どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争   作:ホエール

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 さて、前日の騒動でもって男どもが目にクマを作りながらも必死でスコップ1本、ゲノポスの駐屯地周囲全域にわたって塹壕を延々と掘り続ける中、一人の少女が歩いている。

砂漠の夜はとても冷える。砂に熱を蓄える力は弱いため夜になるとぎらぎら光る太陽がなくなり温度が下がっていくのだ。だからこそ、前日の騒動。

男子ども、そのあとから延々と掘り続けているが、さすがに寒かろう、暑かろう、つらかろう。

が、彼女はそんなことを気にするために一人歩いているわけではない。彼女はただ単に仕事で歩いているのだ。

そして、彼女は口を開く。お目当ての連中を発見して、放つ言葉は――。

 

「学籍番号タベ5600からタベ5681まで、とっとと調整に行って来い。今しか開いてねーぞ」

 

目の前のディスプレイがシステムの同調レベルを表示していた。大量に並んだセグメンタタが一つ一つ、起動している。

学院傭兵軍第3軍団の学生傭兵が使う2.5世代GN(ジン)シリーズセグメンタタだ。

今、鎧の中には人間がいる。自分で自分の鎧の調整を行っている学生傭兵たちがいったりきたりしている。翔もまたその一人であった。彼は今自分のGN-11B砲兵型セグメンタタ内部にいて、各関節部の調整や倍力機構の数値設定などを行っていた。

日和はというと、彼女はたった2台だけ用意されていた調整制御椅子という特殊なカプセルの中の椅子に手術着にも似た服をつけて座っていた。

手元には指先で操作する持ち運びが安易なPDA――タブレット――を持ち、あるものを操作していた。彼女は今、自分で自分の肉体に『調整』を施している。セグメンタタは陸戦無双兵器だ。

だが、肝心の人間がセグメンタタのGや衝撃、そして熱に耐えられない。人工知能(AI)という手段はまださまざまな技術的、論理的障壁が存在する。ならばどうするか、簡単だ。

セグメンタタを扱えるように人間のほうに手を加えればいいのだ。

こうして『適合性適応操縦士(レギオーナリウス)』……つまり『専用操縦士(ナリウス)』が誕生した。

ナリウスの調整は肉体に様々な負担をかけるそのために、若者であればあるほど良い。

歴戦の老兵はナリウスの調整に耐え切れず、コストパフォーマンスも悪い。逆に若者であればあるほど良い。それが、今の少年兵を重視する時代を作り出していた。

今彼女が座っている椅子も調整を行うためのもの。カプセル内は特殊なガスのみであり、わずかな酸素だけで彼女は活動していた。

今の彼女は自我が薄い。ただ、マニュアルに定められた手順どおりにシステムを制御して自分の体を弄繰り回しているだけだ。時折わずかに覚醒しては自分が最適に戦うにはどこをどうするべきか考える。

投薬量と、投薬する薬の種類。体内のナノマシンの活性化率と新たなマイクロプラントの移植が必要か否か、体内に埋め込まれているインターフェースのいくつかのシステムをONにすべきか否か、金属骨格の疲労度と本物の骨格であるカルシウム骨格のカルシウム含有率など。

自分の状況を逐一収集し、判断するための道具であり、同時に首筋に突き刺さる様に設置されてる携帯電脳装置との交信信号の周波数から何からかにまで。

すべてが終わるまでに10分ほどかかった。気づいてみると、さっさとそこを出ろという数々の視線。

彼女と同じように自分の調整を行いにきた仲間たちが行列を作っていた。学院傭兵軍はたった2台しか用意していないのだ。政府軍側にいえば旧式のものが仕えるかもしれないがそれでは相手に迷惑だし、出来れば普段使っているものを使いたいと願うのは人間のさがだ。

が、時間が押している。普通は2台しかないが、いくらかの連中は政府軍の使用する機材を使うことになっている。

だが、何度も言うが本音では、普段使っているものがいい。

登山するのに新しい靴で出かける人はいない。はきなれない靴で怪我したくないからだ。

兵隊は特にそれが顕著だ。おそらく新型の鎧が出ても、なかなかそれに乗り移らないのは慣れてない兵器に対する拒絶反応が出るからだろう。ピンチに新型機がやってきて、それに乗り換えて大活躍するというのは、どちらかというと漫画の世界だ。ともかく、彼女は『さっさとそこを出ろ』という視線を受けてすぐにカプセルから出る。

 

「うわー、あたしが調整してる間にすごい並んでる」

「というわけですから早くどいてください」  「って、紅じゃん、あんた前線でないでしょ」

指揮官用のコードネーム『紅』を名乗る少女がそこにはいた。

 

「ええ、皆さんがどうも勝手に軍事パレード拒否で逃げ出してしまったせいでここからさらに遠く離れた最前線の中隊戦闘群にバナナ片手に飛ばされかけた私です。もう少しでバナナはおやつに入るか否か論争に入りそうでした」

「なんでバナナ? それに怒ってる?」  

「いえ、怒ってませんよ? 今の時代は戦場のネットワーク化が進んでますから戦術指揮が出来る場所であれば問題〝ないですしね〟」と、最後らへんの言葉に異様に力が入っている。

「やっぱり怒ってる……」  「怒ってません!」

そんな大きな声で怒鳴られても説得力がない。

 

「……ん? 軍事パレード?」  「アレ? ひよりさんあの場にいませんでしたか? いや、いたはず……」

そして2人は思い出す――あれは、確か戦争記念館で。

 

「ジャッカル中尉殿、ここは政府軍の『支配地帯(コントロール・エリア)』だぜ、大丈夫なのか?」

翔とジャッカルが対峙する。

 

「問題はないさ、あいつらだって平和を口実に事前偵察で何人か将校をこちら側に入れている。今ならまだ、問題はない。禁止エリアにでも行かない限りね」

反乱軍(正統軍)将校のジャッカルという男。堂々と政府軍の『支配地帯(コントロール・エリア)』に反乱軍の軍服に将校を示す階級章をつけて歩き回る男。

いくら今が、平和な時間といえど敵地のど真ん中に一切、何ら特別な対策もせずに歩き回るのだ。

いや、目には見えないところで何らかの対策をとっているかもしれない。人工衛星の目、偵察ドローンの目、部下の目、そして銃眼。

駐屯地を防衛するための小さなコンクリート防壁。あくまでも覗き込むもの対策程度のその壁。

けれどもその壁の向こうから感じる、兵隊たちの緊張感。戦争記念館という建物の中からでも感じるほどだ。外ではどれだけ不穏な空気が流れているのだろう。

窓ごしに映る壁を軽く一瞥しながらも、ジャッカルという男は特に何かすることもなくそこにいる。

彼は、この反応もわかったうえで、行動しているのだろうか。さすがにあからさますぎて、どう対応するべきなのか。

 

「……戦争記念館。僕はこういうのが好きでね。人類がいかにして研鑽したのかそれが見て取れる…………。だから――」

「――?」

だからの後に続く言葉……。

 

「――僕は今の政府を……列強に媚を売る豚を認められない。彼らはまたもこの国を植民地にしに来る。いや、その前に豚どもが……奴らの部族がこの国を牛耳り、根本から突き崩していくのは見てられない。

どれだけの部族が、彼らの前に膝を屈してきただろう、どれだけの君が頭を垂れてきたのだろう。すべては高慢な、支配部族のために? 冗談じゃない」

世界のいろいろな空間や地域に根付く、『部族社会』。これを乗り越えないとその先にある『近代国民国家』へとたどり着くことはない。

あるいは、世界のいろいろな空間や地域に誕生した、『土地を基軸とした階級社会的政治経済体系』、すなわち『封建制』こと『封建社会』。

部族社会にせよ封建社会にせよ、これを超越した先に近代国民国家は存在し、その段階に手が届かぬ国家は世界に対し覇を唱える、あるいは覇を唱える勢力をねじ伏せ己が国家を長き歴史に刻み込むことはとても出来ない。

 

「である以上、僕らは彼らの政権をこれ以上認めるわけにはいかない。彼らの法は彼らの法であり、国法に非ずだ」

「……それが、あんたら反乱軍の口上って奴? たかが、学生傭兵相手に……」

「…………今やみんな頭に血が上って何も考えてないけど、本当は、戦争って政治手段の一つなのだよ」  「?――」

「意味が分からないかな。政治っていうのはすごく簡単にそして乱暴にまとめると、お金をどう使うかってだけの事なんだ。お金はただあればいいってもんじゃないからね。戦争もまた、そういう事なんだよ。政治の一部。

そこにお金を使ってより大金を引き出す。そういう算段が付いたから始められるし、あるいはそういう散弾に巻き込まれてやることになる物だ。で、だが、やるいじょう成功しなくちゃ、勝たなきゃいけない。勝つにはどうすればいいか? 決まっている、あらゆる準備をすることだ。『正しい目的の前にはあらゆる手段が肯定される』。だから――――――宣伝をしなきゃ。僕らの目的は正しいと、僕らの目的は絶対善だと。僕らの掲げる偉大な目的はこの国に住まうすべての人間の救済だと! 『正しい目的の前にはあらゆる手段が肯定される』! けれど、そのためには正しい目的だと理解されなきゃ!」

 

「それで、わざわざ一傭兵に『自分たちは正義です』って宣伝か? ……すげぇどうでもいいな、俺様は」

翔はそうとしか答えない。だって、本当にどうでもいいからだ。

 

「俺は俺様だ。俺様の人生の目的は、この時代と世界を、幸せに生き残ることだからよ、だからどこの国が正義だ善だ悪だ、だから正しいのはどっちとかはは正直関係がないんだよ。俺様が生きて勝てばそれでいいんだ。

だから、そうやって反乱軍は正しいですよキャンペーンされても俺様は政府軍の傭兵として、テメェらと戦う。ネガティブキャンペーン何ぞ知るか、どのみち、学院傭兵軍なんて、それ相応の年齢や特殊な技能を身に着けたら、修了して、世界的企業連合が俺様らの身柄を売り出すものなんだからよ。そんなことこだわってる暇はないんだよ」

そこでいったん言葉を区切り、翔は当たりを見回す。

世界を管理する五つの超大国などと美化される『五大国』の本国とその首都を示す世界地図が目に入る。

実態は86%の領域が本国を浸食しているように、とても管理しているとは言い難い。だが、それでもその他多くの国々からすれば、とんでもなく強大な力を持った巨人であることは間違いないうえに14%は事実上、五大国だけの専売特許だ。

そして、カランド紛争が行われているこの国は……五大国のどこの領域でもなければ勢力圏でもない。

色分けされた地図にはどこの色も混じっていなかった。

世界に影響を及ぼす七つの大国、『七大国』でもなければ世界に対し大きな力をふるう可能性を有する11か国の新興国家たち、『次の大国たち(ネクスト・イレブン)』でもない。

いうなれば空白の領域。厄介なことに、『七大国』の国境と『五大国』の勢力圏の一つがそれぞれ目と鼻の先にあるため、空白というよりは緩衝地帯といったほうが適任かもしれない。

『草原回廊(バダフシャーン)』周辺の空間。まさしく『大いなる戦略戦(グレート・ゲーム)』の古典的な空間たるこのカランドの地。

このカランドの大地で繰り広げられていた泥沼の紛争は――――大雑把に分けて3つの勢力の争い。

であると同時に、3つの勢力の内部に様々な派閥対立が存在するという。そして、その後ろ盾にいるであろう、五つと七つの巨人たち。

この反乱軍将校ジャッカルにもどんな後ろ盾がいるのだろうか。彼は純粋に国を思ってわざわざ傭兵相手に正義の宣伝をしているのだろうか。それとも、自分の後ろにいるあるいは所属している派閥のために動いているのだろうか?

どちらにせよ、カランド紛争の図式は三つ巴だ。

政府軍と反乱軍、そしてその状況に嫌気がさした各地の民族部族たちによる独立派の三つ巴。自分はその三つ巴の戦いを行う勢力の一つに参加するだけの存在。

 

「……あんたら反乱軍は、内陸部だったな」  

「君たちを雇った政府軍は主に沿岸部を、独立派は主に山岳地帯をそれぞれの『支配地帯(コントロール・エリア)』としている。君らは、政府軍と共に、北上あるいは東征するわけだ。いや、もしかしたら沿岸部に撤退することになるかもね」

「お前ら、反乱軍はそうさせるつもりなんだろ?」  「そのつもりさ、決勝戦プログラムは歴史上類を見ない、『よーい、ドン!』で始まる特殊な戦争だ。事前準備はしまくっている」

事前準備という単語が出てきたところで、なんとなく、翔はなぜ、この将校がここにいるのがわかった気がした――。

事前に浸透し、戦争が始まった途端暴れまわる役目。おそらくは『釣り餌スリーパー』。反乱軍が抱えているであろう、『冬眠型潜入工作員(スリーパー)』を守るため、政府軍の視線を一点に集めるための人間。

彼はこの近くのどこかに、専門家が見ればばれてしまうレベルの陣地を構築しているのだろう。そうやって政府軍の視線を集めて、味方のスリーパーたちを守る。そういう役目。

政府軍側もわかっている。わかっているうえで今は泳がせている。国際和平調停機関の合同秩序軍が見張っている。決勝戦プログラムを実施するその時までは戦闘行為は基本全面禁止だから――――こそ、泳がせている。

ひょっとしたら、彼らは本物のスリーパーと接触するかもしれない。接触しないにせよ、政府軍の領域に敵の虫が入り込んだのだ。駆除対象だ。

 

「……あんた、いろいろとめんどくさくないか? そうやってこんな場所まで視線集めてよ」  「……いや、別にそれが任務だ」

お互いの沈黙。一方の少年兵は、相手の将校をめんどくさそうに睨み付け、もう一方の将校は展示物を興味深そうにのぞく。

 

「あっ、いましたか砲兵が」  「?」

翔が目を向けると学院傭兵軍第3軍団における陸戦の総指揮官を務める、1年ほど年上の少女、『紅(くれない)』が自身の幕僚役たちを引き連れ、やってきた。

 

「ちょうどよかったです。えー……と、森野さん、いえ森野3流兵士に命令します」  「おい、命令っていうなら、人の階級間違えんな」

「はい、これ」

渡されるのはAK-74アサルトライフル。

 

「えっ、何?」  「砲兵さんの場合、あとは、スカッドあたりでしょうか。借りてきてくださいねー。少しは楽させてください」

「えっ、だから何?」  「練度を見たいそうです。立派な行進お願いしますね!」

「フ○――ック――――ッ!」

女性相手にそういうのはセクハラじゃないかい? というジャッカルの言葉を無視し、何故そうなったのかという説明を求める翔。何やら紅の幕僚役たちもまた、次々と手当たり次第に第3軍団の学生傭兵たちにAK-74アサルトライフルを勝手に握らせていく。

 

「だから、練度が見たいので立派な行進をお願いしますと、後は全部お願いしますねー!」  

「軍事パレードしろって要請ならちゃんとおめーらで動員しろや! こんなやり方じゃなくて! つか、自分らは参加しないつもりだな!? そうなんだな!?」

軍隊の練度を手っ取り早く見る方法は、軍事パレードをすることだ。一糸乱れぬ行進はそれだけで、兵士としての能力と連携力のアピールになる。

つまりは、そういう事だ。めんどくさい書類仕事から逃げる一番の方法は、部下に何もかも押し付けることだ。それも正規ルート正規手順を使わずに。

 

「ファ――――○ク――――ッ!!」  「いや、だからそういうの女性相手にはセクハラじゃないかな?」

その時だ。紅いたー! という声が多数。みな、AK-74を持っている。

 

「「「いっせーのーせ!」」」  「?――!?」

AK-74アサルトライフルの山が空から降ってきました。

――なお、安全のため、マガジン(弾倉)は取り付けられておらず、銃の各部にビニールテープで保護がかかっている。

このあたりの律義さに「日本的気質」というのを紅が感じてくれる人であったら、きっと感動するのではないだろうか。

 

「ぐぼぁああっっぐ」

大変、残念ながら、彼女は感動する前に、ライフルの山の中に埋もれてしまった。美少女台無しの悲鳴とも呼べない何かの音とともに。

 

「ふぅーすっきりした」

ライフルを投げたひよりがそういうと、周りの連中もそれに賛同するかのように軽く笑いあって――

 

「「「紅は仕事を押し付けると輝く、みんな帰るぞー」」」

学院傭兵軍第3軍団共通認識、『紅は仕事を押し付けると輝く』のコマンドがどうやら発動したらしい。

 

「……君たちは、なんかいろいろと個性的だね」  「人間全員個性的だろ、個性をどこで発揮するかが違うだけじゃないの?」

ジャッカルのあきれたような声に、翔はそう答えた――――。

 

 

「あっ、紅がぶさ声出しt――――っ」

張り倒されました。

 

「まぁ、なんにしてもどこぞの誰かさんたちのせいで、私今日寝てないんですよね! ええ! 本当に寝てないんですよね! 誰かさんたちのせいで!」

「ワータイヘンダナー」

再び張り倒されました。

 

「何にしても、そろそろブリーフィングです。各中隊長たちからちゃんと話を聞いておくように! 私たちが事前に聞いた話では作戦のカギは、翔さん。あなた方『砲兵』です」

「……砲兵が作戦のカギじゃない大会戦なんて、存在しないと思うぜ。まぁ、思う存分吹っ飛ばしてやるから安心しろ! 俺様は砲兵として戦場の女神の降臨を完璧に見せてやる!」

そして…………。

 

「………………」  「…………」

「………………なんで、地対空ミサイルを延々を運ばされているの?」

彼らは、砲兵陣地から、敵陣に向かって砲弾を投げるお仕事ではなく、防空網を担当、要するに『防空コンプレックス』の一部として仕事することになったのだ!

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