皐月との模擬戦開始前、強者とまともに対峙する事で昂る気持ちに俺は戸惑っていた。既に幾つかの死線を越えてきた身ではあるが、何れも練度の知れた駆逐艦だけを相手にしてきた。その中で考えれば、というか、考えなくとも皐月の強さは群を抜いている。改二にまで到達する程の練度と艤装を背負うその立ち振舞いに、飄々とした余裕が見受けられるのがその理由だ。
そんな相手に、提督から無理に応えなくともよい無茶振りをされているのも相まって、どうも浮き足立ってしまっている。いや、実際浮いてるけどね?
「・・・妖精さん、装備の稼働状態チェック頼むわ」
自分の余裕の無さからやる必要の無い事をしてしまう。最終確認と言えば聞こえはいいが、ただ万全を期する事で気持ちに余裕を持ちたいだけだ。この世界に顕現してから僅か数日の艤装、欠かす事なく手入れしているのに、とてもじゃないが不備があるとは思えない。
点検が終わった後、妖精さんからは『異常なし』との報告を受けた。そりゃそうだよな。これはもう始まるのを待つしかない。
模擬戦の開始は、波止場の物見台にいる如月が空砲を撃つので、それを合図に始める事になっている。先程からずっと待ち続けて全く始まる気配がしないが、如月は今何をしているかというと、無線機を片手に持ち双眼鏡で俺と皐月それぞれの様子を見ているようだ。
あんまり焦らされるものだからいい加減一言言おうと思ったその時、如月から無線が入ってきた。
『二人とも準備はいい?』
『ボクはいつでもいいよ!』
「こっちもいいぞー」
如月は互いの了承を得ると、自分の連装砲を手に取る。
「長波さん、頑張ってね」
当の本人には届かない応援をする。相手が皐月だから・・・なんてちょっと甘いかな、と如月は思う。
如月は海に向けて連装砲を構える。砲身を最大仰角まで上げると、空砲が込められた連装砲の引き金を引いた。
ーーードォン・・・!
「今のは・・・」
模擬戦開始の合図だ。音に気付いた俺は機関の出力を上げる。
「よっしゃ!いくぜー!」
俺は一直線に皐月の方へ向かっていく。事前に考えていた作戦を実行する。射程限界まで一気に距離を詰め、わかりやすい動きを見せる事でで皐月の攻め手を絞り込ませる。真っ直ぐ向かってくる相手に対し、俺なら相手のコースを予測しまずは一発、牽制か直撃を狙う。狙いが一点に特定されれば、砲撃の音が聞こえた瞬間に軌道を逸らせばまぁ、まず初撃の回避は出来るはず。
皐月が金色のツインテールを靡かせながらこちらへ向かって来る。それに対し皐月は真っ直ぐ向かって来る俺を見て軌道を横へ逸らし旋回する。
「あれ?」
長波の行動に呆気取られる皐月。長波くらいの練度ならこちらを追いかけながら接近して、当たりそうに無い砲撃を何発か撃ってくるかな?と踏んでいた皐月。近付いてきた所に牽制を撃ち込んで、長波がビビっている隙に急接近して仕留めようかと考えていたが、長波はこちらを追いかけようと回頭せずに真っ直ぐ進んで来る。
「ん〜?長波なにやってんだろ?」
不可解な行動に疑問を抱く皐月。すれ違いざまに撃ってくるのかと思えば、持っている連装砲を構える素振りすらない。このままだと目の前を通り過ぎてしまう。
「何か企んでるのかな・・・?」
単装砲を構え、長波の進むコースに合わせて照準を合わせる。
「ボクを手玉に取る気?可愛いね!」
予め決めたポイントに長波が来た瞬間、単装砲から一発。続けてもう一発。皐月が放った砲撃は偏差射撃。一発目を避けた後のもう一発が本命だ。
二発撃った後皐月は、長波の背後を取るべく追従を始める。
皐月が撃った発砲音が聞こえた。
「来た!」
直進コースを外れて回避を試みる。避けたすぐ横で水飛沫が上がった。予想通り皐月の狙いは正確で、真っ直ぐ進んでいたら直撃していた。これで初撃は回避出来た。しかし、俺は一発目に意識を向け過ぎて、その後に飛んできた二発目には気付かなかった。
「うぉぁっっっ!!」
直撃弾を貰い海の上に倒れ込む。服が破け、砲撃の熱やら爆発の衝撃やらで物凄く痛いが、意識は飛んでいないのですぐに体勢を立て直す。
「くそっ!いってぇ・・・!」
一箇所に留まると集中して狙われるのですぐにその場を離れる。
まさか偏差攻撃をしてくるとは思ってもいなかった。最初の攻撃はお試しで一発だけと勝手に思い込んでいた。おかげで魚雷発射管が一基使い物にならなくなった。
長波は砲撃の飛んできた方向を見る。先程皐月がいた場所に彼女の姿が無い。今の直撃で体勢を立て直す間に移動したようだ。
「こっちだよ!」
後ろから皐月の声がして、それと同時に発砲音も聞こえてきた。
発砲音は二回。同じ手か、それは食らわないぞ。
俺は回避を兼ねたUターンをして皐月と正面から向き合う。連装砲から砲撃を一発。移動しながらだと照準が甘く狙いを大きく外す。こちらの砲撃が当たらないにせよ、一応虚をついたつもりだったが皐月は冷静にこちらの動きを捉えている。
「いい動きだよ。でも甘いね!」
皐月は両足の三連装酸素魚雷を一斉に放つ。やや放射気味に広がる魚雷で長波の正面を塞ぎにかかる。
「ああくっそ!先にやられた!」
俺も同じ手を使おうとしていた。魚雷を回避する為に横へ大きく動いた所を撃って当てるか、もしくは距離を取らせる事ができればと思っていた。たった一基とはいえ、四連装なら十分回避行動を取らせる事は出来たのだが、先手を打たれてしまった。
向こうは酸素魚雷を使っているので雷跡を視認しづらい。なんとか魚雷の間をすり抜けれればと考えたが雷撃を貰えば大破は確実。こうなればもう横へ逸れて避けるしか無い。
俺の行動を見て皐月の単装砲が唸る。こちらの動きを読んだ砲撃が数発飛んでくる。皐月の事だ、こちらに向かってくる砲弾はバカ正直に横に動いたら当たる。そう直感した俺は、敢えて最短距離の回避をせずに皐月と距離を離すように動く。距離を離したところで、直進した時のコースに水飛沫が上がる。
長波の行動に驚きつつも表情をムッとさせる皐月。流石那珂ちゃんに鍛えられてるだけの事はある。最初の被弾で動揺させたが、すぐ気持ちを切り替えてこちらに向かって来たのだ。油断ならない。
「長波さん意外とやるじゃない」
長波の健闘ぶりに感嘆の声を漏らす如月。魚雷発射管を一基潰されたが、皐月の攻撃を大破せず三度凌いでいる所は素直に褒めてもいい。
「司令官の要望通りの二分は無理かもしれないけど・・・これなら・・・」
夕雲型が全員揃っているこの鎮守府においての不安は無くなるだろうと、如月は安心して顔が綻んだ。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
追い込まれている。皐月は確実にこちらを追い込みに来ている。皐月の戦い方は巧妙というか、俺がやろうとした事を先に仕掛けてくるから非常にやりづらい。だからといって何もできないわけではなく、逆に相手のやる事が分かっているなら、こちらも次の行動でどうするかを予測しやすくもある。実際何回か攻勢に出ようと攻めてみた。相手が相手だからそう上手くはいかないだろうとは思ってはいたが、それは全く予想していた通りで、簡単に流れを持ってこさせてくれない辺り練度の差がある。こちらのあらゆる手を潰されて、皐月が戦いの流れをリードするのが強みのこの鎮守府で、練度を積み重ねてきたというのが嫌という程分かる。
皐月は、始めの内はただダメージを与える事に集中していたが、常に全力疾走を続けていた俺の動きが鈍くなると、途端に背中の機関部を狙うようになってきた。的が大きい分こちらも回避に専念せざるを得なくなる。わかり易く言えば、皐月は攻撃こそ最大の防御を地で行っているのだ。
極限に近い状況が長く続いて思考が鈍る。集中が切れかかっていた所に、皐月の放った砲弾が長波本体を捉える。
「くぁっっっ・・・!!」
口径の小さい駆逐艦の砲撃だが、踏ん張り切れずに吹き飛ばされる。すぐに体を起こそうとしたが、目前まで迫っていた皐月が俺に単装砲を向けているのを見て硬直した。
「もう限界だね。ボクを相手に結構頑張ったと思うよ?」
今の俺の損壊状況は中破。あと一発撃たれれば大破判定で負けになる。
「ホントだよ・・・悉くこっちの手を潰しやがって・・・」
「ふふっ、まぁボクも負けてらんないからねー」
そう言うと、皐月は単装砲の引き金に掛かっている指に力を込める。
「悪いけど、一応ルールだからさ」
「あいよ。煮るなり焼くなりお好きにどーぞ」
単装砲から砲撃が放たれる。およそ外す事の無い砲弾は俺に直撃した。
・・・これで大破になった。
「痛ってて・・・至近弾もめっちゃ痛いのな、生きてんのが不思議だ・・・」
「さ、これでボクの勝ちだ・・・ね・・・って!」
皐月の目が驚きで見開かれる。
「ん?どうした皐月・・・?」
「わわわ!長波!前!前隠して!!」
なんのこっちゃと思い自分の体を見下ろして見ると、なんと、胸部を覆っていた服が全て無くなっていた。
「!!?」
慌てて両手で前を隠す。うわぁ、抑えても抑えてもこぼれるよぉ。
「ご、ごめん!そんなつもりは無かったんだよぉ・・・」
「ん?ああ、こんなん事故だよ事故。別に気にしちゃいねーって」
涙目になって誤ってくる皐月は、無傷の改二パーカーを脱いで被せてくれた。なんか、切羽詰まった女の子に謝られちゃ何かこっちが悪い気がする。
「ダメだよ!女の子だろ!気にしなよ!!」
怒られた。まぁ、確かに女子としては反応が鈍かったかも。
「わーった!わーった!怒んなって!」
「いくら自分が人の体に慣れきって無くてもさ、周りの目はそうもいかないんだ!気を付けてよね!!」
余りの勢いに気圧される。トランジスタグラマーな長波サマだからこそ気を使えって事だよね。自分が見ても大丈夫だからそこまでは考えていなかった。
「肝に銘じておきます・・・」
「もぉー危なっかしくてハラハラしちゃうよ」
女の子特有の問題にまだまだ振り回されそうだ。
ーーー
事は一段落して模擬戦は終了。結果は俺の負け、当然だよね。
模擬戦を終えた後三人は鎮守府へ帰投した。
「あー・・・疲れた。ボロボロだし入渠してくるわー」
帰ってすぐに艤装を工廠に預け風呂へ向かう。早く髪やら肌に付いた砲弾の煤や埃を洗い流したい。
「あ、長波待ってボクも行くよ。如月、あとお願いしてもいい?」
「ええ。補給の手配と司令官への報告はやっておくわ。ゆっくり休んでね」
「ありがと!長波、早くお風呂行こ!」
皐月が俺の背中を押して催促する。
「おい押すなって、転ぶだろ!」
「早くお風呂済ませてお昼にしたいんだよ!ボクもうお腹ペコペコなんだからさ!」
あれよあれよと浴場まで運ばれてしまう。そんな慌てなくてもいいのにな。
浴場の入口に差し掛かった時、俺がドアを開けようと手を伸ばしたらドアが勝手に開いた。危うく手を巻き込まれそうになる。
「うぉっ危ね!」
??「あっ!ごめんなさい!」
ドアを開けた人物は、入口に掛けられた長い暖簾のせいで誰か分からない。が、向こうが暖簾を除けて顔を見せた。
「大丈夫ですかぁ・・・?」
「あれ?睦月?」
出てきたのは睦月だった。
「およ?皐月ちゃん長波ちゃん?」
「おっ、睦月じゃん。仕事上がりか?」
「うん!さっき遠征から帰って来た所だよ!」
この娘相変わらず元気いっぱいだなー。元気があるのはいい事だが、疲れた頭に睦月の声はよく響く。悪い意味で。
「そっかー、お疲れさん」
「お疲れ様です!・・・で、なんで長波ちゃんは皐月ちゃんのパーカーを持ってるのですかにゃ?」
睦月の質問に皐月が一瞬ビクッと跳ねた。
「え、そ、それはね睦月・・・」
「こいつがあたしの服の胸のトコだけぶっ飛ばしたんだよ」
「にゃっ!?皐月ちゃんひどいのね!!」
「じ、事故だよ事故!!」
睦月の誤解を解くために模擬戦の事を説明する。
「そんな訳でこうなったのさ」
「び、びっくりしたのね。皐月ちゃん、あんまり長波ちゃんをいじめちゃダメだからね?」
「ボクは正々堂々やっただけなのに・・・」
たまたま出てる所が出過ぎて当たってしまっただけだな。
「あ、じゃあ長波ちゃん達今からお風呂かにゃ?」
「そうだよ!・・・ていうか睦月、入口に立ってたら邪魔になるよ」
「えっ!?ごめんなさいにゃしぃ!」
お喋りに夢中になっていつの間にか入口を塞いでいた睦月。お風呂から上がってきた艦娘が出て行けなくて困っていた所を皐月が注意した。
「睦月、風呂の後一緒に飯行こうぜ」
「うん!一緒に食べよ!皐月ちゃんはどうするのかにゃ?」
「ボクもお昼は長波と一緒だよ。後で呼びに行くから部屋で待ってて!」
「はーい!了解なのです!」
パタパタと駆けていく睦月。忙しないというか楽しい娘だなほんと。
「ほらほら、長波、ぼーっとしてないで行くよ!」
「おいだから、押すなって!」
皐月にせがまれて浴場へと入る。
浴場の中は、午前中に任務を終えて帰投した艦娘達で賑わっていた。殆どが軽巡と駆逐で、睦月同様、遠征任務の帰りに一風呂浴びに来ているようだ。
「長波、早く早く!」
皐月に呼ばれて振り向いてみれば、既にすっぽんぽんになっていた。
「脱ぐの早っ!?」
「ふふん、どうだい?早いでしょ?」
誇らしげに無い胸を張る皐月。改二になっても盛られる事の無かった悲しみが漂う。
「布が引っかかるとこ無いもんな、そりゃ早いわ、あっ・・・!」
うっかり思った事を口にした事で、俺は脱衣所内の空気が一変したのを感じた。周りから殺意とも敵意とも取れる気配が俺に集中している。
戦艦や空母がいればまだ大人しく心の内で俺を恨むだけで済むだろう。が、しかし大きい方がマイナーなこのタイミングで、胸が大きくても邪魔だと思うことがあるなんてよくある言い訳をしたらどうなる事か・・・わかったもんじゃない。
「長波、ボクに恨みでもあるのかい・・・?」
ぷるぷると体を震わせ涙目で何かを訴えかける皐月。やばい、内面男の俺にフォローが難しい話だよこれ・・・。
「別に恨みとか無いって・・・。ていうかさ、そんなに深刻な話なのか?」
「・・・え?」
やばい。周りの殺意の篭った視線がこっちがに向けられてるというかガン見してる。コワイ。この空気、この感じ、ここで負けたらナニかが終わる気がする。
「なんでそんな・・・あっ、そうか」
「???」
いい返しを閃いた。これなら回避出来ると思うんです。
「皐月、ちょい耳貸して」
「なんだよ藪から棒に・・・」
掛かったな。まだまだ年端もいかない女子なら絶対これで何とかなる。但し、皐月には多少のリスクを負ってもらう事になるがな!
「あのさ、これはあたしの予想なんだけどさ」
「・・・なに?」
皐月の様子を見ながら慎重に会話を進める。ここで焦ったら後が無くなる。
「胸の大きさを気にするってことはさ」
「うん」
「女の子としてもっと綺麗になりたいとか思ってんだろ?」
「そりゃそうだよ。普通でしょ?」
ここまでくれば戦術的勝利はいただきだ。
「じゃあさ、もしかしてだけど、綺麗になって見せたい男でもいたりする?」
「は!?なに言ってんの、そんなわけないだろー!!?」
突拍子も無い俺の言葉に激しく同様する皐月。こうなったら俺の有利を崩す事は難しい。ならば、このまま話をお流れに持っていき窮地を脱する。
「いやぁー知らなかったなぁー!!皐月に好きな男がいるなんてなぁー!!!」
「ちょっと待って!変な事言うなよーーー!!ばかーーーー!!」
わざとらしく大声で叫ぶ。女所帯の鎮守府だ、大きな声で恋愛沙汰を取り上げてやりゃ状況を混乱させるくらいは容易だ。
「こりゃもう姉ちゃん達に言わねぇとなぁ!相談とか乗ってくれるかもしれないぜ!!」
「うわーーーん!もうやめてよぉーーー!!」
俺の虚言で脱衣場は混乱状態となった。なんだなんだと騒ぎを聞きつけ浴場から出てきた艦娘を含め、皆の注目は皐月へと集まっていた。
『皐月ちゃんが・・・!?』
『もしかして、提督・・・?』
『まさかの外の人とか』
『え、ウソ!?』
・・・女子ってしゅごい。話を冷静に聞いてるととんでもない飛躍の仕方をしていってる気がするんですが、これいじめとかじゃないよね・・・?
まぁそれはいいとして、怒りの矛先を逸らす事はできたが・・・この状況をどうやって収めようか・・・。
どうしたもんかと悩んでいると、俺達の着替えを持った如月が入ってきた。
「あら?二人ともまだお風呂入ってないの?」
「如月ぃーーー!!」
「きゃっ!え、どうしたの?」
どういう訳か裸のまま飛び付いてくる皐月と今来たばかりの自分に注目が集まるのに不思議な様子の如月。
「聞いてよ如月!長波がボクに変な事言うんだよぉー!!」
「へ、変な事?なにかしら?」
・・・あっこれ、如月に恋愛話したらダメなんじゃないか?
「待て皐月。如月には言わない方が・・・」
一応止めにかかるが皐月は俺を無視して言葉を続ける。
「ボクに好きな人がいるっていうんだよぉ!!」
「・・・!!!」
好きな人というワードを聞いた瞬間、如月の中で何かのスイッチが入った。
「え、皐月ちゃん恋してるの!?相手は誰?如月に教えてくれる?よかったら相談にのるわ♪」
「え?え?如月?ボクの言ったことわかってる?」
「もちろんよ!さぁ、相手は誰か話してくれる?妹の初恋ですもの、頑張って応援しちゃうわ!!」
如月はものすごくキラキラした表情で捲したてる。そんな如月に援護を求めた皐月は、もうなにがなんだかわからなくなって言葉も出ないようだ。
「・・・そんなんじゃないってばぁ」
「もう、照れなくてもいいじゃない。あ、そうだ、髪の手入れをキチンと教えてあげましょうか♪」
抱きついていた皐月をそのまま浴場へ引きずり込む・・・かと思いきやハイソとパーカーを脱いで髪を上げてから入っていった。うむ、大変女子力が高いようでよろしい。
「長波!助けて!長波ぃー!!」
皐月は俺に助けを求める悲痛な叫びを残して連行されていった。ふぅ、これでなんとか事なきを得たな。一時はどうなる事かとヒヤヒヤしたもんだ。
「よっし、じゃああたしも入ろうか」
揺れる胸部に熱い視線を感じながら意気揚々と浴場へ入っていく。入ってすぐ如月にヘアケアのレクチャーを受けている皐月の隣に座り、一緒になって教えて貰った。
中身が男とはいえさすがに長波サマの体をぞんざいには扱えないし、女子力を上げていかない事には個人的に余計な疑いをかけてしまう。
そう、できるだけ平和に艦娘ライフを満喫したい。神様にお願いするだけじゃ叶わないであろうこの現実を無駄にはしたくない。今まさに人生のピークだろうからな。
「じゃあ次は・・・」
如月がヘアケアの次のステップに移ろうとした時、浴場のドアがスパーン!と勢いよく開かれた。そして、そこに立っていたのは部屋で待っているはずの睦月だった。
何しに来たのかと思えば、皐月を見つけるないなやこっちへ向かってきた。
「皐月ちゃんが提督に恋してるってホントかにゃ〜ん!!?」
ついさっきの話だろ!?もの凄い早さで睦月に伝わったなオイ!しかも出所では誰とも確定してなかったはずだが、いつの間にか◯イエンター・・・て、提督が好きって事になってしまったようだ。
「む、睦月!?」
「皐月ちゃんがついに、ついに・・・お姉ちゃん達の手から離れる時が来たのね!!」
「ちちち違うって!誰がそんな事言ったんだよ!!」
「あたしか?」
「そうだった!!」
いい反応だ、感動した、だが無意味だ。すぐ間近に元凶がいるのに油断し過ぎじゃないかな?
皐月のパニックを他所に状況は更に加速する。
「さっちんが!」
「恋をしてるって!」
「聞いて・・・!」
「来てみたぴょん!!」
増える睦月型。相乗効果で騒がしくなる浴場内。
後に大淀が怒鳴り込んでくるまで騒動は続いた・・・。
次回へ続きます。