艦娘転生記〜元男は今日も抜錨する〜   作:ワタリー

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第九話

睦月型との一騒ぎしながらの入渠を終えた俺は、そのままの流れで睦月型の皆と食事を取った。無論話題は皐月と俺の一騎打ちで盛り上がり、時たま恋愛話を聞きつけた艦娘からの質問攻めにあったりして、静かに過ごす時間が訪れる事は睦月型の皆と別れるまでは無かった。

 

「なんかあっちぃな・・・」

先ほどまで騒ぎ倒していたせいか、入渠での体の火照りがまだ治まっていない。部屋に戻ってすぐにでも睡眠を取りたいが、このままでは寝汗をかいて布団や下着を汗で汚してしまうだろう。ならば、湯冷めしない程度に夜風でも浴びてこようかと考える。

 

「一人で行くのもなんだし、てきとーにヒマなヤツ誘って行くかな」

まずは部屋に戻って誰かがいるといいんだが・・・高波とか帰って来てないかな。

夕雲型の部屋の前まで来ると、ドアの向こうから騒ぐ声が聞こえた。

「お?なんか楽しそうじゃんか」

よかった、何人かは帰ってきているようだ。

「よォ、長波サマが戻ったぜー」

「あ、おかえりなさい」

部屋に入ると巻雲、朝霜、清霜、早霜の四人がトランプで遊んでいた。

「お?長波じゃん。今日皐月と戦り合ったってーのは本当か?」

「帰ってくるなりその話って・・・皆知ってんのか?」

「たりめーじゃん。司令の新人イビリだって皆噂してっから」

 

・・・は?

「は?」

「姉さん、心の声が漏れてます」

「それは別にいいんだ、問題はクs・・・クソ提督の方だ。朝霜、そりゃどーいうこった」

「どうって・・・来たばっかりの新人教育は練巡が担当すんのが普通なのにさ、なぜかいきなりサシでやれってんだ色々疑うだろ?」

そう言われてみれば確かに朝霜の考えには一理ある。夕雲型は戦争末期の駆逐艦だし、俺が舐めた態度をとる前に釘を刺したくて今日の模擬戦を組んだ可能性は大いにある。

「そうは言うけど、長波姉様がしれーかんに期待されてるとかじゃないの?」

「ま、それもあるかもな。ともかく司令からは良くも悪くも注目されてんじゃねーの?」

「なるほど、提督なりの熱烈な歓迎って事か」

いー感じにブラックの匂いが濃くなってきやがった。気に入らないヤツ限定ときたか。

「朝霜、あんまり適当な事は言わないで」

「え?あたい変な事言ったか?」

「ええ、言いましたとも。そもそも今日練巡のお二人は遠征に行ってて不在だったので、仕方なく手の空いていた如月さんと皐月ちゃんに長波の教育をお願いしたワケ」

「んだよ大した事じゃないのか」

「そういうこと。皆考え過ぎなんです」

 

有望株の新顔路線を期待してたんだがそういうのは無いかー。今の所転生特有のステータスとかオマケ要素皆無だもんな。まぁもしかしたら艦これ世界に来ること自体がチートだったり・・・は、無いか。

「う~~ん??」

「なに悩んでんだよ」

「あ、いや、超個人的な事」

こっちの世界の住人に転生の話をしても頭おかしいヤツ認定くらうだけだ。

「なんだ、頭でも強く打ったか?」

「朝霜、そりゃどういう意味だ?あたしを馬鹿にしてんのか?」

「お?なんだいあたいとやる気かい?」

「何言ってんのやる訳ないだろ?」

「ふっ冗談だっての。着任間もない姉をボコボコにする程、この朝霜サマは落ちぶれちゃいないよ!」

この妹メンドクセェ。長波より背ぇちっちぇ割に生意気な口聞くもんだから余計になんかムカつく。けど、ここでマジになったら大人気ないよな。

「へいへい、調子がいいようで結構な事だ」

「んだよノリわりぃーなぁ」

ダメだ、このノリについていけねぇ。マジ子供特有のテンションは大人にはキツいっす。

「いけない、忘れてた」

机の引き出しから何やら書類の入った封筒を取り出す。

「司令官さまから長波に渡してくれって頼まれたんだった」

「そりゃ何の書類だ?」

「テストの結果だって」

「ああ、アレな感じのそういうアレね」

もう結果出たのか。試験項目けっこうあった気がしたけどあの提督書類に目通すの早ぇな。

「なんだかすごく頭の悪い言い方してない?」

「服の寸法間違えてるヤツに言われたくない」

「これは手違いです!」

「上手いこと言わんでいいって巻雲姉」

「全く上手くも何ともないですから。長波は適当過ぎ」

ら〇☆すたのメガネピンクの妹みたいな姉の言う事は無視して渡された封筒の中身を見る。

「えーっとぉ、ふんふん、ほーんそっかそっか」

「なんだよあたしにも見せろって」

「姉さま私にも見せて!」

朝霜と清霜が結果を覗き込むように見に来る。正直結果なんかよりこの2人が視界に映るくぁわいい空間を見ていたい。

試験結果をざっくり言うと、判定は上から優秀、良好、可、不可の四段階で良好だった。

「お、悪くないじゃん」

「実戦形式については重点的な砲撃の訓練を要する、か。まぁそりゃそうだわなぁ」

「姉様模擬戦あんまり良くなかったの?」

「皐月にボッコボコにされたよ」

清霜の問い掛けに頭をポリポリと掻きながら気まずそうに答える。

「砲撃の訓練?なんだ、砲撃当たんなかったのか?」

「ああ、全く当たらなかった。皐月が上手く避けたんじゃなくて普通にあたしの砲撃が下手だったんだよ」

あの時は本当にFPSで言うところのエイムがさっぱり定まらなかった。そもそも砲撃は山なりに弾を飛ばすから、慣れない弾道予測をしつつ回避しつつであれこれやってて頭がパンクしてたんだよな。

「水上での運動は問題無いのですね」

「そこは四水戦のお墨付きだしな。何とも無かったぜ」

いつの間にかみんなして自分を囲んで結果を見に来ている。なんだこの幸せ空間は。

「立ち止まっての砲撃はまぁまぁなんだなー」

「それは多少スカしても修正しやすかったからな」

「この結果からすると、長波には十分な伸び代があるって事ね」

「でもまだまだ主力オブ主力には遠いなー」

正直、夕雲型の皆と肩を並べられるかどうか自信が無い。なにせ、艦としての基礎となる部分が欠如しているから。そもそも一般人だし。

「大丈夫!姉さまならいけるよ!」

「そうだな、応援してくれる可愛い妹もいる事だし頑張るぜ!」

一切の曇り無き妹からの激励に心が痛む。清霜は悪くない、悪くないんだ。

「姉は無視ですかそうですか」

ぷくっとあざとくむくれっ面になる巻雲。どうやら不満らしい。

「もうちょい威厳ってのを見せてくれないとな」

「そう言われると長波が私の事をどう思ってるのか分からないんだけど」

「ん〜、ドジ?おっちょこちょい?」

「・・・」

割とストレートに批評されて固まる巻雲。ちょっと面白いぞ。

「ね、姉さま」

「なぁに清霜?」

「い、いえ、何でもないです」

あ、この流れ流石にマジで怒ったっぽい。

「長波にはいつか思い知らせなければなりませんね」

「参りました。降参します」

「早い!まだ何もして無いんですけど!!」

即ゲザる。こういう時は即刻土下座に限る。巻雲に隙を与えちゃあならねぇ。

「ぐぬぬぬぬぬ」

露骨なまでに悔しがる巻雲。正に肉を切らせて骨を断つ。これぞ必勝の法だ。俺が優位を取らねばからかい甲斐が無くなる。

「と、に、か、く!私が艦としてしっかりしている所をちゃんと見せるからね!」

「わーってるよ。期待してるぜね、え、さ、ま!」

「・・・」

ダメだコイツ・・・。巻雲はそう言わんばかりの視線を俺に向けてくる。甘いな巻雲、俺を手玉に取るには人間歴が浅いぞ。

「んじゃ、話も一段落した所でちょっと出てくるぜ」

「姉様どこ行くの?」

「外で体冷やしてくる」

靴を履いて外に出る準備をする。すると、早霜が厚手のパーカーを持ってきてくれた。

「姉さんこれを。湯冷めしないように気をつけてくださいね」

「おう、あんがとな」

パーカーを羽織って部屋を出る。結局誰かを誘う事が出来ず一人外へ出ることにした。まー歩いてりゃ誰かにあうでしょ、多分。

宿舎を出てはみたものの、暗くなった外には走り込みをしている長良型くらいしか艦娘がおらず結局一人で波止場へ向かった。

波止場に着くと、涼しい風が体をすり抜けていく。

「・・・いい風だ」

凪いだ海から吹く風が長波の髪をふわりと靡かせる。海で冷やされた風が火照った体に心地よい。

「・・・・・・」

長波は波止場の縁に足を投げ出して座り、目を瞑り波止場に打ち付ける波の音と緩やかな風の音に耳を傾ける。自然と流れゆく風に身を任せて体の熱を冷ましていく。

「ははっ・・・」

乾いた笑いがこぼれる。

「らしくねーよなぁ・・・」

俺が俺だった頃なら、潮風を浴びながら感傷に浸るなんて事はしなかっただろうに。やっぱり辛いんだ。自分じゃない誰かを演じ続けるっていうのは。長波としてはたくさんの姉妹や仲間がいるけど“俺”は一人だ。体は長波でも中身は別物。しかし、この世界の皆は俺を“長波”だと認識しているから、簡単にカミングアウトするわけにはいかない。夕雲型や鎮守府の皆をを混乱させるだけでなく、ただでさえ未明のメカニズムを多く抱える艦娘からイレギュラーが発生したともなれば、俺自身が本営からどういう扱いを受けるのかわかったもんじゃない。

俺だって人間だ。仲良くしてくれる人達には素直な気持ちで向き合いたい。正直このまま長波を演じ続けるのは心苦しい。長波らしく振る舞う事に慣れるまで時間がかかるし、その間に誤魔化しの効かないくらいのボロを出してしまう事もあるかもしれない。

せっかく手に入れた“今”を失うのが怖い。何より本物の長波が現れた時に、あらぬ誤解を与えてしまうような事をしたくない。

艦これの世界に転生できたら楽しいだろうな・・・なんて思ってはいたけど、提督でもなけりゃ現実厳しいもんだ。せめてこの考えを共有し合える仲間がいてくれればと思う。

 

「はぁ~ぁ・・・」

しばらくは溜息が止む気配は無い。今はどうにか気持ちの折り合いがつくまでの辛抱なのは分かってる。それでも、どこかで全てを曝け出す機会が訪れはしないかと期待している。

それまでは、“俺”という気持ちを押し込めて、皆の前で“あたし”を演じ続ける。

「・・・フフッ」

ちょっとだけ、一人でここに来て良かったなと思った。もし誰かと一緒に来て悩み相談になったら・・・いや、考えなくてもいいや。疲れるだけだ。

そろそろ帰ろうかと立ち上がり、ぶるっと一つ身震いをした。

「・・・体冷えてきた、長居しすぎたな」

早霜の気遣いが冷えた体をちょっぴり暖めてくれる。気がする。しかし、艦娘といえども艤装無しの夜風は流石に応えるか。早く帰って高波を抱き枕にでもしてオフトゥンに潜り込みたいな。

両腕で体を抱きながらイソイソと駆逐艦寮へと戻る。消灯まで残り数時間前の駆逐艦寮は、明かりの点いている部屋からキャーキャーと賑やかな声が聞こえる。夜だというのにエネルギッシュな事で、当直の艦娘から注意されないか心配になる。

ふと思い立って、夕雲型の部屋への通りがかりに睦月型の部屋の前を通ってみる。流石は安定の睦月型というかドア越しに騒いでいる声はしている。何をそんなにに騒いでいるのか気になり、俺は周りに人がいないのを確認してからドアに近付き聞き耳を立てた。

 

『ねぇねぇ如月ちゃん』

『なぁに?』

『もっとお姉ちゃんとして出来る事は無いかなぁ?』

『んーそうね』

オイオイ、まだあの話引きずってんのかよ。

『別に考えなくていいから!!』

『あー!さっちん照れ隠しでしょー!』

『さっさと観念するぴょん!』

『だーかーらー!ボクの話を聞いてくれよ!!』

『司令官の好きなトコロ?』

『気になる』

『あーーーーー!』

これはもうイジメの域だな。周りに悪意が無い分タチが悪い。

『ひぐっ・・・ちが・・・違・・・うん・・・だよぉ・・・ぐすっ・・・』

『ええ!?皐月ちゃん!!』

『え?え?ちょっと、どういう事!?』

ついに泣き出してしまった皐月。元々の原因たる俺に罪悪感が半端なくのしかかってくる。

『ああもう。うるさい、さっきから寝れないじゃん・・・』

『皆いい加減にしろよ・・・って、皐月!?』

『うえぇぇん・・・!』

『よしよ~し、泣かないで~?』

『なんだなんだ、何があった』

これはもう黙ってはいられない。俺はドアを思い切り開けて睦月型の部屋に入った。

 

「そこまでだ!!」

「にゃ、にゃがにゃみちゃん!?」

「ど、どうしたの?」

長波(にゃがっ・・・!?)

勢いよく入ったまではいい。だが、思わぬタイミングで睦月が噛むもんだからちょっと冷静になってしまった。

ヤバい、テンパって切り出し方が思い浮かばない。

「・・・・・・」

「あの長波さん・・・?」

初動からテンションの落差の激しい俺にみんな困惑気味になる。この空気、とても気まずい。

「な、長波ぃ~!!」

皐月が俺を見るないなや助けを求めて縋ってくる。俺は皐月を優しく抱き留めてあやすように髪を撫でる。

「よ、よ~しよ~し一旦落ち着こう、な?」

「うぅ・・・みんなひどいよぉ・・・」

涙目でこっちに寄ってくる皐月がクソ可愛くて頬が緩みかけた。が、なんとか我慢する。

「んで、まだあの話題続いてたのか。もうやめてやれって皐月もこんな調子だしさ」

「えっと、睦月達が悪いの・・・?」

「元を正せばあたしが原因だ。悪かったと思ってるし反省もしてる。でもここまでやるのは別だ」

「うーちゃん達別に皐月ちゃんをいじめたわけじゃないのにぃ・・・」

「いやー姉妹の事になると自分の事のように思えてさー。ほっとけなかったんだよね」

「皐月ちゃんごめんね〜大丈夫〜?」

「さ、皐月ちゃん」

睦月と文月の二人が声を掛けるが、皐月は俺の胸の中に顔を埋めたまま嗚咽を漏らしている。

「まさかみんなして皐月に寄って集るとはなぁ。流石に可哀想で見てられんかったわ」

「それもそうだよ、姉妹の恋バナとかお祭り騒ぎだよ」

「そ、そーなんだ」

女の子ってそういうもんなの?睦月型だからじゃなくて?どのみち転生先が睦月型で無かった事に安堵する。

戸惑っている俺に如月が微笑みながら質問を投げかけてくる。

「長波さんにはそういうの無いの?」

「そんなのある訳無いだろー」

「ホントかしらぁ?」

「なんだよ、あたしに何かあるように見えんのか?」

「さぁ、どうでしょう?ふふっ」

俺やっぱ如月の事苦手だわ。ナチュラルに攻めてきやがる分いつ墓穴掘るかほんとにわからん。

「全くからかうにしてもタチ悪ぃよ」

「あら、そんなつもりはないけど誤解させちゃったわね」

長波「食えねぇなぁほんと」

「やん、長波さんに食べられちゃう♪文月ちゃん助けて♪」

「食べちゃダメェ〜!」

くっ・・・如月め、文月ちゃんを盾にするとは卑怯なヤツだ。

「てか冗談はそこまでにしてくれ」

「そうね、今は皐月ちゃんの事ね」

「そうだ。おい皐月、そろそろ離してくれよ」

「・・・」

皐月から返事がない。体温はちゃんと感じるから屍ではないようだ。

「皐月ちゃん?どうしたの?」

「すぅ・・・ううん・・・」

さっきまで泣きじゃくっていた皐月は泣き疲れたのか寝てしまっていた。

「皐月ちゃん寝てるね」

「え、さっちん寝たの?」

わらわらと皐月の様子を見ようと俺の周りに皆が群がる。

「ねぇねぇ、うーちゃんにもして欲しいぴょん!」

「寝心地・・・良さそう」

「お前ら自分に素直だな!?」

どうもこの鎮守府のやようづはかなりフリーダムのようだ。卯月はともかく弥生までやんちゃ気味とはまた楽しい所だな。

「睦月・・・じゃ無理か」

「それどういう意味かにゃ!?」

「言ってやるなよ望月。これでも改ニになる時かなり期待してたらしいからな」

「にゃ!如月ちゃあん!皆が睦月をいじめるのですぅ!」

「はいはい大丈夫よ。睦月ちゃんも私位にはなれるわよ」

ダメだやっぱり睦月型はすぐ話が逸れる。もう皐月放ったらかしじゃねぇか。

「長波ちゃん」

「ん?どした?」

「皐月ちゃんをお布団に寝かせたいの。手伝って」

ここに天使がおる。他の姉妹は他人事みたいに見てるが文月ちゃんは流石だな。

「えー皐月のはどれだ?」

「ここだよ、私のお布団に入れて」

「え、文月の布団でいいのか?」

「うん!今日は私と一緒に寝るの!皐月ちゃんに可哀相な事しちゃったから・・・」

素晴らしき姉妹愛。一言で言えば尊い。

「世に文月のあらんことを」

「え?」

意味不明な事を言い出した俺を訝しむ文月。や、変な人じゃないから。うん。

「いや、何でもないです」

「??」

あまりの天使っぷりに文月への想いが止まらなかった。止められなかった。無理だろこんなの目の前に天使がいるんだぞ。

「文月はいい子だなぁ」

自然と文月の頭に手が伸びる。サラサラの柔らかい髪を優しく撫でた。文月は目を閉じて心地良さそうにただされるがままだった。

「んーもっと撫でてぇ♪」

「いいぞー」

至福の時だ。文月ちゃんの頭を撫でられるとは本当に役得というべきか。男の時の俺なら文月教徒による異端審問会に拉致られる事案だが、今は艦娘だからセーフだセーフ。

「えへへ」

「えへへ」

ストレスというストレスが吹き飛んでいく。あー文月ちゃんに心の暗い部分が浄化されていく・・・。

 

文月の頭を撫でるのを堪能していると、突然誰かが俺の肩を叩いた。

「長波」

「えへへ、へぇ?」

後ろを向くと、そこにはやや眉をつり上げていかにも不満ですオーラを漂わせた風雲がいた。

「何してるの?」

「へぁ!?風雲姉!」

「なかなか戻ってこないから海にでも落ちたんじゃないかと思って探しに来てみれば・・・」

「えへへ」

「えへへじゃない!もう心配したのよ!!」

色々と夢中になって全然気付かなかったが結構時間が経っていたらしい。

「もうすぐ消灯時間よ!他の部屋に迷惑掛けないの!」

「ご、ごめん風雲姉。あたしももう部屋に戻るから、な?」

風雲に急かされて睦月型の部屋を出ていく。

「あ、そうだ」

帰り際に睦月達に言わなきゃいけない事を思い出した。

「皐月の恋バナなんだけどな、アレは嘘だから。もうこれ以上皐月を困らせないでくれ」

「大丈夫、それはもう分かっているわ」

「分かってんのかい!じゃあ、また明日ちゃんと皐月に謝りにくるからな」

「ええ。じゃあ、おやすみなさい」

「長波ちゃん風雲ちゃんおやすみなさい!」

「おう、おやすみ」

皆が元気っ子の睦月型は部屋のドアが閉まる際まで手を振ってくれたのが見えた。こういうのも偶にはいいもんだな。

「ねぇ、皐月ちゃんの恋バナって何?」

「ん?それはもう終わったから気にする事じゃないぜ」

「そう。ならいいわ」

なんだ風雲もそういうの興味あるのか。真面目一辺倒なイメージだけどちゃんと女の子してんのな。

「風雲姉にはそういう話はないのか?」

「えっ何よ突然」

「ちっ、なさ気な感じか」

「何よ。何が言いたいのよ」

「真面目なのはいいけどさ、あんまりキツイと行き遅れるぞって話だよ」

「そ、それは・・・ちょっと待って、逆に長波はどうなの?」

「あたしか?艦娘の内は別に恋愛とかどうでもいい」

「ふ、ふーん。ま、だいたいそうよね」

「あたしらそれどころじゃないし、身近な男といえばあの提督ぐらいだし」

「考えるだけ時間の無駄よね」

そもそも俺中身男ですしおすし。形式的にはノーマルでも他はアブノーマルだからゴメンだよ。

 

「生きてりゃイイヤツに会えると思うぞ」

「何か妙な説得力を感じるわね。自分に自信がある娘だからかしら」

「・・・」

反論できねぇわ。長波クラスのスタイルなら基本困らないだろうし。

「風雲にも春は来るって大丈夫だ」

「年寄りみたいな事言わないで。私が行き遅れるみたいに思われちゃうでしょ」

「風雲姉くらいならそれはないだろ」

俺のいた世界では需要があったんだから大丈夫、とは言えないよな。

「女子力磨いて来るべき時に備えときゃいいだろ」

「簡単に言ってくれるわね・・・私達に女子力磨く時間そこまでないわよ」

「主力オブ主力はキャリアウーマン路線だもんな」

「うーん、なんか長波と話してると人間の十年くらい歳を取った感じがするわ」

それあながち間違ってないんだよな。風雲のヤツなかなか鋭い所を突いてくるじゃねぇの。今のマジで焦ったよ。

「ただの考え過ぎだろ」

「そうね。あーあ、もう早く休みたいわ」

「おう。帰ってもう寝よう」

「高波も待ってる事だしね」

「お、まじか。そりゃ待たせちゃ悪いな」

 

夕雲型の部屋に戻ると寝間着に着替えた高波が俺のベッドで待機していた。

「よっ高波。すぐ寝る準備するから待ってな」

「はい!待ってます!」

俺は元気良く返事をしてくれた妹を尻目に洗面所に向かった。

再会した姉妹達の仲睦まじさに、長女の夕雲は嬉しそうにその様子を見ていた。

「ふふ。ああいうのもいいわねぇ」

「ちょっと羨ましいです」

夕雲に同意する沖波。長波達のような振る舞いにはあまりに慣れていないようだ。

「あら、じゃあ私と一緒にどう?」

「いえ、別にそういうのでは!」

「いつでも甘えてくれていいのよ?」

「ま、またの機会にお願いします」

「ええ待ってるわ」

妹達と共にいられる喜びを噛みしめる夕雲。先の大戦では感じられなかった幸せを大切にしていきたいと考えていた。

 

「うートイレトイレ」

これから子どもには見せられない展開が待ち受けていそうな台詞を言いながらトイレに入っていく。

「危なかった。気が付いたらダム決壊しかかってたな」

この体になってからホントにトイレ近くなりやすくて困る。男の時はまだ余裕だったんだけどなぁ。

「・・・よし、早く部屋に戻らないとな」

トイレを出て気持ち急いで部屋に戻る。廊下を走ると注意されるから早歩きで移動する。

??「あ、ちょっといい?」

部屋に戻る途中突然誰かに呼び止められる。

「はい、なにか用でも?」

「ええ、ちょっと部屋を教えて欲しくて」

声を掛けてきたのは香取だった。おおう、練巡の姉の方か。こんなところで出くわすとは思わなかった。

「こんな時間に誰をお探しで?」

「つい昨日着任した娘を探しているんですが、部屋の位置が分からなくて・・・」

それってもしかしなくても俺だろうな。ていうか道に迷ってんのかこの人は。

「それあたしの事じゃ・・・」

「あら、貴女が長波さん?」

「そうさ、夕雲型駆逐艦四番艦の長波とはあたしの事だよ」

「ああよかった!実はね、この書類を渡しに来たの」

そう言って香取は俺にやや分厚い封筒を渡してくる。

「な、何これ」

渡された封筒からコピー用紙数十枚分の重みを感じる。

「二週間後にテストをします。だからこれで勉強してくださいね」

「は、え、マジで?」

「しっかり勉強して下さいね?艦娘として基本的な事ですから、キチンとやっておくといい事ありますよ」

「は、はい」

テスト、今確かにテストと言ったな。え、マジでか。

「それじゃあ、長波さんおやすみなさい」

「お、おやすみなさい・・・」

最早テストとは縁の無いものだと思っていたのにすごいテンション下がっちゃった。

「やるしかないよなぁ・・・」

俺は封筒を脇に抱えて部屋に戻った。帰って来た俺があからさまに気分が落ち込んでいるのを心配されたが、気にするなと言ってさっさと高波を抱き枕にして床に着いた。

 

「姉様」

「ん、なんだ」

「なんだか元気無いかも、です」

「大丈夫だ、大した事じゃないって」

気遣ってくれる妹を優しく撫でる。しかし、今日の疲れからか意識はすぐに落ちていった。

「・・・」

すぅすぅと寝息を立てて眠る姉を心配そうに見つめる高波。

「あんまり一人で無理しないで欲しいです、姉様」

そう言って高波もすぐ眠りについた。




次回に続きます。
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