転生王女の茨道   作:歩く好奇心

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国旗にサラマンダー

 

私は唖然としていた。

 目の前の光景に口をあんぐりと開けるしか今の私には能がない。

 

 私は古代を思わせる石造りの決闘場のような場合にいる。

 近づく決定戦に焦りを感じ、魔法の練習にと思って来たこの場所には既に先客がいたのだ。

 私はその人物に気付くと、とっさに物陰に隠れ様子を伺ったのだった。

 

 そして。

 

「我、汝の契約を契りし者。火を司りし炎の精霊よ。我が呼び掛けに応えたまえ。

 火が生みし波よ──炎海っ」

「「──湖を守りし水の精霊。我が求めに応じたまえ。

 水を纏いし衣──潮層」」

 

 幾何学的な模様を辺り一面に発光させ、衝撃が木霊する魔法の激闘。

 幻想的な光景が私の網膜に焼き付いた。

 一人の少女と二人の成人男性が互いに杖を向け合い、魔法陣を展開しては次々と攻防を繰り返している。

 

 私の妹アネイラだ。

 アネイラは瞬く間に詠唱を唱え終え、広範囲に波紋のごとく炎を放出したと思えば、男性二人の周囲には突如洪水の如く水流が出現し、彼らの周囲を守るように回転した。

 炎波は激流の水層により遮断され、彼らには届かない。

 

 痛った!?

 魔法攻撃の衝突で衝撃と煙が吹き荒れ、私の目にゴミが入った。

 アイツ、もうほんとに嫌っ。

 

「つーか、マジで魔法でバシバシ戦っちゃってるじゃん。 

 やばいよ。魔法って個人の戦いで爆風とか出ちゃうもんなの?

 こんなの聞いてないってぇ」

 

 いや。確かに私は何度も説明された。

 小言と諫言という名目がつくが。

 2ヶ月前、異世界に転生した私は戸惑いと新な生活へのわくわく感で感情が揺れる中、数日間悠々自適に過ごしていた。

 しかし、そんな私を見かねて専属使用人のメシアにお小言を受けたのだ。

 

『ティーシャ様。いつになったら魔法の鍛練に励むご立派なお姿を見せになってくれるのでしょうか?』

『は? ま、魔法?』

『頭のお怪我からもう二週間。もともと外傷もないのですから、そろそろ休養を卒業されてもいいのではないですか。』

『……な、何か私がニート発言されてる気分なんですけど』

『ニート? 

 ……はぁ。一応大事にと思ってお休みをとられることに口を出しませんでしたが。

 いい加減鍛練を始めたほうが宜しいですよ? 魔法実積は芳しくあられないのですから』

『え、えーと。でもさぁ……』

『まさか、まだ怪我の後遺症がとは言いませんね?

 あれだけのんびりと穏やかな表情で日々お過ごしになられたのですから』

 

 そう言って、勉強の不出来な息子をもった母親の如く魔法の練習を促された。

 それはもう何度も何度も口をすっぱくだ。

 会うたびに言ってくるので、今でも意図的に避けるほどである。

 話を聞くに、体の持ち主ティーシャさんも随分と怠け者だったご様子。

 私も今日までろくに魔法は触れていないが。

 どうやらティーシャさんと私は似た者同士のようだ。

 

 えへへ。

 ティーシャちゃん、私達お揃いだね。

 お陰様で中身が入れ替わったことは今日の今日まで誰にも悟られなかったみたい。

 やったね、私。一時はどうなるかと思ったけど何とかなりそうじゃん!

 

 空しい自己激励が私の心中に響く。

 

「いや、ならないし。」

 

 間抜けな現実逃避を払って、眼前の激闘に再び意識を向ける。

 アネイラは魔法により舞い上がった土埃をぱんぱんと払うと、その赤い巻き毛の長髪を優雅に払った。

 

「中々やりますわねっ。

 宮廷魔術師の肩書きが名ばかりのものでなくてなによりです。」

「恐縮であります。

 バッツゥリア女王様にじきじきに抜擢されました以上、相当の働きは示す責任がございます」

「当然です。

 実力こそ至上。実力は全てで絶対なのです。

 まだまだ私の玩具を勤めて貰いますわよ」

「お戯れは程々に願います」

 

 すると先と同等以上の特大な衝撃波が轟く。

 私はその衝撃に耐えきらず、ゴロゴロと後ろに転がって後頭部を打った。

 

 痛ったー。

 ちょっと、アネイラぁ。

 少しは手加減しなさいよっ。

 また頭打っちゃったじゃないっ。

 これ以上ガンガン頭ぶつけたら痴呆になるっての。

 

 ぶつけたところを抑えて悶えた私は、内心悪態をつきまくる。

 魔法の余波が私の想定以上なのであった。その内魔法の直撃を食らいそうで戦々恐々とする心地だ。

 

「私、こんな特大魔法なんて使えないってのに。

 ……正面切って対決とか冗談じゃないわよ」

 

 ここは次期女王決定戦の舞台になる決闘場。

 私はその客席から隠れるように彼女らの激戦を観戦していたのだ。

 観客は私一人。

 それ故に、私が頭を打って悶えていることは誰も知るはずかないのだ。

 アイツらのせいで私は被害を受けた。

 なのに何で誰も心配してくれないのか。

 何もかもがむかつく。

 頭部の痛みと、心に沈むもやもやした憂鬱さが、私をそんなお門違いな激情に駆り立てていた。

 

 ふと、見上げると国旗が視界に入った。

 

 黒地にトカゲのような絵図と幾何学的な模様が入っている。

 あれはサラマンダーである。

 苦境に挫けず貫き通す信仰、熱情にとらわれない貞節、善なる火を燃え上がらせ悪なる火を消し去る正義を象徴しているのだ。

 我が国は軍事国家。

 女王国で侵略国だ。

 故に、自国の絶対なる正義や強固な精神性を好む我が国は、サラマンダーを自国の象徴としたと言う。

 

 現代でぬくぬくと過ごしてきた私としては、強い精神性もなければ確固たる信念もない。

 勘弁願いたいところであった。

 

「我、汝の契約を契りし者。火を司りし炎の精霊よ。我が呼び掛けに応えよ。噴出の大地、腸を下せし、激流──龍炎流」

 

 アネイラは火系統の魔法を好んで使う。

 いや、アネイラに限らずバッツゥリア王国の人々は基本的に火系統の魔法を得意とする。

 だからといって他の属性の魔法が使えない訳ではないが。

 単にバッツゥリア王国民にとって火系統の魔法が扱いやすく、比較的に強いから好むといった程度だある。

 

 サラマンダーを国旗にしているのはこういったところもある。

 バッツゥリア王国には精霊信仰があり、特に四大精霊が一柱、火の大精霊のサラマンダーを崇めていた。

 火の精霊への厚い信仰が、私達に火の加護をもたらした。

 それ故に、火の魔法を上手く扱えるといった話もあるのだ。

 

 ただ、バッツゥリア王国民が火系統の魔法が得意なのが信仰からくるのかどうかは、私もよくわからないところだ。

 

 

 見れば、アネイラがまたもや速攻で詠唱を完了させていた。特大の魔法陣が展開されると、炎の激流で形成された龍が飛び出し、敵たる男性二人へと突撃していく。

 彼らも即時に連携をとって攻防体制を協同もしくは分担して、反撃へと繋いでいく。

 

「サダンっ。連携で防御陣だ。」

「了解です。

 全く。内のお嬢様はおっとりしてそうで、どうして魔法と口先はあんなに過激なんですかねぇ」

「虚飾と猫かぶりが一丁前なのは貴族の嗜みなのであろう。」

「あら二人とも。

 わたくしがまやかしでまみれているとでも仰りたいのかしら。 不敬罪でこの場で処してあげましてよ?」

「ま、待ってくださいっ。 

 私はそのようなことは一言もっ。

 ガ、ガモン、早く謝りなさい。貴方が弁えもさずに中傷したのだから。 私まで処されてしまうだろ。」

 

 他の王族であれば間違いなく首だ。

 そんな彼らでも宮廷お抱えの宮廷魔術師。

 しかし実力は確かなもので、二人で連携すれば王族と渡り合うほどだ。

 

 しかし、彼らは貴族もしくは平民出身のものであった。

 王族との格差は歴然だ。

 地位ではない。

 魔法の話だ。

 現に、魔術師二人を相手にしているアネイラに疲労の様子はない。

 

 魔法で最も重要なものは血統であった。

 

 王族の血は並みの人間よりも多大な魔力を有している。

 稀に、平民でも並外れた魔力をもって生まれる者もいるが、それは本当に稀なことで期待できるものではない。

 ただ魔法は王族でないと使えない訳ではない。

 貴族平民関係なく使えるもので、魔法とは精霊との契約により行使できるものだからだ。

 

 それでも、その力の差は大きく、努力では到底埋まらない程だ。

 

 故に、実力主義で基本脳筋である我が国バッツゥリア王国は、専ら魔法の実践成績がトップな者が女王として君臨していた。

 

「ふっふっふっ。

 そうですか。残念ですわ。

 忠誠深いと思って信を置いた者達が、胸の内ではわたくしのことをそのように卑下なさっていたなんて。

 わたくし、悲しみのあまり胸が張り裂けそうですわっ」

 

 アネイラが杖を突きだし、個となる色の魔法陣を2つ展開させる。

 

「くっ、同時並列に魔法かっ」

「なっ!?

 ア、アネイラお嬢様正気ですか!?

 二重魔法展開などっ」

 

 私は目を剥いた。

 転生して2ヶ月の私でも知っている。

 魔法師は基本、一度に魔法を展開するのは一系統の魔法である。

 同時に2つの魔法を使用することはない。

 つまり、火と水の魔法を同時に操ることないのだある。

 当然、一つの魔法展開を完了させるのにそれだけの集中力がいるからだ。

 メシアが言うには包丁を2本持って野菜を切るような真似らしい。

 集中力以前に取り扱いが困難すぎるのだ。

 

 しかし。

 

「おほほほっ。

 興が乗って参りましたわっ。

 わたくしを悲しませた貴方がたが悪いのでしてよ?」

「ちっとも悲しんだお顔をされてませんよっ」

「問答無用っ。

 爆撃の彼岸花と呼ばれたその二つ名の由来。

 特別に味わうことを許してあげましてよっ」

 

 炎と土で形成された龍を二体出現させると、まるで生きているように手振りで操り、敵二人へと猛攻を仕掛けていく。

 

 アネイラは天性の技術を有していたのだ。

 

「こんな怪物相手にどうしろっていうのよ。

 絶望的じゃないの。

 一ヶ月そこらで何とか埋まるもんじゃないわよ、こんな力差」

 

 私は来たる一ヶ月後を思い、運命付けられた惨状に憂鬱になった。

 

 ガモンとサダンは水魔法にてアネイラの猛攻に対抗するため、激流を操作し二頭の炎龍と岩龍を打ち消し続ける。

 しかし物理的な形を保つ土龍は水流で守るのは厳しく、彼らは悪鬼苦戦していた。

 炎龍が縦横無尽に動き回るためか、辺り一体の温度が上がる。

 サウナに近い環境に変貌しつつある中、私は汗を浮かばさながらも眼前の奮闘を目に収める。

 

「ガモンさんっ、魔力解放全開でいきますよ。」

「くっ。

 味わうのであれば、毒性の抜いたものを所望したいのですが」

「まぁ、つれない。

 花の蜜はお嫌いなんて。

 女性を退屈させる部下には減給をお送りしますわ。」

「よ、喜んで私はどこまでもお付き合い致します。

 女性を退屈させるなど、男の名誉に関わります故」

「ふふ。

 サダンは物分かりがよくて嬉しいわ。

 勿論ガモンも、私の直属なのですから女性に礼儀を尽くす紳士でありますわよね?」

「俺ホモですので」

「「えっ」」

 

 ガモンはホモ。

 

 あの男、服越しからくっきり分かるほどマッチョだもん。

 顔も濃いし、私もそんな気がしたのよね。

 

 サウナのような環境のためか、頭がゆだけて久しぶりに自慢の妄想力を発揮しかけた。

 腐腐腐、あはっ。

 逞しい大腿同士の激しいスパンキングが脳に響くわ。

 

「隙ありっ」

 

 ガモンは一息に高速詠唱を完了させ、風の砲弾を射出させる。

 

「あ、ちょっとっ待ち……」

 

 彼の一言が予想外だったのか、アネイラは戸惑いを呈してしまい、攻撃をもろに受けてしまい吹き飛ばされる。その弾みでアネイラは杖を手放してしまった。それが勝負を決した。

 

「敵の言に囚われるなど、アネイラお嬢はまだまだ未熟ですな。」

「いや、戦闘中に急にあんなカミングアウトされたら誰だって二の足踏みますわよっ。

 って、そうじゃありません。

 ガ、ガモン、貴方。本当に男色の気が?

「…………」

「お嬢は一体何を言って………って、おい、サダン。

 何故あからさまに距離をとるか」

「いえ、お気になさらず。

 私のパーソナルペースが単に広いだけです。」

「いや、3メートルは広すぎだ。

 まともに話せないだろう」

「大丈夫です。声は届いておりますので。

 ガモンさん。以降は戦闘以外ではこの3メートルが私達のベストラインとしましょう。適切な距離感は良好な関係を築きます。

 これはお互いのため。これからも良きビジネスパートナーであり続けましょうぞ」

「だ男色、男色なのですか!?

 早く答えなさいっ。

 わたくしの話を無視するとはどういう了見でしてっ!? 

 貴方がわたくしに無礼を働いたと貴方の父に言いつけますわよっ。」

 

 私への無礼でガモンを打ち首にしてやろうかしら。

 

 内心盛大に舌打ちする。

 痛めた部分をさすり、上体を起こす。

 私はガモンの風の魔法の余波を受けて、今日何度目かの打撲受けたのだった。

 なんて厄日か。

 

 何度も言うが、私は一ヶ月後彼女と戦う羽目になるのだ。たかだか魔法の余波でボカスコと殴り付けてくれる程の実力者だ。

 

 私は気落ちした。

 

 もう戦闘は終了した様子だが、それでも尚ここから離れたい気持ちになり、私は決闘場を後にした。

 

 

 

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