東方人狼録   作:海老天饂飩

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どうも、海老天饂飩です。今回も遅れてしまいました。

今回からモノローグに感情や考えていることの区別がつき辛かったので()を付けました。まぁ、勝手が悪かったら外します。


第二話 『満月の夜に』

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!はっ!はっ、はっ、ふぅ~~」

 

 

(さすがにここまで来れば追ってはこないだろう・・・たぶん。)

 

 そう思い、疲れている体を少しでも休めるため、木を背にして座り込んだ。

 

(休憩がてら今の状況でも整理するか。今は村から逃げ出して逃走中っと、荷物ちゃんと全部ある。

 そして異常なのが俺の身体能力か・・・分かっているのが、5mの柵を越える位の脚力、壁越しの小さな喋り声を聞く位の聴力、暗闇なのに近くなら昼間とあまり変わらない位に見える視力、後いろんな所から力が漲ってくる様な感覚。

 うん、異常だ。あっ、後臭いにも敏感なっているな。今もなんか臭いし、って臭い?屁はしてないぞ、しかも若干錆びた鉄の臭いもするし。じゃあこの臭いはいったい・・・・・!?)

 

 上から何かが迫ってくる感覚を覚えた俺は前に跳びだした。

 振り返ると俺が座っていたところに、さっきまで無かった筈の人間の頭と同じ位の大きさの岩が地面に半分ほど埋まっていた。恐らくあのまま動かなかったら、アソパソマソみたいに頭と岩が交換されていたかもしれない、と考えると背筋が凍った。

 すると後ろから枝が折れる音が聞こえたので振り向くと、何か鋭利な物が俺の事を貫かんと飛んで来たので体を捩って回避したが、脇腹に掠り、服と皮を少し持ってかれてしまった。

 何者かによる襲撃だと確信した俺は苦痛に顔を歪めながらも、見えない敵に向かって叫んだ。

 

 

「ッ誰だ!!何処にいる!出て来い!!」

 

 

 そう言ったら鼻の奥を突く様な肉が腐った臭いと一緒に金切り声が聞こえた。

 

 

「ケケケケケ、出テ来イト言ワレテ出テクル馬鹿ガ何処ニイル、ケケケケ」

 

 

(確かに見えないから正確に何処にいるかは分からないが、声が聞こえてくる方向でだいたいの場所は分かるんだよ!)

 

 そして俺は、声が聞こえた茂みに向かって足元に転がっていた石を思いっきり蹴飛ばした。かなりの勢いで石は茂みの中に突っ込み、鈍い音と蛙が潰された時に鳴く様な声が返ってきた。

 すると今度は後ろ辺りから声が聞こえてきた。

 

 

「グエッオエッケケケ、オマエ意外トヤルナ、ダガ次デ殺ス、ケケケケケ」

 

 

 また声が聞こえた所に石を蹴りこんだが、今度は当たる事無く飛んでいった。次に身構えて聴覚と嗅覚をフルで使ったが聞こえたのは木が風で揺れる音と虫が鳴く声だけで、鼻はあまりの臭さにイカレていた。

 

(逃げたいところだが、下手に動くと後ろからいきなり、ってなるかもしれないからなぁ。まったく、どうすりゃ良いんだよ。)

 

 

「・・・何処に居やがる・・・」

 

 

「ココダ、ケケ」 「!?」

 

 

 耳元から声が聞こえたので飛び退こうとしたが、それよりも早く右の脇腹に衝撃が走り、嫌な音を鳴らしながら吹き飛ばされた。

 立っていた場所から4mほど飛ばされ、さっきまで肺を満たしていた空気と体内の何処かから出血した血を吐きながら仰向けになった。

 

 

「ッウッグ!?ックフ!カハッ!ヒューヒュー・・・」

 

 

(ックソぉ!イタイ!いたい!痛い!肋は何本か折れたし、血が喉に詰まって呼吸が出来ない!)

 

 血を吐こうと思い体を横に向けようとしたが、何者かに跨がれて横を向くことが出来なかった。

 

 

「ケケケケケ、イタイダロ?クルシイダロ?コワイダロ?今スグ血ヲ吐キ出シテ息ヲシタイダロ?ソウダロソウダロソウダロ?オレヲモット畏レロモット苦シメソシテ死ネ、ケケケケケケ」

 

 

 そう相手は何か言っていたが俺はその時意識が朦朧とし過ぎて・・・

 

(あぁ、俺はもう死ぬのだろうか?それにしても今日は満月か、山の中のためかいつもより幻想的で綺麗だなぁ・・・)

 

 ・・・っといった様に余りにも場違いなことを考えていた。なので余り怖がっていない俺に対して相手はキレた。

 

 

「ケケ?オマエハ何故畏レナイ?何故モット怖ガラナイ?ナゼダ?ナゼ?ナゼ?ナゼ!?モウイイ・・・殺ス!!!」

 

 

 そう叫び、相手は腕と見られる物を鋭く尖らせて喉に狙いを定めた。それを見て現実逃避していた俺は改めて迫る危機に気づいた。

 

(ハッ!?ヤバイ!殺される!死にたくない!まだやりたい事があるんだ!死にたくない!しにたくない!シニタクナイ!」

 

 もう何がなんだか分からなくなった俺は唯、死にたくない一心と最後の足掻きと思い、渾身の力を籠めて目を瞑り左腕を前に突き出した。

 そして、周りには何かが潰れてぶちまける音と短い断末魔が響いた。しかし何時まで経っても来るはずの痛みは来ず、その変わりに腕に生温い物が伝わる感覚と左腕がやけに重たくなった感じがした。恐る恐る目を開けてみると目の前の光景に俺は自分の目を疑った。

 

(ハッ!?はああああぁぁぁぁぁ!!??何だよこれ!?俺の手が・・こいつの胸に刺さって・・血が、血が・・・ってこいつ人間じゃねぇ!?)

 

 そう、俺が相手していた奴は人間じゃなかった。俺の事を貫かんとしていた腕を力なくだらりと垂らし、目は血走ったまま白目を向け、頬には唾液と血が混ざった物が異臭を撒き散らす。その見た目はゾンビやグールと言われている者に良く似ていた。

 しかし、そいつは今、胸を俺の左腕に貫かれて、生ける屍ではなく唯の屍となっていた。

 

 

「な、何だよこいつ!?って気持ち悪!!」

 

 

 そう言い俺は腕を振ってそいつを振り落とし、立ち上がり血に濡れている手を見つめた。

 

(今のは誰にも見られてないし“人”じゃなかったけど、“ヒト”を殺してしまった。血もべっとり付いてしまった。落とさないと・・・それにしてもこんな大量な血は、はじめて見たが美味しそうだなぁ。赤より濃い紅色で鉄の錆びた様な臭いが堪らないなぁ・・・)

 

 そして、ソフトクリームを舐めるように手についている血を舐め続けた。すると、急に舐めていた血が不味くなり体が異物と判断し、血や胃酸等を吐き出してしまった。

 

 

「うぅぐ、オエ~~!」

 

 

(なんで俺は血を舐めているんだ!?色々あり過ぎて、ついにイカレてしまったのか!?・・・・・分からん・・・嗚呼、だが美味しかったなぁ)

 

 といった様に自分の狂った行動に驚愕したり、血の不思議な味を思い出したりしていた。それから、体を洗ったり口を濯ぐため、耳を澄まし川を探した。

 

 

「向こうか・・・」

 

 

 そう言い、川の方にある方に向かい始めて体の違和感に気づいた。

 

(脇腹が痛くなくなっているだと?しかも体の奥から力が漲って来ている・・・感じがする?これは血を飲み込んだせいか?・・・ますます分からん・・・)

 

 

 

 

 

 

 

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 川についた俺は周りに誰もいないことを確認して、服を脱ぎ先に服を洗ってから体を洗い始めた。

 

(はぁ、血で髪がガチガチになってるじゃねえか、おかげでこんなツンツンに・・・ん?何だこれ?)

 

 頭に違和感を覚えた俺は一旦体を洗うのをやめ、水面に映る自分の頭を見た。

 

 

「!?・・・・っ何だよこれ!?」

 

 

 そう驚くのも無理はない、何故ならいつもの黒髪が白髪になっていて、短めの髪が肩にかかる位にまで伸びていたからだ。しかし、そんなことよりはるかに目を見張るものがあった。それは、二つの犬のような耳だった・・・

 そして、俺はあまりの驚愕にその場にへたり込んでしまった。すると腰あたりに違和感を覚えたので見てみたら・・・白いフサフサした尻尾が生えていた・・・

 

(嗚呼、物凄く頭が痛い・・・それにしても、ここに来てから良い事ないな・・・そもそも何でこんな所にいるんだよ。

 目が覚めたら知らない山の中にいるし、村には泊めて貰ったは良いけどメシはまずいし襲われるし、人外には襲われるし、自分はその人外を殺してしまったし、そしたらいつの間にか自分まで人外になっちまてる・・・どゆことなの?

 はぁ、こんな時こそもっとポジティブに考えなくては、えぇ~と。自分がいつの間にか知らない山にいたのは・・・・・ダメだ思いつかねぇ。)

 

 

「クソッ!何でだよ!?何で何だよぉぉぉおぉおぉぉおぉおぉおぉ!!」

 

 

 その後俺は、誰にも邪魔されることも、慰められることも、励まされることもなく涙が枯れてしまうまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

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そしてその後、泣き疲れた俺は川の辺で蹲ってずっとブツブツ言っていた。

 

(はぁ、こんなところに来てしまったのはともかく、耳や尻尾が生えたのはいい体験ができるっていう事で良いか・・・いや、良くないだろ。)

 

 そんな風に自分に突っ込みを入れることができるくらいに回復?していた俺は顔を上げたら日が昇ってきているのに気づき、そして昨日グールみたいな奴を殺した所に鞄を置き忘れてきてしまったことを思い出した。

 

 

「・・・取りに行くか・・・」

 

 

 そう言い俺は立ち上がり、固まっていた関節を鳴らしながら大きく欠伸をし、干していた服を着た。

 

(うぅ、生乾きだがこれしかない今は我慢するしかないか。)

 

 そしてもう一度、自分の体に起きている事確認するため水面を見たするとそこに映っていたのは、耳が生えている白髪に自分ではなく、耳は生えておらず髪の毛も灰色になっていて、その灰色も徐々にだが何時もの黒髪に戻りつつあった。

 

(どういう事なんだ?もう、さして驚きはしないが、分からない物は分からんなぁ。ある一定の条件で、ああなるとするならば、夜だけとかだろうか。)

 

 そんな風に自問自答を繰り返しつつ、昨日の場所に戻ってきた俺はあまりの臭さに鼻を覆ってしまった。その臭いの原因とは、昨日殺したグールなのだが、その見た目は、四肢は食いちぎられダルマの様になってしまっており、腹は食い破られ腸や内臓だった物も引き釣り出されてそこ等に転がっていた、しかも頭も右半分が欠損し、その周りにはどす黒い血のカーペットが敷いてあり、昨日見たのとは大きく変わっていた。

 

(・・・たぶん俺がいなくなった後、血の臭いに釣られて野犬や熊が来たのだろうか?)

 

 そして、一度は殺されそうになったが逆に殺してしまった相手に合掌した俺は鞄を取り、そそくさと川があった場所まで戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 川の辺に戻ってきた俺は今後の方針を決めようとしていた。

 

 

「さぁて、今からどうすっかな?」

 

 

(とりあえず、これからは当分は野宿だな。もし夜に変化するのならば、また村に泊まったら化け物扱いされて追い出されてしまうのは、火を見るよりも分かりやすい。

 しかし、道具とかが欲しい時は買うなり物々交換するなりするかもな。とりあえず、そんな感じで今は腹を満たすために動物なり魚なり捕って来ようかな。)

 

 そして、十徳ナイフを取り出し、大きく背伸びをして、森の中に歩いていった。

 

 

「・・・何か食えるものがあるなら良いけど」

 

 

 

 

 






次回は少しだけ時間が飛んだところから始まります。・・・多分。



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