艦娘転生記〜元男は今日も抜錨する〜   作:ワタリー

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今回は、普段書かない前書きに注意を書かなければならない程に、膨大な量になっています。
どうか、お時間に余裕のある時に読んでください。


第六話

着任の挨拶を終えた俺は食堂に来た。

少し時間を置いた性か、食堂に着いた時には殆ど人は捌けていた。

それなら、どっか空いてる席にてきとーに座ってモソモソ食べるか。

 

カウンターの方に行くと間宮の姿があった。食べ終わった食器を妖精さん達と一緒に洗っている。あれ?もう飯の時間は終わっちゃったのか?まだだよな?聞いてみればいいか。

 

「あの〜、すんません」

俺の声に反応して間宮がこっちを向く。うわ、綺麗な人だな。

「はい、お夕飯ですか?」

優しい笑顔にハートを射抜かれそうになる。二次元最こ・・・じゃない、今は3Dだ。

「あの・・・注文は・・・?」

ハッ!思わず見蕩れていた!いやでも小首をかしげる間宮もかわい・・・じゃなくて。飯を食いに来たんだよ俺は。

怪しまれてるみたいだし、ここは長波っぽく答えなきゃ。

 

「間宮さん!ご飯くれよ!お腹空いた!」

「はい♪ちょっと待っててくださいねー♪」

誰もが憧れる間宮ご飯。待ち遠しい。早くこい。

 

「はい、お待たせしました♪どうぞ!」

持ってきたのは生姜焼き定食。よっしゃ!こーいうガッツリ系が食べたかったんだ!

「うおー!まじで!?間宮さん、いただきます!」

俺は目を輝かせて飯を受け取る。そんな俺の様子を見て嬉しそうにする間宮。

間宮「ふふ♪どうぞ、ゆっくり食べてね?」

「はい!」

意気揚々と席に付く。パラオでの飯は魚だったから肉料理なのは嬉しい。

目の前の料理が待ちきれない。コップに汲んだ水を軽く一口。では、早速いただこう。両手を合わせて、

「いただきます!」

真っ先に肉に齧り付く。

・・・うん!うまい!

至福だ。至福の時だ。頬だけでなく顔の筋肉がゆるゆると綻んでいく。

あらゆる意味で生きてて良かった。・・・あ、待てよ。この世界にいるから一回死んだのか?

・・・まぁ、そんな事はどうでもいい。今は飯がうまい。箸を止める間さえも無い程にうまい。

そんな調子で一人間宮飯に舌鼓を打っていると、後から来た艦娘に声を掛けられる。

 

??「あの・・・相席してもいいですか?」

なんとまあ、ガラガラの食堂で相席とは物好きだな。一体誰なのか確かめるために振り向いてみると、そこにいたのは初霜。しかも改二。

ラフなファッションの割に真面目でちんちくりんで大海原の様なスタイルのギャップが可愛い。いやー、これは天使ですわ。

 

「?」

ハッ!いかん、また見蕩れていた。黙っていては初霜が困るじゃないか。

「わるいわるい。突然でびっくりしちゃって・・・」

「あ・・・それは、ごめんなさい」

「あー、別にいーってば。気にする程でもないし。それより座ってさ、一緒に食べよ?」

「 ありがとうございます!」

可愛いなぁ。ああ、なんで提督に転生できなかったんだろうか俺。提督として初霜をモフりたい・・・。

 

そんな俺の疚しい考えに初霜は気付くことなく、小さく「いただきます」と言って食べ始めた。

まずは一口目。生姜焼きを口に入れた後頬を緩ませる。

「やっぱり横須賀のご飯は美味しいです♪」

確かにここのご飯は美味い。

・・・ん?横須賀の?あれ?

 

「あのさ、初霜」

「はい?」

「今の口振り、あんた横須賀の所属じゃないのか?」

「はい、私は横須賀の艦ではありません。所属はパラオです」

・・・あーなるほどなるほど。初霜はパラオの艦娘なんだな。

「へー、じゃあ今出張か何かで来てんの?」

「ええ、私は提督の付き添いでここにいます」

ふーん、どうりで。俺がパラオに来た時提督いなかったもんな

「え?パラオに来たことがあるんですか?」

「うん、あるよ。ほら、この間ソロモンで一戦あったろ?」

「ええ、ありました」

「あたしはそん時、横須賀の艦隊に保護された身でさ、んで、ここに来る途中で一泊お世話になったんだよ」

「そうだったんですね。パラオはどうでした?いい所でしょう?」

そう聞かれて、この世界で初めて食べた飯が和食でメインが魚だった事を思い出す。でも、それ以外はどうかと言うと・・・

「南の島らしい所だったな。周りに深海棲艦がいなけりゃあそこでバカンスでもしたいよ」

パラオの事を褒めると、初霜の笑顔の花が咲く。

「そうですよね!パラオに来た皆さんはバカンスしたいって言ってくれるんです!」

初霜の背後から無いはずの後光が差す。くっ、笑顔が・・・笑顔が眩しいよ初霜!

「まーまー落ち着けって。食事中だよ」

興奮している初霜を宥める。人が少ない食堂では十分他の目を引いてしまう程に声が大きくなっていた。

「ご、ごめんなさい。つい・・・」

「如何にパラオが好きかって事はよーく分かったから・・・な?」

「はい・・・」

しゅんとしてしまう初霜。表情がコロコロ変わって楽しいな。

 

「・・・あ、そういえば自己紹介まだでしたね」

「ん?ああそだね。じゃあ、こっちから。あたしは夕雲型の四番艦長波だよ」

「私は初春型で同じく四番艦の初霜です。よろしくお願いします」

互いに自己紹介をし合う。さっき俺が、ナチュラルに名前を言っていたことには気付いていない。運良くスルーされたようだ。また、秋雲の時のような事になったらどうしようかと内心ヒヤヒヤしていた。

 

その後の会話は、俺が経験した戦闘の話題で盛り上がった。

初霜曰く、やはり那珂ちゃんのスパルタ教育は異常な事だったようだ。普通は、航行から射撃など個人レベルの基本をしっかりと抑えてから近海で雑魚を相手に慣れていくのが当たり前。しかし、横須賀の提督の方針が、「習うより慣れよ、慣れていく中で考えさせよ」というもので、恐ろしい程に実践主義らしい。

特に深海棲艦を倒してドロップした艦、その艦の魂は人型になってからの戦い方が刻み込まれているだろうという想定で、鎮守府に戻るまでの間、俺の時と同じように実戦の中で勘を取り戻してもらう。そうすると、まともな戦力になるまでの期間を大幅に短縮し、実戦経験を元に鎮守府での教導訓練にも身が入る・・・との事。

現場を知らぬ者に現場の苦労と、実際に必要な事や物は想定出来ないのは事実。俺だって争いとはほぼ無縁の世界にいた。もし建造で転生してきたら、俺自身を他人事のように捉え、この鎮守府では戦力にならない可能性もあった。

そう考えればあらゆる苦労も慣れるまでの辛抱って事だな。

 

「でも、その甲斐あって横須賀の練度は極めて高いんです」

だろうな。水雷戦隊の戦い振りを見てればなんとなくわかる。

「それに、結構無茶をしているようで、沈んだ艦娘は一人もいないんです」

「うぇっ、まじ・・・!?」

こくりっと頷く初霜。

轟沈0。

その数字は、あの提督の実践主義が背景にあるからか。

「横須賀の皆さんは、戦いをリードする戦法を得意としています」

「ある時は数で押したり、ある時は小分けして波状攻撃を仕掛けたり、ある時は敵陣を一直線に突っ切って行ったり・・・すごく大胆な人ですね」

その通りだ。連合艦隊を組んで掃討作戦を展開する裏で偵察までするんだからな。資材消費の事はあんまり考えたくないが。

 

「万年後方支援の私達とは大違いです・・・」

「あんなやり方、真似しなくてもいいと思うけどなー」

「そう・・・ですよね」

「・・・?」

初霜の様子がおかしい。なんか落ち込んでいってる・・・。

「初霜ー、どうかした?」

「あ、いえ。なんでも、ありません」

「そうか?ならいいけど」

 

悩みがあるなら相談に乗りたいが、初対面相手にあまり深く踏み込むもんじゃないから止めておく。

テーブルの雰囲気が一気に暗くなった。いたたまれない空気に気まずくなる。

・・・丁度こっちは飯を食い終わった事だし、一旦お開きにするか。

「ごちそーさま!」

「あ、もう食べ終わりですか」

「そういうこった。お先に失礼するよ」

「はい」

トレーを持って席を立つ。

このまま立ち去ってもいいが、後味が悪い。

 

「初霜」

「ええと、なにか?」

「またパラオに行ったら世話になるからなー!」

「は、はい!お待ちしてますね!」

本当は言いたい事いっぱいあるけど、今言うのは無粋だよな。

さーて、ササッとシャワーでも浴びるかね。

 

と、風呂に入る事を軽く考えていたんだが・・・。

 

ーーー

 

長波になってから2回目のお風呂。今の俺は女湯にしか入れない事を忘れていた。未だに恥ずかしいったらない。そんなすぐ慣れるわけがないんだ。シチュエーションだけを考えれば秋雲の好物だろうけど、当事者としては迷惑極まりない。

まず第一に、支給された下着を見るのも手に持つのもキツイ。“長波”のだから、その、インパクトが、凄まじい。同部屋の巻雲がすごく恨めしそうに見ていたが、こっちはそれどころじゃない。むしろそっちと変わって欲しい。

第二に・・・男性浴場は使えないという事で・・・女性専用を利用するわけだが、そうなるとまず脱衣場に入らなければならなくて、そこで既にハードルが高い。万一クリアしたとしても、シャワーだけで済まそうにもちゃんとシャワーに仕切りのあったパラオと違い、より多くの艦娘が使う前提の横須賀では仕切りが無い。これは横須賀に向かう途中に聞いた話だ。

それでだ、入渠施設を利用する艦娘の数はこの間とは比にならない。つまり、入っている間に色んな艦娘が出入りする。この状況、例えるならば桃源郷ってやつだ。実るモノに大小関係なく、初心な俺にはあらゆる意味で桃源郷なのだ。これでは入る前からのぼせる、というかのぼせてる。

入口の前で一人入ろうかどうか迷っていると、他の艦娘がやって来た。

 

「およ?あれは誰かにゃ?」

「あら、もしかして、今日入って来たばっかりの新人さん?」

なんだろう、鉢合わせたらまずい類の娘と会ってしまったような気がする。そうかー、ここはにゃしぃって言う方の睦月のいる世界かー。

「新入りさん、初めまして!睦月型駆逐艦一番艦の睦月です!」

「二番艦の如月よ。よろしくね。ふふっ」

「あたしは夕雲型四番艦の長波だ。こちらこそ、よろしくなー」

互いに自己紹介を交わす、ここまではいい。問題はこれからだ。

 

「長波さんも今からお風呂?なら、一緒にどう?」

俺がっ!提督だったらっ!喜んでっ!と、心の中で男泣きをする。

「あとから妹達も来るから、皆で楽しくお風呂に入るのです!」

 

妹達、つまり、睦月型の皆と、お風呂・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

「長波ちゃーん?どうしたかにゃー?」

「あの・・・長波さん?」

「・・・ろう」

「「??」」

「一緒に入ろう」

「ほんと!?皆で洗いっこするにゃしぃ!」

「そうこなくっちゃ、ね?」

「ああ、行こう!」

 

男は度胸、女になっても度胸だ。ここから先は戦場で洗場であり睦月型の皆とキャッキャしながら洗浄し合うんだ。俺は文月ちゃんと洗いっこするんだ。

脱衣場のドアを思い切り開ける。あまりの勢いに中にいた艦娘達からの視線が一気に集まるがそんなのは気にしない。

籠に入っているもしくは、身に付けられている色とりどりの布が視界の端に映っても気にしない。

服を脱ぐのは手早く正確に脱いで畳み、洗面用具と風呂桶片手に浴場のドアの前に立つ。

 

いざ、桃源郷へーーー

 

ーーー駆逐艦長波、抜錨する!!

 

・・・・・・・・・。

 

なぜ・・・なんで・・・。

こういう時に限って・・・。

 

せんかんのおねーさま方がいらっしゃるんですかね・・・。桃どころかパイナッポゥもしくはスイカじゃありませんかね。こんなの俺には直視できませんよ。かく言う俺も負けてはいないが。

そんな事を考えていると、入浴準備の出来た二人がドアの前で固まっている長波に声を掛けて来た。

「長波ちゃん?どうして止まってるの?」

「あら、まさか、お風呂に人がいっぱいで使えない・・・わけじゃないのね」

二人の視線が俺を差す。なぜ止まっているんだろうと言いたげなのは、振り向かなくてもわかる。悶々と悩み続け中々一歩を踏み出せない俺の背中を、睦月が力尽くで押し出す。

 

「長波ちゃん!早くしないと、皆でお風呂入る準備が出来ないのですっ!」

「戦艦の人達がいて緊張してるの?大丈夫、早く入りましょ」

あわわ・・・目の前が・・・たわわに実ったホニャララががが。

「そそそういう問題じゃ」

「そういう問題なのです!」

睦月のパワーに必死の抵抗をする。

その間に如月が、腕を組み顎に手を当て考え事をしている。

「・・・・・・あぁ、なるほどねぇ。多分そういう問題よねぇ?」

「「はい??」」

如月が何か理由を思いついたらしい。

二人して素っ頓狂な声を上げる。いい加減な事を言っていた自覚はあるが、如月の言う何がそういう問題なんだろうか。

 

「長波さん、結構自信もっているんじゃないかしら?そ、れ♪」

そう言って俺の方を指差す。ん?その指は胸の辺り指してっっっ!!?

「な、なるほど・・・それは・・・ドンマイ?」

睦月は俺と戦艦の皆様とを見比べて何か納得したようだ。

「え?え?なに?何の話!?」

俺の胸の話をしているようだが、何を言おうとしているのか全くわからない。

「あら?違うの?んー・・・てっきり、戦艦には敵わないと思って、落ち込んでいたのかと思ったんだけど・・・」

 

・・・。

今理解した。大きさの話か。

「全、然!ちげェ!何の話だそれ!」

それは真っ先に否定する。断じて違う。

俺が言い返すと、如月が不敵な笑みを浮かべる。

あ、これ、墓穴掘った。

「それじゃあ・・・」

如月が顔を寄せてくる。

 

「何を・・・」

ヤメテ・・・!

 

「意識して・・・」

コナイデ・・・!

 

「いるのかしら?・・・ふふっ♪」

あわわわわわ・・・。可愛い顔が近いよぉ・・・。

 

追い込まれて困り果てている俺を見て、睦月が一言言って如月を諌めた。

「如月ちゃん!長波ちゃんをあんまりいじめないで!」

「はーい、ウフフ♪」

一頻り楽しませて貰いました♪と言わんばかりに満足気な如月。

「お互い初対面ですもの、これ以上は聞きませんわ。安心してね?」

何か俺にそういう趣味があるみたいな言い方だな。

趣味っつーか、ある意味KENZENなんですけど!

「如月、何かあたしを誤解してないか・・・?」

「あら、何の話?」

くそぅ・・・マセてんなこいつ・・・。

 

何も解決しないままそんなやり取りをしていたら、残る睦月型の皆がやって来た。

「あ!長波ちゃん如月ちゃん!皆来ちゃったよ!もう!」

慌てて椅子を人数分並べ始める睦月・・・良かったタオル巻いてくれてる。

「如月ちゃんは皆の着替えを手伝って!長波ちゃんはこっち!」

さすがネームシップ、テキパキと仕切るんだなぁ。いや、この場合は普通に長女だからか?それが一番しっくりくるな。

 

この後は、皆で列になって背中と髪を洗いっこした。生憎文月ちゃんは睦月の所に行ってしまったが、菊月と長月の相手を出来たので良しとする。

途中、駆逐艦ならざるモノを持っていた俺の胸部装甲を、卯月と興味深々だった弥生におもちゃにされたが、それはご愛嬌。

駆逐艦同士仲睦まじく洗う姿に、姉妹で入浴しに来ていた戦艦が、洗いっこをしようとする雰囲気があったが、大多数が恥ずかしがってしまいお流れとなった。

ちょっと見たかったなー、なんて。

 

振り返って見て、睦月型の皆と一緒のお風呂は楽しかった。入浴の準備を手伝い始めた頃から、周りの事は気にならなくなったし、艦娘として一皮剥けたように思える。・・・疚しくなんかないぞ。決して。

 

お風呂での楽しいひとときが終わり、睦月型の皆と一緒に寮に戻り、自分達の部屋へと別れた。俺は自分の割り当てられている夕雲型の部屋に戻る。俺が帰ってきたら何人かはもう寝ていた。

一応この鎮守府の夕雲型は、ゲームで出ている全員がいる。寝ているのは夕雲型の末っ子達で、残る皆は思い思いに消灯までの時間を過ごしていた。

 

「ただいまー。いい湯だったぜー」

ただいま、と言えば、

「おかえり」

って返ってくる。

「長波姉さま、おかえりなさい」

寝惚け眼を擦りながら迎え入れてくれる高波。

「なんだ?わざわざ起きて待ってたのか?」

「は、はい、かも、です」

やたら懐いてくる可愛い妹を撫でる。

さっきと同じように目を瞑って気持ち良さそうする高波。

そんな可愛い反応されるとほんと、撫でがいのある娘だ。

 

「あたしはもうちょい起きてるから、高波は先に寝な」

「え、あ、はい・・・」

消え入りそうな声で返事をする高波。んん?なにか間違ったかな?

何かをねだるような視線を送る高波。自分のベッドに入る素振りを見せないどころか、俺のパジャマの腕を掴んで離そうとしない、

えーと・・・?

なんだろう・・・何を求めて・・・・・・。

・・・ああ、なるほどね。

 

「高波、あたしと一緒に寝たいのか?」

「・・・はい!かも、です!」

まじか・・・参ったな。どうしようか・・・。うーん・・・一緒に、かぁ・・・。

 

「・・・長波さん、今日は高波と一緒にいてあげて欲しいの」

「え?」

「高波はね、長波さんが来るのをずっと心待ちにしていたの。部屋を見ればわかるでしょう?夕雲型では長波さん、貴女が最後なのよ」

そうか、高波は“長波”の事が大好きだもんな。そりゃあ、寂しかったよな。

 

「わかったよ、夕雲姉。高波、先にあたしのベッドに入ってな。歯磨いてくるからさ」

「・・・はい!待ってます!」

そう言うと高波は嬉しそうに俺のベッドに入っていった・・・と、思ったら自分の枕を忘れていたようだ。慌てんぼうなのも可愛いな。

 

「・・・ありがとうね」

「何がだ?」

「私じゃ、高波の事は難しくって・・・あの子、長波さんじゃなきゃダメみたいなの」

「そうだったんだ。苦労かけたな、夕雲姉」

「ええ、苦労したわ。でも、もう大丈夫ね」

姉としての肩の荷を下ろせたようだ。助ける事が出来て何より、だな。

さて・・・歯を磨くま、え、に、

「なにムスッとしてんのさ、巻雲姉・・・」

ぷっぷくぷーと、卯月のように頬を膨らませる巻雲。

「私も、長波と一緒に寝たいんです!」

 

・・・は?

「は?」

「長波さん、気持ちはわかりますが落ち着いて」

思わぬ出来事にうっかり心の声が漏れた。

「長波の胸の中で寝たいんです!フッカフカなんですよ!すごく良く眠れるんですよ!」

「「・・・」」

ああ、夕雲姉おいたわしや・・・長女は苦労が耐えんなぁ・・・。

 

「巻雲さん?」

「なんですか夕雲姉さん!」

おおう・・・引かねぇのか巻雲姉ぇ・・・。

「私達の可愛い妹が、久々に会えた大好きな姉と一緒に寝たいって、言ってるんですよ?それを邪魔をするのは姉のする事かしら?」

「・・・確かに、姉としては暖かく見守るのが筋ですけど、今回は二人と一緒に寝るだけの話です!」

「それだとベッドの底ぶち破って朝霜の上に落ちるぞ・・・」

説明すると複数ある三段ベッドの内の一つ、そこで俺のベッドは二段目にあって、上が清霜下は朝霜になっている。

作りはそれなりのベッドで一段に二人位なら女の子だし危険は無いが、三人ともなるとベッドの足が大きく揺れたり、骨組みが軋んだりする。そんなベッドで長時間負荷をかければ・・・という事だ。

 

「そう・・・あくまでも長波さんと一緒に寝たいと言うんですね?」

「その通りです!」

「巻雲さんの気持ちはわかりました。てすが、姉として見過ごすわけにはいきません」

夕雲の目付きが戦場で見せていた鋭いものになる。

「え・・・と、夕雲・・・姉・・・さん?」

さすがにヤバイ空気を感じ取った巻雲が、焦り始める。

「・・・今から川内さんと江風さん、那珂ちゃんを連れてきます」

「あ、ああ・・・それは・・・ご、ごごごめんなさいぃ!!!」

その組み合わせ、完徹コースか!拷問だな・・・。

「前言撤回します!巻雲は、一人でも眠れます!!」

「よろしい。最初からそうしていただければ尚良かったのだけど、ね?」

さすが夕雲、さすが長女。上下関係がしっかりしてらっしゃる。コワイ。

これは俺も下手に逆らえんな・・・。

 

「長波さん」

「は、はい!」

「そんなに怯えなくてもいいじゃない・・・」

「ご、ごめんよ夕雲姉」

いやいやそれは無理な話ですって。

「はぁ・・・まぁ、それは置いといて。高波が待っているわ、早く歯を磨いてらっしゃい」

「おっと、そうだった。待ってろ高波、すぐ戻る」

 

俺はすぐに洗面所に行って歯を磨いて戻った。部屋に戻ると、高波は静かに寝息を立てていた。よっぽど眠いのを我慢していたんだな。

高波を起こさないように静かにベッドに入り、頭を胸元に来るようにして高波を優しく抱き締めた。そしたら、甘えてくるかのように高波もこちらを抱き締めてきた。

今日はもう、寝返りをうてそうにないな、こりゃ。

 

「おやすみ、高波」

そう言って、俺は目を閉じた。

 

その様子を見ていた夕雲は、そっと部屋の電気を消して、駆逐艦寮の当直勤務の艦娘の所へ行き夕雲型の皆の報告をし、部屋に戻ってすぐ床に就いた。

一方で、巻雲は不貞腐れていたらしいが。自業自得だ。

 

今日は俺が着任した日。これからを共にする仲間と、姉妹と出会った日。明日より俺は、横須賀の艦娘として一線級の実力を身につけるための訓練を受けることになる。

どうなるかはわからないが、この世界での俺にとって艦娘は家族みたいなものだ。大切な居場所を守るために、強くなろう。




次回に続きます。
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