海上を進む六人の少女達。
新たに迎えた仲間を加わえて航行する。
「~♪♪」
水雷戦隊旗艦の那珂ちゃんは、偵察機での周囲の監視をしつつ鼻歌を歌いながら航行する。
妹を迎える事が出来て上機嫌な夕雲は、軽やかに海面を滑る。
そして、その後ろでは・・・
「痛っ!何で私ばっかり!やめっ・・・痛いってば〜!!も〜!!!」
エサと何かと間違われたのかわからないが、大量のカモメに頭の二つのお団子目掛け、爪やら嘴やらの集中砲火を受ける巻雲。
それを見て笑う秋雲と慌てふためく風雲。
流石に自分ではどうにもならないと思ったのか、お団子を守りながら涙目でこちらに救助を請う。
「秋雲ぉ〜!笑ってないで助けてよ〜!!」
「え〜!?いいじゃんいいじゃん!見てる方は面白いよ!あははは!!」
「ちょっ、巻雲姉ぇ・・・!えっと、えーっと・・・機銃で追い払うのは、ダメ?」
風雲の艤装の中から慌てて機銃の妖精さんが出てきた。撃たすまいと風雲に訴える。
「ダメだよ!私もカモメも、当たったりでもしたら色々とまずいよー!?」
周りのブーイングに圧倒され、バツの悪そうな顔をして押し黙る風雲。
どうも冗談のつもりでは無かったようだ。GOサインが出たら撃ったかもしれない。やめてくれ。リアルで可愛い女の子がカモメの血肉を引っ被ったスプラッタなシーンとか、マジ勘弁願いたい。しばらく鶏肉が喉を通らなくなるからそれ。
ぎゃーぎゃー!と、文字通り姦しい艦隊の空気。平和に流れる時間に、ふと、長波は空を見上げる。
「・・・青いね。いい天気だね・・・」
のどかだね・・・と、一人考える転生者の長波。まだ、自分の置かれている状況を何処か他人事の様に思う。本当はそうも言ってはいられないのだが。
時は昼過ぎ、現在ソロモン海を航行中。
ソロモン、その名を聞けば、深海棲艦が跋扈する殺伐とした海域のはずだとは思うのだが、そんな気配は無い。拍子抜けもいい所だ。
そういえば、今の状況も何にも知らないので旗艦殿に聞いてみた。
那珂ちゃん曰く、
「えーっとね、それはねぇ、今回の那珂ちゃん達のお仕事は、今度やる任務の下調べ・・・えっと、航路の確保とか確認が目的で、この水雷戦隊以外にも正規空母とか戦艦とかも来てるんだよ☆」
これでいいよね?と、自分の肩に乗っている装備妖精さんと相談しながら話してくれた。だがその説明の仕方は良くない。全然良くないから。聞き手の理解力を試してんのか。
神通さん、こいつです。旗艦としての自覚が薄いです。何とかしてください。あと那珂ちゃんのファン辞めます。
あんまりでアレな説明だったので、後から風雲がしっかりと教えてくれた。
つまりどういう事かと云うと、所謂東京急行にあたる輸送作戦を実施せよ!なんて大本営からお達しがあって、海域の安全の確保をする戦闘部隊と、その裏で、機動力の高い重巡、軽巡、駆逐艦、軽空母等で編成された偵察隊を当海域に派遣。
その中でも那珂ちゃん達水雷戦隊は、航行予定の海路の、安全な範囲で下見に来ていたとの事。その際に、たまたま遭遇した敵艦隊と交戦しドロップしたのが俺こと長波で、出会った経緯はそういう事らしい。
そして、今現在、ソロモン諸島太平洋側の沖合にて、連合艦隊による大規模な戦闘が行われている真っ最中だという。
それならば、普通に考えて周囲に敵が殆ど居ないのも合点がいく。基本派手にやってる方に注目が集まるのは必然だ。
しかしあれだ、まさか侵攻しつつ斥候するなんて作戦が繰り広げられているとは想像すらつかなんだ。けっこう転生のタイミング悪いよな、これ。知らぬ所でドンパチやってる訳だし。場所が場所なら、どっかのゲームの様に、リスポーン&キルみたいな状況もありえたんだろうな。
随分とまぁ指揮している提督さんは大盤振る舞いをしている様に思える。戦力といい、消費資材といい、半ばやりたい放題な状態だし作戦として大丈夫なのか?
せっかく消えた不安が再び甦る。艦隊の様子を見るに、少なくともブラックじゃあ無いだろうけども、なんともやり方が大味過ぎて人となりが想像出来ない。これから自分が寝泊まりするであろう鎮守府は、どうか平和でありますよーに。
自分の行く末を適当に祈る。なんとも虚しい。
ふと、先頭を行く那珂ちゃんが、耳元を手で押さえる。
騒がしい後続に向き直り、しーっと、口元に人差し指を当てて、
「皆、ちょっと静かにしててね?」
そう言って再び前を向く。
どうやら、作戦指示に関する電文が届いたらしい。
「・・・・・・」
先程説明している時とは打って変わって、真剣な表情をしている。
さっきのは取り消そう。今の那珂ちゃんは間違いなく水雷戦隊の旗艦の顔だ。
そんな彼女の様子を見て、他のメンバーも顔付きが変わる。全員、ただじっと、通信が終わり次第入るであろう、司令部からの指示を待つ。
艦隊に流れる雰囲気が変わったのを察したのか、巻雲に集っていたカモメは何処かへ飛び去った。
もしかして、撃ち漏らした敵がこっちに向かって来てるとか・・・嫌な予感が頭をよぎる。こちらとら艤装の中に居た妖精さんに自分の艤装使い方を教わり、なんとか航行出来るようになったばっかりだというのに間の悪い事だと思っていた矢先、那珂ちゃんがニッコリと笑いながらこちらに向けて一言、
「作戦しゅーりょー!全艦隊、被害状況ノ確認、安全ヲ確保シタ後帰投セヨ!だって!!」
わぁっ!と、皆が嬉しそうにお互いを見合う。
「轟沈した娘はいないみたい。でも、中破と大破した娘が出てるから、護衛の為に私達はこのまま艦隊に合流するよ!」
「「「「了解!!!!」」」」
威勢の良い声と共に隊列に沿って順次転回。連合艦隊のいる方角に進路を取る。
「うわっとと!!」
急な旋回でもたつく。まだまだ海上での動きはぎこちない。
「長波さんは無理しないで、ゆっくりでいいわ。置いていったりなんかしないから・・・ね?」
那珂ちゃんの後ろに付いていた夕雲が隣に来て、バランスを崩した俺の腕を掴んで体を起こしてくれた。
「ん・・・ありがとな、夕雲姉」
「別に、このくらいは当たり前よ。私は貴女の“お姉さん”ですもの」
優しさに色気を孕んだ口調と雰囲気、柔らかい笑顔に思わず何かクルものがある。恐るべし我らがネームシップ、なかなかに侮れん。
「機関全速!目標、ソロモン諸島、太平洋沖合の連合艦隊!各艦は、陣形を作りながら進んで!!複縦陣でお願いね!!」
旗艦の元気を目一杯に受け、士気高く、水雷戦隊は太平洋を目指すーーー。
場所は変わり現在は太平洋沖。合流するまで特に何も起きなかった。
連合艦隊と合流した俺達は、補給と艤装の整備をするため、パラオに向かっていた。南方の最前線を担う泊地の一つだというのに、そこの提督は面倒を見ると言ってくれたらしい。いい提督だ。太っ腹だ。
連合艦隊旗艦の伊勢は始め、他の泊地に世話になるのを躊躇ったが、一刻も早く休みたいという声が多かったため、先方の好意に甘える事にした。
特にこれといったダメージの無い第四水雷戦隊は、艦艇の数二十を越す規模の連合艦隊の後方で殿を務める。前を見れば、連合艦隊の全体が見える。
航空戦艦伊勢を旗艦に、同じく航空戦艦の日向、航空巡洋艦の最上と三隈、雷巡北上大井ハイパーズで編成された、離島の防波堤か田んぼが似合いそうな水上打撃部隊。
龍驤を加えた一航戦と、直掩に朧を除く第七駆逐隊が付いた空母機動部隊、というか、ある種史実通りの一航戦。
派手に暴れて敵を引き付けていたのはこの二つの艦隊で、残る偵察隊のメンバーは青葉、衣笠に天龍と朧。そして、祥鳳型軽空母の二人だ。安全圏で偵察をしていた水雷戦隊とは違い、こちらは目的地までのやや踏み込んだ所まで強行偵察を行っていた。
後から聞いた話だが、ここまでの規模を展開したのは、事前に敵艦隊が集結しつつあるという情報があったからだという。
結局の所、連合艦隊を組んで殲滅しなければならない数にはなっていたので、結果はオーライという事でケリは着いた。
今あの海域はイベント中なの?と思いもしたが、偶然そういう時期に重なっただけなんだろうな。
しかし輸送作戦か。それならこの俺の出番だな。輸送と言えばドラム缶。ドラム缶と言えば長波サマだ。両手に紐を括り付けたドラム缶を振り回して、陸の上に立って長波一番乗り!と高らかに叫びたい気分だ。
そんな事を考えていると、先頭を行く青葉の偵察隊から朧が伝令の為に下がってきた。
何か動きでもあるのか?
「お伝えします。パラオ泊地に滞在中の、五航戦翔鶴の偵察機がこちらを捉えました。ここから先、泊地から迎えの艦隊が来るそうです」
意外だ。もうそんな所来ていたのか。
「分かった!皆に伝えておくね!」
那珂ちゃんの返事を聞き、朧は、「それでは」と、会釈をして自分の艦隊に戻って行った。
地図で見れば僅かな距離だが、人の身一つサイズでの移動なので、少なくとも夜にはなるだろうと踏んでいたが、案外そうでも無かった。結構速いもんだな。
ようやく一息付けると分かって、皆安堵の息を吐いた。
「や、やっと休めますぅ〜・・・」
疲労困憊と言わんばかりの巻雲。それに対し・・・
「巻雲はカモメに襲われただけじゃん」
「なっ・・・!!」
再びコントを始める二人。
「対空が甘いよねぇ〜巻雲はさぁ」
「カモメと対空は関係無いでしょ!?」
「そんなこと無いって。秋雲さんなら、軽〜く避けてるよ」
「よく分かんない理屈だけど、なんか悔しい・・・!」
ネットの画像検索で見れる可愛いぐぬぬ顔を見せる巻雲。
「元航空戦隊所属は伊達じゃないってねー♪」
「むむむ・・・!ん〜ッ!!」
怒りが頂点に達した巻雲は、有り余る袖を振り回し秋雲を叩く。
「痛っ!・・・くないけど、鬱陶しい!!」
「〜〜〜〜〜ッ!!!」
対空云々などと高度なガールズトーク(?)がヒートアップする。
いよいよ収まりがつかなくなり、風雲もどうしたらいいのかと慌てふためき始めた。
二人のやり取りは面白いから見てたけど、流石にもう止めないとダメか。
俺は、おろおろしている風雲の肩を叩く。
「風雲姉、あの二人止めよう。このままじゃ撃ち合いを始めそうだ」
「え?あ、うん。じゃあ、巻雲姉を抑えてくれる?」
「あいよ。巻雲姉ぇ、もうよしなー」
暴れる巻雲を力付くで引き離す。
「む〜〜〜〜〜〜ッ!!」
秋雲と離れて尚も袖を振り回す。
「巻雲姉ぇ、暴れんなって。袖が顔にっ・・・あたっ!あーもう!!」
巻雲を自分の正面に向き直しーーー
「いい加減落ち着けって!!」
その頭を掴みーーー
「わぷっ!!?」
俺のーーー長波の豊満な胸に、巻雲の顔を埋めた。
「・・・・・・!?」
突然の事態に巻雲の動きが止まる。よし、上手くいった。
「「えぇぇ・・・?」」
「まぁ、ウフフ・・・♪」
・・・あれ?何この空気?なんかしくった?ていうか皆こっち見てる・・・。
「んむぅ〜・・・ふかふかしてて気持ちいぃ・・・♪」
すごく満足気な巻雲。良かった、落ち着いてくれた。やはり母性は正義だな。
誰もが呆気に取られる状況で、那珂ちゃんが申し訳なさそうに口を開く。
「えっとぉ・・・いい感じの所悪いけどぉ・・・、隊列・・・守ってくれない・・・かな・・・?」
那珂ちゃんの目はこっちを見ていない。顔もほのかに赤い。
何とも言えない空気の中、旗艦からの指示に意識を戻した秋雲と風雲は、速やかに自分の持ち場に戻る。
巻雲は、まだ長波の胸に夢中になっている。・・・そろそろ離れて欲しいな。
「ま、巻雲姉・・・?もう、いいでしょ・・・?」
「もうちょっとだけ・・・♪」
「えぇー・・・」
まだ離れる気は無いらしい・・・。
どうしようか悩んでいると、夕雲が巻雲の頭を小突いた。
「あいた!何ですか!?いい所なの、に・・・」
凄みを効かせた顔で巻雲を睨む夕雲。コワイ。
「あ、え・・・あ・・・」
「巻雲さん、これ以上はいけませんよ。姉がいつまでも妹に甘えるんじゃありません」
ピシャリと言い放つ姉からの厳しい一言。
「うぅ〜ごめんなさい〜・・・」
すごく口惜しそうながらも、ようやく離れてくれた。誰かを抱き締めたまま航行するのしんどかったから助かった。何より、他の艦隊からも視線が飛んできてたから、正直気まずかったのが本音だが。
「ありがと、夕雲姉」
「いいのよ。ほんと、ああいう時の巻雲さんには困りものだわ」
頼りになるなぁ・・・まぁ、実の姉では無いが。・・・いや、今の俺の場合どっちだ?俺が長波である以上は実の姉でいいのか?
・・・深く考えてもキリが無いしそれでいいか。
そんな茶番を演じていると、パラオからの迎えがやってきた。目的地までもうすぐそこだ。艦娘になって間もなくて、まだ、たくさんの不安があるが、今はゆっくり休みたい。
そう・・・ゆっくりと・・・休めると・・・思ったんだけどなぁ・・・。
次回に続く