艦娘転生記〜元男は今日も抜錨する〜   作:ワタリー

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第五話

パラオから横須賀へ向かう連合艦隊。その道程では、幾度も敵艦隊との小競り合いがあった。最初に会敵した水雷戦隊と潜水艦の追撃以来、少数で編成された偵察部隊としか遭遇する事は無かったが。

これまでの戦闘で大きな損傷を負った艦はおらず、せいぜい少し張り切りすぎた朧が、敵の攻撃を掠めたくらいか。

 

依然として那珂ちゃんから攻撃を禁止されていた俺は、川内型特有と思われるスパルタ教育のおかげで、航行の仕方、回避運動、艦隊行動etc...を、ストレスのあまり寿命を縮める勢いで艦娘、長波としてのこの身体に叩き込まれた。

ちなみに弾は一発も撃っていない。日本に近づくにつれ敵艦隊の練度も目に見えて低くなり、強者揃いの艦隊では相手にもならなかった。途中、駆逐艦相手に回避運動の練習をさせられたくらいだった。

帰還途中なのに勝手にそこまでやっていいんかい!!って抗議したら、連合艦隊旗艦の伊勢が、大怪我しない程度なら・・・と、OKを出してきたのだ。

他からは那珂ちゃんが見ているなら大丈夫!なーんて言われたわけで、那珂ちゃんすごい信頼されているんだなぁと感心したが、逆に、責任問題とか起きるかもしれないのに、随分とノリが軽いこの艦隊に一抹の不安を覚えた。

しかし、明らかなスパルタを許容される那珂ちゃんって何者なんだ。まじで艦隊のアイドルって何なんだろうか。このノリじゃ、ゼノグラシア的なモノとしか思えんぞ。艦娘的には、そっちのアイドルの方がしっくり来るけどさぁ、そんなのマスターした所で深海棲艦と解り合う道しか無いんじゃないか?

・・・まぁ、まずそんな事は無いと思うが。

 

転生して長波になって数日がたち、初めての長距離の航行と戦闘をこなした。日はだいぶ傾いて海の色は赤く染まり、疲労もピークに達し、いい加減海以外の所に足を付けたいとか、椅子とか床でもいいから何処かに座りたいとか思い始めた頃、ようやく海沿いに人工物がある陸地が見えた。あれ、もしかして日本か?だとすれば・・・、

 

「早く日本に二本足で立ちたい・・・」

それを聞いていた風雲が呆れた顔をしていた。

「長波、何を言ってんの。もうすぐ到着だからしっかりして」

「・・・・・・」

やば、声に出てた。恥ずかしい。

 

「ごめん、風雲姉。でも今回は本当に疲れた」

「ま、そうね・・・那珂さ、・・・こほん!那珂ちゃんの教導もあったし仕方ないわね」

何故そこ言い直したとツッコミたいが、気分的にどうでもいいかも、です。

「あんだけ動いたらキツいっしょ・・・。つーか燃料ギリギリなんだけど・・・」

そう言った瞬間、風雲が慌て始めた。

 

「・・・え!?ちょっとそれ早く言いなさいよ!」

「ちょ近くで怒鳴んなって・・・。疲れた脳にめっちゃ響く・・・」

「せっかく長旅から戻ってきたのに、着く直前で余計な仕事を・・・もう・・・」

がくっと肩を落とす風雲。どうも疲れているのはお互い様と見える。

まぁ多分だけど、港に着くまで燃料は持つはず。燃費がどんくらいのものか知らんけど、これまでの航行した中で想定すると多分大丈夫。多分。

 

「言っとくがあたしのせいじゃないぞー」

「・・・そうね。あなたのせいじゃないわ・・・はぁ・・・」

風雲は、真面目なのはいい事だが、真面目故に余計な気苦労を背負ってしまう事があるのは玉に瑕だな。中には破天荒な姉妹のいる夕雲型で、常識人ポジだとちょいちょい苦労をするだろう。

・・・ん?何かおかしい事を言った気がする。破天荒な姉妹・・・?

・・・うん、まぁいっか。なるべく常識的に振舞おう、なるべくな。

 

横須賀まであとはのんびり・・・と、思っていた時、艤装が軽い振動を始める。

「ん?んん?」

艤装がおかしい。これは・・・多分だがタービンの回転が途切れ途切れになっている。艤装の中では、機関担当の妖精さんが慌てている。ああ、これはもう・・・。

全てを悟った俺は、言わなければならない事を風雲に伝える。

「風雲姉」

呼ばれた風雲は、不機嫌そうにこちらを見る。

「なに?どうしたの?」

長波「実はーーー」

燃料無くなりそうだ。と言おうとしたが、その前にタービンの回転数がみるみる落ちていく。

「あっ、これ止まるやつ・・・」

「え、ちょっと待って!」

 

その後結局横須賀に入る前にガス欠になった俺は、御機嫌斜めの風雲に曳航されながら無事に鎮守府に着きましたとさ・・・。

 

ーーー

 

連合艦隊一同は工廠に己の艤装を置き、朧は明石の所へ行き他の皆は補給の為に食堂へ行った。連合艦隊旗艦の山城と、各部隊の旗艦、そして、俺を除いて。

正直腹が減っていたので先にマミーヤ飯をいただきたかったが、山城に提督への着任の申告が先だと言われ、今現在、各旗艦達は戦果の報告をする為先に司令室に入り、俺は呼び出しが掛かるまで廊下で待機させられていた。

いよいよ鎮守府の艦娘として、この世界での人生を始めるわけなんだけども、艦これの世界に来て僅か数日、自分が元いた世界へのホームシックの様な思いは未だに消えない。

俺という人間が生まれて育った世界だ。如何にアホみたいな世論の荒れ方をして、社会人として振り回されまくった世界だったとしても、俺本来の居場所はそこにあった。あらゆる物を置いてきてしまった。今俺にある物といえば、俺が俺であると認識できる記憶と長波の身体だけだ。

転生して美少女に、それも、ピンポイントで艦娘になれて嬉しい気持ちはある。こういう事に一度は憧れを持つものだと俺は思う。叶って欲しいような欲しくないような、そんな些細な願いだった訳ですが・・・。

こうなってしまった以上、長波として生きていくしかない。俺という魂を収める器を、海の底に眠る艦艇としての長波が、俺に身体をくれたのだと思えば粗末に出来ないよな。それに、女の子になったのだから、キチンと女を磨いてやらなきゃな。すごく可愛いのだから、男のようにガサツでだらしなくしてると、長波に悪い。

 

・・・ただ、艦娘になったからと言って、提督LOVEとかはごめんだけどな。どうせなら、キマシタワーでもおっ建ててやりたいもんだ。

 

そんな事を考え込んでいると、司令室のドアを少し開けて、部屋から那珂ちゃんが顔を出してこちらに手招きをする。

お、そろそろ挨拶の時間か。

 

「長波ちゃん!着任の申告始めるよ!心の準備はいい?」

心の準備とか別にそれ程気合い入れなくてもいいでしょ。

那珂ちゃん的には、ステージに上がる気分ってヤツなのか?よくわからん。何でもいいからさっさと終わらせて飯を食いたい。

 

「・・・あたしめちゃ腹減ってるんで、さっさとやりましょ!」

「はーい!じゃあ、中に入って!」

那珂だけにってか?やかましいわ!

 

那珂ちゃんが開けてくれたドアから足取りを強く、でも静かに室内へと入る。

室内の様子は・・・ゲームの通りだ。提督も、執務机の場所も、イメージした通りの位置にいる。ただ、思ったよりも部屋の面積が広い。刑事ドラマなんかで見る、警視総監とかその辺の役職に就いてる人の部屋と同じくらいに広い。

・・・入ってみて感じた事だが、自分が緊張しているからか知らんが、嫌に空気が張り詰めているような気がする。

部屋の中にいる全員の顔を見る。伊勢は、俺の事をどんな人物か見極めようとしている。赤城と青葉はにこやかに微笑んでいるが、その目の奥には、鋭い何かを感じる。那珂ちゃんからは、期待のいっぱいこもった眼差しだった。

提督は、机の向こう側からこちらを見ている。気になる顔だが・・・ロイ〇ンタールを少し丸くした感じ。オッドアイでは無く普通の日本人らしい茶色の瞳。その目で俺を見る目線は赤城達と同じもの。この緊張感の原因は、十中八九那珂ちゃん以外のメンツからのプレッシャーによるものだ。

歴戦の猛者と将、一同が介するこの場において何やら場違いなのは俺の方だ。だが、この空気に負けてはいられない。ここで怖気付いたら、長波に申し訳無い。

静かに深呼吸。そこから、あらかじめ言おうと決めていた自己紹介のセリフを述べる。

 

「夕雲型駆逐艦、四番艦の長波サマだ。主力オブ主力の夕雲型の端くれだ、駆逐艦に出来ることなら何でもやるさ。」

生憎、俺はゲーム内での長波のセリフを覚えてはいなかった。まして、大戦時の艦艇としての長波の記憶も無い。なので、それっぽい事を言っておく。

 

「貴艦の着任を歓迎する、駆逐艦長波。自らを主力と宣うその力、存分に発揮してもらおう」

その顔で俺の事を卿と呼ばれでもしたらやばかった。吹き出してたかもしれん。思ったよりロ〇エンタールだった。サクッと終わらせられると踏んでいたんだが、こうなっては動揺を隠せない。・・・もしこの人がオーベ〇シュタインっぽい見た目だったら確実に堪えきれなかっただろう。

 

「長波?」

俺からの返事が無いことに訝しむ提督。応えないとまずい。

「あ、ああ任せな!」

声が上ずった。恥ずかしい。

「どうした、声が震えているぞ。大見栄を張ったことを後悔しているのか?」

やばい。提督が口を開く度に笑いそうになる。

「そ、そんな事はないって。ただ、ロ・・・提督が感じの良さそうな人で安心してんのさ」

「そうか。気に入って貰えて何よりだ」

ふー危ない危ない。怖いわーこの提督。うっかりロイエ〇タールなんて言いそうになる。この提督の性で間違えそうになるが俺達の戦場は銀河じゃない、海だ。だから間違えるな・・・落ち着け。

 

一呼吸を置いてクールダウンを決めていると、那珂ちゃんが俺の肩に手を置いてきた。え?なに?俺何か粗相でもした?

おそるおそる後ろを振り向けば、那珂ちゃんのそれはそれは可愛い笑顔がありました。

ただ、今はその笑顔の意味を理解すべく脳はフル回転させなきゃいけない。俺にとってこの那珂ちゃんは那珂ちゃんさんだから、どうしてもまずビビってしまう。

なに?なんなのその笑顔・・・コワイ。

 

「長波ちゃん!」

「ハ、ハイ」

すごく元気な声で名前を呼ばれる。やばい。誰か助けて。脳がオーバーフローしてる。

「今の挨拶すっごくいいよ!那珂ちゃん感激しちゃった☆」

「え、ああ、ありがとうございま・・・え?」

「これから一緒に頑張ろうね!よろしく!!」

那珂ちゃんと俺とで、細い指を揃えてきゅっと握手を交わす。

なんだ、歓迎してくれているのか。ぶっちゃけ怒られるかと思っていた。良かった。

あらぬ罪悪感に怯えてしまったが、那珂ちゃんの嬉しそうな表情にホッと胸を撫で下ろす。

 

「はいはーい!お二人共こっち向いてくださーい!」

呼ばれた方を向けばいきなりフラッシュを焚かれる。まぶしっ!

「あー、長波さん目を瞑っちゃいましたねぇ。もう一回撮りますから、今度はしっかり目を開けてカメラに目線合わせてくださーい!」

撮りますよー!と、イキイキと撮影をする青葉。隣の那珂ちゃんといえば、空いてる片方の手でしっかりと可愛いらしくピースをしている。流石自称アイドル。抜かりないな。

 

ひとしきり撮影をした後、伊勢と赤城からも歓迎の言葉をいただいた。

やはりと言うか、二人の接する態度は艦娘に対して向けられるものであり、自分が提督だった場合を想定しているこっちは、曙の時のようにちょっと違和感を感じた。伊勢も、俺に優しく接してくれるのがおかしいっていうのは、伊勢に失礼だと思っているけども。

 

その後は、着任の挨拶と提督との顔合わせも終わったので、一人食堂へと向かった。

ちなみに、那珂ちゃん達は残って次の作戦の準備にかかるらしいので、先に俺だけ解放された。

緊張が解けて、きゅるるっとお腹が鳴る。パラオの時もそうだが、別に腹ペコキャラでもないのになんか誤解を受けそうだな・・・。

気持ちに余裕が出てくると、さっきの横須賀の提督の事を思い出す。

もしあいつが帝国側の如何にもなセリフで喋ったなら・・・、

 

「卿が駆逐艦長波か。自らを主力と驕るのならば、卿のその力戦場にて存分に使わせてもらおうーーー」

 

「ブフッ!!」

無理だ、堪えきれん。

まるで違和感無し。ついでに破壊力抜群。卿と言うだけで十分笑える。

誰かにこの面白さを分かってもらいたい。今度秋雲とか銀河英〇伝説知ってそうな艦娘に聞いてみるか・・・あ?そもそもこの世界に銀〇英雄伝説あんのか・・・?まずはそこからか・・・。

 

??「・・・・・・」

 

突然、誰かの視線を感じる。

なんつーか、この身体になってからなんとなく気配を感じ取れるようになった。と、言っても、大体前か後ろかどっちから気配がするのか程度だけど。

 

??「・・・・・・」

今は外にいて、気配は後ろから感じている。暗がりだが、木の陰しか隠れる場所は無い。うーん、どうすっかな、一か八かで当ててみるか。

 

「・・・」

??「・・・」

わざわざ隠れるってんだから引っ込み思案なのは間違いない・・・ならば。

「・・・高波・・・か?」

「えっ!?」

見事当てられた高波本人が木陰から顔を出す。

おおう、当たったよ。こっちもちょっとびっくり。

 

「なんで私って分かったんですか・・・?」

「そりゃ・・・」

そりゃまぁ、どう考えても高波以外は長波にこんな事しないでしょ。

なんて言えないので、

「妹のする事だ、姉ちゃんならわかって当たり前だろ?」

高波の頭を撫でながら言う。くすぐったそうに、だけどすごく嬉しそうな顔をしている。まじ可愛い。

 

「長波姉さまにまた会えて嬉しいかも、です」

「今日からは同じ所に住むんだ。今度一緒に海に出よーぜ」

「はい!」

この後滅茶苦茶頭を撫でた。いつ止めればいいのかわからなかったが、腹の虫が鳴ってくれたおかげで終わらせることが出来た。

 

高波と別れた後食堂へ向かう。いい加減腹減った。もぅマヂ無理、ドカ食いしよ。




次回に続きます。
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