及しているような民主制ではなく、王政もとい女王政だ。
それ故に頂点は王女となる。
頂点に選ばれるのは王族から一人のみ。
そのため、複数の子女の中から選定するために、この国伝統の決定戦のような催しがある。
………そこまではいいのだ。
王政によく付随する悪習のような世襲制ではなく、実力を取るやり方。
力あるものが民を統べるという思想も、私は特に口にすることはない。
しかしだ。
「私だけ負けたら王位剥奪どころか辺境に左遷って何よそれっ!?
それもよりによって、あんな危険地帯によっ。
私、王族よっ?
現王女の娘なのよっ?
こんなのあんまりすぎる処遇じゃないのぉ」
そう。
私だけ負けたら、隣国と一触即発の危険地域に飛ばされるのだ。
対して、私の妹達には何もお咎めなしだというのに。
何なのか。この差別は……
私は居ても立ってもいられず、沸き上がる激情をぶつけるようにベットでジタバタと喚いた。
「埃が舞います。」
「口答えはよしなさい、ギールっ!
さっきの答えもそうだけど、アンタには忠誠の態度がなってないわよっ。」
「ティーシャ様の魔法の成績ですと、私でもお庇いようがないのです。」
これも一重に魔法のせいだ。
貴族たるもの、魔法を使いこなせて当たり前。
王族であれば尚更。
そんな風潮があるからこそ、私はこの理不尽な仕打ちに対して声を大にして文句を言うことも憚れたのだ。
「だとしてもっ。
仕える君主を失って困るのはアンタなのよっ!?
もっと献身的に心配するなり、何か妙案を提案するなり、すべきことがあるでしょっ」
「心中お察し致しております。
しかしこれは現王女、貴方の母君の決定です。
覆ることはありません。」
「いいえっ。
まだ何か策があるはず。
時間はまだあるのだから、その足りない頭をもっと私のために絞りなさいっ。」
「私は剣を振るってお嬢様の身を守ることこそが役目。
参謀ではありません。
一兵士に政治的な案を求めるなど、無茶が過ぎます。」
「兵士でも側近なら、私のことを想っているのは当然でしょうがっ。
腹が立ちました。
謝罪しなさいっ。」
「……私の力が及ばない故、ティーシャ様には何もしてあげられないことに、私は痛く無念でなりません。
私の非力さをどうかお許し下さい」
……こいつ、無表情かつ微動だにしない一定のトーンで謝意を言ってのけやがったわ。
彼のあんまりな態度は、さらに私の逆鱗を触れた。
腰も曲げることなく、彼は立位を保っているためだろうか。
私は心なしか見下されている気がしたのだ。
「もっと気持ちを込めなさいっ。
謝罪なら謝罪らしく、悲壮さとか申し訳無さとかを顔と態度に出しなさいよっ」
「生まれつき無骨な性格なものでして。」
「うっがぁぁぁああっ。
アンタそんな態度じゃ、他の誰かに仕えた時、即首だかんねっ?
不敬罪で生首も落っことすといいわ!」
「ふんっ」と鼻を大きく鳴らすと、私は彼を置いて自室から退室した。
歩いてしばらく、私は「はぁ」とため息を吐いた。
今だ、私の胸中には不安が燻っていた。
次期王女決定戦のことだ。
今のままでは負けるのは確定事項と言っていい。
……私はどうしたらいいのよ。
首を振り、マイナス傾向気味な思考を取り払う。
私は次なる目的地へと足を進めた。