どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
8.
無数のワイヤーが伸びる。
それもただのワイヤーじゃない。ましてやただ伸びているわけでもない。
まるでクモの糸。クモの巣。
「畜生、あの時のパツキンツインテールか!」
『改造型カスタム』・クラカジール。
翔は叫びながら、トライミニガンを振り回す。
政府軍将校の服をつけた偽物歩兵ども。それを一瞬で消し炭に変えていく。
トライミニガンより飛び出したすさまじい7.62mmの暴風が、無駄とわかってても本能的に頭をかばおうとする、手を腕を両腕の骨を一瞬で削り取りえぐり取り、ただの血肉へと変え、頭蓋骨をただの血粉に変貌させ、脳みそがただの黒い黒いインクとして、服を染め上げていく。
かろうじて形が残った誰かの右手、それが宙を舞い――大地におち――――無かった。
落ちる前に暴風が容赦なく吹き荒れた。まずは小指を吹き飛ばし、中指があさって方向に折れて、手の甲に大穴があき、バラバラになる。バラバラになったそれはさらに宙を舞い、7.62mmが当然の様に――――
――トライミニガンの7.62mmの暴風が終わった場所に残るのはどす黒い土。
しかし、
――――『……ザ……べ、んいへい……便衣兵は……MIナ殺しにしろ……皆殺しにせよ……』
通信機が奏でる命令文。
彼は自分の身を守るついでに命令を忠実に実行した。
そもそも、政府軍の軍服をつけているだけで、識別が困難なのだ。少しでも敵味方の判別をつけるためにネットワークに照会する。
政府軍のネットワークに次々といろいろな方面のいろいろな兵士たちが照会を行うため、ネットワークが重くなり始めていた。動作が遅い、遅れる。
反乱軍のECM――ECCMを作動させて、除去する。
が、ネットワーク動作のタイムラグは消えない。サーバーに負荷がかかっているのか!?
すぐそばで音がする。駆動音がする。
無数のワイヤー、そのワイヤーをつかむ特殊な機材。
それは、複数の車輪でかみ合わせるがごとく、ワイヤーを巻き込んで掴む機構をした四輪駆動の板の様な形をしていた。
それが、マニュピレーターにつながれ、両肩から飛び出している。それだけではない両足の膝にも似たような機構がついている。
そして、背部から飛び出ているのは無数のワイヤーアンカーを射出し、操るためのカタツムリのようにも見える機構。
そういう異形の機構の数々がなければ、多少重武装な通常のクラカジールにも見える。
だが、それ以上に翔が、このクラカジールの持ち主が、かつて自分と長い死闘を繰り広げた金髪の少女であると確信したのはこのクラカジールの戦闘スタイルから。
そもそも武器が重装歩兵用に大型化した分銅鎖と鎖の先端は銃剣につながり、その銃剣はマルチ・アサルトライフルに着剣積済みと言うゲテモノっぷりである。
かつて、分銅鎖と拳銃をつなげ、さらには銃剣を取り付けたAK-47を2丁振り回していたあの女を思い浮かべる構成だ。
そして、戦い方も近接接近戦のスタイルである。
トライミニガンの7.62mmの暴風がクモの巣の様に張り巡らせるワイヤーを吹き飛ばす。
だが、それよりも早く。無数のワイヤーアンカーが空中を飛び回り、大地だったり、ワイヤー同士で絡み合って固定化されたりとしてく。
ランチャーを片手に引き金を引いて、ワイヤーの空中通路を構築していくクラカジールとそのクラカジールを支援するべく飛び回る1機の球体状のサポータードローン。
脚部ブースターを使った急速加速。
ワイヤーを掴む機構が音を立てて回転。翔がトライミニガンの矛先を向ける前にすでに後方10メートルの地点に。
クラカジール右肩の機構が、ぶら下がる様にワイヤーの束を掴み、回転音を放つ。
脚部ブースターをかき鳴らし、回転音がワイヤーを伝動し、震え始める。
そして、いきなりワイヤーアンカーのアンカーがはじけ飛んだ。
「な――ィ!?」
翔は見事な不意打ちを食らった形になった。はじけ飛んだアンカーのかけら、その金属片がまるで散弾銃の散弾如く、襲い掛かってくる。
そればかりかはじけ飛んだワイヤーロープがこちらの動きを封じる。
防御斥力を円周展開。一瞬の刹那。目には見えない力の壁がそれをはじき、消えていく。
と、翔の目の前。ただし、GN-11B砲兵型の正面から見て、270度の場所。
右後方よりやってくる銃剣の矛先。強引に視神経に出力する『マニュピレート・セグメンタタ』2.5世代の視覚系。
それが、後方のそれを教えてくれる。見える――!
一応モニター的な装置もあるが、はっきり言えばこれを狙いを定めるため、正面がどこなのかを見せるためのディスプレイ。
ほぼ300度を強引に視神経に出力することで、周囲を見せる。
残る60度も数多のセンサー系統が見張っている。だが、だからといって人間がすべてを理解して見れるわけじゃない。
目が2つあっても別々にものを見れないように、焦点を合わせる対象物は一つしかないのだ。
翔はそこを見る。マルチ・アサルトライフルの銃剣が目の鼻の先に――――
――鳴り響くセンサーの警告音。警告先は左後方?
その瞬間、翔は銃剣に対する行動を戦術A.I.に身を任せ、左後方へと『視線』を移動させる。
鋭利な先端のワイヤーアンカー。
(――なっ――――ィッ!?)
戦術A.I.が行動する。銃剣に対し、事前のマクロ登録された動きでもって対応。登録された動き、すなわち、広げたら翼に見えることから『飛翔装甲』と呼ばれている可動式側面防御兼無線送電受信元が動き、銃剣の矛先がそのまま鎧に突き刺さるのを妨害する。
妨害された銃剣とは真逆、ワイヤーアンカーの先端は接近防御用の最終兵装、肩パットにも見えた近接散弾が爆発し、無数の散弾がアンカーを弾き飛ばした。
(よし――――)
――じゃなかった。
妨害された銃剣。だが、銃剣とは本来なんだ? ライフルに取り付けて、突撃時の槍の様に相手に向けて…………ライフルに取り付けて……。
〝ライフルに取り付けて?〟 ライフルはどこ行った? そもそも、銃口はどこを向いている?
まるで、妨害されることが前提であるかのように、装着がわざとそうされていたかのように簡単にライフルから外れ落ちる銃剣。
そして、ライフルの銃口から12.7mmの銃弾が飛び出した。
すさまじい衝撃と音が響き渡る。頭蓋骨に。
鎧に貫通の穴が開いた。至近距離過ぎたのかもしれない。だが、おかげで、翔の命は助かった。
何しろ、12.7mm物の銃弾は脳みそを吹き飛ばさず、鎧の装甲版に穴をあけただけ。
軽い出血。幸いにも翔の肉体を傷つけはしなかったのだ。ただし、それは最初の一発。2発目が来る。
けれどもその2発目が来る前に――
「翔!」
翔のバディたる、中川の援護銃撃。
FCSが補正を行い、翔にあたらない絶妙な射撃角度。
使い捨ての追加制動ブースターを胸部から吹かして、敵の『改造型カスタム』・クラカジールが強引に中川の援護射撃銃弾の弾道軌道を回避し、そのまま移動していく。
移動といっても、ほぼ1秒の間に十数メートル単位で、移動するほどの距離と速度だ。既に、銃弾が何発か、着弾するが、その頃には数センチ単位でその場所にいない。
無数のブースターとワイヤーアンカー。そして、そのワイヤーを使った移動手段と、そして――――
――再び伸びてくる無数のワイヤーアンカー。
先ほどの12.7mmの貫通で頭蓋骨がその衝撃に揺さぶられている。
目が、霞む……。
トライミニガンの7.62mmの暴風雨がワイヤーの網を寸断していくが、今度は新たな方向から一気に10本、20本、30本とワイヤーアンカーが伸びてきた。
第3世代セグメンタタ用の、戦術支援ドローン。例の球体状サポータードローンだ。
第3世代は第2世代と違い、多種多様な電子兵装やセンサー系統が支配する、現代の戦場に対応するべく、電子兵装を搭載し、ステルス性を考慮した設計を保持する。だからこそのドローン制御能力の高さ。
球体の形をしたそれは時に転がり、時に空にぷかぷか浮かんで移動する。
内部に仕込まれた小型のターボプロップが浮遊を実現させる。
歪む視界。それでも、翔は、正確に銃撃する。FCSや様々な調整が脳みそが揺さぶられた程度での行動不能を阻止する。
脳が十分に働かないというのなら、電子頭脳で補助すればいい。体を動かすのに、電子頭脳では足りないというのなら、補強した脊髄で動かせばいい。
そういう風になる様に『調整』されているから、マニュピレート・セグメンタタの戦闘機動や駆動運度についてこれる、ナリウスなのだ。
7.62mmの暴風だけでは対処できなくなりつつある。
翔は――そう判断せざる負えない。新手のワイヤーアンカーが360度、全域から、放たれる。
もうむちゃくちゃだ。360度、全域から放たれるワイヤーアンカー、という事は敵はいかなる手段を使ってありったけの空間から――?
対砲兵レーダーが反応を示している。敵の迫撃砲の砲弾着弾点より飛び散るのはワイヤー。敵のぶっ放した砲弾からワイヤーが2本、3本と延びている。
そういう事かと判断する前に、体は動いた。砲兵としての本能の様なもの。対砲兵レーダーが反応を示した位置。
その位置に向けて、こっちも反撃、対砲兵射撃を始まるための弾道軌道の計算式を表示させる。
次の瞬間、鳴り響く接近警報。
再び高速で近づいてくる、カスタム・クラカジール。無数のワイヤーアンカーがこちらの武装に向けて飛んでくる。
クラカジール後方のカタツムリの様なワイヤーアンカーユニットは、高速で上下に回転している。左右で別方向に回転しているそのドラムからは十数本のワイヤーアンカーが噴進の煙を吐き出しながら、次々と飛び出してくる。
そして、大地に突き刺さると、今度はワイヤーアンカーユニットから、ワイヤーが独立する。軽い発破音とともにユニットから独立したワイヤーはすぐさま、大地に固定されていく。
「――最優先で砲兵を狙うか!」
対空砲兵や純粋に進撃の邪魔となる砲撃戦力を最優先で撃破することで、反乱軍の進撃をサポートする。
そういう魂胆。レーダー施設もそうだが、とにかく進撃の最大の障害物となる火力やそれを発揮するための電子システムを狙った攻撃の数々。
真鍮色の空薬莢が山を作りながら、7.62mmの暴風が、ワイヤーをちぎっていく。
そして、とあるワイヤーに銃弾がかすめた瞬間、起爆した。
「導爆線!?」
ワイヤー状の爆薬にして、時に爆弾を起爆させる最初の爆轟として使用される導爆線が無数のワイヤーアンカーに混じっている。
だが、本来導爆線は6号雷管でのみ起爆できるような代物。時間差で起爆するようにあらかじめ何らかの方法で設定でもされているのか。
どちらにせよ、ワイヤーからできた巨大な鳥かごが空に浮いている。いや、浮いているのではない。空中に形作られている。
電磁硬化繊維などを使用した結果なのか、ところどころワイヤーが硬化し、一つの棒状のものに変化する。
こうして縦方向に伸びるワイヤーなどを様々な形で利用して、巨大な鳥かごが構成されていた。
そして、銃撃。
カスタム・クラカジールの構えるEK-65エーゴル・カラシニコフが解き放つ13.1mmがワイヤーの鳥かごを空中にくぎ付けにしている何本かのワイヤーを切断する。
そして、鳥かごが落ちる。まるで――――
――砲兵陣地を丸々一つ、檻の中に閉じ込めるように。
檻にはいくつかにワイヤーの結束点があり、その結束点についているものは――――
「――指向性散弾ッ!?」
翔は叫ぶ。そして、同時に全兵装を稼働モードにする。
それだけじゃない。ブースターを稼働させて、噴進の煙が周囲の大気を汚染する。
取り出したのは高振動ブレード。鋼鉄の右手が、ブレードを掴み、左手にはライフルカノン。
ハンドカノンより飛び出す軽迫撃砲弾。ネットへと着弾。その着弾点にブースターで加速をかけた高振動ブレードが――――
――切り裂く前に鳥かごは起爆した。
衝撃波と爆風、そして無数の鉄片とそれを後押しするかのように降り注ぐ業炎。
だが――
「――チッ」
舌打ち。
爆風と砲声がその答え。軽迫撃砲弾を解き放ったライフルカノンが、軽榴弾砲の105mmが、それぞれで大きな空薬莢を排出する。
防御用の近接散弾にAPS(アクティブ防御システム)。
そして、防御斥力に凍結手榴弾、飛翔装甲。
あらゆるものを使い、強引にそれらから自衛する。自分がぶっ放した砲撃の衝撃波や砲弾の爆風などそういう物すら使って防御に成功したGN-11Bだが、鳥かごは壊れていない。
固い壁はあらゆるものをはじくがゆえに大きな力に弱いがネットはあらゆるものをはじかないがゆえに大きな力を封じ込める。
爆風の様なものや衝撃波は外に伝播するが、それだけだ。ネットを破くことにはならないし、そもそも指向性散弾をはじめとするそれはネットの内側、鳥かごの中心点に向いている。
鳥かごを破壊するようにはできていない。
けれども、ブレードで切るなら話は別だ。
翔の、GN-11Bはぼろぼろでもはやまともに機能しないことが明白な飛翔装甲を自分でパージしながら高振動ブレードでワイヤーを切断し鳥かごを出る。
次の瞬間だ。翔はそのまま高振動ブレードで敵を迎え撃つ。
一瞬のつばぜり合い。ワイヤーの鳥かご上より襲来するカスタムクラカジール。
何とか、防御したと……翔が思った次の瞬間走る、衝撃。
一体、なんだ?
蹴り?
空からの強襲。ブレードのつばぜり合いで防御したと思えば、そのまま膝蹴りの体勢で装甲同士が激しい音を立ててぶつかる。
そのまま大地に叩きつけられるGN-11B。
(やべぇ! 早く起き上がらないと)
鎧は重い。いくらパワーアシストとがあるとはいえ、フル装備でのそれは確実に手足をちゃんと使わないとすぐには起き上がれない。
うつ伏せ状態で叩きつけられた、翔は心の中で必死に体を動かそうと思うが、衝撃拡散ジェルがあろうとも体がほんのわずかにしびれる。
頭上からの衝撃波と、叩きつけられた際の衝撃。
肉体を強化しても一瞬の痺れまで一切合財消えてるわけじゃない。
その一瞬が命取り。右腕。その右腕を敵のAI制御の補助碗がつかんだ。給弾時のサポートをするため程度のものとはいえ、掴まれたことで右腕を使って起き上がろうとする行動に若干のズレが生じる。そして、敵が高振動ブレードを構えて――――
「――こんちくしょぉぉおおおおおおお!」
うつぶせ状態で、左腕と両足が相手のカスタムクラカジールを拘束するがごとく、人間なら不可能な関節可能範囲を無視して動いた。
そして、相手を掴む。
所詮はパワードスーツに過ぎない以上、関節を無視した動きにはそれ相応の問題がある。が、生身の人間がやるよりははるかにマシだろ? 機械が補正してくれるんだぜ。
そして、高振動ブレードが火花を散らしながら、GN-11Bの装甲を貫いた。ただし、その個所は微妙にずれている。中の人間を殺すにしては、中の人間からずれている!
相手を掴む、拘束する。強引にずらしたブレード。
だが、敵はそのブレードを引き抜くこともなく、動かし始める。火花が飛び散り、ギリギリと金属が強制的に切断されていく音が鳴る。別に装甲を完全に引き裂く必要はない。人間に当たればそれだけで血肉を飛び散らせ、あとは、ほっとくだけで死ぬ。
それをしようとしているだけ。
高振動ブレードで切断されている部分が熱せられ、徐々に引力が発揮されていく。
(やべぇ、体が引っ張れる。力場制御……クソっ、斥力防御で弾き飛ばさねーと)
熱エネルギーが装甲に伝えられ、ドミナートゥスが力場を発生させる。それは斥力と呼ばれる弾く力。敵をはじいて弾いて、弾き飛ばそうと――――
――敵も、その装甲版をオレンジ色に光らせた。引力だ。翔は強引に引きはがそうと斥力を発揮し、相手はそれを超えようと引力を発揮する。
相反するエネルギー。拮抗が終了すれば、どちらかが勝つ。そして、その結果は見えている。2.5世代と、第3世代では、純粋な装甲防御力と倍力機構では2.5世代のほうがまだ上だ!
だから、翔は斥力の出力をさらに上げていく。熱量が増えていく。
電熱がドミナートゥスの力によって力場に変換され、斥力が……弾く力がカスタム・クラカジールに襲い掛かる。
突き刺さる高振動ブレードが、この力の拮抗を前に、徐々にその刃が変形していく。
と、突然敵のほうが自分からあえて逃げ出そうとする。いくら手足で拘束しようとも自分自身が斥力を放っているのだ。とてもつかみきれない。ワイヤーを巻き込み、一気に距離をとるカスタム・クラカジール。
ワイヤーの鳥かごは崩れ始めている。けれどもクラカジールはそのワイヤーの鳥かごを両肩の巻き取り機構を使って空中移動の道具として利用する。
ワイヤーの鳥かごは所詮、ワイヤー構造物。クラカジールの重量でもって、一気に崩れゆくが、1~2秒程度なら、かろうじて形を維持する――!
そして、ぺしゃんこになってつぶれる前に新たなワイヤーアンカーが無数に空中に飛び回る。
と、そこに鳴り響くいくつもの砲声。
翔は砲声をセンサー越しに聞いた。警告音。
すぐそばに着弾。鎧ごと転がされる。砲声の正体は戦車。第3世代MBTたる、T-72M。
「ちっくしょぉ、俺様殺す気か……」
軽く叫びながら起き上る。だが、何故戦車が出てきている? 周囲に鎧が暴れまわっている状態で戦車が登場とは、危険だ。
もともと、マニュピレート・セグメンタタは対戦車兵器として開発が行われたのを出自としているのだから。
T-72Mが2両。やばい。早く、守らなくては――――
――1両が爆発炎上。
敵のクラカジールが、対装甲大剣をT-72Mの砲塔に突き立てる。
それは電熱サーベルと高振動ブレードの複合であり、装甲を強引に切り開くとそこに液体火薬を流し込むという代物。
熱と電気エネルギーで強引に金属物体を裂く、電熱サーベルと高周波振動で対象をぶつ切りにする高振動ブレードの複合故に、その値段に合わず、使い捨てのそれはすぐさま、流し込んだ液体火薬ごと起爆した。
T-72Mという戦車は砲塔付近の装甲がやられたらすぐさま、弾薬庫に引火して、砲塔がきれいに空に向かって吹き飛ぶことで有名な戦車だ。
2両の戦車はきれいに砲塔から吹き飛び、煤だらけになって爆発炎上しつつその場に停止する。
次の瞬間、無反動砲の4連装ポットからT-72Mを撃破したクラカジールに向かって攻撃が飛んできた。
1発、2発はほぼ同時、1秒後というタイムラグをもって3発目と4発目。
1発目と2発目には液体窒素とドライアイス粒子が大量にばら撒かれ、空気が強制冷却、3発目は焼夷弾。と4発目は榴散弾。
一気に温度差から小規模の水蒸気爆発が連続する。そこに殺到する榴散弾の鉄片。
典型的な、対セグメンタタ戦術を反映した兵装。最も、高々4発の無反動砲弾では第3世代を撃破するほどではない。だが、それでもほんのわずかにその場にくぎ付けにすることは出来るし、次の行動をとることが出来る。
そう、翔以外のセグメンタタ砲兵やその護衛役を兼ねた彼らのバディたちが次々とトライミニガンやマルチ・アサルトライフルを使い、7.62mmや12.7mmの暴風を発生させ、2秒後にはこれに『擲弾機銃グレネード・マシンガン』と『全自動散弾銃フルオート・ショットガン』が加わった。
スマート・グレネードが、バックショットが、スラッグ弾が、スマート・ブレッドが次々と放たれていく。
カスタム・クラカジールはそれらを一斉に相手にする愚は侵さなかった。
ただ、数本のワイヤーアンカーを射出し、そのド派手さとは裏腹に、一人のマルチ・アサルトライフルを1本のワイヤーが絡め取った。
その絡め取られた一人は、ライフルを手放してしまう。だが、別のワイヤーが手放した鋼鉄の腕に巻き付き、そのまま彼を引っ張った。
崩された姿勢。引っ張られ、大地に膝をつけたと思えばそのまま引きずられる。とっさにそいつは高振動ブレードの一種であり、セグメンタタから見ればナイフサイズのそれを地面に突き立てた。
次の瞬間は翔からよく見えた。
まるで……〝突き立てるのを待っていた〟様に、相手はブースターと斥力を使い、高速機動を行い、倒れたそいつと激しく衝突をした。
そしてそのまま、そいつの脚部を掴んで自分の盾とする。いかなるFCSがあろうとも、この状況下で撃てるものはいない。味方にあたる可能性が高すぎる。
だから、暴風が止まる。だが、何もせず棒立ちなわけがない。すぐさま、牽制の当てるつもりのない銃弾が飛んでくる。その間、回り込もうと皆が動き出す。
だが、彼女が狙っていたのはその時間。カスタム・クラカジールは赤外線マーカーを起動させた。
それを感知した翔。あわてて、大空を見る。
「よせ、誘導されてる!」
直後、大空から爆弾が降ってきた。
赤外線マーカーで彩られたカスタム・クラカジールのいる場所をよけるかのように誘導爆弾やミサイルが落ちていく。彼女に視線を……集中しすぎた。
掻き乱されるレーダー画面。ECMをECCMでも除去してこれ。危険な状態だ。
「クソッタ――」
――最後まで翔のセリフは出てこない。次から次へと、落ちてくる鉄火の大雨。
翔たちが守っていた……翔が所属していたJ小隊坂上分隊の担当していていた防空陣地は陥落した。