艦娘転生記〜元男は今日も抜錨する〜   作:ワタリー

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第三話

パラオ泊地に到着した一行。

長波は数時間振りの大地に、何とも言えぬ感動を覚える。

ソロモン海で拾われてからずっと海の上を移動していた事もあり、自分の足で歩くという感覚が若干麻痺しているような気がした。

 

連合艦隊は全員無事生還。戦果については、ゲームで言うところの勝利Sと言ったところ。作戦規模にして大戦果といえる。しかし、目も当てられない程に服がボロボロの傷付いた艦娘も決して少なくない。全員帰って来れたから良かった、というのが一番の戦果だろう。

まぁ、こっちとしてはその光景たるや眼福の極みだが、艤装がひしゃげていたり煙を吹いてる所を見ると、あまり変な気を起こすのは褒められたモノではないので自重する。

 

中破、大破の損傷を受けた艦娘が次々とドックへと運ばれていく。

長波は、艦これの世界のリアルな姿に気後れし、顔が引き攣る。ゲームならば、可愛い女の子の服ビリに歓喜するか、もしくは、撤退を余儀なくされストレスに駆られるかなど、割と他人事の様に見るはずだが、今はただ、痛々しいその有様に恐怖を感じずにはいられない。

艦娘としてこの世界に生を受けたのならば、いずれ同じ目に合うかもしれないのだから。段々と、当事者となっていく自分に、少しだけ体が震えた。

 

そんな俺の様子を見て、先に艤装を外して来た那珂ちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。

「長波ちゃん大丈夫?顔色があんまり良くないみたいだけど・・・」

「え?あぁ・・・いやぁーなんつーか、あれ見て私もあーなるのかなーと思って・・・そんでちょっと憂鬱になってただけで・・・」

「・・・そうだね。皆あの頃に十分痛い思いをしたんだけどね・・・」

いつも明るく振る舞う那珂ちゃんが、珍しく悲しそうな顔で語る。人の身体になる以前の、鉄の塊だった頃を思い出しているのだろう。

「また、痛い思いをしなくちゃいけないけど・・・今の世界は、那珂ちゃん達じゃないと救えないもんね」

「・・・・・・」

元が別世界の人間だけに、完全に同意しきれない。でも、言わんとする所は理解出来る。

人々を守りたい、静かな海を取り戻したいという気持ちは、艦娘として生まれた以上は絶対不変の感情だ。

 

ハァ・・・と一つ溜息を突き、

「なんか、色々あって疲れてるのかも・・・」

初めての体験ばかりの一日ではあった。

「あはは、そーかもね」

二人して疲れた笑いを溢す。

「長波ちゃん、工廠の方に艤装を預けて、一緒にご飯でも食べに行こ?」

「ご飯・・・?」

くきゅるっと、小さく、でも確かに聞こえるくらいにお腹の音が鳴った。

「あ、あはは・・・」

恥ずかしいあまりに笑って誤魔化す。

「・・・今の可愛いかったね☆」

「そ、それは言わないで・・・くださぃ・・・」

 

そうだ・・・今更思い出したが、この世界に転生して以降何も口にしていなかった。パラオに着いてからというものの、すっかり気が抜けてしまい、力が入らなくなっているなぁとは思ってはいたけど、納得いった。疲れと空腹が重なればそうもなる。

 

「早く艤装を置いてきなよ。那珂ちゃんもうお腹ペッコペコなんだから!」

「はい。すぐ置いてきますんで那珂ちゃんは先に食堂行っててください」

「りょーかい!先に行くねー☆」

そう言って那珂ちゃんは駆けて行った。俺もすぐに工廠へと向かった。

工廠に着いたら早速自分の艤装を預け、待ってました!と言わんばかりに整備に乗り出した妖精さん達にエールを送り、食堂へ行く。

・・・本当は、少しだけ妖精さん達が艤装に群がる様を眺めていたかった。あんなに小さい妖精さん達がせっせと働く姿は、非常にコミカルで思わず頬が緩みそうになった。また後で見に来れたら来よう。

 

空腹で鳴り続けるお腹を抱えながら小走りに向かうと、ちょうど夕雲と巻雲が食堂に入って行くのが見えた。俺は、二人の後を追うようにして中へ入る。

食堂では多くの艦娘が食事を摂っている・・・と思ったがそういうわけでもなく、入渠している数の方が多いので、二、三人くらいのグループで一つのテーブルを囲っている程度だった。

カウンターの方では、夕雲と巻雲がトレーを持ってご飯、主菜、汁物、副菜を自分で器によそっている。地方によくある、地名食堂のような配膳方式をしている。ただ、そういう店とは違い、メニューは各種一品ずつになっている。

ちなみに、今日の夕飯のメニューは和食である。

 

「う〜ん・・・南国に来て和食ですかぁ〜・・・」

「巻雲さんの気持ちは分かるわ。でも、バカンスをしに来てるわけじゃないでしょ?」

「そぉですけどぉ〜・・・少しくらいは南国気分でいたいなぁ〜って」

ぶーぶーとぶー垂れる巻雲。

空腹でたまらない俺にその言葉は心に刺さる。普通に飯にありつけるだけでも嬉しいのに、贅沢言う姉に少し言い聞かせてやる必要がある。俺は手を洗ったらすぐさまトレーを取り、カウンターに用意されている飯を取りながら二人のすぐ後ろに並ぶ。

 

「そんな事言うなよー巻雲姉。私はまともに食事が出来てすごく安心してんだからさー」

よっ夕雲姉、巻雲姉。と、軽く挨拶。

「あら、長波さん。今から夕飯?」

「そんなとこ。那珂ちゃんと一緒にご飯食べるからさ」

「そうなんだー。夕雲姉さん、私達もご一緒しませんか?」

「そうね。いいかしら、長波さん?」

「ん、いいんじゃないかな。一緒に食べよーぜ」

言いたい事をスルーされる結果となったがまぁいいか。那珂ちゃん待たせてるし、あんまりあれこれ言うのも野暮ってもんだ。今は飯だ飯。

 

ご飯を受け取って、夕雲達と一緒に那珂ちゃんが取っておいてくれたテーブルに向かう。

その途中、食事をしていた七駆の曙と目が合った。同じテーブルで食事をしていた潮も、曙の明後日を向いてる視線に気付きこちらを向く。

やべっ、曙かぁ。変な絡まれ方されたら嫌だなー・・・。

バッチリ合った目を外す事はできない。そのままお互い視線を交わしつつ様子を見る。やや沈黙気味の二人の空気に、わけも分からずキョトンとしている潮。

ええと、何て挨拶したらいいかな・・・?なんて迷っていたら、曙の方から口を開いた。

 

「アンタ、ひょっとして新入り?」

「あ、ああ・・・夕雲型駆逐艦、四番艦の長波だよ」

内心激しくビクつく。いびられたりしないよな・・・?

「そう、あたしは綾波型の曙。こっちは同型の潮。見ての通り、あたしも潮もアンタと同じ駆逐艦よ」

「潮です。よ、よろしくです」

「お、おー。よろしくなー!」

 

・・・あれ?と、思った。

あの曙が、予想に反して普通の対応をして逆にびっくりした。それもそのはずだ、だって、俺は今“艦娘”であって、決して“提督”ではないんだ。

俺が元いた世界の感覚で考えれば、勝手に曙に罵倒されるもんだと勘違いしてしまう。自分が男で、艦これの世界での男という存在を、提督という立場のプレイヤーで考えるから、変な先入観を持ってしまっていた。

 

「アンタも運がいいわね。作戦が殆ど終わりの時に出てきたんだっけ?」

「ん?ああそうだけど?」

「はぁー、皆出てくるタイミングいいよねホント」

「あはは・・・」

「また、あたしだけ・・・」

なんか落ち込む事情があるのか・・・全然話が見えてこない。

困っていると、巻雲が「ちょっと耳貸して」と耳打ちしてきた。

「曙ちゃんはね、出てきたばかりの時に、敵の増援部隊と鉢合わせしちゃったの。それでね、大雨で周りがぜんぜん見えない中で、敵の砲撃が全部曙ちゃんに向いちゃって大変だったんだよ・・・」

「い゛っ!?」

まさかのリスキル未遂。コワイ。

「あたしがあんな目に遭ったのも、あのクソ提督の作戦が悪いのよ・・・!」

歯を強く噛んで、お決まりの文句を放つ。やっぱり悪態ついてると曙らしいが、聞いてる側の気分は良くないな。

「曙ちゃん、皆困ってるよ・・・」

「え?あ、ごめんなさい」

またやっちゃった・・・。とバツの悪そうにする曙。

どうもかなり深刻に考えているようだ。寒さと、風と、匂いと危険を感じたんだろう。

そんな落ち込む曙を、夕雲が慰めようとする。

「気にしてませんよ、曙さん。きっと、疲れているからアンニュイな気分になっているだけかもしれないわ」

「そうだよ曙。今日はゆっくり休んで、鎮守府に戻ってからゆっくり話しようぜ?」

 

ちょっと申し訳なさそうにする曙。

「・・・ありがと。気を使わせて悪かったわね」

素直に謝られるとこっちが歯痒い気持ちになる。先入観だ。曙への先入観が違和感を呼ぶ。

 

ちら、とこっちを見やる曙。三人の手元を見やり、まだこれから食事を摂る所なのだと気付いた。

「あ、ご飯まだだったんだ。引き止めてごめん」

曙が言い終わった所でくきゅ〜・・・と、俺のお腹が鳴る。

「・・・可愛いお返事ですね」

その様子にちょっと可笑しそうに笑う潮。

「言うなって・・・恥ずかしいから・・・」

ご飯が冷めない内に、早く食べよう。

 

 

「おっそーい!」

テーブルに付いた時の那珂ちゃんの第一声がこれ。その声でそのセリフは卑怯ってもんでしょ!

「やーわりーわりー那珂先輩。待たせちゃってほんとスンマセン」

「・・・・・・」

那珂ちゃんはジト目でこっちを睨んでくる。調子に乗って先輩呼ばわりした、かなり気まずい。

「那珂ちゃんのことはー、那珂ちゃんって呼んでほしいなー?」

怒ってんのそっちかい。しかし、

「んー・・・」

何か考え込む那珂ちゃん。

「・・・あのさ、長波ちゃん」

「ハ、ハイ、ナンデショウ?」

テンパる俺。出会って数時間で説教されちゃうの?

「もっかいだけ・・・もう一回だけ先輩で呼んでくれる?」

「え?あっはい。・・・那珂先輩?」

那珂ちゃんまた考え込む。

「う〜ん・・・悪くない、かも。むしろ・・・そっちの方がいい?」

めんどクセェなこの人。そもそもの発端はこっちだけど、それは置いといてご飯が冷める。

早く食べたいと思っていた所で、巻雲がアシストしてくれた。

「あのぉ〜・・・ご飯冷めちゃいそうなんですけどぉ〜」

「・・・はっ!ごめん食べよっか!」

皆一斉に箸を持つ。そして、

「いただきます♪」

「「「いただきます」」」

さぁまず銀シャリから食べようかと思ったその時、俺はある疑問が浮かんできた。

さっきまで気にも留めなかったが、あの、巻雲の、あり余る袖でどうやって箸を持つのか。しゃもじとおたまくらいは何とかなるだろう。

恐る恐る、頬を緩めながら美味しそうにご飯を食べる巻雲を見る。

!?バカな・・・袖は・・・手を包んでいる!?腕捲りをする素振りも無い!?どの指でどこを掴んで動かしているのか全く見えない。想像すれば、大体この指がこうなって〜なんて予想が付くかもしれないが、まさか、布越しに箸を持つとは器用な・・・。

思わぬ光景に箸が止まる。こちらの様子に気付いた夕雲が、不思議そうにこちらに尋ねる。

 

「長波さん?どうかしたの?」

この際だ、聞いてみよう。

「夕雲姉、巻雲姉の箸の持ち方どうなってんだ・・・?」

「ああ、あれは・・・」

夕雲が答えを言おうとすると、巻雲がそれを遮って、

「世の中知らなくていい事もあるんですよ?」

笑顔で話す巻雲。夕雲は気にせず続ける。

「・・・あれはね?ほら、小さい子供がよくやる握り箸みたいなものよ」

「ーーーーーーーーー!!!」

この答えに腑に落ちた。確かにそうだ。

一方、他人にバラされたくない秘密に巻雲は狼狽えている。

「いやー納得したよ。ありがと、夕雲姉」

勢いよく立ち上がる巻雲。その目には薄らと泪を浮かべている。え、そんなにショックだった?

「夕雲姉さん!その事は喋らないでって行ったのにー!私これでも夕雲型で上の方なんですよー!?」

「分かっています」

巻雲の等身大の訴えを一言で切り、気にせず言葉を続ける。

 

「清霜だって、練習用お箸で頑張って握れるようになったのに、巻雲さんたらいつまでたっても直さないでしょう?」

「うぐ・・・」

「また一人妹が来てくれたんだから、そろそろ本気で直してくれないと、姉として恥ずかしいのよ?」

「うぅ・・・」

箸の持ち方は墓穴だったか。悪い事した・・・の・・・かな?

雰囲気悪くしたのは事実だし、余計な事を言ってしまったのは反省しよう。

 

 

その後の食卓は、いまいち盛り上がりに欠けた。食事を終えて那珂ちゃんと別れた俺達は、駆逐艦用の宿舎に戻った。その後は、眠気と格闘しながらシャワーを浴びたり歯を磨いたりして、ベッドに倒れ込む様にして寝た。寝ようとした。

ちなみにシャワーを浴びている時に、人目を忍んで鏡で自分のスタイルをチェックしたが、それはそれはすごくすごかった。

身体を洗う時なんか、恥ずかしくてスポンジを使って肌に触れないようにしていたが、脇から脇腹にかけて洗おうとした時、手を逆の脇に持っていかなきゃいけないわけで・・・どうしようもなく、男には無い弾力のある大きく突き出たソレに腕が当たり一人パニックなったり、男にあるはずの所にあるべきものがなかったりなんて色々とすごかったわけです。

なまじ駆逐艦だけにスベスベの柔い肌が・・・。あぁ・・・。

 

そんな事をオフトゥンに入ってから思い出してしまい、転生した先での初めての夜は、落ち着いて眠る事は出来なかった。

明日、いよいよ鎮守府に向けて出航する予定だ。

朝早くに出発するが、このままではマズイ、寝坊する・・・ッ!

 

 

 

その後、寝惚けた巻雲がベッドに入ってきて胸を枕に眠ったり、風雲が寝言で説教を初めて気になって聞き耳を立てたりして、結局寝たのは二時間後。

一応、早起きした夕雲のお蔭で寝坊をせずに済んだ。

水平線に日が見えた頃、一同に揃った連合艦隊は日本に向けて出発した。




次回に続きます。
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