どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
3.
自立式高射砲塔に守られた集落。高射砲塔は全部で6基、六角形の形に配置され、小規模ながら、二重の塹壕が集落外周のあちこちに見受けられる。
おそらく、政府軍は万が一の時は、ここを一時的な防御拠点として籠城できるように設営したのだろう。
とはいえ、所詮は郊外の集落であり、ビルが何軒が立ってる程度。いや、むしろビル必要か? な小さな集落だ。
ここだけではなく、複数の拠点を設けているはずで。ゲノポス・リスティアにおける戦域を保持し、防衛するための物。
重要拠点をがちがちに固め、それぞれで独立して防衛する。これは、消耗戦を防ぐ手立てであり、戦火の安易な拡大を防ぐ『戦略級戦闘教義(ドクトリン)』だ。
と、同時に敵の動きを確実に遅くする手でもある。
複数の重要拠点をがちがちに固めることで防衛する方法は、WW2の初期によく用いられた方式でああり、ある意味カビの生えたドクトリンだ。
『おそらく、複数のうちのいくつかは未完成として放り出されたのではないか』
『6基の高射砲塔と簡易的な塹壕がまさにそのことを示している。おそらく高射砲塔を作るのに時間と予算をかけすぎた』
という、翔が出した結論は当たらずも遠からずだったようで。
「厳密には、6基の砲塔のうち、3基が民間主導です。プロジェクトは途中から、三大勢力入り混じりで……混雑したので」
シルビアの答えを聞くに、どうやら『競合地帯(コンテスト・エリア)』ならではな状況が発生したらしい。政府軍主導での数週間程度籠城する防御拠点設営には、途中から反乱軍、独立派民兵などを呼び寄せ、彼らも彼らでそれを作り始めたのだとか。
カランド紛争に対し、決勝戦プログラムを実施する名目で15年前に行われた軍事介入とそれに付随する強制停戦。
その際に行われた各種交流という名の『暗闘』の数々の一つが、防御拠点づくりだったといえるのかもしれない。
15年の平和はいずれぶち壊されるための物。世界平和を毎日のように祈る人間ならばきっと嘆くであろう、カランド紛争の悲しい現実……なのだが、暗闘によって目覚めた『友情(友達とは言ってない)』や『愛情(愛し合うとは言っていない)』があったりなかったりもしている。
が、そんなこんなの結晶体がこの集落の防御性能なのだ。
自立式高射砲塔は政府軍の通常のネットワークやシステムから独立して、今も稼働中であり、ここに近づいてくる偵察ドローンなどを自動で迎撃している。
「反乱軍のECMとか全部無視してるよねぇ……」 「まっ、相手は偵察ドローンだし……赤外線画像誘導ならECMとかあんまり関係ないからな」
そういう彼らは今、ビルの3階から、こっそりと、鏡などを使いながら見ていた。
やってきた反乱軍を。
今頃、遅いなーという感想を抱きながらも、政府軍がいないかどうか、ちゃんとチェックするために歩兵を差し向けなきゃいけないというごくあたり前の判断を政府軍は下したようで、一時占領用の戦力を派遣してきたのだ。
戦車1個小隊に随伴歩兵付きで。
戦車が4両、IFVが1両、APCが2両、トラックが1両。
「……トランスポーターの姿は無しと」 「強行軍とかではない感じだね」
戦車という奴は、壊れやすい。面倒な戦力だ。だから、トランスポーターと呼ばれる輸送車両が活躍する。
戦車がそのまま延々と戦場を走って移動すれば、移動した分だけ、燃料はおろか、整備用部品だってバンバン消耗する。
戦闘もなく、1日全力で走り回っただけでリアルに壊れるかもしれないのが戦車をはじめ、様々な各種現代兵器の脆さだ。
だからこそ、それをカバーし、むしろ戦車が走るより早く移動させる手段としてトランスポーターがある。
特に、戦車専用のそれをタンク・トランスポーターというのだ。
セグメンタタにも、本来ならそれ用のトランスポーターがある。現代に復活した重装歩兵には、それ用のトランスポーターでもって戦域を移動するのだ。
最も、今の彼らにはそんな便利なものはおろか、本来の彼らの主力武器たる、セグメンタタ……鎧と彼らが呼ぶGN-11Bは存在しない。
重装歩兵の中の人は、今、中の人ではないのだ。
「結局さ、どうするかどうかよね」 「…………」
残酷な話だが、ここで選択肢がある。
1.交戦をさけ、隠れながらここから撤収する。
2.交戦し、可能であれば、彼らから移動手段を奪う。
何故、そんな無茶苦茶な選択肢しかないのかと言えば、ごく簡単な事だ。
彼が持ち込んでいる各種装備品を見る限り、彼らは、この集落を滅ぼす気満々である。まぁ、長期占領するのも面倒だし、かといって敵に利用されても困るから、徹底的に破壊する気なのだろう。
自立式高射砲塔を破壊し、いくつかの建物を爆破。その後、やってくるであろう爆撃機に細かい指示を出して、集落一体を更地に変える……それが彼らの作戦計画。
それゆえに、地下探査レーダーはもちろんの事、対人レーダーに地上制圧ドローン、爆撃ドローン射出用組み立て式ランチャーなどの姿が見える。
どっかの地下室に隠れて、彼らがいなくなるまで籠る……とかそういう数々のいう選択肢はどこにもない。
そんなことすれば、地下室にバンカーバスターを撃ちこまれそうだ。となれば、出来うる限り逃げるしかない。けれどもそれには問題がある。
「「…………」」
目の前のシルビア、そして――――。
孤児院の子供たちや、この集落に隠れるようにこっそりと生活していた逃げ遅れた老人たち。
2人の目の前にはそんな人々の姿があった。ビルの3階。そこに集落のすべての人口が集まっていた。その数30数名あまり……。
老人たちの中には、年代物の単発式カービン、ボルトアクションライフルや上下二連式散弾銃を構える者たちもいるが……それだけだ。
豪邸の弾薬庫。あそこには数多くの武器弾薬が保管されていたが、それらの大半が、古く、正直不安定な代物が多い。
例の湿ったダイナマイトまで出てきたのだから。
だからこそ、話はさっきに戻る。『結局どうするのか』。
ひよりと翔は、集落の人間たちから離れて、頭を悩ませる。
何故ならば、先ほど上げた2つの選択肢の実施はかなり難しい。
1.交戦をさけ、隠れながらここから撤収する。
2.交戦し、可能であれば、彼らから移動手段を奪う。
どちらも……〝足手まとい〟を背負ってやれるほど、簡単じゃない……。
「ご飯をごちそうになって……一晩泊めてもらって……はい、さよなら……っていう風に……」
「いや……あれなら感謝の無駄遣いじゃないか……って思う」 「…………」
せっかく感傷に浸っていても、よーく思い出すと……。
「カレー鍋だと!? まさか、日本から遠く離れた場所でこれを食えるとは思わなんだ」
「いや、とりあえずカレー粉かければ、よっぽどの物じゃない限り、おいしく食えるようになったりするよ!?」
謎の感動をしている、翔に対し一応、女の子なひよりはそう叫ぶ。
「では、こちらはどうでしょう?」 「肉じゃがだとぉぉぉ!?」
「いや、カレーの材料にちょっと手を加えれば、肉じゃがだって……」
「では、こちらなら?」 「クリームシチューだとぉ!?」
「いや、カレーの材料にちょっと手を加えれば、シチューだって」
シルビアが次々と運んでくる山盛りの料理。むしゃぶりつくのは孤児院の子供たち。
「ねーちゃん、しーねーちゃん! そろそろレパートリー増やそうぜ!」
「あー……やっぱり」
ひよりが、納得した顔を見せる。
が、その直後に彼女の表情が固まった。
「何を言うんです! これならどうですか!?」
マルミタコ……バスク料理の一つであり、マグロのトマト煮込みである。
生姜焼き……みんな大好き肉料理。
焼き大根……ごま油で簡単、香ばしくしゃきしゃきした大根を召し上がれ
トリ肉の煮込み料理……バスクの家庭料理、トマトペーストと白ワインでじっくりことこと煮込んみ、パプリカと玉ねぎと塩コショウで味を調えた鶏肉をいただきます。
「ばかな! しーねーちゃんが珍しく本気料理している!?」 「完全に負けた……」
何やら、心のどこかで戦っていたらしいひよりが心折れて、ひざをつく中、次々と運ばれてくる『本気料理(うまそうなもの)』の数々。
一つのレパートリーで3つの料理とかいう手抜きじゃない。本物だ。
「いや、まだ……味が!」
ひよりがかろうじて正気を取り戻し、プラスチックの先割れスプーンを手に取る。
戦場ではこれ一つあるだけでたいていのものは食べられるし、場所も取らない。まぁ、マナーだ何だ考えまともに食べるための道具じゃないけど。
そして、10秒後。
「………………」
何故か、放心状態になって食べているひよりが発見されたそうで。
「大げさだな、おい」
翔はそういって、自分もプラスティック製の先割れスプーンを手に取り……。
10秒後
「……………………」
無の表情で、一心不乱にご飯を食べている翔の姿が発見されたそうな。
「しーねーちゃんの本気モード」 「後が怖くない? 怖くない?」
「こら、どう言う意味ですか!?」
そんなやり取りを横目で見ながら、食べる。今食べないといつ食べられるかわからない本気でうまい飯だ。
「あーちくしょぉ……なんで戦場でこんなうめぇもんくえんだよぉ……」
涙声が出てくる翔。
「負けた、完全に負けた……」
同じく涙声のひより。
「あっ、どうぞ、追加です。天ぷらという物を持ってきました!」 「うぉぉぉぉおおおお!」
「これは、塩をつけて食わねばならぬ」 「いえ、これはタレよ……何言ってんの?」
ひよりと翔の日本人2人組が取っ組み合いを開始したのは、その直後の事だった……。
「しーねーちゃん、うまいのに、俺たちには天ぷらって奴食うなってなんで!? ほかの奴だってたくさん食うなっていきなり言い出すし」
「しっ! 静かに! あの2人に気づかれちゃうでしょ!」 「しーねーちゃん……まさか……」
実は、そのまさかであることに翔がこの後、いろいろあって気が付くのだが、要するに彼女は明らかに腐ってるあるいはやばそうな食料の一掃処分を狙って大量に作ったのだ。
何しろ、どれもこれも、油でいためたり、ぐつぐつ煮込んでさらにいろいろなもので味付けしたり……。
天ぷらなんかはまさにわかりやすいものだ。
毒でもない限り、油と高熱で大概のものは何とか出来るのが『揚げ』料理である。
江戸期から大正期にかけての旧帝国日本では、とりあえず素人が手を出す屋台料理の定番が天ぷらであったという話なんかもあるくらいである。
何しろ、繰り返すが毒でもない限り、油と高熱で大概のものは何とかできるのが揚げ物類である。
煮込み料理やらなんやらで、ごまかせそうにないものを天ぷらにしたが、はてさて、最後まで気が付いてくれなければいいのだが。
結論:最後にはしっかりばれた。
「おいしかったのよ……おいしかったのよ! でも腐りものだって聞くと!」 「言うな! 言うなぁ!」
2人は、腐り物をあれほどうまい飯に変える料理能力に驚き、そして、それに一切気が付かず、次々と食べていった自分たちの馬鹿舌っぷりに絶望を覚えてしまう。
そして……そういう事を考えてしまえば考えるほど……。
「……クソッ、にげらんねぇなぁ……」
「でしょ?」
シルビアは悪びれる様子無く笑顔で答えた。
「おいしいものを食べた分だけちょっとは働いてもらいます。何しろ、あなた方は私たちと比べて『強い』のですから……とはいえ……」
シルビアは子供たちを見て、ポケットから、ハンカチを取り出す。
そのハンカチには何かの錠剤が包まれている。
「私が合図をしたら、飲みなさい。少しはましになるから」 「しーねーちゃん……いいの?」
「うん」
こういう風景を見るたび、翔は思うのだ。
自分の時は、どんな感じだっただろうかと……。
「……戦車1個小隊って単語はちょっと不適当かな――?」
ひよりがそんなことを言う。
おそらく、IFVもしくはAPCのどれかが、指揮戦闘車両で、残りが兵員を運ぶため。
随伴歩兵つきの戦車が4両。……ははっ、戦車1個小隊と呼ぶにしては、とんでもない大戦力だ。
そう……。
たった2人の戦争相手としては……。