どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争   作:ホエール

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4.

  4.

 からからと、音を立てて出来上がっていく薬莢の山を見てうんざりする少年少女が数人。

 

「……なんで、手作業なの?」

弾薬クリップか、オートローダーもってこいというブーイングを盛んに唱えながら、彼らは銃弾を弾倉(マガジン)に詰め込んでいく。

それがどれだけ必要な行為か彼らは身を持って知っている。知っているが、それでも不満はある。

 

「クリップと言ったってね、うちらが使うやつは馬鹿正直に、全弾詰まり詰まってんのよ、意味わかるでしょ。馬鹿正直に30発弾倉に30発の銃弾詰め込んで、その状態で数十時間維持してご覧。ジャム(弾詰まり)の原因になるじゃない。

だから、いったんクリップで一気に詰め込んだら、あえて1、2発だけ抜き取るのよ。その抜き取った分がこれ。このままほっとくのはそれはそれでもったいないでしょ」

戦闘工兵を担当するひよりの言葉に、そんなこと知ってるといわんばかりの表情で天を仰ぐ翔。

だが、彼が仰ぐ天に、太陽はおろか雲一つない。あるのは蛍光灯の光だけ。

ここは学院傭兵軍第3軍団が借り受けた政府軍施設の一角。

 

「だからといって、何故手作業で一からやる羽目になるんだか……」  「荷物持ちの為だけにみんなを招集した馬鹿は置いといて、おい、そこの不良兵ども、あんたたちもだよ」

えー、まじっすかーという声を背景に、不良と断定された馬鹿どもが手作業で銃弾を詰める作業を始めていく。

簡単に言えば町で遊びすぎた連中が片っ端から、罰を受ける羽目になっているのだ。

天は俺らを見捨てたり! などと高らかに叫ぶイタリア系軟派男のトト(サルヴァトーレ)から全力で距離を取りつつ、男どもは黙々と弾を詰めていく。

さっさと終わらせたい。さっさとこんな作業を終わらせて遊びたい。

そんな思惑が目に見ええる感じであった。

が、そんな男どもに恐怖を与える者たちがいた!

そいつらの名前は!  

 

「あっ、なんか男子たち、早いねー。これお願いねー」  「なんか男子たち込める弾の量少なくない? はい追加」

「「「ふっざけんなぁぁ――――ッ!!」」」

この世には男尊女卑という言葉がある。が、言いにくいがこの言葉は社会的地位や権勢において男性が女性より圧倒的に優位だったことを示す言葉であって――――

 

「ぁ?」  「「「すいません」」」

案外男と女の権力関係とはこんなものかもしれない。ちなみに震えているのが男のほうで、圧倒的強者として君臨し、次々と男に仕事を投げていくのが女である。

 

「ちくしょぉ……」

勝利者は常に女の子! それが学院傭兵軍第3軍団クオリティ。

まぁ、学院傭兵軍第3軍団はみんな幼馴染で兄弟姉妹の様なものだ。横暴な姉におびえる弟キャラの様なものである。

 

「クソッタレ、俺らだけこんな目にあってたまるか!」  「ほかの連中に緊急といって呼び集めよう!」

「みんなでやればすぐ終わるさ、赤信号みんなで渡れば怖くない!」

そんなこんなで適当な理由が次々と捏造されて、30分後。

 

「何故、こんなにもむさくるしい空間が出来上がるのだ」

と、誰かが言った。

 

「きっと天の啓示だろ」

と、誰かがさっきの言葉を口にした奴に返した。

 

「何故だ!」

トトがいくら嘆こうが、後で招集され、来てみれば雑用だった連中がいくら憤慨しようが状況は変わらない。

 

「お前らはまだ、いいよ。さっき自分らは紅につかまって大変だったんだぞ」  「そうそう、風呂場の設営で――――」

一生懸命穴を掘り、浴槽的な物を作ったりなんやかんやと泥だらけになった奴らがそうぼそぼそとつぶやく。

 

「翔……」  「何だ、トトか」

「いくぞ」  「何処にだ?」

「決まっているだろう。覗きにだ」

はぁ? という声が出たのはある意味仕方ない事である。それくらい、命知らずな事だったからだ。

サルヴァトーレは男子たちの前で大きな身振り手振りとともに演説していた。

 

「今こそ、好機だ。我々は青春男子の桃源郷へと目指す!」

要約:『女子更衣室と女子風呂覗きに行こうぜ!』

当然のようにそれを宣言した男子以外、それぞれのことをやっている。

 

「ロン!」  「クソッ、またお前の勝ちか」

「これはいいものだ……」  「ああ、萌えるな」

「でさ、あの馬鹿は……」とまぁ、このように。仕事が終わった奴らは奴らで他の奴らに手を貸すでもなく遊び始めた。

「な、なぜだお前ら……」と、いきなりトトが泣き出したが、みなスルー。

「いつから若者は枯れ果てたのだァァアああああああああッ!!」  「「「うるせー黙ってろトト」」」

「お前ら、わからないのか! このリビドー! フロイトさんはな、夢も希望も全部欲求不満なんだと評したんだよ! そして、その欲求不満が満載な時期が10代なんだよぉぉおおおおおおッ!!」

「「「フロイトさんに謝れ!」」」

哲学者フロイトさんという人物を誤解させるようなことを言ったトトがフロイト主義者なやつに怒鳴られながらも演説を続ける。

 

「いいか、お前ら、何がその気になればいくらでも無修正が見れる!? お前たち……そんな幻想にすがり付いてんじゃね! 本物の感触を直接感じない映像に何の価値があるのだ! いや、映像どころか、それは三次元の風景を写しただけの二次元だ! それだけに満足してんじゃねーよ! それに満足しているから、一生童貞患ってんだよ!」

「……童貞は病気かよ」  「二次元を馬鹿にしたな?」

「馬鹿にしてねーよ! 俺が馬鹿にしているのは、青春男子を枯らしたお前らだ! なんと悲しいことだ。青春は今しかねーんだぞ!? 肉体的にも精神的にも今しか出来ないんだ! 手をつなぐか手をつながないかで胸がドキドキするという、青いそして、甘い展開は今しか許されてないんだ!

それを、それを何でお前らは枯れているんだ! お前ら、今は今しかないんだぞ、今は未来には持っていけないんだぞ、大人はなー、良くも悪くも、抱けばそれで終わりなんだよ! だがな、こうやって、微妙な距離感でくっつくだのくっつかないだの、そういうラブコメ展開は今しか許されてないんだ!

そういう意味では、真実の愛を一瞬でも体感する偉大な時期なんだよ! 何でそれを理解できねぇぇんだ! お前らはアレか、ホモか、それなら納得だ。だが、青春理論に関しては理解するはずだ! 奴らはゆがんでいるが、奴らなりの真実の愛を持っているからな! お前らはそんなホモたちよりもひどい! 何で、何で質感の無い映像如きでそこまで硬く慣れるのだ! 今こそ、青春をすべきときだろ!」

その大迫力と謎の説得力を発揮する演説。思わず多くの男子達が拍手しかけて、その手を止める。

 

「お前……覗きに行こうって言い出したの今までのあわせて10回目だよな……ちなみに6戦6敗じゃなかったか?」

「人間のやることに不可能なし! 失敗は成功の母! 常に挑戦し続けること勝利への道!」

やることが覗きじゃなかったら、かっこよかった。

 

「どうしてこうなった」と、翔は携帯電話片手に女湯周辺に迷彩服着て隠れていた。

「ついにみなが動いてくれた。俺の、俺の勝利は近い」 「目的と手段が入れ替わってる気がするぞ」

「たく、みんな暇人でお人よしだな」  「まぁ、ここは戦場ですし、兵士の下ネタは心の防御反応ですから」

こんなくだらないことに付き合う、学院傭兵軍第3軍団の派遣部隊の男どもは暇人だ。そしてお人よしだと翔は思いながら口元に設置している無線機に呼び掛ける。

 

「お前ら、包囲網は?」  『――すでに出来ている』

「よし、これより『砂漠野郎の解放作戦(The liberation strategy of the desert guy)』を開始する。各員、フェーズ1を実行に移せ」

「Sir Yes Sir!」

翔がそういった瞬間、みなが反応する。別に彼が指揮官と言うわけではないのだが、みな癖のようなものだ。ちなみに、他にも「ヤー」「ラジャー」「アイ・サー」というバリエーションがあります。

本当の指揮官は、翔の電話の向こうにいる…………

 

『――あの、森野さん? 本当に大丈夫なんですか?』  

「大丈夫だ、問題ないぜ、気にするなジェン」と、ジェニファーの不安そうな声が続く。

 

『――そ、それにしても、卑劣な方々ですね、女性のお風呂を除こうとする武装したやからが近づいているなんて』

「そのとおりだ。それに気づいた一部有志の男連中がたまにはいいところを見せようと防御ラインを張っている。問題なのは、こちら側に指揮官役が居ない点だ。ジェン。感謝しているよ。防御作戦を授けてくれて」

『――いえ、でも、あんなんでいいんですか? 敵を知らねば防御出来ぬ、だから覗く手段を考えられる限り考えて教えてくれって。後はそちらでやるそうですが……』

「ああ、これ以上迷惑をかけるわけには行かないからな。ああ、それとこのことは」  

『――はい、秘密ですね』

「……よし、後で何かおごってやる」  『――その言葉信じて覚えておきますからね?』

電話の向こうで苦笑した彼女の声が聞こえてきた。このように、実は今回の作戦。何も知らないジェニファーが立てた。本人はカウンター作戦を立てたつもりなのだが、実はそのカウンターディフェンス作戦を立てる際に考えた敵の攻撃作戦を使われていることをまるで知らない。

 

「俺は俺様だ。さまを名乗るやつが簡単に約束を破ってたまるか……だから俺様はめったに約束しねーんだけどな!」

『――…………いつもどおりですね……あ、でもわざわざ男子の皆さんががんばらなくても大丈夫だとは思うんですが。』

ジェニファーの呆れる声と共に気になる情報の声が響いた。

 

『――あれですよ、宮本武蔵は風呂は警戒心が薄れる上に無防備だから一生はいらなかったって話があるじゃないですか。私たちは女性ですよ? もっと襲われる可能性があるかもしれません。というわけで』

『――え、エマージェンシー、エマージェンシー! と、トラップだ! ぶ、ブービートラップがぁぁ!!』  「どうした、アルファ部隊 応答しろ!」

『――あいつら、ブービートラップの山で防衛を……』  「風呂にブービートラップっ!?」

思わず吹いた翔。そんな彼を無視してトトが盛り上がっていた。

 

「さて、では皆のもの、行くぞ、青春男児の桃源郷へ」

トトがそう無線機片手に小さな声で叫ぶと、次々と迷彩服をつけた男達が立ち上がった。更にそこから5.6メートルほど離れたところにノートPCを数台並べた簡易的な指令所が出来ていた。

だが、翔はさっきから悪寒が止まらない!

 

『――それでは、ベータ、ガンマ、シータ進出せよ。ジェニファー経由で簡易的ですが、見取り図を手に入れています。PDA情報を頼りにしてください。情報の共有化は正確に』

そして、その直後

 

『――じ、自動式防衛機銃……「赤外線自動式防衛機銃(セントリーガン)」のそ、存在を確認! 現状の装備では敵の索敵システムをごまかしきれない! 赤外線をごまかす装備を求める!』

『――すいません……原始的な落とし穴に引っかかりました…………というか、あいつら殺す気か!? 下が剣山じゃねーか!? もう少しで死ぬところだわ! ここはベトナムか!?』

「なん……だと?」

さすがに戦況の悪化を認識したらしいトトも頭を抱えだした。

だが、すぐに顔を上げて腕を振り上げる。

 

「諸君! 我々は苦境に立たされている。だが、だからこそ、この先にある青春男児の桃源郷をこの目で見ようとは思わないかね!?」

「……」  

正直に言えば今ここに要り連中のほとんどがまぁ、仕方ないかーというノリで参加した者たちである。そのために戦況が悪化した時点で抜けようと思っていた。だが…………

 

「あの向こうにわれらの理想郷がある。もう、そこに見えているのだ。われらを阻むのはたかがブービートラップに過ぎない……だが、たかがブービートラップ、されどブービートラップ! われらの思いが通じなければ意味はないのだよ! 覚悟だ! 覚悟を決めよ! 俺はすでに覚悟を決めた! お前たちも選べ! ここで手を引いて理想の敗北者となるのか、理想郷求めて勝利者となるべく走る続けるのか! 選ぶのだ! 覚悟だ! 覚悟の差で成し遂げられるのか決まる!」

「さりげなくアジテートすんな!」

トトの頭をはたく翔。何故俺様が常識人のような態度を取らねばならぬのだ。

 

「アジテートかー仕方ねーな、トト、何かあったら責任全部てめーにかぶせるからな。お前のアジテートに乗ってやるよ!」

「桃源郷の映像……欲しい」  「……オペレートは任せろ」

「お、お前ら……」と、感極まった声と共にトトが腕を振り上げ一言だけ指示を出した。

「覚悟の完了したもの全員、理想郷に向けて邁進せよ!」

こうして次々と部隊が投入された。ある部隊は落とし穴除去に特化した部隊となりまるで地雷処理班のように行動、ある部隊は小型無人偵察機を飛ばして、ブービートラップの状況を集める。

だが、一貫していえることがある。それは――――

 

「敵軍めぇ……」

トトがつぶやく。だが、彼のつぶやきを聞く暇もなく、次々と突撃を男子兵士たちは敢行する。

 

「火力が足りないという事か……」  「何? 火力」

火力厨、森野・J・翔が反応する中、彼らは第2第3の選択肢をとることにした。

すなわち、

 

「ドローンを突撃させよ! 航空砲撃ドローンを撃ち上げろ! 空から各種ブービートラップを爆撃する!」  「おい、馬鹿やめろ、気が付かれるだろ!」

「俺様を誰だと思っている? トトよ。俺様に任せろ」

目を輝かせながら翔はPDAを操作し、ドローンの群れを操縦する。そんな翔を見て、止めるのをやめるトト。

彼には次の秘策を発動させる必要があったからだ。

 

「ふふふ、諸君、ブービートラップの山がなんだ! これを見ろ!」

トトのちょうど頭上に浮かぶ数機のティルトローター航空機。

ダウンバーストの突風が吹き荒れる中、彼は仁王立ちの末、天を仰ぐ。視線は当然ティルトローターへ。

 

「戦場は常に進化している! すでに戦いの場は立体のさらにその先に進んでいるというのに、何故俺らはいまだに地べたを這って動いているのだ! 今こそ! 空から侵入するまで!」

ティルトローター航空機のパイロットの男たちは、着陸しながらも思う。

(バレたら、やべぇな……燃料代請求とかされたら最悪だぞ)

ティルトローターの貨物室(カーゴ)に入っていく男たちは今更ながらに思う。

(どうしてこうなった!)  (こうなりゃ、自棄だ。ぜってぇあの暴力女どもの○×○×○×――!)

山岳地帯に囲まれ、もともとは存在しなかったとはいえ、今では立派な湖としてその場所に君臨する、『ゲノポスの水溜り』。

そんな汚染湖のすぐ近くに存在する防壁に囲まれた人工都市、ゲノポス。

ゲノポスの政府軍駐屯地上空、その低空を飛ぶ無数のティルトローター。そのエンジンが発生させる無数のダウンバーストが大地の砂を巻き上げ、人々はその轟音に顔をしかめる。

もう夜だというのに、これである。いくら決勝戦プログラムが近づき、不夜城となって活動しているとはいえ、もう少し静かに出来ないのかと顔をしかめるのは仕方ないだろう。

とはいえ、それ以上にうるさいものが高高度の空を無数に飛び立つ。FA-18Eスーパーホーネット。

世界で最もうるさい戦闘攻撃機の一つに数えられる航空機だ。

それが何機も無数に空を飛び、ティルトローターの轟音を掻き消していく。

 

「天はわれらに味方したり」

単に政府軍の戦力移動時間を見計らっていただけである。

 

「天意はすなわち、われらにある! 女子風呂を覗けと神はおっしゃっているのだ!」

『法』にのっとればおっしゃるわけがない。

ティルトローターの後部ランプのハッチが開いて、カーゴに空気が侵入してくる。

落下傘を背負った男子たちは一呼吸の間をおいて、一斉に飛び出した――!

――風が空気が、大気が顔をかすめ、エアのクッションとも呼べない何かが、彼らを押しとどめんと天空に縫い付けんとする。

だが、重力はそれを決して許しはしない。

大地の質量はそのような秩序破りを決して容認はしない。天空に縫い付けんとする空気の力はたやすく引き裂かれ、逆にその圧でもって人体を圧迫する。

しかし、セグメンタタを操るGほど強くはない。彼らは次々と落下傘の開閉レバーを引いた。

……問題が起こったのはこの後である。

このアホな作戦に参加した草壁は、目の前に突如現れた丸い布の壁にその顔面を叩きつけられる羽目になった。

 

「ヴぁか、やっ……! 後ろ、み――――」

直後、自分の落下傘にも何かがぶつかり、体が大きく揺さぶられる。落下傘はおかげで落下傘がうまく開かず、落ちる連中が続出していく。

 

『――エアクッション開け!』

躊躇なく出された特別な指令。あごの骨に埋め込まれた骨伝導の通信機より脳みそに響く声。

手は動いていた。仮にこの指令が聞こえなくてもきっと動いていただろう。『骨格内臓型電子補助』が聞く、聞いてくれる……。

エアバックの灰色の風船の様なものが無数に開き、人間をそのまま、巨大な花束か何かの塊に変える。そして、地面に落下。

落ちると同時にバウンド、さらに空気が自動的に漏れ始めることで、その空気のジェットが地面との衝撃を拡散させようとする。

衝撃吸収拡散用のジェルが周囲にばら撒かれ、空気を吸い込み一気に膨張する。

何度かのバウンドののちに、それは止まり、一気に空気を解放した。

出てくるのは人間。そう、草壁であった。

「いってぇ……」とか、言ってる草壁の頭上にエアクッションの塊が――――。

――女風呂を除くためにティルトローターからの空挺降下の位置と高度を狭い一点に集中しすぎたのがまずかった。

 

「何故こうなった!」  「正規の空挺作戦担当幕僚役たちの大部分が女子だからですよ」

「男子もいるだろ!」  「そっちは別件で多くがリスティアにいます」

「誰だ! 空挺作戦なんて提案した奴!」

「あなたです」

「俺か! 弘法も筆の誤り、猿も木から落ちる! すまん! 許せ!」

幕僚役たちの言葉にトトは頭の中が真っ白になっていく。が、彼の口だけは止まらない。ちなみに、口が止まらない自分をプロフェッショナルだと安易に誇りました。

 

「クッ、問題はない、とにかく取り付け! もとより犠牲は覚悟の上!」

自分の言葉で次第に冷静になっていく彼はさらに次の指示を繰り出していく。

 

「落下点の部隊を移動させろ、なんとしても女子風呂に取りつかせるのだ。取りつきさえすれば、ワイヤーを介した空中移動連絡線を張り巡らせることが出来る。天井から奴らを覗き見て差し上げるのだ!」

そう言うと、彼らはまさにこの時のために装備していたとある、武器を取り出し、一度それを構える。

人は、その武器を――『カメラ』と呼ぶ。

草壁も頭を押さえながら、それを取り出す。レンズが壊れていないか、あるいは電子部品に問題が発生していないか、何か機械的デジタルなトラブルが起きていないか、簡単なチェックを数秒行って――

 

「よし、行けるぞ!」

直後、しろーくて、ねばーとしてて、いろいろとくさいにおいの粘着剤がカメラを盛大に巻き込んで地面に叩きつけられた。

 

「いやっほぉー! ヒットヒット、ヒット! 耕せねぇのが残念だが、俺は俺様。さすがだぜ、全弾命中! 精密爆撃万歳!」

火力厨、森野・J・翔というナルシストの小物は粘着爆弾を落としまくってブービートラップを解除しまくっていた。粘着剤は空気に触れることで、時間とともに硬化していく。

固まったそれは、一種のセメントの様なものだ。固まったそれの中に、カメラというものが……

 

「自腹で買い込んだ、高いカメラがァァア――――――ッ!?」

最前線で雄たけびを上げる草壁はともかく、後方でタブレット状のPDAを操作し、高笑いをしながらにさらなる爆撃の指示をあれこれとだす翔。

 

「…………」

高笑いの末に、誤爆するような指示を出したのに気が付かない翔。そんな翔から離れるトトをはじめとする一同。

直後、見事に誤爆った。

 

『――森野ぉッ!! テメェ、ぶっ殺す!』  『 フフフ、穴あきチーズはお好きかな? 』

「やっべ」

翔が真っ青な顔をしている中、トトとその周辺の『幕僚役』たちは、本部をたたんでいた。

 

「移動、いや転戦する!」

学院傭兵軍第3軍団において、指揮官役を務める人間は大なり小なり、次の訓令を強制的に刻まれている。

 

『必要な時にいつでも最前線に出れる奴、必要な時に味方がどれだけ苦境でも後方に下がれる奴。それだけが有能な指揮官である』

そして、兵士たちには次の訓令が。

 

『指揮官の死は部隊の全滅。1人でも生きて帰りたければ死んでも肉壁になれ』

そんな彼らにとって――――

ティルトローターのハッチが開く。その中に次々と乗り込んでいくトトや翔たち。

彼らの表情はどれも死地に赴くもの。

これより彼らは『 地獄の最前線 (おんなぶろ)』へと旅立つ!

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「随分と、お気楽な死地だ」

誰かがつぶやいた。誰かがうなづいた。

 

「馬鹿が、相手はあの女子だぞ」

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「……遺書書かなきゃ」 

5分もかからずティルトローターは予定ポイント上空にたどりつく。

そして、彼らは覚悟を込めて――――。

無数の太いワイヤーがいつの間にか女湯周辺にいくつも張り巡らされ、その無数のワイヤー同士がところどころで結びつき、空中階段や空中通路を構成していた。

ほんの10分もかからずこれを成しえた工兵諸君の努力には涙を禁じ得ない。

その上を歩くことで、軽々とブービートラップに封鎖された場所をスルー出来る。

 

「すまぬ戦友諸君(ミリーテス)」

トトが悲壮な顔と共に、ワイヤーの結び目で形作られた、足場を進む。

その下には、ブービートラップを無力化するための粘着爆弾の着弾に巻き込まれた男どもが固まっていた。

そろそろ粘着爆弾が硬化しまくっている頃である。

 

「早く、助けろ、誤爆野郎」  「砲兵に誤爆と申すか。これは航空ドローンの問題であろう? ならば『航空作戦(エアフォース・オペレーション)』の幕僚役の話であろう」

わざわざ偉そうな口調と共に、誤爆を悪びれない翔は意気揚々とワイヤーの足場を伝ってその場を去っていった。

後に残るのは誤爆に巻き込まれた奴ら。

 

「……あいつ、後ろから撃ってやろうかな?」  「賛成だな」

ちなみに、翔は砲兵である。正確には重装歩兵分隊付き援護火力手、『分隊砲兵』が正しい。

後ろから撃てる相手ではない。何故ならば翔こそが、戦列後ろから撃つ存在だからだ。

 

「世の中、間違っている」  「世界って何もかも全部クソだな」

トトは、工兵たちが集まる女湯のとある壁にやってきた。

 

「どうだ?」

工兵たちの何人かが、昔面白半分で作った新型ファイバースコープを持ってきた。使えるかどうか分からないが既存のものよりも高性能という話である。ただ、いろいろと問題点があっておまけに面白半分で作った非正規品ということで倉庫にしまわれたそうだが。

 

「これが、われら『技術部』の結晶体ですよ」

その倉庫にしまわれていたものが出てきたとたんそれを利用する話が出た。それは確かに高性能であり、通気口から侵入、あっという間についに建物内部の映像を……それも限りなく風呂に近いエリアの映像を提供して見せた。

ただし……真っ白だが

 

「ゆ、湯気だとぉぉおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

「今、映像処理にて、湯気をかき消します」  「急げ急げいそげぇぇい!」

「これは……」  「どうした! ついに桃源郷か!?」

「……いえ、無人の脱衣所です」  「「「…………」」」

「ファイバースコープの場所を移動しましょう」  「ああ、それがいいな」

それからしばらくして入った言葉は『故障しました』というもの。

 

「畜生! これだから新製品、新兵器ってやつは!」  「われら技術部の結晶がァァア――っ」

「うるせぇ、黙ってろ!」  「……なぁついでだ……『開発局』の新兵器つかわね?」

『技術部』と『開発局』の中の悪さは有名である。同じ学院傭兵軍第3軍団の学院部活にして、部隊内技術系組織なのに。

 

「これは第3軍団の工兵たちが所属する開発局と共に作った最新特殊弾頭の試作モデルだ。可能な限り、音を出さず、そして可能な限りゆっくりと、だが確実に装甲を焼ききる。そういう素敵砲弾だ。こいつを使って穴を開ける」

「よし、採用。さっそくやれぇい!」

こうして、弾頭、すなわち砲弾が壁に押し当てられ、着火。

 

「…………あっ」  「どうした!?」  

「……馬鹿な…………俺たちが設営したときと違って、なんでこんな……」  「どうしたんだぁ!?」  

「壁が……壁が複合装甲と爆破反応装甲のハイブリット化してやがる!」

一瞬で、周囲の人間が距離をとった。

 

「……何故逃げるのですか?」  「…………何でもいいが、はよ、凍結処理」

『爆轟防御建材』と呼ばれる特殊建材で立てられたが故の複合装甲と爆破反応装甲のハイブリットな壁。

お値段、超が何個もつくお高め。主に戦略級兵器を扱う臨時司令部などに使う為用。核の発射ボタンとかは例え臨時であってもちゃんとした空間で用意しないとね。

 

「……女どもめ、卑怯な……」

よく考えてみれば無防備な瞬間を狙う男のほうが卑怯である。

 

「もうこれ、俺らの負けで、撤退していいんじゃね?」  「いや、まだだ! 俺たちは桃源郷を手に入れる、あと数分のうちに! 確信がある」

「ほぉ? トト、いったい何があるんだ?」  

「確信だ。何故ならば我等はこれより、『戦士の理想郷(ヴァルハラ)』へと導かれんからだ。みな……聞け……先ほど、ガンマ部隊にある指令を出した。まもなく結果がくるはずだ」

「結果って……」

そう司令部(?)要員やら翔やらが頭をひねったところで頭上から轟音と吹きつける風がその存在を誇示するかのように空に浮かんでいた。

 

「あのティルトローター、まだあったのか!」

直後、ある通信が入る。

 

『――報せ、天井に取り付くのに成功した。ヘリボーンに成功した、送れ』  『――OK、現状にて待機せよ。送れ』

「「「……」」」  「このように……成功したぞ?」

「さっきまでの突入とその犠牲は!?」  「彼らは偉大な成功の礎となったのだ」  

「いや、死んでないし」  「犠牲となったのだ」  

「だから死んでねぇ!」  「彼らが草葉の陰から我らを見ている。われらが成功することを信じて」  

「だから死んでねーよ!」  「英霊たちの偉大なる働きのために、われらはここで何としても戦火を上げるのだ!」

そして、戦場は、建物の屋根へと変わることになる。正確には、建物の屋根へと通じるワイヤーの階段へと足を向けるのだ。

 

「……で、屋根に取りついた後は何をどうするんだ?」  「決まっている。さっきのそれを使え! 砲弾!」

「ファイバースコープの出番はないのかァ――――ッ!」  「新品という名の欠陥品に出番などあるか」

「諸君、覚悟を決めるときが来た。航空隊の支援の下、我等は『戦士の理想郷(ヴァルハラ)』へと導かれん。航空隊の勇士たちは今より、ヴァルキリーと化し、我らを『戦士の理想郷(ヴァルハラ)』へと導くだろう。あそこだ、あの先の世界に我らが望む、青春男子の桃源郷があるのだ! 全軍に通達する。行くぞ! 航空隊の支援の下、われらも天井へと突き進む!  『全軍抜刀突撃(オールハイドゥ・ガンパレード)』!」

そういってトトは走り出した。そして、何故かトトとともに突き進むものたちが次々と同調し膨らんでいった。

 

「……アレ? この状況って確実に天誅フラグじゃね?」

翔には日和が笑いながらハリセン片手に男連中相手に無双するシーン、ジェニファーが困った顔をしながら銃を向けてくるシーン。紅が無表情に男連中を最前線に武器なしで突撃させるシーンが次々と浮かんでは消えていった。

 

『――いいか、絶対に女子どもに見つかるなよ、下手すると、「軍隊式格闘術(マーシャルアーツ)」の実験台にされちまうぞ!』

もう遅いと思いますよ、トトさん。無線機片手にワイヤーの階段をいの一番に上る指揮官の冥福を心の中で祈る。

 

「…………なぁ、今のうちにトトを差し出せばフラグ立つと思うか?」  「もりの、頭いいな」

「ちょっとまてーそこー! 俺を売る相談をするなー」  「…………この風景を撮影して、ネットに流す……炎上しまくる。楽しみだ」

翔は万が一の事態に備え大量のバスタオルと目隠しを用意してあるのを思い出す。いい商売のチャンスが訪れるかもしれない。

むしろ、この覗きは失敗して彼女達が真っ裸になるといい。そうすればバスタオルが売れる! 裸の少女達はお金を持っていないのもPDAの指紋認証機能を使えば後日請求できる。このアイデア最高だと勝手に脳内で盛り上がる翔は、いかにして今回の覗き作戦を失敗させるかその妨害策を考える。

どうせ、失敗するのは目に見えているのだから、可能な限り儲けが出る失敗を望むとしよう。天誅フラグすらも金儲けに利用する俺様かっこいい。

方法その1.女子に知らせる

…………論外だ。儲からない

方法その2.とりあえず、屋根でも爆破する。

……工兵でもない俺様には最適な爆薬の量が分からない。とりあえずC4を1個そのまま仕掛ければいいだろうか。こんな人がわらわら集まっている場所で。(というか死ぬ)

方法その3.見守る

……一番無難だが、妨害じゃない

いっそ砲兵らしく、RPGでも迫撃砲でも榴弾砲でもいいからもって来て、砲撃するかと本気で考え始めたところで

 

「何をしている……『全軍抜刀突撃(オールハイドゥ・ガンパレード)』だぞ」  「中島か。いや、俺様は」

「士気を乱す奴と逃亡者は敗北主義者として銃殺する!」  「と、督戦隊!?」

「行け、突撃だ!」

なぜこんな目に合うのか、必死で走りながら、ワイヤー階段を上っていく。上る先からいろいろな話し声が聞こえる。内容は「もうちょっとで……あと少し」だの「なんて素敵砲弾なんだ」「いやいや、お前ら技術部のファイバースコープもなかなか素敵じゃねーか」だのといつの間にか和解している開発局と技術部連中と消音ドリルで削っている連中を見つけた。

トトとその取り巻きたちである。ノートPC片手にあと少しで削れますとかいろいろ話し合っている。「なぁ、トト」と、そう翔が一歩踏み込んだときである。床に大きなひび割れが入った。

 

「「「…………」」」  「「「…………」」」

「なぁ……誰か耐久計算ちゃんとした?」  「「「…………(全員真っ青)」」」

「も、森野……そこを動くなよ……頼む動くなよ」  

「動けねーよ、というかマジ誰か俺様を助けろ」と、そういった次の瞬間である。

「よっしゃ! ついに素敵砲弾が穴を開けたぞ!」

ビシィィ――――ッ (さらに裂ける音)

 

「「「…………」」」

そして、ひび割れが広がっていく。翔の携帯電話にかかってくるのはジェニファーから。とってみればなんか天井にヒビが入っているが、大丈夫なのか云々。

 

「なぁ、ジェン」  『――何でしょう?』

「とりあえず、アブねーから下がっててくれ」  『――はぁ、分かりました……』

そして、ついに天井が崩落した。怪しげな装備に身を包んだ男子共が叫びながら浴槽へと落下していく。熱いお湯が水柱を立て、ある種、男たちの墓標に見える見事な水柱だった。

そして、男共がお湯から顔を出した時、そこには一箇所に塊、とりあえず手で大事なところを隠して呆然としている女子がいた。とりあえず女子と男子が目を合わせて

 

「「「ぎゃぁぁあああああああああああああ」」」

両者が叫んだ。そして、女子が急ぎ脱衣所へと進み、1分後、とりあえず下着姿となった女子が現れた。ある種まだ、冥福な姿かもしれないが、その手に持っている物騒なものは何でしょう。

 

「……全員構え」  「待て待て待て、まずは話し合おう!」

「この状況で何を話し合うのかな?」  「えーと、首謀者とか?」

「そう、私たち女子にとっては……全員極刑じゃぁぁあああああああああああああッ!!」

その日、連続した銃声が響き渡るとともに悲鳴が上がったという。

 

落ち

 

「あー、バスタオルいりませんかー? 今なら税込み3000円! こちらのPDAに人差し指をお願いしマース」

目隠しをつけながら拡声器を片手に叫んでいる森野・J・翔と録画中のカメラを構えたトトの姿。

 

「ああ、言うのどう思う?」  「すごく……馬鹿です」

 

閑話休題

 

「さて、一つ聞きたい。トト……いや、サルヴァトーレ……録画した映像残っているか?」  

「はい、ありますよ! 教官」

「そうか、それは大変けしからん。俺に渡せ」  「「「ちょっと待て」」」

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