どこまでも俺様主義 Episode.1:砂漠の国の紛争 作:ホエール
4.
「まったく……どうしようもない――」
「――貧乏くじだね」
翔とひよりの2人は、どこか、自嘲の意味合いが含まれたことをつぶやきながら、双眼鏡片手に3階建ての建物の2階の一室にいた。
窓から覗く敵。
戦車が4両。APC1両、IFV1両、トラックが2両。
「装甲擲弾兵って感じだね……」 「ハーフトラックからチャリオットみてーに撃ちまくるのか?」
翔とひよりは思わず小さく笑う。トラックの荷台から人が身を乗り出して銃をぶっ放しまくる。そんな風景をイメージする。
「正規兵っていうより、テクニカルと民兵だな」 「だね……」
そして、再び笑う。小さく笑う。2人の小さな笑い声が風にかき消されていく。風は砂を舞い上げ、巻き上げられた砂はもとをただせば、履帯によって大地から――。
「ゴーグルつけとけ――」 「――わかってる。これからもっと」
「ああ、煙くなる」
翔がそんなことをいうのと、彼が足元のワイヤーをナイフで切るのはほぼ同時だった――。
そして、切られたワイヤーの繊維が空気に舞い散るのと無反動砲のバックブラストが新たな砂埃を巻き上げるのもまた、ほぼ同時だった。
無反動砲の砲弾が、敵の車列に向けて――――。
――衝撃音! 爆音! 轟音!
衝撃波と共に砂埃が舞い上がる!
そして、2人は銃を構えて撃ち始める。
これは、2人と戦車小隊だけの戦争――――。
目的は子供を含む避難民たちの脱出。
子供たちの―――――― 燃える街に佇む少年と――。
「って、何を考えているんだ――」
翔は、なぜか過去ばかりが思い出してしまう自分に苛立ちながらダットサイトに映る敵兵に向けて引き金を引きまくる。
そして――10発。
「いくよ――!」 「――おう! 無事でいろよ!」
2人は、10発ほど銃弾をセミオートでぶち込んですぐにその場を離れ、逃げる。別々の方向へ――。
そして、そんな2人の攻撃を見た、老人たちが愛用のセミオートライフルを構えたのはいきなりの攻撃に混乱している戦車小隊において、ひとりの「曹クラス」の軍人が怒鳴り声をあげるのと同じ頃合いだった。
2人は、走る。それぞれの予定された持ち場に向かって。仕掛けたいくつものブービートラップと自分たちの作戦がうまくいくことを願って。
2人は――走る。
逃がすために――まずその場を逃げる――。
――直後、セミオートライフルの銃声が響き渡り、それにロケット砲の砲火の轟音が重なった。
後方から感じる熱波。ひしゃげたセミオートライフルが捨てられるように転がっていく、その先には、頭を吹き飛ばされた一人の敵軍人。
随伴歩兵付きの戦車1個小隊。
そんな歩兵たちや戦車乗りたちをまとめるひとりの――男。
階級章はなく、皆一応にデザート迷彩に身を包む中、その男だけが突出した存在感があった。
何故だろうか。服装も装備もほかの連中と変わらない。たが、それでもその男には異常に強い存在感がある。
愛用の葉巻に安物のライターで火をつける……たったそれだけなのに、その男のたくましさを感じてしまうのは、やはり彼が周囲の兵士とは違う――何かがあるからだろうか?
彼が無反動砲や銃撃を受けた部下たちを見て、つぶやく。「敵は寡兵だな……」と。
次の瞬間、彼は安物のライターをポケットにしまい、そのままポケットから出てきた手はハンドサインによる指示を周りにしていた。
指示の内容はどこまでも単純――――〝進め わが精鋭たち フォーメーション通りに〟
指示は単純であればあるほどよい。戦術は単純かつ明朗であればあるほどより深くなる。
複雑な戦略などいらない。
単純な指示、単純明朗明快な戦術。そしてそれを考え実行できる将と兵士がいればいい――。
男のハンドサインからはまるでそんな、哲学が見えるような気がするのは――この男に心酔する曹長だけだろうか?
そして――数多の戦地の一つにて、一つの戦争が飽きもせずまた始まった。